便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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王都

33 こんなのはただの手品

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 そこからはやや教育番組チックとはいえ粗方ハインリヒさんたちへと同じ説明をする。
 すると意外にもダニエル少年のように青ざめる子は少数で、ほとんどは神妙な面持ちをするものの、怯えたり怖がったりする子はほとんどいなかった。
「なぁに変な顔してやがる。商業ギルドに食うために何の知識も無く飛び込んだポッと出の餓鬼じゃあるまいし、貴族が絡んでくる話にビビるような商家出身がいてたまるか」
 青年が呆れ声で先をせかす。どうせお前そっち系だろと言わんばかりの呆れたような視線が微妙に腹立つ。
 へーへー、食うために何の知識もなく商業ギルドに飛び込んだ餓鬼で悪ぅございましたね。
「で、このまま始めちゃうと結局は『収納(小)』の持ち主の子供たちを集めてたことがバレちゃうでしょ? 今は一回前科のあるガロン工房が自棄を起こしたように見えてると思うんだけど、現場に必ず『収納(小)』の持ち主がいてあからさまにスキルを使用したら『収納(小)』が有用なスキルなんじゃないかって誰か気づく。それはよくない」
 何でよくないかわかる? と聞くと子供たちは皆声をそろえて『利用価値のある子供たちの取り合いになるから』とか『警備費のコストがかかるから』などと声があがる
「どれもハズレ。正解はここにいない『収納(小)』の持ち主たちを守るため」
 青年や、やや年かさの少年たちは少しはっとしてた顔や、意図わかるけどそこまで気にすることでもないのでは? といったような困惑顔を浮かべる。
「君たちはこれからここで僕たちと商売をするわけだけど、ここにいるのはほとんど子供ばっかりだ。何でかっていうとこれより大きな子たちはみんな自分で仕事を見つけて働いてるから。みんなはここに誘われた時点で、君たちと一緒に大きくなっていくガロン工房と貴族とかかわりの深いハインリヒ商会から守ってもらえるからいいけど、ここにいない『収納(小)』の持ち主はみんな僕たちがこれからすることのせいで身の安全が脅かされる。つまりそれは、これからことを始める俺を含めたみんなのせいで責任だ。もちろんずっと誤魔化し続けられるものでもないと思う。でも、それでも自分の商売が原因で他の人に類が及ばないように努力することが出来ないヤツに商売する資格なんかないと思う。
 ――――だから俺は全力で誤魔化しに行く」
 そういって俺は懐から一枚の紙と指輪を取り出した。
「俺が何故この説明会で説明を任されているかというと、俺がこの件で尽力することを宣言した正式な仲介者だから。―――だからガロン工房はみんなという人材を、ハインリヒ商会はその人脈を生かした顧客窓口を、そして俺はこの隠蔽用品を提供することで今回の件は成り立っている」
 皆が俺の取り出した神と指輪の正体を見極めようとこちらをのぞき込んだのを確認して大きい石が指の腹についている指輪を紙の上にかざした。
「わあ! 凄い! 魔法陣だ!」
 紙の上には蛍光色の魔法陣が浮かび上がる―――100均で売ってた秘密のお手紙セットのブラックライトとそれに反応する無色のペンだ。
 無色と言っても日の下で見れば反射で諸バレしてしまうこともあるので薄暗い室内のみでしか使えない。
 それでもこの世界では魔法以外に、蛍光色に光る魔法陣なんて作り出せないから偽装にはもってこいだ。少年たちのキラキラしい尊敬がこもった瞳に内心ご満悦なのは内緒だ。
「これは魔法陣っぽいけど魔法陣じゃないし、なんの役にも立たない種も仕掛けもあるただの手品なんだ。でもたったこれだけの手品を、スキルを使う前に君たちじゃない別の大人が使えば、それだけで君たちも、君たちじゃない『収納(小)』も普通の生活が送れる」
 少年たちは互いに困惑した表情で顔を見合わせた。おそらく今まで商家で習ってきたこととの齟齬に揺れているんだろう。お金を稼いだり目立ったりするより大切なことなんてあるのかわからずに困っている。
「そうだね、君たちにはいまいちピンと来ないかもしれないけど、もしも君たちの有用性を戦争をしたいお貴族様たちに今すぐ知られたら、君たちも、他の『収納(小)』の持ち主たちもみんなお貴族様たちが抱え込むようになるだろうね。そうして戦争が始まったら君たちは一番前線について回って家を建てることになるだろう。でも君たちは家を建て終わったら必要がなくなるね。確かに君たちは必要なスキルを持っている。でも、戦争中に他の国に取られたらとっても困るスキルだし、ちょっと声をかけただけでこんなに集まる人数の『収納(小)』の持ち主がいる。ということは別にそこまで貴重でもないね。つまり君たちはあっちこっちの前線にやられるだろうけど、君たちにつけれられる兵士は護衛じゃなくていざというとき敵に取られないための監視兵だね」
 それも特に鍛えてもいないような君たちをナイフ一本でみんなやっつけられるような兵士を一人でいいんだ。そういって部屋を見渡すると子供たちはみんな泣き出す寸前といったていで、青年でさえドン引いている。
「だから、このお話は、一生懸命内緒にしてね?」
 そういって確認するとみんな一斉に首をガクガクさせて頷いた。――むち打ちになるよ?
 完全にみんなの俺を見る目が恐怖に染まってしまった。儚い尊敬だった―――。

 その後二、三約束事項を伝達して解散と相成った。
「あれ? そのズボン――」
 部屋を出ようとするときに出入り口がやや詰まり気味で、帰り際に青年の裾をつかんでいた少年と鉢合わせた。青年はデニスさんの所に挨拶だか質問だかに行っている。
「これ、父様が……」
 おどおどとした感じが非常に愛らしい。その少年が履いているのは俺が広場で売っていた便利布だ。その日以来その商品は売ってないからあの日のお客の中にこの子の父親もいたということだろう。そういえば一人だけ俺がデモンストレーションで使った子供用の便利布を欲しがった客がいたから売ったな、思い出した。
「お買い上げありがとうございます」
「えっ……」
「その布広場で売ってたの、俺」
 すると少年は突然あわあわと涙をこぼし始めた。
「えっ、ちょっ、なに、どったの? え? 青年! 青年!」
 思わず身内だろう青年を呼んで振り返ると、すでに真後ろに来ていた青年に頭を引っ張たかれた。
「いっでぇ!!」
「……てめぇがそれをウチのクソおやじに売ったせいでアベル――弟が一人で行商できるだろって追い出されてそれにキレて俺も一緒に飛び出してきたんだよ」
 自分の商売が原因で他の人に類が及ばないように努力することが出来ないヤツに商売する資格がなんだったっけ?? と少年を抱きしめた青年の言葉に俺はその場で反射的に土下座した。
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