103 / 162
予感
しおりを挟む
フーゴ、ヴェロニカ、長女エリン、三女カリン、それからロザリアがバート村に移住して一週間がたった。
ロザリアも移住することになったのは、別荘の管理を任せることになったから。
別荘の私の部屋をロザリアに譲って、管理人になってもらった。でも本当はもう一つ理由がある。
マルファンにいると、ロザリアは目立ちすぎるんだよね。あまりに美人だし、髪の色も珍しいし。好奇の目は、いつまでも彼女の冤罪を思いださせる。
それにマルファンの高級宿には、ロザリアと同じ髪色のお姉さんがいた。
もしも出身国が同じだったとしたら……貴族のスキャンダルを平民が知っていたっておかしくないもの。尾ひれはひれがついた噂になったら気の毒だし、私も嫌だ。
だからバート村でのんびり過ごすのも有りだなと思って、ロザリアに聞いたら……食いぎみで行きますって。まぁ、恋する乙女だからからね。
そんなこんなで、屋敷の中は少しだけ寂しくなった。
ロスメル村のキャラメル屋さんはなかなか好評で、順調にお金を使うことに慣れて行ってるみたいだし、最近はブルシェル村でもキャラメル屋さんを始めた。
カービング商会は村でも貨幣で取引することが増えて、喜んでいた。
なんだかこの辺りは順調だな。
でも、世界は広い。
貨幣すら見たことない村だってあるんだろうな。
私はプレゼントに貰ったキーケースをいじりながら、次々とお気に入りの物を取り出す。すべて貰い物だ。
護衛達から誕生日プレゼントをもらった翌日から、使用人からのプレゼント祭りが始まった。
執事組からは、万年筆。
メイド組からは、ストール。
料理組からは、前から欲しかった箸。
庭師組(+ユーリ)からは、小物入れ。
バート村組からは、木彫りの御守り。
みんな私の好みを知っているようで、実用性のある物ばかりだ。
私はシルバーフォックスのラグに寝転びながら、プレゼントをじっくり眺めた。
だって、嬉しいよね。みんなが私の為に選んでくれた物だもの。
キーケースに部屋の鍵をつけながら、ラグの端っこにお腹を出してくつろぐ牛柄の猫ミルクにニジリ寄った。
最近、ようやく私が近くにいても逃げなくなったけど、まだ触らせてはくれないんだよね。他の二匹はこの極上ラグにさえ来てくれないし。
だけど、私の前でリラックス姿をするってことは、一歩も二歩も前進だよね。
「家の鍵と、部屋の鍵……うん。なかなかいいねぇ」
振ってみてもガチャガチャうるさくない。
家の鍵と部屋の鍵と移動扉の鍵をつけても、まだ一つ鍵をつけられる。
「あ、あれもつけてみるか。ええと、確かこの辺に……あった!」
古いステルニム製の鍵。
これは王都の噴水の中で拾った鍵だ。結局落とし主は見つからず、処分するのも気が引けて、今は私の机の中にしまってあった鍵だ。
「うん。やっぱり全部埋めてる方が、収まりいいね」
古いステルニム製の鍵は持ち主に帰らなかったけれど、持ち主はどんな人だったんだろう。
キーケースの中の鍵を見ながら、一つ一つの鍵を触る。
全部がこの世界に来て
からの私の軌跡だ。
マルファンに来て家を購入した。自分の部屋が安心出来る場所になった。王都に行って出会った人もいた。
「なんだかあっという間だな。もうすっかりこの世界に馴染んだ気がする」
最初は戸惑ったけれど、住めば都。お金に困らない状況が大きかった。
「世の中、お金じゃないけど……お金があったらスムーズに進むことが多いなぁ」
宍戸先輩もそう思って、お金を溜め込んだのだろうか。
「あれ?」
鍵を見ていて、ふと思った。
家の鍵はまだ新しいステルニム製。
部屋の鍵は安価な鉄製。
移動扉の鍵は古いステルニム製。
拾った鍵は古いステルニム製。
「移動扉の鍵と拾った鍵は……似てる」
ドクドクドク。
思ったとたんに心臓が騒ぎ出す。
落ち着け。古い鍵なんて、みんな似たような物だ。
でも、もしかしたら。
もしかしたらーーーー。
物置には色々な物が置かれているけれど、アルバンが管理しているから綺麗に整理整頓されている。
今、私の前には一枚の壊れた移動扉があった。
王都のオークションで落札したボロの扉だ。
対の扉が現存していない、移動扉として機能を失った扉。
思えばそんな扉がオークションに出品されるのも稀だろう。
稀な商品が、偶然にも私が参加したオークションに出品された。
そして、偶然にも古い鍵を拾った。
そんな偶然ある?
神様は「私のところに集まる」とか、意味深なことを言っていたし。
もし、このボロの扉の片方が、まだどこかに存在するとしたら……。もし、この古い鍵がこの扉の鍵だとしたらーーーー。
ボロの扉を触ると、まるで鍵を催促されているように感じた。
私は古い鍵を取り出した。
そっと鍵穴に差し込むと、何の引っ掛かりもなく奥まで入った。
ゴクリと私の喉が鳴る。
カチリ。
指に伝わる僅かな振動が、扉が開いたことを伝えた。
ロザリアも移住することになったのは、別荘の管理を任せることになったから。
別荘の私の部屋をロザリアに譲って、管理人になってもらった。でも本当はもう一つ理由がある。
マルファンにいると、ロザリアは目立ちすぎるんだよね。あまりに美人だし、髪の色も珍しいし。好奇の目は、いつまでも彼女の冤罪を思いださせる。
それにマルファンの高級宿には、ロザリアと同じ髪色のお姉さんがいた。
もしも出身国が同じだったとしたら……貴族のスキャンダルを平民が知っていたっておかしくないもの。尾ひれはひれがついた噂になったら気の毒だし、私も嫌だ。
だからバート村でのんびり過ごすのも有りだなと思って、ロザリアに聞いたら……食いぎみで行きますって。まぁ、恋する乙女だからからね。
そんなこんなで、屋敷の中は少しだけ寂しくなった。
ロスメル村のキャラメル屋さんはなかなか好評で、順調にお金を使うことに慣れて行ってるみたいだし、最近はブルシェル村でもキャラメル屋さんを始めた。
カービング商会は村でも貨幣で取引することが増えて、喜んでいた。
なんだかこの辺りは順調だな。
でも、世界は広い。
貨幣すら見たことない村だってあるんだろうな。
私はプレゼントに貰ったキーケースをいじりながら、次々とお気に入りの物を取り出す。すべて貰い物だ。
護衛達から誕生日プレゼントをもらった翌日から、使用人からのプレゼント祭りが始まった。
執事組からは、万年筆。
メイド組からは、ストール。
料理組からは、前から欲しかった箸。
庭師組(+ユーリ)からは、小物入れ。
バート村組からは、木彫りの御守り。
みんな私の好みを知っているようで、実用性のある物ばかりだ。
私はシルバーフォックスのラグに寝転びながら、プレゼントをじっくり眺めた。
だって、嬉しいよね。みんなが私の為に選んでくれた物だもの。
キーケースに部屋の鍵をつけながら、ラグの端っこにお腹を出してくつろぐ牛柄の猫ミルクにニジリ寄った。
最近、ようやく私が近くにいても逃げなくなったけど、まだ触らせてはくれないんだよね。他の二匹はこの極上ラグにさえ来てくれないし。
だけど、私の前でリラックス姿をするってことは、一歩も二歩も前進だよね。
「家の鍵と、部屋の鍵……うん。なかなかいいねぇ」
振ってみてもガチャガチャうるさくない。
家の鍵と部屋の鍵と移動扉の鍵をつけても、まだ一つ鍵をつけられる。
「あ、あれもつけてみるか。ええと、確かこの辺に……あった!」
古いステルニム製の鍵。
これは王都の噴水の中で拾った鍵だ。結局落とし主は見つからず、処分するのも気が引けて、今は私の机の中にしまってあった鍵だ。
「うん。やっぱり全部埋めてる方が、収まりいいね」
古いステルニム製の鍵は持ち主に帰らなかったけれど、持ち主はどんな人だったんだろう。
キーケースの中の鍵を見ながら、一つ一つの鍵を触る。
全部がこの世界に来て
からの私の軌跡だ。
マルファンに来て家を購入した。自分の部屋が安心出来る場所になった。王都に行って出会った人もいた。
「なんだかあっという間だな。もうすっかりこの世界に馴染んだ気がする」
最初は戸惑ったけれど、住めば都。お金に困らない状況が大きかった。
「世の中、お金じゃないけど……お金があったらスムーズに進むことが多いなぁ」
宍戸先輩もそう思って、お金を溜め込んだのだろうか。
「あれ?」
鍵を見ていて、ふと思った。
家の鍵はまだ新しいステルニム製。
部屋の鍵は安価な鉄製。
移動扉の鍵は古いステルニム製。
拾った鍵は古いステルニム製。
「移動扉の鍵と拾った鍵は……似てる」
ドクドクドク。
思ったとたんに心臓が騒ぎ出す。
落ち着け。古い鍵なんて、みんな似たような物だ。
でも、もしかしたら。
もしかしたらーーーー。
物置には色々な物が置かれているけれど、アルバンが管理しているから綺麗に整理整頓されている。
今、私の前には一枚の壊れた移動扉があった。
王都のオークションで落札したボロの扉だ。
対の扉が現存していない、移動扉として機能を失った扉。
思えばそんな扉がオークションに出品されるのも稀だろう。
稀な商品が、偶然にも私が参加したオークションに出品された。
そして、偶然にも古い鍵を拾った。
そんな偶然ある?
神様は「私のところに集まる」とか、意味深なことを言っていたし。
もし、このボロの扉の片方が、まだどこかに存在するとしたら……。もし、この古い鍵がこの扉の鍵だとしたらーーーー。
ボロの扉を触ると、まるで鍵を催促されているように感じた。
私は古い鍵を取り出した。
そっと鍵穴に差し込むと、何の引っ掛かりもなく奥まで入った。
ゴクリと私の喉が鳴る。
カチリ。
指に伝わる僅かな振動が、扉が開いたことを伝えた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
328
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる