かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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KAISEN

気持ち

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「随分と、手間をかけさせてくれたな」

何処かで聞いたような低い声がした。
振り返る余裕はない。
視界の端で、太く鍛えられた腕が私の肩を鷲掴みにしているのが見える。
「いやー、ようやくか……ふっ、威勢だけはいいが、所詮は子ども」
冷たい声と共に、更なる圧力が首筋にかかる。
能力を使おうとするが、何故かうまく身体が動かせない。
(どうして……)

前方のリュージが笑う。
囮だったのだ。
唖然とする私を見て、彼は愉快そうに笑った。

「能力者が自分だけではないと、知らなかったか?」
男の腕は鉄のように固く、抗う力さえ奪っていく。
まさか、本当に……?

「さあ、USBを渡せ。抵抗など意味がないと証明してやる」

屈強な男の力がさらに強まる。
「嫌!」
怖い。汗で指が滑りそうだ。でも離さない。
だけど、このままだと、握りしめている指が折れそうだ。

「おい、傷をつけるなよ」
リュージが囁き、彼は頷く。
「わかってるって」

それから彼は片手で何処かを指差し、スプレー缶を浮かせた。
細長いストローの付いたその口を此方に向けて来る。

催涙? 睡眠剤? それとも……

「はーい、じゃあ、答えて?」 

薬剤が確実に吸い込めるように構えながら、彼は言う。
「USBは何処で入手した?」
「……」
私は答えない。
彼は唇に指をかける。ちょっと痛い。
指から汗の匂いがして気持ちが悪い。
色ちゃんはそうでもなかったのに。
なんか生理的に受け付けないかもしれない。

「そんなもの、いつだって覚えてるわ」
一呼吸置いて、私は言う。
「だって、その資料、私のだもの」

ほう?
と彼らが奇妙な反応をする。
ネジを踏む音。
嫌な気分。

こんな気持ちになるなら、それを必要とされるなら、何故私たちから奪ったの?
物と人が、道具として違うなんて、誰も教えてくれないのに。

ぐっ、と掌を握る。
――そんな事考えちゃ駄目だ。
誰が理解しなくても大好きな、大事な友達。救われてきたのに。
物と人は同じ感情になれる。


「兵器開発部が証拠隠滅の為に燃やした企業のすぐ真下に、あの日私は居たの―――
多分、一緒に消されるために」
「どうして?」
「お父さんが……待ち合わせようと言ったから」
「何故?」
「知らない。私の力が、段々強くなって来ていたから?」
 迂闊だった。
「『鬼』よ。いつも隠れていた。当たり前の顔をして、まるで、寄り添うフリをして」

私たちのことを呪いって呼んで、自分たちを殺そうとしてる。
だから殺そうと、考えている。

「……あの人は、私たちを殺す鬼に……」

「その時に、妙な声を聞いたか?」

一呼吸、置いて私は答える。

「えぇ。聞いた」

スプレーが噴射される。
意識が遠退いてくる。

「――――充分だ」
誰かが笑う声がした。




「約束のものかどうか、先に、確認しておきましょう」
リュージが提案する。
身体が動かない。
目が開かない。
もう一人が何やら笑っている。


どこかにPCがあるらしく、USBが繋がれている。
リュージが何か言っている。

改竄資料がまだ残っていたとは、とか。危なかった、とか。
もう一人も笑っている。


「ハハハ。本当馬鹿ばかりだ。
便利過ぎて笑っちまう。
こんな便利な能力、何故みんな、暴力や金稼ぎに使わないんだ? 捜査だ取り締まりだって馬鹿らしい」

法律があるからだ。
犯罪ばかりになるから。
理屈を作らないと頭がおかしくなるから。

『ホットケーキミックスに、わざわざ卵を入れるのは何故か?』
結局、一手間が無いと売れないのよ。
そんなこと、馬鹿には理解出来ないか。


2026年1月23日2時11分
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