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優勝? それどころじゃないですよ総理
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スコッチウイスキーには目がない白鳥だが、真っ白な大理石のテーブルに置かれているスコッチウイスキーのグラスに手が伸びない。そしてグラスについた水滴がテーブルに落ちた。自分の中の飽和水蒸気量も限界を越えてしまったのか、白鳥の頬にも一筋の汗が流れた。
世間で騒がれている事件について、どう切り出せばいいのか白鳥は思案していた。東大野球部の優勝が世間でインチキ扱いされていることなど絶対に口に出してはいけない……が、もはや自分で押さえることができないくらいに東大野球部のリーグ戦優勝は大問題になっているのだ。どうすればいいのか、白鳥の顔が苦悶で歪んだ。
「総理」
少しだけ声が裏返った。
「うん? 何だね白鳥君」
「申し上げにくいのですが、東大野球部の優勝のことでマスコミが……少々騒いでおりまして」
「騒いでいる? 何を騒いでいるんだ? 僕と君の母校の優勝だよ。六大学野球創設以来悲願の優勝だ。それも春秋の連覇だよ。祝福されて当然じゃないか? それがどうして騒ぐんだい?」
「えっ? はい……あの……その……実は……何と申しましょうか……」
「白鳥君らしくないな、一体どうしたんだ。はっきり言いなさい」
「メンバーが……」
「メンバーがどうしたんだい?」
「このメンバーで戦うのは卑怯だと騒いでいるんです」
言ってしまった。もう後には戻れない。
「卑怯? 誰が? まさか我が母校じゃないだろうね」
「総理、申し訳ございません、そのまさかです」
「何だと! どこの誰がわが母校東京大学を卑怯だと言っているんだ、白鳥君!」
郷田は声を荒げた。
「それでは申し上げます」
どうにでもなれ、白鳥は覚悟を決めた。
「ああ、言いなさい」
「三週間前のW戦でのわが母校のスターティングラインナップです。一番ショート、マイク。二番レフト、シュミット。三番ファースト ブレイザー。四番指名打者、ジョンソン。五番サード、リック。六番センター、ゴンザレス。七番セカンド、カルロス井上。八番キャッチャー、リコちゃん人形。九番ライト、ラインバック。ピッチャーは田辺治(成開高校)。ちなみに田辺君は一死も取れずに降板、その後はクリスが投げて完投しています。総理、どう思われます?」
「どう思うか? 何が?」
「日本人が一人しかおりません」
「構わないだろ、みんな東大生なんだから。東大生で野球部に所属していればリーグ戦に出られるんだ。どこがおかしいと言うのかね?」
「正々堂々と入学試験を突破していれば問題はございません。が、彼らのすべては東京大学フロリダ校《美味しいハンバーガーを作るんだぞプロジェクト》が募集した、ハンバーガーの味見係に応募した現役アメリカマイナーリーグの選手たちです」
「それがどうかしたのか?」
「それが?」
この男は事の重大さを理解しているのだろうか? 白鳥は気絶しそうになった。
「東大野球部に外国籍の者がいても構わないだろ。そういうルールに変更したのだからね。国立大学に在籍している外国籍の者は東京六大学リーグ戦に出場することができる」
「……」
「いつも教育充実度だとか国際性だとか言っているマスゴミ、いや似非専門家どもが。僕はね、そいつらの言うように教育の充実と国際性を目指した改革を断行したんだよ、わかるよね、白鳥君」
「……あっ、えっ……はい」
わからない、まじでわからない。
ルール変更に圧力をかけたのは郷田だ。もちろん東大だけが勝つためのルール変更。
「ところで白鳥君、さっきの何番だったかな、そうそう、リコちゃん人形って誰?」
「本名トーマス・パット、何でもリコちゃん人形の収集が趣味だそうでして、どうしても登録名はリコちゃん人形にして欲しいと本人が強く申し入れてきたそうで、連盟も渋々それを認めたそうです」
「リコちゃん人形か、何だか強く聞こえないね」
「ええ……」
いや違う、そこじゃない。
世間で騒がれている事件について、どう切り出せばいいのか白鳥は思案していた。東大野球部の優勝が世間でインチキ扱いされていることなど絶対に口に出してはいけない……が、もはや自分で押さえることができないくらいに東大野球部のリーグ戦優勝は大問題になっているのだ。どうすればいいのか、白鳥の顔が苦悶で歪んだ。
「総理」
少しだけ声が裏返った。
「うん? 何だね白鳥君」
「申し上げにくいのですが、東大野球部の優勝のことでマスコミが……少々騒いでおりまして」
「騒いでいる? 何を騒いでいるんだ? 僕と君の母校の優勝だよ。六大学野球創設以来悲願の優勝だ。それも春秋の連覇だよ。祝福されて当然じゃないか? それがどうして騒ぐんだい?」
「えっ? はい……あの……その……実は……何と申しましょうか……」
「白鳥君らしくないな、一体どうしたんだ。はっきり言いなさい」
「メンバーが……」
「メンバーがどうしたんだい?」
「このメンバーで戦うのは卑怯だと騒いでいるんです」
言ってしまった。もう後には戻れない。
「卑怯? 誰が? まさか我が母校じゃないだろうね」
「総理、申し訳ございません、そのまさかです」
「何だと! どこの誰がわが母校東京大学を卑怯だと言っているんだ、白鳥君!」
郷田は声を荒げた。
「それでは申し上げます」
どうにでもなれ、白鳥は覚悟を決めた。
「ああ、言いなさい」
「三週間前のW戦でのわが母校のスターティングラインナップです。一番ショート、マイク。二番レフト、シュミット。三番ファースト ブレイザー。四番指名打者、ジョンソン。五番サード、リック。六番センター、ゴンザレス。七番セカンド、カルロス井上。八番キャッチャー、リコちゃん人形。九番ライト、ラインバック。ピッチャーは田辺治(成開高校)。ちなみに田辺君は一死も取れずに降板、その後はクリスが投げて完投しています。総理、どう思われます?」
「どう思うか? 何が?」
「日本人が一人しかおりません」
「構わないだろ、みんな東大生なんだから。東大生で野球部に所属していればリーグ戦に出られるんだ。どこがおかしいと言うのかね?」
「正々堂々と入学試験を突破していれば問題はございません。が、彼らのすべては東京大学フロリダ校《美味しいハンバーガーを作るんだぞプロジェクト》が募集した、ハンバーガーの味見係に応募した現役アメリカマイナーリーグの選手たちです」
「それがどうかしたのか?」
「それが?」
この男は事の重大さを理解しているのだろうか? 白鳥は気絶しそうになった。
「東大野球部に外国籍の者がいても構わないだろ。そういうルールに変更したのだからね。国立大学に在籍している外国籍の者は東京六大学リーグ戦に出場することができる」
「……」
「いつも教育充実度だとか国際性だとか言っているマスゴミ、いや似非専門家どもが。僕はね、そいつらの言うように教育の充実と国際性を目指した改革を断行したんだよ、わかるよね、白鳥君」
「……あっ、えっ……はい」
わからない、まじでわからない。
ルール変更に圧力をかけたのは郷田だ。もちろん東大だけが勝つためのルール変更。
「ところで白鳥君、さっきの何番だったかな、そうそう、リコちゃん人形って誰?」
「本名トーマス・パット、何でもリコちゃん人形の収集が趣味だそうでして、どうしても登録名はリコちゃん人形にして欲しいと本人が強く申し入れてきたそうで、連盟も渋々それを認めたそうです」
「リコちゃん人形か、何だか強く聞こえないね」
「ええ……」
いや違う、そこじゃない。
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