ダンシング・オメガバース

のは(山端のは)

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文筆業とか言ってみたり

4 たっぷり汗をかいたから

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 家に帰るとミラロゥは、まずはシャワーだと言い出した。
「これから踊るのに?」
「だからだよ。君の匂いだけ感じていたい」
 はい、僕の負け!
 僕らはいそいそと服を脱ぎ捨てた。

 シャワーを浴びるだけですむなんて、思っていたわけじゃないけれど降ってくるお湯とキスで溺れそうだ。
 キュッと小さな音を立て、シャワーが止まる。頬に手がかかって、目を開ける。

 ミラロゥの髪からぽたぽたとしずくが落ちて、彼の目が細まる。
 大人の魅力が全開って感じ。
 見とれていたら、くちびるをぺろりと舐められる。
 えっろ。

 口に出したわけではないけれど、僕の考えを読んだかのようにミラロゥは笑い、イタズラな右手が僕の背骨をたどる。ほんのりと期待したのだが、彼の手はそれ以上進むことなく、ボディーソープを泡立てはじめた。このままだと一方的に洗われる羽目になるので、僕も負けじと泡立てる。

 ミラロゥの洗い方はどことなく作業感があって、丸洗いされる犬か、幼児にでもなった気分になるのだ。だから僕も洗ってやるのだ。
 ちょっとした攻防のはずなんだけど、彼の体をたどるうち、だんだんといけない気分になってくる。
 ミラロゥはそれを見抜いて微笑む。

「ルノン、待ちきれない?」
 僕は恥ずかしくなって視線をそらした。

「まだ、踊ってないよ?」
「ああ、冷えるといけないから、続きは髪を乾かしてからだな」
 そう言って、泡まみれになった二人の体をあっさりとシャワーで洗い流してしまった。
 ミラロゥはあくまで冷静だ。悔しいくらい。

 ダンス部屋に入って、いそいそとストレッチをしてからミラロゥを見ると、なんと、真面目な顔つきになっている。教えるモードじゃん!

「え? 聞いてないよ!?」
「なにがだ」
「だって、レッスンする気だろ」
「ついでだ」
「先生ってときどき合理主義だよね!」

 肩をすくめて、否定はしないようだった。
「さあ、ルノン。踊って見せて。もっと、指先まで神経を行き渡らせて」
 厳しいし!
 ミラロゥのレッスンは、それから体感一時間ほど続いた。
 ううう、えっちな気分はどこへ行っちゃったんだ。

「待って、ちょっと休憩」
「仕方ないな」
 彼が飲み物を取りにいった隙にチラッと時計を見ると、まだ十五分位しか経過していなかった。なんてこった。

 先生はお手製のレモネードをグラスに入れて持ってきた。
 ジンジャーとハーブが香る爽やかなやつだ。炭酸割りも好きだけど、運動の後は水割りの方が美味しく感じる。
 ごくごく飲むと、慌てすぎたせいか少し飲み零してしまった。

 ミラロゥはふっと笑ってグラスを取り上げ、口の端の雫をなめとるように舌を這わせた。
 ようやっと?
 期待しちゃうよ。
 じっと彼を見上げると、今度こそ、ミラロゥもその気になった様子だ。
「これを片付けてから」
 まだだった!

 たっぷり焦らされた僕は、彼が扉を閉める時間も惜しくて、すぐに踊りはじめた。
 誘惑してやるぞ。

 体からリズムが鳴り始め、どこからともなく鈴みたいな音が聞こえてくる。
 あなたを愛している。その気持ちをまなざしに込める。指先やつま先まで、全身を使って、あなたの目を釘付けにしたいんだ。

 無理に笑おうとしなくたって、ミラロゥを見ていたら自然と顔がほころぶ。
 大好きって気持ちが溢れてしまう。
 振りつけなんて考えなくても、体が勝手に動いてる。
 僕はあなたのオメガなんだって。

「綺麗だよ、ルノン。すごく綺麗だ」
 うっとりするようにそう言って、彼は僕に手を差し伸べ、そして一緒に踊り始めた。

 ミラロゥのダンスは動作の一つ一つがビシッと決まっていてカッコイイ。しなやかに伸びる指先、ステップを踏むつま先に至るまで僕を魅了する。
 二人で思う存分踊り、やがてダンスのリズムは緩やかになった。互いの距離が近づいてくると、彼のまなざしが変わる。
 背筋がぞくぞくした。

 いつもなら、彼から誘いの言葉があるのだけど、待ちきれない。
 ミラロゥの服の裾をつまんで、ほんの少し首を傾げる。自然と上目遣いになっていた。
「はやくしよ?」
 大きな手をぎゅっとつかんで、寝室まで引っぱった。この先はもう、流れに身をゆだねるだけ。



 熱い時間を終えて、僕はミラロゥの腕枕でまどろみながらふと思った。
 汗をたくさんかいたせいか、味噌汁が飲みたいなって。
 僕が想像できるのは、お椀に入れてお湯を注ぐだけのものだけど、いいね、味噌汁。
 故郷の味っぽい。
 幸せにまどろみながら、思った。



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