幼馴染みが記憶トレーニングと称して、いやらしく俺に触れてくるんだが。

ことりさん

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目指せ大会優勝!

新たなミッション

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 大会前の期末試験が終わった。

 バイトと大会の特訓で意見どころではないかと思っていた恵吾であったが、試験の結果は予想に反したものだった。それもこれも佐野が勉強に付き合ってくれたお陰――。四十番も順位を上げた。
 恵吾は素直な性格なので、佐野の言うことに忠実に従っただけなのに、なんと四十番も順位を上げた。
 無理をするわけではなく、できる範囲の努力で結果が付いてきたので驚きだった。

 小説を何冊か読んだだけで、授業が分かりやすくなった気がした。
 それから、三ノ宮の焼いてくれた落語のCDも聞いてみた。
 食わず嫌いにしていた落語も、例えば『寿限無』なんかは呪文みたいで思わず口に出したくなり、言葉にすると面白くて、仕舞には一部分を暗唱できるようになった。そのことを三ノ宮に告げると、彼は素直に喜んでいた。東條には……なんだか癪だったので言わなかった。

 夏休みまでは毎日放課後に佐野と校内で会っていたのだが、二人きりのことは少なかったので気まずい雰囲気になることもなかった。三ノ宮や東條とも気付けば普通に話している。
 そして、夏休みに入り数日佐野とも会わない日が続き、今までの日常が変わっていたことを実感する恵吾だった。

 そんなこんなで合宿の三日前、林から連絡があった。

「おう、恵吾、夏休みは楽しんでるか?」
「うーん、バイトと自主練習、ちゃんとやってるよ」
「お前、真面目だな。そうそう、そういえば今回の試験でそうとう順位上がったな」
「お、おう」
「佐野様様だな」

 本当に、様様である。佐野の凄いところは、恵吾というお荷物ができても自身の順位をキープしていることだった。

「佐野って教えるのすごく上手なんだ」
「そりゃ、よかったな。姉ちゃんから聞いたけど、お前ら最近までしばらく付き合いなかったんだって? 何かあったのか?」
「いや……別に……」
「なんだよ、言いたくないなら、いいけどな」

 言いたくない。恵吾はむきになって話題を変えた。

「それより翔ちゃん、用事って何?」
「ああ、あのな、前に新聞載っただろ」
「あ~あ……」

 忘れていた。
 それは最初の集会の一週間後くらいだったろうか。林に言われた通り地元新聞の記者が来て、適当に大会の意気込みや自己紹介などをした。
 その数日後に、結構大きく掲載された記事を恵吾も見た。母がその記事を切り抜き、はしゃいで見せてきたのだ。


「あの記事を見て、ローカルテレビから取材のオファーが来たんだ」
「え~今度はテレビ? 俺、嫌だなあ~」
「なんでだよ、インテリイケメンを探せっていう番組だって、インテリとイケメンだぞ」
「テレビって太って見えるでしょ」
「何馬鹿なこと言ってんだ、叡智学園の顔として地域の活性化に貢献しなさい」

 なんだか、新聞取材のすぐ後にテレビって用意周到な気がする。林の徹底ぶりに少し逃げ腰になってしまう恵吾だった。

「また、俺、適当にしゃべって終わりでいいんだよな」
「そうそう、こないだみたいにさ」
「へいへい、やればいいんでしょ」
 そして恵吾の返事を待ってましたと言わんばかりに林はいつもの無敵の笑顔で付け加えた。

「取材が合宿の二日目なんだよ、それで恵吾にお願いがあるんだ」
「またお願い~?」
「そう、合宿の前日にさ、三ノ宮と東條を連れて、ヘアスタイルとファッションを、イメチェンして来てくれないかな。もちろん経費は全部こっち持ち。終わったらご褒美においしいもん食って帰ってこい。」
「ふ~ん……ってことは、今回は全員でテレビの取材受けんの?」
「そうだ」
「東條とか、嫌がりそうだよね」
「うん……まあ、そこも説得頼むよ」
「なんで俺ばっかー、それくらい翔ちゃんやれよなー」
「俺は俺で大会の運営業務があるんだよ、ほれ、お金。お前には特別、駄賃付き」
「マジ!? 気前いいじゃんか……って、福沢さんが六人……これ翔ちゃんのポケットマネー?」
「まさか、理事長からだってさ。叡智学園の学生にふさわしい爽やかイケメンに変身させてくれな」
「でもなんか、今までのミッションの中で一番面白そうだな~」
「お前、服のセンスとかも良いから、全部任せるわ。品のある感じにしてくれ」
「へーい、了解!」

(思えば、三ノ宮と東條って、どんな顔していたけ……)

 顔が浮かんでこない。

(うーん、ま、塩顔なら今流行だろ)

 二人の私服は知らないが素材が良いことを願うばかりだ。
 佐野は……何を着せても似合ってしまうだろう。
 
 当日の買い物を楽しみだ。
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