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この気持ちは何ですか
しおりを挟む『知ってまして?第一王子が婚約破棄するって噂』
『ええ・・なんでもあの子爵令嬢が浮気したとかなんとか』
レオンがエリカを婚約破棄するという噂が出回り、ゴシップ誌でも取り上げられていた。エリカとレオンはパーティーに来ても、すぐに別行動をして一切話をしていないことも、噂を助長させる原因であった。
(これで・・・いいんだよね・・・)
今日は肌寒く、暑苦しいビッグの筋肉に包まれた腕が恋しくなる。
(今まで・・・ずっと一人だったじゃない。なんでこんなに寂しくなるの・・・?)
悲しみに暮れていると、横からピンク色のカクテルが目の前に現れた。このドリンクはエリカがよく好んで飲んでいるもので、パーティーなどではレオンが何を言わずともこれを選んでくれていた。エリカはレオンが持ってきてくれたのかと思い、期待で顔を上げた。
「こんにちは、エリカ嬢」
「お、お久しぶりです・・・ゼーランド伯爵」
(違った・・・)
目の前にいたのはレオンではなく、ゼーランド伯爵だった。二十八歳で広大な土地を持つ彼は、レオンと同じ金髪に、深い紫色の瞳を持ち、女性にも人気がある。そんな男性が最近彼はよくエリカに話しかけてくるのだ。
(なんで、私に構うんだろ・・・)
エリカはレオンに、「急に婚約破棄すれば皆驚くから、徐々に噂を流して一緒に過ごす時間を減らそう」と提言された。それから最近はレオンと会っておらず、ビッグもエリカの護衛任務に付くことはなくなってしまい、新人の騎士がエリカに付いている。先ほどレオンとパーティーに参加するために顔を合わせたが、彼はニコリと笑うだけで、会場入りすればすぐに分かれてしまった。
(寂しい・・・寂しいよ・・・)
「・・・エリカ嬢・・・エリカ嬢!」
「はっ、はい!!」
ゼーランド伯爵に何度か話しかけられていたのだが、上の空になってしまっていたようだ。
「ははは、緊張しているのかな、エリカ嬢。可愛い人だ。そうだ、気晴らしに少し外の空気を吸いに行きませんか」
「外に・・・ですか」
「今日は満月だから、美しいですよ、ほら、行きましょう」
「・・・あっ・・・は、はい」
エリカはゼーランドに腕を取るよう言われるも、指の先を引っかけるだけにして彼についていく。実際このパーティーでレオンを視界で追ってしまうので、気晴らしは良い案であろう。
「エリカ嬢は、シャイなんだね。ほら、もっと僕の腕を持って」
(細い腕・・・)
ゼーランドはエリカにしっかりと腕を持つよう促した。レオンやビッグの太い腕に慣れ、ゼーランドのようなほっそりした腕におどろいた。
「ありがとうございます」
「では外へ・・・」
パーティー会場の光で月がよく見えないからと、エリカとゼーランドは少し奥の庭に進んだ。ちょうど座れそうな場所があり、そこにゼーランドはハンカチを下に起き、エリカを座らせた。ゼーランドはエリカの横に座るも、体が少し近い。
「エリカ嬢の、趣味は?」
「ボレロなど、ボードゲームを少々・・・」
「ははっ、男性の遊びじゃないですか。ご冗談を・・・」
ゼーランドはエリカをバカにしたように笑った。笑って見えた歯は真っ白で、自分に相当お金をかけていることが伺える。
「エリカ嬢は、刺繍はされるんですか?」
「ええ、まあ、多少は・・・」
「そうですよねぇ。女性は皆刺繍が好きですから」
(それは、何か偏見じゃない・・・レオン王子とビッグ団長だったら絶対そんなこと言わないのに・・・)
それからもゼーランドの自慢話など、エリカにとって全く興味のない話題ばかりである。エリカはその度に「ビッグ団長ならこうする」「レオン王子ならこうする」と考えてしまう。
「なんだか僕たち気が合いそうだ、エリカ嬢」
(そっちが一方的に喋ってただけじゃ・・・)
ゼーランドは勝手に自分がそう思いたい方向に持っていっているようだ。
「エリカ嬢・・・レオン王子とは、婚約破棄するんでしょう?僕なんて・・・どうかな」
ゼーランドに手を握られ見つめられるが、なんだかエリカは頭がぼーっとしてきた。体もどこか痺れてくる。
(あ、れ・・・なんだか体が・・・おかしい・・・)
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