貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
93 / 171
9章 俺の居ないこの町で

93 装った笑顔

しおりを挟む
「カフェ桜へようこそ」

 彼の半分は美人で巨乳のお姉さん。残りの半分はイケメンのお兄さん。
 ここはそんな夜のちょうことチェリーが、昼の顔で働いていた喫茶店だ。

 店内に流れるのは、流行りのJPOPのインストゥルメンタル。
 四人掛けのテーブルは五つとも全部埋まっていて、カウンターの隅に座っていた少女が、俺と目が合って恥ずかしそうに会釈えしゃくした。
 足元にランドセルが置いてあるから小学生なのだろうけど、今日はもう夏休みだろうし、横に保護者の姿もなく「アレ?」と思ってしまう。

 そんな彼女を見つめる俺を、宗助がニヤニヤと覗き込んだ。

「ユースケさんまで、りんちゃんにホレちゃダメですよ? 彼女まだ小学生なんですから」
「いや、そういうのじゃないから」
「けど、可愛いから気になっちゃうんですよね」

 宗助は凛の横に回って、肩をすくめる彼女を俺たちに紹介する。

川津かわづ凛ちゃんです。川の向こうの吉水町に住んでるんだけど、マスターがナンパしてきたんですよ。ちょくちょく来てくれて、今は夏休みの宿題消化中」
「えっ」

 チェリーの苗字は知らないが、凛の顔も吉水町に住んでいるということも、答え合わせをするように、チェリーと一つずつ合致していく。

「宗助、お前俺の悪口言ってるだろ」

 カウンターから声がして、丸めた雑誌がポカーンと宗助の頭を鳴らした。

京也きょうやさん。そうだ、彼ユースケさんて言うんだけど、前に友達がここに来たことあるんだって」
「へぇ、それは光栄だね」

 そこでようやく俺は、この店のマスターを認識した。
 友人が失踪してノイローゼ気味だと聞いて、憔悴しょうすいしきった姿を想像していたが、眼鏡をかけた目が穏やかに笑んで、「京也です」と細められる。
 奏多かなたをそのまま大人にしたような、物腰の柔らかい男性だ。白いシャツに焦げ茶色のエプロンがよく似合っている。
 俺たちも順番に自己紹介して、勧められるままカウンターに並んで座った。

「けど、凛ちゃんに道端で声かけたのは事実でしょ? 27歳にもなって犯罪よ? ほんっとお兄ちゃんって見掛けによらず大胆な肉食系なんだから。みなさんも騙されないように!」

 さすが妹は手厳しい。
 京也の前で仁王立ちになる奏多に、メルは「分かりました」と真面目顔でうんうん頷いている。

「あっ、その荷物良かったら預かりましょうか?」

 立て掛けられた花柄の巨大な包みに奏多が気を利かせるが、「大事なものだから、ここで」と無駄に笑顔を振りまいてクラウは優しく断った。
 そんなクラウに見入って、奏多が日焼けした頬をほんのりと染める。女子の標準的な反応だ。

 「こんにちは」とメルが隣に座る凜に挨拶した。やはりメルのほうが一回り小さい。
 「こんにちは」と返した凜の顔を見て、メルもその事実に気付いたらしい。

「チェ……」

 思うままに言おうとしたメルの口に、俺は素早く掌を押し付けた。
 びっくりしてモゴモゴするメルに「言うな」と小さく耳打ちすると、メルはハッとしてこくこくと頷いた。
 そんな俺たちを横目に、クラウが改めて京也に声を掛けた。

「突然押しかけてしまってすみません」
「いいんですよ、気にしないでください」
 
 京也はニコリと笑って、別テーブルがオーダーしたコーヒーを奏多に渡した。

「宗助くんの知り合いなら、歓迎するよ」
「SNSで知り合ったんですよね? イマドキだなぁと思って」

 サッカーで鍛えた俊足でコーヒーを運んできた奏多が、そんなことを言った。
 宗助が俺を振り向いてサインを送ってくる。どうやらそういう設定になっているらしい。
 確かにそう言われてしまえば、異国人な風貌でも納得がいく。

「ネットで知り合った人と会うのってちょっと怖いけど、クラウさんやユースケさんやメルちゃんみたいな人が来てくれるなら、ちょっと気になるな」
「お前はダメだからな」

 妹の好奇心を、京也が眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせてバッサリと切りつけた。
「そ、そうだよ」と宗助も応戦する。

「いいか、お前は男っぽいところがあるけど女なんだぞ? メールで良いこと言って、実際は全然違う下心むき出しの野獣が来るんだからな? ニュースでもしょっちゅうそういう犯罪が出てるだろ」

 苛立った京也の説教口調に、奏多は「はいはいはいはい」とあしらって、ぷいとそっぽを向いて俺たちの前にメニューを広げた。
 現実世界の妹というのは、ラノベの世界のような「お兄ちゃん(はあと)」みたいなやつとは大分違うらしい。

 メニューの上に書かれた店名を見て、俺はカップを洗う京也に視線を向けた。
 この店に入るとき、俺は一つだけ確認をしていた。もしそれが店のそばにあったら聞かなくてもいいと思ったのだ。

「京也さん、どうしてこの店は桜って名前にしたんですか?」

 けれど、店の周りに桜の木はなかった。
 「あぁ」と目尻を下げた京也の瞳の奥が揺れた。
 俺はここに来て、少しだけ京也がチェリーの保管者でないのではと疑っていたが、その一言で確信することができた。

「俺の親友が付けたんだよ」

 そして京也はカップを洗う手を止めて、俺たちに少しだけアイツの話をしてくれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...