30 / 42
文筆業とか言ってみたり
4 たっぷり汗をかいたから
しおりを挟む
家に帰るとミラロゥは、まずはシャワーだと言い出した。
「これから踊るのに?」
「だからだよ。君の匂いだけ感じていたい」
はい、僕の負け!
僕らはいそいそと服を脱ぎ捨てた。
シャワーを浴びるだけですむなんて、思っていたわけじゃないけれど降ってくるお湯とキスで溺れそうだ。
キュッと小さな音を立て、シャワーが止まる。頬に手がかかって、目を開ける。
ミラロゥの髪からぽたぽたとしずくが落ちて、彼の目が細まる。
大人の魅力が全開って感じ。
見とれていたら、くちびるをぺろりと舐められる。
えっろ。
口に出したわけではないけれど、僕の考えを読んだかのようにミラロゥは笑い、イタズラな右手が僕の背骨をたどる。ほんのりと期待したのだが、彼の手はそれ以上進むことなく、ボディーソープを泡立てはじめた。このままだと一方的に洗われる羽目になるので、僕も負けじと泡立てる。
ミラロゥの洗い方はどことなく作業感があって、丸洗いされる犬か、幼児にでもなった気分になるのだ。だから僕も洗ってやるのだ。
ちょっとした攻防のはずなんだけど、彼の体をたどるうち、だんだんといけない気分になってくる。
ミラロゥはそれを見抜いて微笑む。
「ルノン、待ちきれない?」
僕は恥ずかしくなって視線をそらした。
「まだ、踊ってないよ?」
「ああ、冷えるといけないから、続きは髪を乾かしてからだな」
そう言って、泡まみれになった二人の体をあっさりとシャワーで洗い流してしまった。
ミラロゥはあくまで冷静だ。悔しいくらい。
ダンス部屋に入って、いそいそとストレッチをしてからミラロゥを見ると、なんと、真面目な顔つきになっている。教えるモードじゃん!
「え? 聞いてないよ!?」
「なにがだ」
「だって、レッスンする気だろ」
「ついでだ」
「先生ってときどき合理主義だよね!」
肩をすくめて、否定はしないようだった。
「さあ、ルノン。踊って見せて。もっと、指先まで神経を行き渡らせて」
厳しいし!
ミラロゥのレッスンは、それから体感一時間ほど続いた。
ううう、えっちな気分はどこへ行っちゃったんだ。
「待って、ちょっと休憩」
「仕方ないな」
彼が飲み物を取りにいった隙にチラッと時計を見ると、まだ十五分位しか経過していなかった。なんてこった。
先生はお手製のレモネードをグラスに入れて持ってきた。
ジンジャーとハーブが香る爽やかなやつだ。炭酸割りも好きだけど、運動の後は水割りの方が美味しく感じる。
ごくごく飲むと、慌てすぎたせいか少し飲み零してしまった。
ミラロゥはふっと笑ってグラスを取り上げ、口の端の雫をなめとるように舌を這わせた。
ようやっと?
期待しちゃうよ。
じっと彼を見上げると、今度こそ、ミラロゥもその気になった様子だ。
「これを片付けてから」
まだだった!
たっぷり焦らされた僕は、彼が扉を閉める時間も惜しくて、すぐに踊りはじめた。
誘惑してやるぞ。
体からリズムが鳴り始め、どこからともなく鈴みたいな音が聞こえてくる。
あなたを愛している。その気持ちをまなざしに込める。指先やつま先まで、全身を使って、あなたの目を釘付けにしたいんだ。
無理に笑おうとしなくたって、ミラロゥを見ていたら自然と顔がほころぶ。
大好きって気持ちが溢れてしまう。
振りつけなんて考えなくても、体が勝手に動いてる。
僕はあなたのオメガなんだって。
「綺麗だよ、ルノン。すごく綺麗だ」
うっとりするようにそう言って、彼は僕に手を差し伸べ、そして一緒に踊り始めた。
ミラロゥのダンスは動作の一つ一つがビシッと決まっていてカッコイイ。しなやかに伸びる指先、ステップを踏むつま先に至るまで僕を魅了する。
二人で思う存分踊り、やがてダンスのリズムは緩やかになった。互いの距離が近づいてくると、彼のまなざしが変わる。
背筋がぞくぞくした。
いつもなら、彼から誘いの言葉があるのだけど、待ちきれない。
ミラロゥの服の裾をつまんで、ほんの少し首を傾げる。自然と上目遣いになっていた。
「はやくしよ?」
大きな手をぎゅっとつかんで、寝室まで引っぱった。この先はもう、流れに身をゆだねるだけ。
熱い時間を終えて、僕はミラロゥの腕枕でまどろみながらふと思った。
汗をたくさんかいたせいか、味噌汁が飲みたいなって。
僕が想像できるのは、お椀に入れてお湯を注ぐだけのものだけど、いいね、味噌汁。
故郷の味っぽい。
幸せにまどろみながら、思った。
「これから踊るのに?」
「だからだよ。君の匂いだけ感じていたい」
はい、僕の負け!
僕らはいそいそと服を脱ぎ捨てた。
シャワーを浴びるだけですむなんて、思っていたわけじゃないけれど降ってくるお湯とキスで溺れそうだ。
キュッと小さな音を立て、シャワーが止まる。頬に手がかかって、目を開ける。
ミラロゥの髪からぽたぽたとしずくが落ちて、彼の目が細まる。
大人の魅力が全開って感じ。
見とれていたら、くちびるをぺろりと舐められる。
えっろ。
口に出したわけではないけれど、僕の考えを読んだかのようにミラロゥは笑い、イタズラな右手が僕の背骨をたどる。ほんのりと期待したのだが、彼の手はそれ以上進むことなく、ボディーソープを泡立てはじめた。このままだと一方的に洗われる羽目になるので、僕も負けじと泡立てる。
ミラロゥの洗い方はどことなく作業感があって、丸洗いされる犬か、幼児にでもなった気分になるのだ。だから僕も洗ってやるのだ。
ちょっとした攻防のはずなんだけど、彼の体をたどるうち、だんだんといけない気分になってくる。
ミラロゥはそれを見抜いて微笑む。
「ルノン、待ちきれない?」
僕は恥ずかしくなって視線をそらした。
「まだ、踊ってないよ?」
「ああ、冷えるといけないから、続きは髪を乾かしてからだな」
そう言って、泡まみれになった二人の体をあっさりとシャワーで洗い流してしまった。
ミラロゥはあくまで冷静だ。悔しいくらい。
ダンス部屋に入って、いそいそとストレッチをしてからミラロゥを見ると、なんと、真面目な顔つきになっている。教えるモードじゃん!
「え? 聞いてないよ!?」
「なにがだ」
「だって、レッスンする気だろ」
「ついでだ」
「先生ってときどき合理主義だよね!」
肩をすくめて、否定はしないようだった。
「さあ、ルノン。踊って見せて。もっと、指先まで神経を行き渡らせて」
厳しいし!
ミラロゥのレッスンは、それから体感一時間ほど続いた。
ううう、えっちな気分はどこへ行っちゃったんだ。
「待って、ちょっと休憩」
「仕方ないな」
彼が飲み物を取りにいった隙にチラッと時計を見ると、まだ十五分位しか経過していなかった。なんてこった。
先生はお手製のレモネードをグラスに入れて持ってきた。
ジンジャーとハーブが香る爽やかなやつだ。炭酸割りも好きだけど、運動の後は水割りの方が美味しく感じる。
ごくごく飲むと、慌てすぎたせいか少し飲み零してしまった。
ミラロゥはふっと笑ってグラスを取り上げ、口の端の雫をなめとるように舌を這わせた。
ようやっと?
期待しちゃうよ。
じっと彼を見上げると、今度こそ、ミラロゥもその気になった様子だ。
「これを片付けてから」
まだだった!
たっぷり焦らされた僕は、彼が扉を閉める時間も惜しくて、すぐに踊りはじめた。
誘惑してやるぞ。
体からリズムが鳴り始め、どこからともなく鈴みたいな音が聞こえてくる。
あなたを愛している。その気持ちをまなざしに込める。指先やつま先まで、全身を使って、あなたの目を釘付けにしたいんだ。
無理に笑おうとしなくたって、ミラロゥを見ていたら自然と顔がほころぶ。
大好きって気持ちが溢れてしまう。
振りつけなんて考えなくても、体が勝手に動いてる。
僕はあなたのオメガなんだって。
「綺麗だよ、ルノン。すごく綺麗だ」
うっとりするようにそう言って、彼は僕に手を差し伸べ、そして一緒に踊り始めた。
ミラロゥのダンスは動作の一つ一つがビシッと決まっていてカッコイイ。しなやかに伸びる指先、ステップを踏むつま先に至るまで僕を魅了する。
二人で思う存分踊り、やがてダンスのリズムは緩やかになった。互いの距離が近づいてくると、彼のまなざしが変わる。
背筋がぞくぞくした。
いつもなら、彼から誘いの言葉があるのだけど、待ちきれない。
ミラロゥの服の裾をつまんで、ほんの少し首を傾げる。自然と上目遣いになっていた。
「はやくしよ?」
大きな手をぎゅっとつかんで、寝室まで引っぱった。この先はもう、流れに身をゆだねるだけ。
熱い時間を終えて、僕はミラロゥの腕枕でまどろみながらふと思った。
汗をたくさんかいたせいか、味噌汁が飲みたいなって。
僕が想像できるのは、お椀に入れてお湯を注ぐだけのものだけど、いいね、味噌汁。
故郷の味っぽい。
幸せにまどろみながら、思った。
42
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる