便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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王都

8 いざ行かん

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 おっす! おらユーラス。
 アクリルで編み物を始めたところで楽しくなってなかなかの数のコースター作っちゃった上に、それっぽい色のTシャツをハトメやらなんやらを使ってこっち風にアレンジしたりして2週間くらいたったとこ。
 他にも工事現場とかで使われたりしてるベストを魔改造したり、100均のバンダナ柄の手芸用布を頭に巻くターバン風に改造したりして、なんちゃって現地服の生成に成功した。
 ついでに完全に外履きと化した内ズックも、ぱっと見普通の靴に見えるように加工した。
 うわぁ、でもこれ俺視点だとやっすいコスプレみたい……。
 ええねんええねん、どうせ俺以外にはせいぜい服に着られてるようにしか見えないんだからええねん。
 さて、なんで人里降りたくないと全力で駄々こねしている俺がわざわざ現地服風のものを作っているかといえば、拠点を王都の方に移そうと考えているからだ。
 元々いた商人として活動していた街では俺がどこの村出身かも割れているし、今までいろんなパーティーを渡り歩きながら資金を捻出していた身だったので顔が知られすぎている。そうなると俺が突然今までと販路の違う商品を持っていったり市場調査をしようとすればどこかしらで噂になってしまう。人里に降りたくなくてもよく知らない人間に商品の売買を頼むは怖い、かといって噂が同時期に起これば関係を疑われて引っ張り出される恐れがある。
 だったらいっそ変な奴として最初からなんちゃって現地服着てるような変な奴と認識されたうえで噂が広まれば、次期同じなのはたまたま新入りになったから、というていで情報収集したほうがよほど安全と判断したからだ。
 ちなみ王都は陸路で街――エタル街から行くとなると大きく張った山岳を避けて通らねばならず乗り合い馬車で行くとすると1月ほどかかる。だが、個人差で回数制限や距離制限のある転移を使った移動ならそろそろ王都についてもごまかしの効く時期に入ったと思う。最悪何かあって調べられたときに不自然というほどの誤差は出ない。
 準備万端いかにも長旅してきましたと言わんばかりの姿で『移動』を発動するために遠見を使う。
 ここ2週間で慣らした光彩をコントロールしながら一直線に王都を覗き見ていく。目指すは転移スキル持ちのための停留所、王都の転移港だ。
 いざ行かん!! 商人憧れの王都へ!!
『移動!』
 パッと景色が移り変わった直後ビーっとけたたましく警報が鳴り響く。出鼻を挫かれてずっこけていると、奥から怒鳴り声が飛んできた。
「くぉら!! 港登録もしてないのに転移してきたのはどこのどいつだ!!」
「えっ」
「えっじゃねえだろ! 転移スキルで転移する先の状況が見えねぇのに転移したら危ねーから港登録しねーで港に転移すんなって教会で教わんなかったのか!!このクソガキ!」
 港の事務所みたいな所から飛び出してきた厳ついおっさんに首根っこひっつかまれてガクガク揺らされる。やめてやめて、今朝食べたカップ焼きぞばがシェイクされて気持ち悪い。
「ごめんなさい知らなかったんです!!」
「んなわけあるかぁ、教会で見極めてもらっててスキルのルール知らねーわけねーだろ!!」
 そうらしいね! 表示バグってる俺は知らなかったけど教会でスキル見極めてもらって司祭様やシスターにやさしくスキルの使い方を教わるらしいね。
「俺のスキルの表示おかしくて司祭様も読めなかったから知らなかったんです!!! この前たまたま読める人に会って『転移』の方だけ説明してもらえたから試しに使ってみただけなんです!!!」
「あ“あ”ん!?んなわけ……」
 いいながらスキルウィンドウを見せるとおっさんはぴたりと止まった。
「マジかお前……」
「マジなんです……」

 それから港の端によけておっさん―カスパルさんというらしい―からコンコンと説教、もとい説明を受けた。
「いいか、転移では転移する先の状況がわからねぇから他の奴や踏んだらまずいもんの上に転移しないようにあの転移場、あの柵で区切られてるところだ。あそこに転移するルールになってるんだ、港で魔力を登録しておくと転移港にかけられてる魔法で自動的に空いてる転移場に転移できるようになってる。さっきのおめーみてーに魔力登録もしてねーのに転移されると魔法が転移者を認識できなくてお前の上や他人の上に転移者が突然現れるはめになる。下手すると首の骨折って死んじまうんだ。いいか、お前はこれからまっすぐ王都の交通ギルドに行って事情を説明してこい。普通の転移者の魔力登録ならここでもできるが、さすがに読めないスキルを俺の一存では登録出来ん」
 えー、その交通ギルドで教会より凄いスキルの見極め道具があったらバレるのでは? せめて誤解してるっぽいカルパスさんついて来てくれないな。上手くすればこのままスキル名の表示がバグってる転移スキルだと誤認してもらえるかもしれない。
「じゃあカルパスさんもついて来てよ」
「カスパルだ。なんでだ。勤務中だから無理だ」
「じゃあ聞くけどカルパスさん、突然俺みたいな餓鬼が交通ギルドの受付で自称転移スキル持ちなので魔力登録してくださいって言って登録する?? 街中じゃ転移できないんでしょ? 餓鬼のいたずらだと思われて追い払われちゃうじゃん。俺が確かに転移してきたってギルドで証言してよ」
「カ! ス! パ! ル! おめー中身は見れねーけど『移動』ってスキルの文字は読めるんだから多分大丈夫だろ」
「え~~~?? 俺だったら『移動』って書いてあったら家具とか荷物を移動させられるスキルだと思うけどな~? っていうかその理屈で言うならここで登録しても問題なくない? 結局交通ギルドの人はカルパスさんの話聞きに来るか偉いさんにカルパスさんが呼び出されるんでしょう? 意味なくない?? 俺みたいな餓鬼がスキル誤魔化して何するっていうのさ」
 嘘です。全力でスキル誤魔化しにかかってます。
「カルパスさん何かあった時のためにギルド挟みたいだけなんでしょ? そういう事なかれ主義よくないと思います! それなら俺もカルパスさんも嫌な思いするだけだし、ここで登録しちゃった方が早いんじゃない?? 俺も二度手間嫌だしさー。カルパスさんついて来てくれるならこのまま行ってもいいけどー」
「おめぇわざとやってんだろカスパルだっての! 誰が事なかれ主義だ! 規則破ったら減俸なんだよ! 交代するはずの相方が来てないからここ抜けれねーし。あーもうしょうがねぇ、俺の職員証の写し貸してやるからそれ見せて『カルパスが転移してきたって保証する』って言ってたって言え。後で何言ったか確認するから欲出して下手なこと言うなよ」
 はい、ニュアンスの違いぐらいまでにしておきます。
 「盗難防止魔術かかってるから登録終わったら速攻で返しに来いよ」とギルドカードと同じぐらいのサイズの職員証を渡される。へらへらしてたら頭をぐわしと掴まれて、盗もうとか売ろうとか考えたりすんなよと釘刺されてしまう。けれど俺もめげずに、はーいとよいこのお返事をした。もちろん心の中では舌を出してる。盗んだり売ったりはしないけど全力でごまかしには使います。
 これは思わぬワイルドカードを手に入れてしまった、とほくほく顔で歩いていたら、しばらく歩いたあたりで後方から「てめぇ!!ドノバン!!おめぇが遅いせいでめんどくせぇことするハメになっただろうが!!」というカルパスさんの声が聞こえてきてそそくさとその場を後にするのだった。
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