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最終章 別れ

166 俺の疑問

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 キュイィィン! と高く鳴った照明弾の音や光にも、二人はすぐの反応を示さなかった。
 土に伏したまま固まって10秒ほど経っただろうか。

 長く続いた余韻が消えて、俺たちが近付こうと足を踏み出したところで、クラウの指がそっと土を掻いた。すぐ横に落ちた聖剣に触れると、途端に強い力でその柄を握りしめる。
 ズルリと足を引き寄せ、土の付いた手で頭を押さえながらクラウが立ち上がった。

 ワイズマンもまた、死んではいない。血だらけの肩に当てた手に光が現れたのは、ついさっきクラウが見せた治癒と同じだ。
 数メートル離れた距離で、それぞれに起き上がった二人。

 先に戦闘へと戻ったのはクラウだった。
 素早く間合いを詰めたクラウが、鋭い眼光を光らせて斬りかかる。それをワイズマンが間一髪でかわし、ガンと短剣で刃を叩き上げた。

 力が加わったせいか、ワイズマンの血は尚も肩から吹き出す。傷の深さに短時間の治癒では足りなかったのだろう。

 それでも二人の勢いはやまない。
 ワイズマンの放った炎の熱に、俺たちは木の生えた位置ギリギリまで下がった。
 二人はフルスピードで円形の空間を移動していく。

 素人の俺にはその姿を目で追うのがやっとで、手元の動きまでははっきりと捉えることができなかった。
 俺達とは対角線上の先まで行ったところで、クラウが青い光を放った。直接手を掛けたわけでもないのに、彼等の側にある木が爆音を響かせて数十本と一度になぎ倒されてしまう。

「うわぁ、凄い。けど何であの二人、あんなに嬉しそうにしてるんだろうね。殺し合ってるはずなのに」
「クラウもだけど、ワイズマンも解放されたいと思っているのかもな」

 数百年と貫いたワイズマンの意志の崩壊。クラウの出現で、彼は変わりたいと思っているのかもしれない。
 意気揚々と戦う二人が血だらけになっても、俺達にはそれを止めることができなかった。

 くるりと回ったクラウの足が、かかとからワイズマンの胸を狙う。細い身体の割に、一発で相手を地面に転がした。

「魔王は元々、魔法師じゃない。剣や素手の方が慣れてるのかもね」

 この国に居る為に、メルーシュの側にいる為に、クラウはどれだけの努力をしたのだろうか。

「頑張りすぎだ」

 そこから立ち上がって、ワイズマンは白い光を仕掛ける。彼の戦い方はクラウとは違った。
 中身も能力もワイズマン自信。あくまで見かけだけのコピーらしい。

 光の軌道を避け、クラウは離れた位置に再度剣を構えた。
 お互いに見合って呼吸を整える。まだまだ戦えそうな気はするが、ダメージはお互いに大きい。

 俺の背後でガサリと気配が鳴った。
 モンスターかと驚いて恐々と振り向くと、予想外の青い瞳が俺を捉えて丸く開いた。

「メル!」

 俺が思わず名前を呼ぶと、彼女が現れただろう白い煙の余韻よいんに別のモヤが絡んだ。
 もう一つの大きな影が中から姿を現す。

「ヒオルスさん」
「御無事で何よりです」

 にこりと笑んで頭を下げるヒオルス。二人ともまだまだ余裕の表情だ。

「さっきの照明弾で二人とも来てくれたのか? ありがとう。二人とも無事で良かった」
「向こうは大分落ち着きましたから。他の皆さんも時機にここへ集まってくると思います」

 「うん」と頷いたメルが、戦闘中の青と黒のクラウを見つけて表情を一転させた。

「あれは何?」

 「クラウ!」と中央へ飛び出していきそうな彼女の腕を掴んで、俺はこの状況を早口に説明した。
 青はワイズマンだという事、これに勝ったらクラウを魔王と認めると彼が言ったという事。

「そんな。ワイズマンが認めなくたって、クラウはこの国の魔王だわ」
「俺もそう思うよ。けど、アイツのけじめだから。やらせてやってくれ」
「……えぇ」

 納得しきれない返事を返すメル。顔を上げた彼女が戦闘中の二人を捉えて、「えっ」と疑問符を投げかける。

「ちょっと待って。クラウはあの剣で戦っているの?」

 メルが驚愕の声を漏らした。
 どうやら、俺の疑問は少しだけ当たっていたらしい。



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