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王都
21 厄介者の少女
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ハインリヒさんのところへ行った帰りに渋々ながら商業ギルドへと寄った。
かまど兄妹との交渉の時、一応ながらギルドの名前もサブマスの話も出してしまったのだから挨拶に行かねばなるまい。これでも2週間ちょっとうだうだ言い訳をして避けまくったのだからもう観念して行かねばなるまい。
ハインリヒさんからポロっとでも俺の存在が漏れたら、紹介してもらって名前まで出して交渉しておきながら王都に寄ったのに挨拶にも来なかった奴になってしまう。
いかねば。
もう完全に渋々だったがギルドで蛇を幻視しつつクロエさんに粗方報告し、直接サブマスに挨拶するため定位置と化しているらしい日向ぼっこ場へ顔を出したが、もぬけの殻で本人が見当たらない。
もう帰っちゃおっかなぁ……。
下手に誤解とかされるのやだしぃ……。
ちらっとギルドの出入り口のあたりに視線をやると、壁沿いの長椅子にあんまりかかわりたくない感じでサブマスがいた。
うえぇ、なんでいかにも訳ありですって顔で泣きべそかいてる少女と座ってるのぉ……。
なんでサブマスはガッチリ俺に視線よこしてニッコリしてるのぉ……。
来いって? 来て俺になんとかしろって? ガッチリこっちガン見するのやめてぇ……。
「……こんにちは、サブギルドマスター。この間はとてもよい方達をご紹介いただきましてありがとうございました」
「ハンネスとエレナ元気だった?」
「はい、お二人とも縦横無尽に裏路地を歩き回れるぐらい元気いっぱいでしたよ」
「それはよかった」
「はい、それでは俺はこれで」
しれっと帰ろうと体を傾けるとサブマスはすかさず口をはさんだ。
「この子、可哀そう」
「……そちらは?」
渋々少女の素性を訊ねると、サブマスは相変わらず眠そうな顔で首を傾げた。
「少女、泣いてる」
「それは見ればわかります」
「少女、話しかけてくる」
「内容は?」
「何言ってるかわからない」
つまり通訳しろと? サブマスを問うように見つめると、はなはだ興味無さそうに裾をいじっていた。
今日は袖じゃなくて裾の気分なんですね。
「少女王都に拠点を移すらしい。時期が一緒。少年と同期」
あ、相手したくなくて俺にどうにかしろってことなんですね。っていうか聞いてるじゃないですか。
呆れて二人を見比べていたら、サブマスがこっちを何か言いたげにじーっと見つめる。
「ハンネスとエレナはいい子」
……俺は悪い子だとでも?
「お仕事くれてありがとうって言いに来た」
「ヴッ」
「ハインリヒは賢い子。部下が少年の話を聞きに来た」
「グっ」
ギルドを避けてあいさつに来てないのバレテーラ。ハインリヒさんの所を優先したのもバレテーラ。
「わかりました。サブギルドマスター直々に信用のおける人材を紹介いただきましたし、同期と交流でも深めます」
「よろしく」
よっぽど少女が面倒だったのか、サブマスは俺に押し付けた瞬間ふらっとどこかへ立ち去ってしまった。
「で、君はどうしたの?」
俺とサブマスの話を聞いてたはずなのに、いまだに一言も発さずにぐずぐずと鼻を鳴らしている少女に問うた。すると少女は顔を上げて、大きな黒目がちな瞳にこれでもかとため込んだ涙を決壊させた。
「うぇ……うぇーっ」
「ちょ、泣かないでよ。ほら、顔拭いてあげるから、はい鼻チーンって」
慌てて手ぬぐいで涙をぬぐってあげると、さらにボロボロと涙をこぼして泣き始めた。
「ア、アンナ、ごっじゅーまんも稼げないぃー。パパのお店つぶれちゃうー。わぁああああ」
聞こえてきたセリフで、ある程度予想がついて頭が痛くなる。
節税で子供泣かせてりゃ世話ねぇだろ。
かまど兄妹との交渉の時、一応ながらギルドの名前もサブマスの話も出してしまったのだから挨拶に行かねばなるまい。これでも2週間ちょっとうだうだ言い訳をして避けまくったのだからもう観念して行かねばなるまい。
ハインリヒさんからポロっとでも俺の存在が漏れたら、紹介してもらって名前まで出して交渉しておきながら王都に寄ったのに挨拶にも来なかった奴になってしまう。
いかねば。
もう完全に渋々だったがギルドで蛇を幻視しつつクロエさんに粗方報告し、直接サブマスに挨拶するため定位置と化しているらしい日向ぼっこ場へ顔を出したが、もぬけの殻で本人が見当たらない。
もう帰っちゃおっかなぁ……。
下手に誤解とかされるのやだしぃ……。
ちらっとギルドの出入り口のあたりに視線をやると、壁沿いの長椅子にあんまりかかわりたくない感じでサブマスがいた。
うえぇ、なんでいかにも訳ありですって顔で泣きべそかいてる少女と座ってるのぉ……。
なんでサブマスはガッチリ俺に視線よこしてニッコリしてるのぉ……。
来いって? 来て俺になんとかしろって? ガッチリこっちガン見するのやめてぇ……。
「……こんにちは、サブギルドマスター。この間はとてもよい方達をご紹介いただきましてありがとうございました」
「ハンネスとエレナ元気だった?」
「はい、お二人とも縦横無尽に裏路地を歩き回れるぐらい元気いっぱいでしたよ」
「それはよかった」
「はい、それでは俺はこれで」
しれっと帰ろうと体を傾けるとサブマスはすかさず口をはさんだ。
「この子、可哀そう」
「……そちらは?」
渋々少女の素性を訊ねると、サブマスは相変わらず眠そうな顔で首を傾げた。
「少女、泣いてる」
「それは見ればわかります」
「少女、話しかけてくる」
「内容は?」
「何言ってるかわからない」
つまり通訳しろと? サブマスを問うように見つめると、はなはだ興味無さそうに裾をいじっていた。
今日は袖じゃなくて裾の気分なんですね。
「少女王都に拠点を移すらしい。時期が一緒。少年と同期」
あ、相手したくなくて俺にどうにかしろってことなんですね。っていうか聞いてるじゃないですか。
呆れて二人を見比べていたら、サブマスがこっちを何か言いたげにじーっと見つめる。
「ハンネスとエレナはいい子」
……俺は悪い子だとでも?
「お仕事くれてありがとうって言いに来た」
「ヴッ」
「ハインリヒは賢い子。部下が少年の話を聞きに来た」
「グっ」
ギルドを避けてあいさつに来てないのバレテーラ。ハインリヒさんの所を優先したのもバレテーラ。
「わかりました。サブギルドマスター直々に信用のおける人材を紹介いただきましたし、同期と交流でも深めます」
「よろしく」
よっぽど少女が面倒だったのか、サブマスは俺に押し付けた瞬間ふらっとどこかへ立ち去ってしまった。
「で、君はどうしたの?」
俺とサブマスの話を聞いてたはずなのに、いまだに一言も発さずにぐずぐずと鼻を鳴らしている少女に問うた。すると少女は顔を上げて、大きな黒目がちな瞳にこれでもかとため込んだ涙を決壊させた。
「うぇ……うぇーっ」
「ちょ、泣かないでよ。ほら、顔拭いてあげるから、はい鼻チーンって」
慌てて手ぬぐいで涙をぬぐってあげると、さらにボロボロと涙をこぼして泣き始めた。
「ア、アンナ、ごっじゅーまんも稼げないぃー。パパのお店つぶれちゃうー。わぁああああ」
聞こえてきたセリフで、ある程度予想がついて頭が痛くなる。
節税で子供泣かせてりゃ世話ねぇだろ。
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