133 / 171
13章 魔王
133 赤い髪の少女
しおりを挟む
今更のことだけれど、ここは俺たちが住んでいた地球とは別の世界らしい。
俺は恐怖に震えて、そいつを直視することなんてできなかった。
そいつの青黒い鱗を目にした俺は、轟音と激しい揺れの中、ただ必死に美緒を庇い地面に伏せていた。
死にたくないと思ったのは何度目だろう。
ザアッと嵐のような音を立てて、地上へと昇っていく長い巨体。
振動で吹き飛ばされないように、俺は地面にしがみつく。
あまりにも速いスピードと衝撃に、長い胴体がドラゴンのものであると確認することはできなかった。
そうなんだと確信したのは、最後に姿を現した尾がアニメやラノベに出てくるドラゴンのそれと酷似していたからだ。
ドラゴンが聖のゆりかごを抜けて遥か彼方の空へ抜けていくまで、大した時間は要しなかった。
揺れと音が遠のいていくのを確認し、俺は丸めた背中をゆっくりと伸ばしていく。
全身が砂まみれ。俺たちの周りにはサッカーボールよりも大きな石が幾つも散乱していた。
それらの直撃を免れたのは幸運だと思ったが、それだけではないらしい。
ティオナに元老院の二人、そして新旧親衛隊の面々が咄嗟にバリアのようなものを張ったことで、俺は今生きているらしい。
急に静まり返った地下空間。
部屋中に広がるぼんやりとした白い光は、彼らが放った魔法の一部らしい。
「ありがとうございます」
震えた両手を組み合わせて、美緒が深く頭を下げる。
「助かりました」と俺も礼を言うと、「無事でよかった」とゼストが顔いっぱいに安堵を広げた。
足元から天井を超えて、地上である中央廟一階までまさに筒抜け状態。遥か高い位置に青空が見えて、この地下からクラウの姿も消えていた。
メルが部屋の中央に歩み寄って、呆然と空を見上げた。
彼女は今何を思っているのだろう。
大粒の雫が頬を伝う。声を殺して涙を流す彼女の髪がふわりと揺れた。
風が流れ込む様子もないこの深い地下で、空を見つめる瞳がその色を濃く染めていく。
オレンジ色の仄暗い明りではっきりとした変化は分からなかったが、これは――。
「いけませんぞ」
ハイドに肩を叩かれて、メルはハッと我に返った。
「ここで悲しみに暮れても、元の姿になって暴れても、誰も喜びませんよ」
メルの姿をした彼女は、憂いを含んだ顔をハイドに向ける。
「ハイド、私はどうすればいいと思う?」
「一度、上へ上りなさい。そこに居る民衆は、貴女が守ることのできなかった民です。それをまずしっかりと受け止めて下さい」
「わかりました」と返事するメルに、ヒオルスがそっと寄り添った。
ハイドは天井を見上げて、
「我々は、この国の平穏を望んでいる。いえ、それ以外に興味などないのです」
そんなことを口にすると、メルの前へ移動して肩をすくめて見せた。
「私は一度、貴女をこの城から切り捨てた。けれど、もし今も貴女の頭がこの国の未来を描くことができるなら、私たちの意思を覆すのもありだと思いますよ」
黙って話を聞いていたメルの姿が、メルーシュへと変貌していた。青いカーボのワンピースが窮屈そうになってしまうのを見るのは何度目だろうか。
慌ててヒオルスが自分の上着を脱いで彼女の肩へ掛ける。その表情はどこか嬉しさを滲ませていた。
『緋色の魔女に気をつけろ』
俺はヤシムに言われた言葉を思い出していた。
彼女の赤色の姿を見ると刺された傷を思い出して心臓がうずく。
けれど今彼女は、背中の剣に触れようとさえしなかった。
俺は恐怖に震えて、そいつを直視することなんてできなかった。
そいつの青黒い鱗を目にした俺は、轟音と激しい揺れの中、ただ必死に美緒を庇い地面に伏せていた。
死にたくないと思ったのは何度目だろう。
ザアッと嵐のような音を立てて、地上へと昇っていく長い巨体。
振動で吹き飛ばされないように、俺は地面にしがみつく。
あまりにも速いスピードと衝撃に、長い胴体がドラゴンのものであると確認することはできなかった。
そうなんだと確信したのは、最後に姿を現した尾がアニメやラノベに出てくるドラゴンのそれと酷似していたからだ。
ドラゴンが聖のゆりかごを抜けて遥か彼方の空へ抜けていくまで、大した時間は要しなかった。
揺れと音が遠のいていくのを確認し、俺は丸めた背中をゆっくりと伸ばしていく。
全身が砂まみれ。俺たちの周りにはサッカーボールよりも大きな石が幾つも散乱していた。
それらの直撃を免れたのは幸運だと思ったが、それだけではないらしい。
ティオナに元老院の二人、そして新旧親衛隊の面々が咄嗟にバリアのようなものを張ったことで、俺は今生きているらしい。
急に静まり返った地下空間。
部屋中に広がるぼんやりとした白い光は、彼らが放った魔法の一部らしい。
「ありがとうございます」
震えた両手を組み合わせて、美緒が深く頭を下げる。
「助かりました」と俺も礼を言うと、「無事でよかった」とゼストが顔いっぱいに安堵を広げた。
足元から天井を超えて、地上である中央廟一階までまさに筒抜け状態。遥か高い位置に青空が見えて、この地下からクラウの姿も消えていた。
メルが部屋の中央に歩み寄って、呆然と空を見上げた。
彼女は今何を思っているのだろう。
大粒の雫が頬を伝う。声を殺して涙を流す彼女の髪がふわりと揺れた。
風が流れ込む様子もないこの深い地下で、空を見つめる瞳がその色を濃く染めていく。
オレンジ色の仄暗い明りではっきりとした変化は分からなかったが、これは――。
「いけませんぞ」
ハイドに肩を叩かれて、メルはハッと我に返った。
「ここで悲しみに暮れても、元の姿になって暴れても、誰も喜びませんよ」
メルの姿をした彼女は、憂いを含んだ顔をハイドに向ける。
「ハイド、私はどうすればいいと思う?」
「一度、上へ上りなさい。そこに居る民衆は、貴女が守ることのできなかった民です。それをまずしっかりと受け止めて下さい」
「わかりました」と返事するメルに、ヒオルスがそっと寄り添った。
ハイドは天井を見上げて、
「我々は、この国の平穏を望んでいる。いえ、それ以外に興味などないのです」
そんなことを口にすると、メルの前へ移動して肩をすくめて見せた。
「私は一度、貴女をこの城から切り捨てた。けれど、もし今も貴女の頭がこの国の未来を描くことができるなら、私たちの意思を覆すのもありだと思いますよ」
黙って話を聞いていたメルの姿が、メルーシュへと変貌していた。青いカーボのワンピースが窮屈そうになってしまうのを見るのは何度目だろうか。
慌ててヒオルスが自分の上着を脱いで彼女の肩へ掛ける。その表情はどこか嬉しさを滲ませていた。
『緋色の魔女に気をつけろ』
俺はヤシムに言われた言葉を思い出していた。
彼女の赤色の姿を見ると刺された傷を思い出して心臓がうずく。
けれど今彼女は、背中の剣に触れようとさえしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる