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王都
15 かまど兄妹との商談
しおりを挟む「っていうかホントお持ち帰りしたいです。ありがとうございます」
「なに言ってんだお前」
うわぁ、驚くほど愛らしい姿に思わず勝手に口が本音を。
わあわあわあ、ごめんよハイネス君。謝るからエレナちゃん隠さないでください。あと君凄いツンツンしてて生意気系キュートで素敵だね。エレナちゃんは俺の胸元ぐらいの身長だけどハンネス君は俺と同じぐらい身長なんだね。それでもなお可愛いとは天然記念級の可愛さかな? こっちを一生懸命にらんでるのもお兄ちゃんしててとってもカッコ可愛いよ!!!
「お前は顔がうるさい」
「あ、はい」
胡乱気な顔でこちらを見て警戒を露わにしているけれども“商業ギルドからの紹介”というワードが効いたのか俺を追い払おうとはしなかった。
「ええとお二人と商談をさせていただきたくてここまできたんですけど、どこか腰を落ち着ける場所でお話できませんか?」
くいっとパティスリーエドメで買ってきたお菓子の匂いのする袋を持ち上げて手土産を持ってきたことを示すと、ハンネス君の後ろからそろりとエレナちゃんがキラキラした瞳でこちらを見上げてくる。ハンネス君も期待に満ちた妹の様子に苦々しい顔でホント渋々こちらへ身構えるのをやめてくれた。
「おいおい、お前本気で言ってんのかよ。そんな“薄汚い親無しの餓鬼風情”に商談とかバッカじゃねぇの??」
突然割って入ってきたのは体格と恰幅がいい俺よりちょっと年上に見えるの男の子。
ないわぁ、これで性格が男前ならドンピシャ性癖だけど、これでテンプレいじめっ子とかひねりがなくてないわぁ。取り巻きっぽいのもいないし粋がってるだけの子かな? でも近くにいる子供たちは遠巻きながらこっちにチラチラ視線をよこす感じか……。
「ええと、どちらさまで?」
「なんだお前、このへんで見ない顔だな。僕のパパを知らないなんてどんだ“潜り”だな」
こちらの質問には答えていただけないスタンスなんですかね。君の話はしてるけどパパの話はしてないんだけどね。そのちょいちょい言い慣れてない単語をしゃべってる感じのところはパパの真似かな? そういう余裕あるように見せたいけど余裕のないのにじみ出ている男は嫌われるぞ
「僕のパパは商業ギルドの麦級の中でもすごくて粉級に昇格も間近って言われてるんだぞ!」
つまり、麦級のパパなのね。まあ、そういうタイプの奴なら……。
「商業ギルド……? もしかして君のお父上かその仕事仲間の方は貴族の館に出入りされているかな?」
「なんだお前、ちゃんと知ってるじゃないか! パパの上司と先代の付き合いがあるからパパが直接取引できないけど同い年のお貴族様は本当はパパと取引したいはずなんだ!」
それを人は妄想と言います。
「ああ! 君の顔どこかで見たことあると思ってたんだ! 僕のご主人様のところに出入りしている商人によく似てると思ったんだ! 君のお父様 ご主人様、その人が来てから便利になったって褒めてたよ」
「便利? パパは食料の売買してるんだぞ?」
「そう! 先代とご主人様のお父様が昔の慣習を変えなくて不便だったものを、さりげなく使いやすいように手をまわしてくれたって」
おうふ、俺のパパのお仕事を自慢する割にあんまり詳しくよく知らないようでめっちゃ納得してくれました。
この少年大丈夫かな。帰りに壺とか交わされちゃったりするんじゃないかな? 気をつけて帰ってね。
「ご主人様と君のお父様のように僕たちの代でも仲良くできたらいいね」
「ああ!!」
ご主人様って呼んでるのに同列扱いしたことに気が付いてない。一度も固有名詞呼んでないのに突っ込んでくれない。彼のご家族はハンコを金庫に入れて暗証番号は教えちゃだめだ。
「で、話は変わるんだけどね。うちのご主人様、ちょっと変わった趣味のある人で、その材料を集めてるんだ。大体の材料はもう粗方そろってるんだけど、ほら、ご主人様ほどになると慈善事業って必要じゃない? 商業ギルドから紹介してもらった信用のおける“そういう子たち”に予備分の仕事をお願いするのが僕の今の仕事なんだ」
「なるほど、貴族の家も大変なんだな」
「定期的な取引だから、ね?」
わかるだろ? と言わんばかりに肩をすくめると少年は心得たように頷く。が、突然肩を震わせて高笑いし始めた。
あ、さすがに気づいた? 馬鹿にしすぎてごめんね?
「はーっはは!! 運がよかったな! “ろくでなしども”! せいぜい恵んでもらえ!」
心の中でズッコケた。
誰かーーー!! 彼を! 彼を保護してあげてくださーーーい!! 鴨ですよ!! 鴨がいますよ!!
彼は何やらダプンと音を立てつつ決め顔で去っていった。
強く生きろ、逆に君のそのすがすがしいまでの人を疑わない姿勢だけは買いだぞ。
「……おいこら詐欺師」
おっふ、一生懸命撃退したのにハンネス君の視線が不審者を見るものに。
だよね、商業ギルドに紹介されちゃうような人にこんなやり取り通じませんよね
「俺は自分の知ってる商人に似てるって世間話と自分の仕事説明して理解を得ようとしただけで別に名乗ってないよ。それに……」
「……それに?」
「人が大事な商談してる時に割り込んでくる奴が悪い」
そう、俺は思ったよりご立腹である。
こんなことで森の精霊がたわむれに作りたもうた完璧な妖精のようなカワイコちゃん達との商談が破談したらどうしてくれる。
俺が全面的にぶすくれていると、ハンネス君が呆れかえったようにため息をついた。
「もういい、そういう子たち扱いしたことは不問にしてやるからさっさとついて来い」
あんまりうれしくて顔をデレッと崩して小躍りしながらついって行った。
俺はこのかまど兄妹との商談を成功させたいのだ。
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