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王都
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しおりを挟むそこから米つきバッタと化した俺にそこまで過剰反応すると思ってなかったらしい青年が俺を立たせてから、お詫びをするしないで揉めに揉めた。
正規品ならまだし、本来であれば売られることのなかったデモンストレーション用品を売ったせいで被害が出たなら補填すると言い張る俺と、買ったものをどう使うかは客の自由でその結果に商人の非がないなら補填をするのは間違ってるから受けとらないという青年の主張が平行線で収集が付かなくなったあたりで、様子を見にひょっこり顔を出しに来たハインリヒさんが双方の話を聞いたうえで俺に言って聞かせるから青年――クレマンとアベルの兄弟に帰るよう指示した。
「何でですか!! 俺だって非正規品を売って損害出た時に補填するぐらいの良識ありますよ!!」
「落ち着け、ちび。あのなぁ、あの二人、追い出されたのはアベルの方だけでクレマンは自分で出てきたって言ってただろ? つまり商会は黙認しているが理由があればクレマンを連れ戻すことだってできるわけだ。そんな時にほとんど言いがかりみたいな理由で絡んでたのを目撃されてるお前から金を受け取ったなんて事実が広まってみろ。そんな理由でクレマンが連れ帰られたら追い出されたアベル少年をは、どうすればいいんだ?」
ぐうの音も出ない。ぐぬうっと唸っているとハインリヒさんがポンポンと俺の頭を撫でた。
「そんなに気になるならあれだ。前にサブマス経由で知り合ったちびどもに持ってったみたいにお裾分けでもして食費を助けてやればいいだろ。もうおなじ案件にかかわる同僚なんだから同僚の家に遊びに行っても問題ないだろ」
と、それを聞いて逆に俺は閃いた。
「モニターやって」
「モニター??」
突撃隣のアパートメントのノリでクレマン兄弟のアパートに突撃した。
渋々、中に入れてくれたので説明を始める。
「そう、俺の取扱商品の“エネルギーバー”の売買システムを変更しようと思ってて」
「ちょっと待て! あれ売ってたのお前か!」
「ストップストップ、ここ壁そんな厚くないみたいだから叫ばないで、というかもう面倒だからついて来て」
そう言って二人をグイグイ引っ張ってリストランテ・チェーリオへ連れ込んだ。
ここは二人のアパートからそんなに離れていないし利便性もいいだろう。きょろきょろとあたりを見渡しているアベル君が非常に可愛い。
「アンナパパ! 昨日言ってた話したいんだけど! 今大丈夫?」
「おう! ちょうどさっき最後の客が帰ったところでよ! まあ入れ!」
テーブルが所狭しと並んでいるいる中から一番綺麗な四人掛けのテーブルに腰掛けた。
「で、さっきの続きなんだけど、俺の取扱商品の中で主力商品の“エネルギーバー”と“防水布”がどっちも行商人向けの商品なんだけど」
「防水布もお前かよ!!」
「あ、言っとくけどこれもあんまり言いふらさないでね。モニターの守秘義務規定に後でサインしてもらうからよろしく」
「はぁ?」
「で、このエネルギーバーっていうのが販売する場所がなかったから食品関連ってことで王都同期でこの店の娘のアンナちゃんって子に頼んでこの店で委託販売してもらってるんだけど、委託販売なんてしたことがないアンナちゃんの家だと売り上げを分けて置くのが手間だってことと、それにまごついてるとお客さんにも迷惑がかかること、“エネルギーバー”が庶民向けにしては高級品だから一介の飯屋に売り上げを置いておくことが怖いって相談を受けてたのね? あと、ついでに赤字にはならないけど廃棄する食品が多いことも困るって。で、こういうものをね、作ったの」
エネルギーバーに見立てた木の板だ。これには、はんだごてで焼き印のように柄を入れてある。こっちでは再現するためには膨大なお金がかかるだろう柄だ。
「これをハインリヒ商会で売買する。するとこちらで“エネルギーバー”か“値段相当分+1回分の食事回数券”に引き換えできる」
「食事回数券?」
「指定したメニューをこういう券と交換で食べさせてくれる券」
今度は雑紙のように見える紙を複数枚取り出した。雑紙に見えるけど『お買い物』で買うとコピー用紙より高いんだけどね。
「つまり“エネルギーバー”も“食事券”も結局行商人のご飯になるものなんだけど、王都で食事する回数が多い人なら食事券に引き換えて、行商に出ることが多い人はエネルギーバーに引き換える」
「いや、待て。それだとレストラン側が損してないか?」
「ううん、ちゃんと出るよ。俺がハインリヒ商会から手数料を抜いた額をもらってくるだろ? その後納品の時にこの板の数に応じた三割の利益を手渡すだろ? そうしたら板分のエネルギーバーがリストランテ・チェーリオに残る。すると直接売買する分にそのエネルギーバーを売ったら、三割+エネルギーバー分の利益になって食事分の損失と相殺しても利益上がるから儲かってる。しかも指定するメニューを廃棄に残りやすいメニューにすっれば一石二鳥」
「ハインリヒ商会の利益は?」
「エネルギーバーの新しい売買方法の物珍しさから集客が見込める」
「……お前甘やかされてんな」
普通はその程度の利益でハインリヒ商会は動かせね―からな、とクレマンに釘を刺された。はい、ハインリヒさんに頼み込みました。
「で、その一連の流れを体験してみて問題点を指摘してくれるかわりに商品そのものは無料になるっていう契約を結ぶ人のことをモニターっていうんだけど、それを二人にお願いしたいのね」
契約だから補填じゃないでしょ? と見上げるとクレマンが観念したようにため息をついた。
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