かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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Zeigarnik syndrome

Zeigarnik syndrome

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「そういや笹山さんに連絡したんだけど、リュージさんが。
まだあっちに来てないみたい」

色が呟く。

「そうなのか、じゃあ――」

なにか言いかけたときに橋引が急に俺たちの前に立ちはだかった。そしてくい、と指に力を入れる。
ばああああん、と大きな音。
背後から倒れてきた白いかたまりが粉砕され、ぱらぱらと目の前に降る。

「……えーっと」

振り向くと、背後の壁が3分の1程砕けていた。あんなもんが直撃してたら、と思うと寒気がする。
同時に、一瞬ドキッとした。
今降ったのは壁でよかった、と。
「あっぶないわね」

「はっしー、ありがと」

橋引は、遠くから物を動かせる。
ただし、結構消耗するのであまり使わないようにしてるらしい。そんな彼女に負担をかけて少し申し訳なく思った。

「いいわよ、どうせこの呪われたみたいな力は使いきって死ぬしかないしさ、他にすることないし……させてもらえないし。
唯一の道なのよね」
橋引は「さてと」と壁の裏側を見る。割れた向こう側だが、誰も居ない。
「あら、誰も居ない」
偶発的ではなく犯人がいる、ってことみたいだ。色はというと、ホールの方を見ていた。
そちらから声が響く。


「覚えとけよお前、殺してやるからなぁあ!?」

また、ばあん、と音がする。
壁が少し揺れた気がする。
なるほど。
ホールで暴れた騒ぎの衝撃がなんか伝わってきて老朽化してる少し離れた廊下の壁に開いていた皹から割れたって感じか。

「穏やかじゃないね」
色が呟く。
「だな」

俺は前へとゆっくり進んでいく。
「殺してやるからな! 聞いてんのかあ!」
包丁を手にした女が騒いでいる。パーティ会場のホール。
魚顔というのだろうか、なんだか、愛嬌のあるような特徴的な顔立ちの女がなぜかやけに激昂している。中年くらいの女優に居たような、穏やかそうな物腰を感じさせるが、今はただ怒りに身を任せている様子だ。

近くで料理をつまんでいた男性に近づき事情を聞く。彼は苦い顔をしていた。

「いや、なんか酔った女が急に怒り出したんだ」
ばあん、と音がして、彼女の右手側の壁が強く蹴られると、会場はゆさゆさとゆれた。
「怪、力……」


これは、壁にヒビが入ってもおかしくはないが……

「それでも、かなり割れたな」
俺が言う前に色がしみじみと呟く。
「なにか細工されてたかもな」

壁をさわると、殺意のような、じめじめした感覚が流れてくる。

「こっちはあんたになんか会いたくなかったのに!」
女が叫ぶ中、俺らはまたホールに向かった。












相手との再会というのは、そう望んでいない場合も多い。

「おや――色さん」

びくりと強張りかけた身体。声がかかった相手を、俺は知ってる。

「こんなとこにいらしていたんですか」

 女は、笑みを浮かべて近づいてくる。
最ッ悪……こっちは二度と会わなくていいと思っているのに。
「会いたかった! やっぱり、感動の再会は、こうでなくっちゃ」
 黒く光沢のある生地のドレスを身に纏い、占い師として働いている彼女。
猫のような鋭い目をしてるが、感動物の安っぽいホームドラマうるうると目を潤ませられるタイプ。

「悠柏さん、何してるんですか」

「んん、わかってる、く、せ、に? あなたが入らなかった『おじいちゃま』たちと同じ会の、集まりよ」

「……そうですか」


「あなた顔もいいし、モデルになれは集客率も望めるのに」

「嫌ですよモデルなんか。
晒し者にされるなんかごめんだ。本気で迷惑です」

『大手』はCMやらなんやらで人を集めてるし、人数も人気も多いが、さっきだか少し前に争ってきたばかりだったり。

「ほら、目立てば会いたい人にも会えるかもしれないわよ?」

チッ、と舌打ちをした。
そういう勝手な頭を、人を利用しているとは感じない神経がこの人で――ドラマか物語にしかないようなご都合主義の出来すぎた愛を、良い歳して語る。
貼り出したらその前に消されるわ、ふざけんな死ねと言う言葉を飲み込む。

「広告なんて、他人の力、他人の金そのものだ。
自力で会うことにはならない。俺ならそんなことされりゃ叩き出しますね……」

「まぁー、オトコのプライドってやつ? あらあら、おっとなー! 偉い。自力で頑張りなー」

腕を伸ばされて、さっ、と避けて前へ進む。そんな場合じゃない。――色、と、かいせや橋引が呼び追ってきた。

「安易なコンセッション導入はやめて!!」 

女は包丁を握りしめたまま、じりじりと、舞台へ上がる。
そこには、先ほど何かを説明していた式場の運営かなにかの責任者らしき女性が居た。

「コンセッション方式は、既に決定したことです……民間とも手を繋ぎ、彼ら市民のノウハウをうまく利用することも視野にいれるべきだと」
「事業の付加価値、利益性が限定的なので、その……収益で賄うしかありません、ここはもともと土地の所有者が好意で――」

「聞いていない、そんなこと!」
周りがざわつく。
しかし誰も中に入ろうとはしない。彼女が壁を叩くとホールはぐらぐらと揺れていた。

「事故が多いっていうのに、式場ばかり建ててどうなのよそもそも!
買い取らせてくだされば、
任せてくだされば、事故とか災害とかそんなときにも、支援が受けやすくて困らないんです!」


「誰、あれ」

俺が聞くと、橋引が「市長のとこの娘さん」とさりげなく答える。
「ここは、共有財産として生まれ変わるっ!」

包丁を手にしたまま言うなよと解瀬は呆れている。

「共有財産ねぇ」

まるで俺らや障がい者の扱いだ。
市長の娘、は目の前で声を張り上げていた。そんな立場的に目立ちそうなやつが、暴れてていいのだろうか?

「この会合自体が、特殊な人しかいないもの。露見しないわよ」
橋引は、さらっとそんなことを述べた。

「御幸ヶ原さん、もういいでしょう? パルフローラネクストにお戻りください!」
テーブルの側から男性がやってきて真面目な顔をして叫んだ。御幸ヶ原と呼ばれた女は顔を真っ赤にしている。

「やだやだぁあー、ほしい、欲しいぃ~!!」
ばたばたと足を動かして駄々を捏ねたが周りが取り合わないのを見ると、ふと我にかえるとぼそっと一言。
「ふぅ。実験終了、かな……、もともと、こんなつまんないアホ連中だ・し?」
そして、スタスタと去っていくと、見せかけて、前髪を払いつつも最後にホールのテーブルのひとつを持ち上げる。

「あーあ、ただの実験に体力使っちゃった・なぁ」
ぐぐぐ、と魚料理ごと。

「――危ない!」

誰かが言った。
狙いは、舞台で今説明をしてる人だ。
橋引が、片手を押さえながらもテーブルの動きを止める。
さっきの壁が崩れたもので消耗しているようで、腕に疲労がにじむのだった。


「いやあ今日はめでたい日だし丁度いいかな。目的は果たせたし飽きたから終わりにするね。

――被験者の君には教えてあげる。好きなゲームがどんどん終了していく中であっちとここの現状を知りたかった……」

ぐぐ、と力が込められる。
御幸ヶ原は力に気づきはしたが、押し通すつもりらしい。
橋引は押し返していた。

「あ。厨二でもギャグでもありません。どれだけ悪口言われてももう来ないから。まぁ金魚ちゃんは狭い水槽の中でずっと泳いでなよ。
君も私が会いたかった「本物」じゃなかったし…もう気は済んだかな――私だって、楽じゃないからね…少しは参考にしたいなーって思って。結果……過疎化は思ってたよりも深刻だったイベやってるだけマシだけどあの板も潰れてたし『妖精人形』よりここは酷い――――」

ぐふっ、と界瀬が吹き出す空気に、俺はちらっと彼を見た。
かなりウケてんな。

「なに、ひとりでひたってんのよ……ばっかじゃないの」

橋引は、引かない様子で(台詞には引いてる)腕に力を込め続ける。

「バカに教えといてあげる。
そんなの実験って言わないの。推論もなしに闇雲に暴れてりゃ、研究所潰しまくりよ――この、能無し!」













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