『転生したら悪役令嬢、前世の娘がヒロインでした』

夢窓(ゆめまど)

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田舎村の縁結び祭りに巻き込まれました

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「ようこそ! “いきおくれと青年の会”へ!」

「なんですかそのネーミングセンス!?」

村一番の行事、それが“縁結び祭り”だった。
独身の若者を強制的に「一日カップル」にして、神前で料理を作らせ、最後は「誰と組んだか」で大騒ぎになるという、どう考えてもカオスな祭りである。

「ジョアンナ嬢! 今、おまえはカイルドと“正式”かどうかが問題なんだ!」

「なにがですか!? どういう基準!?」

「つーことで! おまえら、本気で“夫婦のふり”しろ!」

「ふり!? いや、もう、ふりじゃないかもしれないですけど!?」

周囲の歓声と冷やかしが渦巻く中、村人たちに背中を押されて、強制的にカップルイベントが始まってしまった。
おそろいの前掛けをつけられ、手をつないで買い出しに行かされ、神前では“共同おにぎり制作”までやらされる。しかも、村人全員の前で。

「手、切るなよ」
カイルドが真顔で言う。

「は、はいっ……!」
手が震える。包丁の先より、その声のほうが危険だ。

昼の喧騒が去り、夜には焚き火が灯された。
火を囲みながら、ひとりずつ「将来の夢」を語る時間になった。

カイルドがゆっくり立ち上がり、炎を見つめながら言った。
「ここで、小さな宿を始めるのもいいな。あったかいメシと、くつろげる場所と、ずっとここにいたい人と──一緒にな」

「プロポーズじゃねぇか!」
「結婚しちまえ!」
村人たちの歓声が飛ぶ。

「ちょっと待って!? まだ心の準備が……!」
ジョアンナは顔を真っ赤にして叫ぶが、笑顔を隠しきれなかった。

「……それって、プロポーズ?」
思わず声が上ずる。

カイルドは照れたように髪をかき上げ、笑った。
「プロポーズって言うか……もう、腕枕で寝る仲なんだろ?」

「そ、それはっ……っ///」
ジョアンナは耳まで真っ赤にして両手をぶんぶん振った。

「だったら、そろそろそういうことを考えるべきだろ。……どうだろうか?」

真剣な眼差しに、心臓が暴れて言葉が出ない。
それでも、唇が自然に動いた。

「……いいかも」

小さな声。けれど、確かに届いた。
カイルドの口元が柔らかくほころぶ。

「……そうか。よかった」

大きな手が、そっと髪を撫でた。
胸の奥に、じんわりと熱が広がる。

「じゃあ決まりだな。ここで宿をやって、俺と一緒に生きてくれ」

「そんな簡単に言うんですか」
照れ隠しで頬をふくらませるが、瞳はもう笑っていた。

焚き火の赤い光が、二人の横顔を包む。
外の風は冷たいのに、輪の中は嘘みたいにあたたかかった。

「……さっきの“いいかも”、まだ胸の奥であったかいです」
ジョアンナは小さく呟き、カイルドの肩にもたれかかった。

「眠いなら、そのまま寝ていいぞ」
「……寝たら、夢みたいに思っちゃう」
「夢なら、明日も見せてやる」

火がぱちぱちと音を立てる。
手のひらのぬくもりと、焚き火の赤が重なって、世界が少し小さくなった。
静かな夜。言葉はもういらなかった。
ふたりはただ、余韻の中に溶けていった。


小鳥のさえずりと、差し込む朝の光。
焚き火の灰は静かに冷え、代わりに朝露が草を濡らしていた。

「……おはよう、ジョアンナ」
カイルドが低く穏やかな声で呼びかける。

その笑顔には、昨夜の余韻がまだ残っていた。
焚き火の光の名残りのように、少し照れくさそうに。

「……はい、おはようございます」
ジョアンナは頬をほんのり赤く染めながら、昨夜と同じぬくもりを胸に抱いて答えた。

ふたりで分け合う簡単な朝食。
言葉は少ないのに、心は満たされている。
パンの香ばしい匂いと、スープの湯気が朝の冷気をやさしく包んでいた。

やがて、カイルドが真剣な顔で口を開いた。

「そろそろ……結婚の報告に行こう」

「……っ」
ジョアンナの心臓が跳ねた。
昨夜の言葉が、夢ではなかったのだと知る瞬間だった。

カイルドはまっすぐに彼女を見つめる。
「お父様にも、お母様にも。きちんと伝えたい。──俺は、君と生きるって」

ジョアンナは、ぎゅっと唇を噛んでから小さく頷く。
「……はい。わたしも、一緒に行きます」

朝の光はまぶしくて、まるで新しい物語の幕開けを祝っているようだった。



村外れの小さな家。
ジョアンナの父と母が、ふたりを温かく迎え入れてくれた。

「……それで、今日は大事なお話があって」
カイルドが姿勢を正し、真っ直ぐに二人の前に座る。

「私たち、結婚を考えています」

母は驚いて口元を押さえ、父は「ほう」と目を細める。

カイルドは落ち着いた声で続けた。
「ちょうど今いる村に、空いている宿がありました。小さいですが、立地もよくて。
 あそこを借りて、二人で経営したいと思っています」

「宿を……?」と父がつぶやく。

「はい。俺は冒険で貯めた資金があります。それを頭金にすれば、借りてすぐ始められます。
 あとは、努力次第です」

父は腕を組み、しばし沈黙した。
母は、ジョアンナを見つめてやわらかく微笑む。

「……大丈夫よね? あなた」

ジョアンナはこくりと頷いた。
「はい。料理はわたしがします。
 夜食ばっかり作ってきましたけど……今度は、たくさんの人に食べてもらいたいんです」

カイルドが力強く頷き、深く頭を下げた。
「どうか、よろしくお願いします」

「宿の名前も決めました」
ジョアンナは少し照れながら言った。

「“メゾン・ルミエール”。……光の宿です。
 一応、和式の部屋に布団を敷く予定です」

カイルドが笑みを浮かべ、父母を見据える。
「ここに来る人が、ほっとする灯りを感じられるように──そんな宿にしたいんです」

父は目を閉じ、しばらく黙ってからゆっくりと頷いた。
「いい名だ。……お前たちらしいな」

母の目に、涙が浮かぶ。
「きっと、多くの人に愛される宿になるわ」

父は深く息をついて、にやりと笑った。
「よし、わかった。……お前たちなら、やれるだろう」

「ありがとうございます!」
カイルドが頭を下げ、ジョアンナも慌てて隣で礼をした。

母が小さく笑って、ジョアンナの手を包み込む。
「幸せになるのよ、ジョアンナ」

その言葉に、ジョアンナの胸がいっぱいになった。
この世界で、自分は確かに愛されている──そう感じた瞬間だった。
淋しさもあるけれど、それ以上に、温かい幸福が胸に広がっていた。
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