「無用と捨てられた娘が選んだのは──魔法と、愛のある暮らし。」

夢窓(ゆめまど)

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食堂での勉強会

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夜八時、鐘が鳴ると同時に食堂に集まった。
昼間は笑い声や食器の音であふれていた広間が、今は机を並べ替え、静かな学びの場になっている。

「ここから二時間は、質問以外は喋り禁止だからね」
サーシャが小声で注意して、席に座った。

寮生たちはそれぞれ参考書やノートを広げ、真剣な顔で書き込んでいく。
カリカリとペンが走る音と、紙をめくる音だけが響く。
普段はおしゃべり好きなハンナも、この時間ばかりは背筋を伸ばして集中していた。

私は横に積んだノートを開いて、目を落とす。
伯爵家では家庭教師が当たり前だったけれど、こうして同じ机で学ぶのは初めてで——不思議な連帯感を感じた。

しばらくすると、黒衣の先生が静かに入ってきた。
「質問のある人は?」
テスト前は、交代で先生が食堂まで来てくれるらしい。
もちろん女性の先生だ。夜の寮に男性が入ることはない。

何人かが手を挙げ、控えめな声で質問する。
先生は丁寧に答え、またすぐに静けさが戻る。

二時間が過ぎ、終了の鐘が鳴った。
一斉に大きな息が漏れる。
「ふぅ……終わった」
サーシャが伸びをし、ハンナが笑って「頭が熱くなっちゃった」と言った。

私はノートを閉じて、胸の奥に小さな安堵を覚えた。
——ここでも、ちゃんとやっていけるかもしれない。


勉強会を終えての心情

静かな二時間が終わり、ノートを閉じたとき。
ふと、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。

——自分のペースで勉強できたのは、初めてかもしれない。

家庭教師の前では、いつも緊張していた。
質問すれば、
「これは説明しましたよね?」
「こんなこともわからないんですか?」
そんな言葉が返ってきた。

答えられない私が悪いのだと、ずっと思っていた。

けれど、ここでは違う。
わからないことを聞いても、誰も笑わない。
先生は丁寧に答えてくれるし、周りの子たちも自然に頷いていた。
——質問するのは、恥じゃないんだ。

静かな食堂で学んでいたはずなのに、胸の中は不思議と温かかった。
「ここなら、私でもやっていける」
小さくそう呟いて、机の上のランプの光を見つめた。

勉強会のあとに

勉強会が終わり、食堂の机を片付けながら、ハンナが声をかけてきた。
「ねえマリーン、さっきの計算問題、解けてたじゃない。すごいね」

思わず瞬きをする。
褒められることに慣れていなくて、返事に詰まった。
「……ゆっくり考えただけよ」
「それが大事なんだよ。焦らないでできるの、羨ましい」
ハンナはにっこり笑った。

サーシャも横から加わる。
「図表の整理、きれいだったよ。私、途中でごちゃごちゃになっちゃうんだよね。今度見せてくれない?」

「……いいの?」
「もちろん!」

その会話を聞いていた別の寮生が、控えめに近づいてきた。
「マリーンさんって、静かだから話しかけづらかったけど……意外と優しいんだね」
「今度、一緒に復習してもいい?」

胸の奥がふわっと温かくなる。
伯爵家では“役に立たない娘”と決めつけられていたのに、ここでは——
私の小さな努力をちゃんと見てくれる人がいる。

気づけば、周りに自然な笑い声が生まれていた。
最初はひそひそと囁かれていた食堂が、今は少しずつ、居心地のいい場所に変わっていく。

テスト本番と結果発表

試験当日。
大きな教室に並んだ机に、鉛筆の音だけが響く。
緊張で手が冷たくなりながらも、私は深呼吸をしてノートを開いた。
——寮での勉強会を思い出す。
みんなと一緒に集中した静かな時間。
あのときの落ち着きが、不思議と背中を押してくれる。

一問、また一問。
気づけば、手は止まらなかった。

──そして数日後。

廊下に貼り出された成績表の前に、人だかりができていた。
ざわめきに混ざって、自分の名前を探す。
……あった。

「えっ……九番?」

思わず声が出た。
伯爵家では、常に「できない子」と扱われ、結果を見ても叱られるだけだった。
だから“順位”がこんなふうに自分を励ますものになるなんて、思いもしなかった。

「マリーン! 九番だって! すごいじゃない!」
ハンナが両手をぱんと叩いて喜び、サーシャも肩を叩いて笑う。
「やっぱりね、努力してたの知ってたから。おめでとう!」

周りの寮生たちも「九番ってすごいよ」「伯爵令嬢だからじゃなくて、実力なんだね」と口々に言ってくれた。

胸の奥がじんわり熱くなる。
——初めてだ。
成績を、誰かと一緒に喜べるなんて。

私は小さく、でも確かに微笑んだ。
「……ありがとう」
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