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王都
26 福を招く大工見習
しおりを挟む「ウェイト」
「うぇ……?」
混乱の上、日本でも滅多に使わないような単語が出てきてしまった。
とりあえず、キスでもする勢いで迫ってきていたダニエル君をなだめるべく手で制した。
「ちょっと待って、俺のことアンナちゃんからどう聞いてるかわかんないけど、俺にも出来ることと出来ないことがあるからね?」
「わかってる! でも俺はそれでもどうにかしたいんだ!」
「ガロンの親方ってことは、何か込み入った事情があるんでしょ?」
ガロンの名前は商業ギルドの待合室で度々耳にしたことがある。確か腕はいいのによくない拾い物をしたせいで経営がかんばしくないって話だった。
「……知ってるのか?」
「ううん、なにか込み入った事情で経営がよくないってことだけ」
ダニエル少年はそれを聞くと項垂れて事情を説明し始めた。
ダニエル少年は商家の跡を継げない三男坊で、将来は兄たちの補佐をするか家を出て全く関係ない場所で生きていくかの二択だったらしい。
彼の得たスキルもほとんど商業に関係がないもので、唯一関係のあるスキルだった『収納(小)』も、魔力の総量に応じて上限無く収納量の変わる『収納(上)』や自分の所有している荷馬車や部屋の総面積に応じて収納量の変わる『収納(中)』と違い、たった31種類の物をそれぞれ64個づつ持てるという非常に微妙なスキルだったために商家では役に立たないスキルとして嫌われていた。
父は商家として生きることに誇りを持っていたため、兄弟の中でも商人の能力が低く、スキルもはずれの自分を家の恥だと言ってはばからなかったそうだ。
そんな家族関係だったので、ちょっとしたきっかけで家を出されてしまったらしい。
しかしそんな経緯で家を追い出されてしまったのでどこにも雇ってもらえず野垂れ死にしそうな時に拾ってくれたのがガロンの親方だったらしい。
そのガロンの親方の立てた建物を見て昔感動したことがあったらしく、拾われっ子ではなく内弟子として大工の見習いを始めたらしい。
しかし、しばらくしてその所在が元居た家に伝わると、ガロンの親方のライバルの大工がやっている工房が父親のそこそこ大きな取引先だったことと、本来ならそういった軋轢を避けるため、商家を出た子供は別の土地で生きていくことなどなら親方と実家が大揉めし、昔気質で弟子にした子供を追い出すマネはしないと啖呵を切った親方とともに、今後二度と『収納(小)』を商人として使わないこと、金輪際実家の子供を名乗らないことを誓約させられたらしい。
「でも、そのせいで親方が『商人の子供をさらってきた大工』だとか『商人と揉めて誓約書を書かせられた大工』だって噂されて、もともと商人の店を立てることが多かったからウチの工房の経営が厳しくなってきちゃって。アンナのところの仕事だって、アンナ達には悪いけど『伝手のない商人の店はすぐつぶれるから大工の腕にもケチが付く』って手を出したがらない工房が多いからウチが受けれたようなもんだし」
それを聞いてアンナちゃんは、そうだったんだ……とびっくりした顔をした。ちなみに後ろで夜の仕込みを始めたアンナパパとアンナママは知っていたのか、ちょっと悲しそうに眉を寄せただけだった。
「んー……」
「うちの経営がよくなるような知恵を何か貸してほしいんだ」
そんなこと言われても、ちょっと現代でDIY齧った程度じゃ正直建築関係の知識なんてたかが知れてるしなぁ……。
ん? でもあれって……
「なぁ、さっき『収納』の話してる時やけに(上)と(中)にも詳しかったけど」
「ああ、二人の兄貴がそれぞれ(上)と(中)だったんだ。上から順に少なくなっていくって笑われたよ。一番上の兄貴は(上)で魔力量も増やしてて大広場ぐらいの荷物を一度に運べる。二番目の兄貴も(中)で今は自分の部屋ぐらいの収納量だったけど、これから自分の荷馬車を買ってもっと容量を大きくするんだって言ってたよ」
感傷に浸っているダニエル少年を横目に俺は考え始めた。
なんて(大)(小)や(上)(中)(下)じゃないんだ……?
もしかして……
「なあ、君の『収納(小)』ってどのぐらいの大きさまで入るんだ」
「さあ? でもこの間広場いっぱいぐらいの長さの板は入ったよ。でも片手て持てる板と一緒くたに出来なくて困るんだよね。上腕ぐらいの長さだったら誤差で済むんだけど。大きいものが入ってもそんなのあんまり使わないし、使い勝手がいまいちよくないんだよね」
それを聞いて俺はピーーンと閃いた。
「ふっ、ふっふっふ」
「ユーラス?」
「ユーラス君?」
「喜べダニエル少年!! うまくいったら君は“福を招く大工見習”と呼ばれるかもしれないぞ!」
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