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29話

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アリサが呆然自失となった数分後、

「アリサァァァァ!!」

どこからか自分を呼ぶ声がする。

「アリサ!!」
「カニーユさん……」

カニーユだ、カニーユが迎えに来てくれた。この人だけが私を見てくれた。

「探したよ、アリサ」

カニーユの後ろから、カニーユのパーティがガサガサと着いて現れる。アリサはチラリとフォーンたちを見たが、すぐに視界はカニーユでいっぱいになった。
もういい、この人だけが居ればいい。後は何もいらない。頭が痛い。

アリサはカニーユに腕を持たれ、立ち上がらせる。

「カニーユさん……」
「その名前は好きじゃないな、さあ、アリサ。アレはどこだい?」
「……あれ?」
「決まってるだろ?亜空間バッグだよ」
「え?……、あっ」

亜空間バッグは、シャルロッテが持っていた。フォーンたちの部屋に泊まるのに、亜空間バッグを持ったまま一人で寝るのは不安だった。念のため、部屋割りの紙を貰ってすぐにシャルロッテに預かって貰っていたのだ。

「あっ……、あれはシャルが持ってるの、ごめんなさい」

途端、カニーユの目が釣り上がり、冷淡な表情を見せる。

「おいゼット、どうすんだよ」
「意外と疑り深いわね、寝る時にも持ってなかったし、どこにも置いてなかったわ」
「え?え?」

アリサは理解が追いつかない。
一体なんの話をしているのか。

「ちっ、追ってきた意味がねえぜ?」
「シャルロッテ姫から奪うのはなかなかしんどそうだ」
「ったく、バッグがねえんじゃ意味がねえよ」

バッグ、あのバッグが欲しいのか。私のカニーユはあんなものが欲しいのか。
あげるわよ、ならあんなものあげるわ。だから貴方を私にちょうだいよ!

「ま、待って!バッグならすぐに取り返すわ!貴方にあげるから!」

カニーユは冷たい目でそれに答える。

「馬鹿が。なんて言って取り返すんだ?それじゃ俺たちが取り上げたのがバレるだろうが。はぁ~、せっかくの大金を」

金が欲しいのか、ならば

「なら!あんなバッグより良い物があるわ!これオリハルコンなの!どう?これをあげるわ!」
「オリハルコンだとっ!!」

カニーユもギャプラーたちも伝説の金属の名前を聞き、驚愕に震えた。動かないカニーユたちを見て、アリサは更に慌てる。

「大丈夫、あげるから!ほらっ、ほらっ!」

急いで両籠手を外し、すね当てを外してカニーユに手渡す。
カニーユは震える手で、繁々と眺める。
あるわけない、オリハルコンなどあるわけないと思いつつ、本物だと確信する。
みたこともない光沢、魔力的な何かも感じる、それにアリサは馬鹿でかい亜空間バッグを持ってたのだ、勇者繋がりで手に入れたのなら、ありえてもおかしくないと思いだした。

「ま、まだあるわ!」

ビリリリリッ!

狂気に取り憑かれたように、カニーユを欲するアリサ。自身のノースリーブのシャツを破り、胸をはだけさせ、オリハルコンのブラをあらわにする。そして後ろに手を回して、フックを外してブラを取る。アリサの小ぶりながら綺麗な乳房が少し揺れる。それを地面に投げ捨て、ミニスカの中に手を突っ込みパンツを脱ごうとしている。

呆気に取られるカニーユたち、意味がわからない。カニーユに惚れてるから?だとしても伝説のオリハルコンをそんな簡単に他人に渡すのか?それも胸を隠しもせず、恥じらう素振りさえ見せない。流石におかしくないだろうかと。

オリハルコンのパンツも脱ぎ終わったアリサは、ブラとパンツをカニーユに手渡す。

「全部!全部あげるから!だから私を見捨てないで!なんでもあげるから!」

狂っている。カニーユを持ってしても、アリサの異常行動は背筋に寒いものが走った。
ガチャガチャと鎧を押し付けながら、しがみついてくるアリサ、カニーユは気味が悪くなり、アリサを突き飛ばす。アリサは地面に尻餅をついた。
胸ははだけ、ミニスカの下には何も履いてないアリサのスカートがはだける。
だが、カニーユだけでない、ギャプラーもその他のメンバーの男たちも、アリサに色気を感じずに得体の知れない恐怖を感じていた。

「カニーユさん……」

カニーユに突き飛ばされたことで、アリサは驚きを隠せないでいる。なんでもあげるのに、なんで、拒絶するの?!なんで私を誰も受け入れてはくれないの?!なんで!なんで!
アリサはゆっくりと立ち上がる。

「……貴方もなのね……」

ゆらり
小ぶりな胸を隠しもせず、両手をだらんと垂らしてお化けのように揺れる。

「ゼット、もう殺しちまおう!」
「ちょうどクマの魔物の死体があるわ!これのせいにすればいいのよ!」

カニーユは少し震えながら、

「や、やってしまえ!!」

カニーユが大声をあげた瞬間、カニーユとアリサの間の地面に、2mほどの魔方陣が浮かび上がり、魔方陣の形に光が立ち上る。

「なんだ?!」
「おいゼット!」
「きゃあ!」
「……」

カニーユたちは驚き、アリサは幽霊のようにカニーユを見つめたままだ。
光が晴れると、そこにはタバコを咥えた執事が現れた。

「悪い、お嬢。ビキニアーマーに他人が触れた信号を受け取って、すぐにお嬢を探したんだがな、ちょっと座標の特定に手こずって……、……お嬢?」

ジンだ。なんとジンはアリサのビキニアーマーに、ストーカーとしか思えないようなド変態な魔法を仕込んでいた。これなら木の上からストーカーしてた方がマシである。
ジンはアリサの惨状を見る、そして辺りを見渡す。地面に散らばるオリハルコンの装備、ビリビリに破れた服、はだけた胸、虚ろな目のアリサ、ジンは簡単に状況を想像出来た。

ジンの肩が震える。いや、大気が震えている。

ゴゴゴゴゴゴ……

「てめえら、骨も残らねえと思え……」
「ほ、骨もですか!?」

ギャプラーはジンの物言いに驚き、カニーユは両手を前に突き出す。

「ま、待て!お前は勇者だろ!!何か勘違いしている!!」

実際勘違いだ、レイプはされてない。アリサがレイプ目をしているのはカニーユにハメられたからだ。いや、ハメると言ってもそう言う意味ではなく、────、あー、説明も面倒くさい。とにかくもう手遅れだ。ジンの詠唱が始まる。

「黄昏よりも暗いもの」
「血の流れよりも赤いもの」
「時の流れがなんたらで、……あー、面倒だ」
「とにかく」

ギン!

ジンはそれだけで死人が出そうなほどの殺気をカニーユたちに浴びせる。

「等しく滅びを与えんことを!!」

ジンの周りにハリケーンのような魔力が吹き荒れる。

「おれは!!スレェーーーーィブ奴隷!!!」
「大きな星がぁぁ」

ドゴォォォォォォォン!!

ジンから放射線状に放たれた魔力が、形となって荒れ狂う。地面も、木々も、岩も何もかもが、奔流となった魔力に襲われ、跡形もなく消し飛ぶ。
ジキルハイド公爵の息子カニーユ、そのパーティメンバーは今この時、レイプの疑惑と強盗の未遂だけでこの世から消滅した。

ジンはまだ怒りに身を焦がしている。だが今はそれどころではない、アリサの身体と心のケアが第一なのだ。
ジンはオリハルコン装備を拾いあげ、執事服の上着を脱いで、アリサにかけて上着のボタンを留めてやる。

「……、あー、お嬢……、まあ、なんだ……、俺はお嬢が処女じゃなくても、……あ?」

アリサは虚ろな目で、甘食のような乳を隠しもせずに突っ立ってるだけだ。だがジンは歴戦の勇者、すぐにアリサの異変に気付いた。

「こりゃあ……、呪いか?しかもこれは……」

見たことがある。この呪いを得意とするのはダークエルフ、魔族だ。
ジンはアリサの額に指をつけ、ゆっくりと魔力を流す。アリサはビクンと体を跳ねさせ、次第に目に力が入り出す。

「お嬢、お嬢」
「……、ジン?ジン、あんたやっぱり付いてきたわけ?」
「待て待て、とりあえず状況を説明してくれ。俺は今8人ぶっ殺した」
「はあ?!なんですぐ殺すのよ!」
「いいから。状況を教えてくれ。記憶はあるはずだ」
「何言ってん……」

アリサはジンがビキニアーマーを持ってるのが目に入った。それも自分がつけていなければいけないブラとパンツもだ。
自分の身体を見る。何故かジンの執事服を着ている、ジンの匂いがする。
その下は……、申し訳ない程度に存在している胸の谷間が見えた。一気に顔が青くなり、スカートの中にガバッと手を突っ込む。
更に顔が青くなる。

「わかるか、お嬢」

アリサはゆっくりとジンの顔を見て、

「ぎゃああああああああ!!!」

バチーン!!

思いっきりジンにビンタした。
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