かいせん(line)

たくひあい@あい生成

文字の大きさ
35 / 307
Zeigarnik syndrome

Zeigarnik syndrome

しおりを挟む
「そういや笹山さんに連絡したんだけど、リュージさんが。
まだあっちに来てないみたい」

色が呟く。

「そうなのか、じゃあ――」

なにか言いかけたときに橋引が急に俺たちの前に立ちはだかった。そしてくい、と指に力を入れる。
ばああああん、と大きな音。
背後から倒れてきた白いかたまりが粉砕され、ぱらぱらと目の前に降る。

「……えーっと」

振り向くと、背後の壁が3分の1程砕けていた。あんなもんが直撃してたら、と思うと寒気がする。
同時に、一瞬ドキッとした。
今降ったのは壁でよかった、と。
「あっぶないわね」

「はっしー、ありがと」

橋引は、遠くから物を動かせる。
ただし、結構消耗するのであまり使わないようにしてるらしい。そんな彼女に負担をかけて少し申し訳なく思った。

「いいわよ、どうせこの呪われたみたいな力は使いきって死ぬしかないしさ、他にすることないし……させてもらえないし。
唯一の道なのよね」
橋引は「さてと」と壁の裏側を見る。割れた向こう側だが、誰も居ない。
「あら、誰も居ない」
偶発的ではなく犯人がいる、ってことみたいだ。色はというと、ホールの方を見ていた。
そちらから声が響く。


「覚えとけよお前、殺してやるからなぁあ!?」

また、ばあん、と音がする。
壁が少し揺れた気がする。
なるほど。
ホールで暴れた騒ぎの衝撃がなんか伝わってきて老朽化してる少し離れた廊下の壁に開いていた皹から割れたって感じか。

「穏やかじゃないね」
色が呟く。
「だな」

俺は前へとゆっくり進んでいく。
「殺してやるからな! 聞いてんのかあ!」
包丁を手にした女が騒いでいる。パーティ会場のホール。
魚顔というのだろうか、なんだか、愛嬌のあるような特徴的な顔立ちの女がなぜかやけに激昂している。中年くらいの女優に居たような、穏やかそうな物腰を感じさせるが、今はただ怒りに身を任せている様子だ。

近くで料理をつまんでいた男性に近づき事情を聞く。彼は苦い顔をしていた。

「いや、なんか酔った女が急に怒り出したんだ」
ばあん、と音がして、彼女の右手側の壁が強く蹴られると、会場はゆさゆさとゆれた。
「怪、力……」


これは、壁にヒビが入ってもおかしくはないが……

「それでも、かなり割れたな」
俺が言う前に色がしみじみと呟く。
「なにか細工されてたかもな」

壁をさわると、殺意のような、じめじめした感覚が流れてくる。

「こっちはあんたになんか会いたくなかったのに!」
女が叫ぶ中、俺らはまたホールに向かった。












相手との再会というのは、そう望んでいない場合も多い。

「おや――色さん」

びくりと強張りかけた身体。声がかかった相手を、俺は知ってる。

「こんなとこにいらしていたんですか」

 女は、笑みを浮かべて近づいてくる。
最ッ悪……こっちは二度と会わなくていいと思っているのに。
「会いたかった! やっぱり、感動の再会は、こうでなくっちゃ」
 黒く光沢のある生地のドレスを身に纏い、占い師として働いている彼女。
猫のような鋭い目をしてるが、感動物の安っぽいホームドラマうるうると目を潤ませられるタイプ。

「悠柏さん、何してるんですか」

「んん、わかってる、く、せ、に? あなたが入らなかった『おじいちゃま』たちと同じ会の、集まりよ」

「……そうですか」


「あなた顔もいいし、モデルになれは集客率も望めるのに」

「嫌ですよモデルなんか。
晒し者にされるなんかごめんだ。本気で迷惑です」

『大手』はCMやらなんやらで人を集めてるし、人数も人気も多いが、さっきだか少し前に争ってきたばかりだったり。

「ほら、目立てば会いたい人にも会えるかもしれないわよ?」

チッ、と舌打ちをした。
そういう勝手な頭を、人を利用しているとは感じない神経がこの人で――ドラマか物語にしかないようなご都合主義の出来すぎた愛を、良い歳して語る。
貼り出したらその前に消されるわ、ふざけんな死ねと言う言葉を飲み込む。

「広告なんて、他人の力、他人の金そのものだ。
自力で会うことにはならない。俺ならそんなことされりゃ叩き出しますね……」

「まぁー、オトコのプライドってやつ? あらあら、おっとなー! 偉い。自力で頑張りなー」

腕を伸ばされて、さっ、と避けて前へ進む。そんな場合じゃない。――色、と、かいせや橋引が呼び追ってきた。

「安易なコンセッション導入はやめて!!」 

女は包丁を握りしめたまま、じりじりと、舞台へ上がる。
そこには、先ほど何かを説明していた式場の運営かなにかの責任者らしき女性が居た。

「コンセッション方式は、既に決定したことです……民間とも手を繋ぎ、彼ら市民のノウハウをうまく利用することも視野にいれるべきだと」
「事業の付加価値、利益性が限定的なので、その……収益で賄うしかありません、ここはもともと土地の所有者が好意で――」

「聞いていない、そんなこと!」
周りがざわつく。
しかし誰も中に入ろうとはしない。彼女が壁を叩くとホールはぐらぐらと揺れていた。

「事故が多いっていうのに、式場ばかり建ててどうなのよそもそも!
買い取らせてくだされば、
任せてくだされば、事故とか災害とかそんなときにも、支援が受けやすくて困らないんです!」


「誰、あれ」

俺が聞くと、橋引が「市長のとこの娘さん」とさりげなく答える。
「ここは、共有財産として生まれ変わるっ!」

包丁を手にしたまま言うなよと解瀬は呆れている。

「共有財産ねぇ」

まるで俺らや障がい者の扱いだ。
市長の娘、は目の前で声を張り上げていた。そんな立場的に目立ちそうなやつが、暴れてていいのだろうか?

「この会合自体が、特殊な人しかいないもの。露見しないわよ」
橋引は、さらっとそんなことを述べた。

「御幸ヶ原さん、もういいでしょう? パルフローラネクストにお戻りください!」
テーブルの側から男性がやってきて真面目な顔をして叫んだ。御幸ヶ原と呼ばれた女は顔を真っ赤にしている。

「やだやだぁあー、ほしい、欲しいぃ~!!」
ばたばたと足を動かして駄々を捏ねたが周りが取り合わないのを見ると、ふと我にかえるとぼそっと一言。
「ふぅ。実験終了、かな……、もともと、こんなつまんないアホ連中だ・し?」
そして、スタスタと去っていくと、見せかけて、前髪を払いつつも最後にホールのテーブルのひとつを持ち上げる。

「あーあ、ただの実験に体力使っちゃった・なぁ」
ぐぐぐ、と魚料理ごと。

「――危ない!」

誰かが言った。
狙いは、舞台で今説明をしてる人だ。
橋引が、片手を押さえながらもテーブルの動きを止める。
さっきの壁が崩れたもので消耗しているようで、腕に疲労がにじむのだった。


「いやあ今日はめでたい日だし丁度いいかな。目的は果たせたし飽きたから終わりにするね。

――被験者の君には教えてあげる。好きなゲームがどんどん終了していく中であっちとここの現状を知りたかった……」

ぐぐ、と力が込められる。
御幸ヶ原は力に気づきはしたが、押し通すつもりらしい。
橋引は押し返していた。

「あ。厨二でもギャグでもありません。どれだけ悪口言われてももう来ないから。まぁ金魚ちゃんは狭い水槽の中でずっと泳いでなよ。
君も私が会いたかった「本物」じゃなかったし…もう気は済んだかな――私だって、楽じゃないからね…少しは参考にしたいなーって思って。結果……過疎化は思ってたよりも深刻だったイベやってるだけマシだけどあの板も潰れてたし『妖精人形』よりここは酷い――――」

ぐふっ、と界瀬が吹き出す空気に、俺はちらっと彼を見た。
かなりウケてんな。

「なに、ひとりでひたってんのよ……ばっかじゃないの」

橋引は、引かない様子で(台詞には引いてる)腕に力を込め続ける。

「バカに教えといてあげる。
そんなの実験って言わないの。推論もなしに闇雲に暴れてりゃ、研究所潰しまくりよ――この、能無し!」













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...