便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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王都

10 商業ギルド

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「……―――ごめんなさい。気が付いたんですけど、戻るの面倒になっちゃって。それに、なんか雰囲気的に受付のお姉さんが怒られちゃいそうだったんで、関所の方の話をしちゃいました」

 あのお姉さん一人で俺のこと登録しちゃダメだったんですよね? と問うと、ドノバンさんは、またにこっと微笑んで元来た道を歩き始めた。
 ――――こっええええええわ!!!! ホラーか!! なんなの? カルパスさんがあの風貌で荒くれもの威圧して、ドノバンさんがこまっしゃくれたインテリ言葉攻め担当なの!?
 こっわ!! こっわ!!
「君が―――」
「はい!」
「君が今回は大したことをしようとしてるわけじゃないようだから見逃すけど、俺、カスパルさんもレイラちゃんも好きだから。二人のこと、泣かせないでね?」
「―――はい」
 転移港まで付くと、俺たちがいないことに気づいたらしいカスパルさんがヤキモキした顔をして事務所で待っていた。
 俺を肩車してるドノバンさんを見つけるとセキュリティがどうの、子供を巻き込むなうんぬんとそのまま大声説教し始める。
 俺はそんなカルパスさんの声を聴きながら、確かにこの乱暴でちょっと抜けてるけど優しい人がここにいなくなるのは嫌だなと思った。

「やれやれ、人騒がせな坊主だったな」
「ふふ、素直で可愛い坊やだったじゃないですか。最後に自分で自供したことにも気づかないあたりが未熟で経験不足って感じで」
「―――お前、またやったのか。子供相手に何してるんだ」
「ぶーぶー、子供に言いくるめられて職員証巻き上げられた人に言われたくないです」

 交通ギルド怖い。なるべく敵に回したくない。
 ドノバンさんが怖くてそそくさと逃げ出して来てしまったから、衛兵さんに転移港の簡易受付を聞いたときに商業ギルドの場所聞いておいて本当によかった。
 関所の正面の通りを真っすぐ城に向かって通っている道を歩いていく。すると関所周りの住宅街から徐々に活気のある露店や店が増え始め、大広場への入り口にかかったアーチ状の一目で金のかかっていることのわかる大きくて派手な建物が交通人たちを出迎える。それが、見た目にもわかりやすい、商業ギルド。
 しかしそのアーチ状の建物には入り口が存在しておらず、入るためには多くの露店や大道芸人たちがひしめきあう大広場を抜けて先の王都への石畳の道中に、ぽこっと一つだけ飛び出している不自然な両開きの扉へたどり着かなければならない。
 なぜなら、それこそがこの王都の商業ギルドへの入り口だ。
 扉を開いてすぐに地下へと続く階段が現れる。その先の地下通路ではお目当てのものを買った満足気な顔の人々が楽し気に行き来している。その脇を通り抜けて、地下通路へ降り立つと、丁度上の大広場をぐるっと囲んていた店舗の配置と同じ形の通路が現れる。
 通路の両脇には、一瞬日本の駅の売店を錯視するほど沢山の狭い店舗が一定のサイズで行儀よく並んでいる。
 大広場は上も下も楽しそうな大騒ぎだ。
 人々は大きな流れとしては右から左へと流れていく。その波に逆らわないように俺も左へと流されていく。
 パン屋にお菓子屋、雑貨屋に本屋まで、様々な店が軒を連ねている。
 しばらく道なりに歩くと少し開けた場所に出る。そこでは小さなステージといくつかの飲食店が立ち並び、それら中間に位置する柱から二つの大きな階段が緩やかな螺旋を描いて鎮座していた。
 それぞれの階段の入り口に立っている柱には、くっきりと麦を模した我らが商業ギルドの紋章が刻まれている。
 その階段を上へあがると、壁一面の大量の本。一冊で普通の人間の年収三年分はすると言われている本が当たり前のような顔をして大きな建物の壁一面に並んでいる。
 ただの本一冊でさえ一般時にはなかなか手が出ない値段なのに、ちらちらと目に入るタイトルだけで影響力や希少性から導き出される一冊の値段なんて想像もしたくない。
 ――――紙で出来た金塊かよ
 これ絶対マウント取りに来てる。お前らどんなに稼いでたってこんなに本を並べ立てられるほど稼いでないだろ? 調子くれてたらこの財力で物を言わせちゃうからな★ っていうマウント取りに来てる。さもなければこんな目に見える場所に並べ立てる理由がないし、前世の知識で本が太陽光に弱いの知ってる俺からすればその本棚の真向かいがガラス張りなことと並んでる本の良好な状態から、定期的にこの本棚の中身を入れ替えてることも想像がつく。つまり、ここに並んでいる本だけではない膨大な貯蔵数を誇っていて、なおかつそれを保存する人員の確保さえ自在にできるという事実に気が付けるような高ランク商人に対するマウンティングまでこなしているわけだ。
 そんなことが可能な金庫が吹っ飛ぶような高値の本をこんな無防備に置いているってことは、これにかけている防犯魔術の値段だって尋常じゃないだろう。もう帰りたい、序列確認行為がひどすぎる。札束で顔ひっぱたかれた方がマシなレベル。王都怖い。
 本棚から目を離し、大広場を望むこれまた一面ガラス張りの壁振り返ると、差し込む光を背負って見るも鮮やかな受付嬢たちが一分の隙も無く微笑んでいる。
 地球では板ガラスが出来たのが近代に入ってからだったというが、こちらが魔法があるから文明が進んでいるのか、それとも魔法があるせいで世界がいまいち進歩しなかったのかわからない。
 受付の後ろをガラス張りにしたやつは大変あざとい。これなら困ったときには受付嬢に後光が差して見え、無理難題を付けるときは華奢な受付嬢を逆光で恐ろしく大きく見せる。演出効果を最大限に狙っている
 こんなことをするような人間が取り仕切ってるギルドとかもう寄らなくていいんじゃない? 帰りたい。
 階段最上段でうだうだした後、ごくりと喉を鳴らして一発覚悟を決めると開いている受付へするりと入り込んだ。
「いらっしゃい、ませー、本日はどのようなご用件でしょうか?」
 ふわふわした内巻きの短い髪を揺らして微笑んだ受付のお姉さん。しかし、その見た目とは裏腹にいらっしゃいませで一瞬言葉に詰まった瞬間に、瞬く間に鋭い目で上から下までなめるようにあらためられた。
 ―――着てる物の総額を算出された音がした気がする。
 お眼鏡にかなったのかニコニコと椅子をすすめられて、決めたはずの覚悟がしおしおとしぼんでいくような感覚に襲われた。やだ、もうホント帰りたい。
「すみません、拠点変更をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。地域登録はいかがなさいますか?」
「地域はそのままでお願いします」
 ギルドカードを手渡すと賢い選択です、と褒められた。魔石俺の王都に拠点を移すには不可解な登録地域や売買記録の確認をしているはずなのに一切表情に出さないところにお姉さんのプロ根性を感じる。目が合うとにっこり花の咲くような笑顔で微笑まれた。
「拠点の変更は個人の裁量に任されておりますが、何かで緊急で拠点を変更される場合は当ギルドの緊急時救済システムや役所の福祉課をご紹介することも出来ますがよろしいですか?」
「はい、商売のための拠点変更なので大丈夫です」
 返事をするとまたにっこり微笑まれた。―――俺、今日だけで王都の人間の笑顔がトラウマになりそうです。
 ハンザイハ シナイデノ、ダイジョウブデス。
 心の中で答えて小刻みに何度も頷いて見せると、『なんのことかしら』と言わんばかりに首をかしげて手を口元に添えている。怖い。
「それでは拠点変更申請を受理させていただきます。」
 ふっと、それまで背筋を伸ばして座っていたお姉さんが肘をついて手を組んだ。
 ―――――ゲ〇ドウポーズ?
「そして、当ギルド長から王都へ拠点変更された全ての皆様への伝言をお伝えさせていただきます」
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