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カラフルな新人

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「こんにちは」

 返事は返って来ないと思っていたけれど、4人とも小声で挨拶をしてくれた。
 逆らえない奴隷の習性かもしれないけど。

「あなたたち、いつから奴隷なの?」

 無駄話を禁じられているからか、返事はない。
 全員がチラチラとオーナーを見ているのは、やはり禁じられているのだろう。

「オーナーさぁん! この人達、私とお話してくれないよ?」

 わざと子供っぽさを意識して叫ぶと、すごい目つきでこっちを見た。イライラしているのがよくわかる。

 やっぱりこの人、子供嫌いなんだな。
 ここの奴隷商館に小さい子供がいないのも、無駄話の一切を禁止しているのも、子供の声や姿が嫌いだからだろう。

「お前達! お嬢様の相手をしなさいな!」

 その一言で会話が許された。



「で、いつから奴隷なの?」

 左からどうぞと同じ質問をする。

「10歳の頃に親に売られて、5年になります」

「同じく、8歳で売られて4年です」

「7歳で孤児狩りに。それから8年です」

「わたしも、です。7年になります」

 途中、不穏な言葉を聞いたぞ。いやいや、言葉通りの意味とは限らないか。

「ここに来る前はどこにいたの?」

 4人の表情は変わらない。オーナーを気にしているようで、わざとボソボソと私にしか聞こえない音量で話しているようだ。

「傭兵として買われました。片目を負傷して奴隷商館に戻りました」

「右目ね。完全に見えない?」

 赤茶の瞳が、右目だけ少し濁って見える。顔に傷はないのに……眼球が直接傷付いたのかな。

「僅かに光が感じる程度ですが、左目はみえます。まだまだ働けます」

「そ、そう。それは良かった」

 身体に欠損があると、買ってもらえないと思っているのか、見えなくても大丈夫だとアピールする様子が妙に必死に見えて、私はたじろいだ。

 奴隷商館にいるより、素性の分からない人物に買われた方がいいってことか。
 この奴隷商館はブラックだな。

「私は農家に買われました。足を負傷して戻りました。少し引きずりますが、歩けます!」

「娼館に買われて、水揚げ前に伝染病を疑われて戻りました。でも病はなく、体力はありませんが、いたって健康です!」

「娼館で雑用をしていました。腕を火傷して跡が残り、戻りました。跡は醜いですが、腕の機能に問題ありません!」

 みんな必ず、「でも大丈夫だ」と付け足すけど、奴隷は替えの利く存在なんだと改めて知ったよ。
 いらなくなったら奴隷商館に売って、別の奴隷を買っていくんだ。

「じゃあ、最後の質問ね。奴隷から解放されたら、どうしたい?」

 すると、4人とも黙ってしまった。
 考えてはいるようで、首をひねっている。奴隷になったばかりの頃ならすぐ答えられたかもしれない。でも奴隷生活を過ごすうちに、希望も消え失せてしまうのだろう。

「もし、叶うなら……」

 一際声を潜めて、一番左の子が口を開いた。

「穏やかに、普通の生活がしたい……です」

「そ、そうかぁ」

 聞く質問を間違えたかな。

 普通に、穏やかに……って、ずいぶんささやかな望みだけど、他の子は衝撃を受けたように凝視している。

「わ、わたしも、出来るなら穏やかに暮らしてみたいな……」

「そんなの、夢みたい」

「いいな……」

 昔の私なら、ずいぶん枯れた考えだと笑っただろうけど、気持ちは分かるんだよね。
 食うに困らず、雨風が防げる場所があって、他人に害されることなく、安心して生活出来ること。どれか一つでも欠けたら、不自由を感じることだ。

「私、それを叶えてあげられるよ。一緒に来る?」

 誰かの喉がゴクリと鳴った。

「お父様ぁ~~! 買ってもいい?」

 話しが終わったのか、パウルが私の元にやって来て、4人の顔をじっくり見る。
 手元の資料をペラペラ捲って、大きなため息をついた。

「誰が気に入ったんだ?」

「全員」

「そうか。いくらだ?」

 自分に問われていると気付いたオーナーは、慌てて資料を手にする。

「一人100万ペリンです」

「え?」

 思わず聞き返してしまったのは、若く健康的な奴隷は一律80万ペリンだとマルファンで聞いていたからだ。
 個人の能力によって値段はプラスになるけど、この4人は……資料をみるかぎり経歴も能力も一般的だよね。
 しかもーーー。

「傷物なのに?」

 こういう言い方はしたくないけど、奴隷で身体に怪我や欠損がある時は「傷物」と呼ぶ。マルファンの奴隷商館で聞いたんだ。

 オーナーの眉がピクリと動いて、4人を見る目が忌々しさ全開で、不快だ。
 自分で会話を許可しながら、余計なことを言うなと怒っているんだろうな。

「この子らを見れば分かる。右目、左足、左腕。君は……顔色が悪いな、虚弱体質か?
 資料には書いていないが、どういうことだ?」

 淡々と、けれど怒気を含ませたパウルの雰囲気が怖い。オーナーにも十分に伝わっているらしく、顔色が青くなった。

「し、失礼しました。手違いです。傷物3人は80万ペリン。一人は傷はありませんから100万ペリンです」

「はっ。舐められた物だな。
 相場も知らない愚か者とでも思っていたのか」

 仮に王都は一律100万ペリンだと言い張ったとしても、目、足、腕に障害を持つ3人が80万ペリンなら、マルファンの奴隷商館に行った方がいい。
 本当に舐められていたみたいだね。お小遣いだと言って大金貨をチラつかせていたら、バカな金持ちだと思われても仕方ないのかな。

「いえ、ですが、人気の色つきーーーー」

「私、知ってる! こういうの、ボッタくりって言うんだよね!
 ねぇ、オーナーさん。いつもこんな事してるの?」

 評判というのはバカには出来ないものだという事は、オーナーもよく知っているだろうに。
 グッと息をのんだところを見ると、ヤバいと思っているようだ。

「一人60万ペリンでどうでしょう!」

 ほとんど叩き売り状態だなと呆れていると、オーナーはこれで文句はないだろうという表情をしている。

 正直、値段は問題じゃない。ボッタクリ価格でも身体の情報を隠さず伝えてくれていたら、問題なく購入していたと思う。

 でも購入しないという選択肢はないな。オーナーの様子を見るに、4人に罰を与えるでしょうし。

「じゃあ役所に行きましょう」

「では、商品の身なりを整えてからーーー」

「今すぐ」

 目の届くところにいてくれないと何をされるか心配だからね。

 こうして、4人の奴隷を購入した。





「お嬢ちゃん」

 役所を出ると、パウルがいつもの呼び方に戻ったのを聞いて、4人が目を丸くしている。
 その辺の説明をレオナルドにお願いした。アルバンに教えを受けてるからか、そういうの上手なんだよね。

「マルファンの屋敷にはもう余分な個室はないだろう。どうするんだい?」

「うん。4人にはマルファンじゃなくて、バート村で生活してもらおうと思って。
 村長がね、移住者を受け入れたいって言ってたから、丁度いいでしょ」

 かつてバート村は村民の流出によって、廃村の危機に陥った。
 村人を増やそう計画をたてたくても、バート村に来たい人物がいないとダメだからね。
 この4人は安心して生活出来る場所が欲しいって言ってたから、丁度いいじゃない。
 本当は小さな子供をバート村に送って、里心をつけたかったんだけど。これも何かの縁だもの。

 すぐに説明を終えたレオナルドが報告に来た。うん、やっぱり家の子、優秀だな。

 宿の近くの公園のベンチに座りながら、これからのことを話そうと思ったのに、4人は座ろうとしない。やっぱりと思ったけど、とりあえずいいか。

「あなた達はバート村で生活してもらいます。三年たったら奴隷を解放するから、それまで生活の基盤を整えてね。
 バート村を気に入ったらそのまま住んでもいいし、他に行きたいところがあれば好きにしていいよ」

 今はまだポカンとしているけど、他のみんなみたいになるといいな。

「じゃあさ、明日すぐに出発しよう。私達はまだ王都にいるから、ヴィムを案内に付けるね」

 バート村のシェアハウスが完成するまでは、合宿部屋を使ってもらって……。

 村長、カラフルな村人が増えますよ。
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