『転生したら悪役令嬢、前世の娘がヒロインでした』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
8 / 16

王子、逆ギレ。メリンダさま、予想通りの動きです。

しおりを挟む
王子の怒声と、母の静寂

王城の謁見の間に、王子の怒声が響いた。
金の髪を振り乱し、テーブルを叩く王子アルフレッド。

その真正面で、メリンダさま――王子の婚約者であり、そして“私(ジョアンナ)の前世の母”――は、まるで嵐の中心に咲く花のように、静かに紅茶を口にしていた。

 

メリンダ「今さら大きな声を出したって、もう遅いのよ、アルフレッド」

アルフレッド「なっ……!? メリンダっ!」

メリンダ「あなたが“私の娘”を雑に扱うのは、想定済みよ」

 

そう言って、メリンダさまは、ひとつの封書を取り出した。
封には、貴族評議会の公印が押されている。

 

メリンダ「王子の婚約者には不適格。
よって、ジョアンナ嬢の辞退は受理。――すでに記録済みですわ」

 

アルフレッド「そ、そんな勝手なことを!!」

メリンダ「“勝手”をしたのは、あなたのほうでしょう?
それに……彼女、もう逃げたわ。遠くへ」

 

王子の顔色が、みるみる青ざめ、次に真っ赤に染まる。

アルフレッド「どこだ!? どこにいる!? 俺の婚約者を返せ!!」

メリンダ「もう、“あなたの”じゃないわよ?」

 

紅茶の香りが静かに立ちのぼる。
メリンダさまの微笑みは穏やかだったが、その瞳の奥には、
幾度も生まれ変わっても消えない痛みが宿っていた。

 

メリンダ(心の声)
「本当に、“娘の幸せ”を願う母になるのに……
どれだけの時間がかかったことかしらね……」

 

◆ ◆ ◆

 

農村の宿にて

その頃、私は“とある農村の宿”で、カイルドさまの隣にいた。
木製のテーブルに置かれたスープから、湯気が立ちのぼる。

 

カイルド「……おかわりいるか?」
ジョアンナ「……ほしいです……」

 

あんなに嵐のような日々を生きてきたのに、
今こうして、あたたかいスープを飲みながら、
誰かと笑っていられる――
それだけで、胸の奥が熱くなって泣きそうになる。

 

ジョアンナ「……変な話ですけど」
カイルド「ん?」

ジョアンナ「いま、私の人生、ちょっと幸せかもって、思ってます」

 

カイルド「“ちょっと”じゃなくていい。
ちゃんと幸せにするよ」

 

ジョアンナ(心の声)
「……はい、またしんだ。
声がやさしすぎる。反則です。呼吸困難です」

 

◆ ◆ ◆

 

母の宣告

その夜、メリンダさまは王子の前に立っていた。

 

メリンダ「アルフレッド。あなたは“恋”を知らなかったのよ。
愛することと、支配することを――混同したのね」

アルフレッドは拳を握りしめた。
何かを言い返そうとしたが、言葉が出てこない。

 

メリンダ「その代償は、これから学びなさい」
少しだけ、紅茶の香りを纏って。
その声には、母としての祈りが滲んでいた。

 

メリンダ「……そして、学んだなら。
“つぎの子”に頭を下げなさい。
それが、“私”からの、最後のお願いよ」

 

アルフレッドは何も言えなかった。
その目に浮かぶ後悔が、静かに夜に溶けていった。

 

◆ ◆ ◆

 

遠く離れた村の宿では、
ジョアンナがスープを飲み干し、カイルドに笑っていた。

前世理不尽に失った娘、
ようやく、こっちの場所で、
“幸せ”という名の光を見つけたのだった。




アルフレッドの独白

私は――ずっと、綺麗な婚約者メリンダと結婚するつもりでいた。
彼女は完璧だった。
教養も、立ち居振る舞いも、どこを取っても非の打ちどころがない。
王妃になるにふさわしいと、誰もが言った。
……もちろん、私もそう思っていた。
“好き”という気持ちを、少し見失うくらいには。

 

そんなある日。
彼女は、まるでお茶の話でもするように言ったんだ。

 

メリンダ「この子と結婚してみたら、どうかしら?」

 

……何を言われたのか、最初は理解できなかった。
だって、私が想っていた相手が、
自分の手で“別の誰か”を紹介してきたんだぞ。

 

胸の奥が、ずしんと重くなった。
喉が痛いほど乾いた。
笑ってごまかすこともできなかった。

 

アルフレッド(心の声)
「好きな人に、恋愛相手を紹介されるって……こんなにきついんだな」

 

紹介されたのは、素朴で、可愛らしい子だった。
よく笑って、少し不器用で、料理の話をすると楽しそうにしていた。
いい子だと思った。
……でも違うんだ。
私は、メリンダじゃなきゃ、駄目だった。

 

どうしてだろうな。
完璧で、少し怖くて、それでも優しくて。
彼女の紅茶を飲む姿が、脳裏に焼き付いて離れない。

 

嫌われたくなかった。
だからせめて、彼女が紹介した“その子”のことを、
ちゃんと知ってみようと思ったんだ。

……それが、地獄の始まりになるなんて、
そのときの私は、まだ知らなかった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月
恋愛
 カルフェ王国の第二王子である僕、エキセルソ・レオ・アムハルには幼い頃からの婚約者カルア侯爵家ラテーナ・カルアがいる。  彼女はいつも変わらず美しいが、今日に限ってその美しさに陰りがあると思ったら、急に「婚約破棄をして欲しい」などといい出して……。  ああ、任せてラテーナ、一体何に思い悩んでいるかは知らないが、その悩みは全て晴らして見せるからね。 ◆またしても何も知らないゲーム本来の主人公こと、ミルフィ・クリミアさん 「あれ、ここは私の知ってるゲームの世界観だと思ったんだけど……なんか入学式前に校門で魔獣に追いかけ回されるし、自分のクラスも聞いてたのと違って……え、今度はドラゴンが授業に乱入!!? いやぁ、なんで私がこんな目に!!」 婚約者を溺愛しまくる転生者とかではない王子様が、ゴリゴリにシナリオ改変してそれに巻き込まれた本来のゲーム主人公の子がなんか色々と酷い目に遭いながら頑張ったりします。大体そういうお話です。 改変された世界と彼らが辿り着く明日は一体どっちだ!? 【備考欄】 タイトル&あらすじをこっそりとマイナーチェンジしました。(2025年3月7日) なるはやで完結したいから、大体2日に一回くらい頑張って更新してるよ

悪役令嬢の名誉を挽回いたします!

みすずメイリン
恋愛
 いじめと家庭崩壊に屈して自ら命を経ってしまったけれど、なんとノーブル・プリンセスという選択式の女性向けノベルゲームの中の悪役令嬢リリアンナとして、転生してしまった主人公。  同時に、ノーブル・プリンセスという女性向けノベルゲームの主人公のルイーゼに転生した女の子はまるで女王のようで……?  悪役令嬢リリアンナとして転生してしまった主人公は悪役令嬢を脱却できるのか?!  そして、転生してしまったリリアンナを自分の新たな人生として幸せを掴み取れるのだろうか?

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

処理中です...