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Re actance amplifier
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藍鶴と会ってから、まだ日も浅い頃、ある仕事をした。
クライアントはどこかの金持ちで、夫が7年以上帰って来ないというものだった。7年も経過していたら、危難失踪とかで死亡届を出せるレベルなのだが、ご婦人は諦めていない。しかし、他の家族や警察は、諦めモードらしい。ご婦人が「冬、彼が山登りに行ったきり」だというので、彼女から夫の私物でその日も着けていたが、ふもとで見つかったらしいネクタイを貰い、彼女の記憶と、夫の記憶を読み取ることに専念した。
目を閉じる。葉が見える。茶色い、大きな葉。
そして一面の土――
それだけが、見えた。
枯れ葉だらけの視界を、思い出す。
「なぁ」
俺は、きっと何処かでわかって居たんだと思う。ずっと見ないようにしていたんだけれど、それでも仕方がない。電話の向こうで少し動揺を見せている色を思いながら、送話口に声を乗せた。
「なあ、色、あの事件って、やっぱりあいつらなんだろう?」
色は──少し、悲しげに、答えた。
『お前が、見付けてしまった軍事兵器の試作品を──作った所』
予想は出来ていた。覚悟も、出来ていた。
「だよなあ」
と、俺はやれやれとため息を吐く。「あいつらなら、俺を知ってて当然だからなぁ。そうだと思ったよ」
なぜ、そいつがそんなに思い詰める必要があるのかがわからなかった。そんなに悲しそうなのかわからない。何を『見て』あんなに吐いていたのだろうのか。
色は、淡々と言葉を続けた。
『たぶん、俺とも、繋がりがある所だ』
繋がりが?
『ちょっとまえに槇原さんが死んだだろ』
「あー……」
完全に察しがついてしまった。そういうことなら、確かにただでさえ追われている色は、やつらにとっても厄介者になる。
確かに、悲壮感が漂うのも無理は無い。『カイセは、平気? 《会いたくない知り合い》が居るかもしれない。これから、戦うことになるのかもしれない』
「いや、まぁ……平気じゃないけど、やつらが手段を選ばないことくらい、わかっていたし、いづれ、こうなる運命だったのかもな」
そう。むしろ、もっと早くに見つかって、引き戻されていたり殺されていた可能性もあったのだ。
俺の存在を表から匿ってくれたのがあの事務所だった。
「ははっ──お前には、これも、見えたのか?」
『──』
「え?」
小声で、彼がなにか、言う。
聞き返すと少しボリュームをあげて話してくれた。
『別に助けようとしたつもりじゃないんだ』
受話器の向こうからは、色の声が優しく響いてくる。
もっと、聞いていたい。
妙に安心する。
このまま切りたくない。
「──色、あの……」
俺もなにか言おうとした。
言いたかった。
こんなときなのに、つい、少しでも会話していたいと思ってしまう。
なにか、なにか、言わないと──
心配するなよ、とか帰ったら食べたいものはあるかとか、俺は平気だからとか、お前は平気なのかとか。けれど、何が適切なのかわからない。
『俺の心、あるじゃないかって言った。お前だけが』
通話が、切れる。
心の奥で、声が反響する。
「そんなこと、当たり前だろ……」
言えなかった言葉を、心のなかで繰り返す。
心は作品のネタでも予知の道具でもない。
疑われて、避けられて、身勝手に晒しものにされて良いものじゃなかった。
かつて家族が彼を売った。
――わたしにさわらないで。
それが、彼の母親からの最後の言葉だったというのを、聞いたことがある。絆だなんだのといっても、そんなの、無いときは無い。
けど、それを誰かに『間違ってる』なんてことも無責任に言わないで欲しかった。
心が──彼自身の心の証明が道具としてだけ見なされ、疑うことしかしない他人の手に渡ったと言うことだ。知るか知らないかじゃない。
家族が疑って行動した、それで充分だ。
親や友人、社会、それらから否定される世界にだけ存在できる心が──確かに存在する心が、俺には、分かる。
だから……もう一度言うよ。
「色──俺たちは人間だ」
2021/9/192:42
クライアントはどこかの金持ちで、夫が7年以上帰って来ないというものだった。7年も経過していたら、危難失踪とかで死亡届を出せるレベルなのだが、ご婦人は諦めていない。しかし、他の家族や警察は、諦めモードらしい。ご婦人が「冬、彼が山登りに行ったきり」だというので、彼女から夫の私物でその日も着けていたが、ふもとで見つかったらしいネクタイを貰い、彼女の記憶と、夫の記憶を読み取ることに専念した。
目を閉じる。葉が見える。茶色い、大きな葉。
そして一面の土――
それだけが、見えた。
枯れ葉だらけの視界を、思い出す。
「なぁ」
俺は、きっと何処かでわかって居たんだと思う。ずっと見ないようにしていたんだけれど、それでも仕方がない。電話の向こうで少し動揺を見せている色を思いながら、送話口に声を乗せた。
「なあ、色、あの事件って、やっぱりあいつらなんだろう?」
色は──少し、悲しげに、答えた。
『お前が、見付けてしまった軍事兵器の試作品を──作った所』
予想は出来ていた。覚悟も、出来ていた。
「だよなあ」
と、俺はやれやれとため息を吐く。「あいつらなら、俺を知ってて当然だからなぁ。そうだと思ったよ」
なぜ、そいつがそんなに思い詰める必要があるのかがわからなかった。そんなに悲しそうなのかわからない。何を『見て』あんなに吐いていたのだろうのか。
色は、淡々と言葉を続けた。
『たぶん、俺とも、繋がりがある所だ』
繋がりが?
『ちょっとまえに槇原さんが死んだだろ』
「あー……」
完全に察しがついてしまった。そういうことなら、確かにただでさえ追われている色は、やつらにとっても厄介者になる。
確かに、悲壮感が漂うのも無理は無い。『カイセは、平気? 《会いたくない知り合い》が居るかもしれない。これから、戦うことになるのかもしれない』
「いや、まぁ……平気じゃないけど、やつらが手段を選ばないことくらい、わかっていたし、いづれ、こうなる運命だったのかもな」
そう。むしろ、もっと早くに見つかって、引き戻されていたり殺されていた可能性もあったのだ。
俺の存在を表から匿ってくれたのがあの事務所だった。
「ははっ──お前には、これも、見えたのか?」
『──』
「え?」
小声で、彼がなにか、言う。
聞き返すと少しボリュームをあげて話してくれた。
『別に助けようとしたつもりじゃないんだ』
受話器の向こうからは、色の声が優しく響いてくる。
もっと、聞いていたい。
妙に安心する。
このまま切りたくない。
「──色、あの……」
俺もなにか言おうとした。
言いたかった。
こんなときなのに、つい、少しでも会話していたいと思ってしまう。
なにか、なにか、言わないと──
心配するなよ、とか帰ったら食べたいものはあるかとか、俺は平気だからとか、お前は平気なのかとか。けれど、何が適切なのかわからない。
『俺の心、あるじゃないかって言った。お前だけが』
通話が、切れる。
心の奥で、声が反響する。
「そんなこと、当たり前だろ……」
言えなかった言葉を、心のなかで繰り返す。
心は作品のネタでも予知の道具でもない。
疑われて、避けられて、身勝手に晒しものにされて良いものじゃなかった。
かつて家族が彼を売った。
――わたしにさわらないで。
それが、彼の母親からの最後の言葉だったというのを、聞いたことがある。絆だなんだのといっても、そんなの、無いときは無い。
けど、それを誰かに『間違ってる』なんてことも無責任に言わないで欲しかった。
心が──彼自身の心の証明が道具としてだけ見なされ、疑うことしかしない他人の手に渡ったと言うことだ。知るか知らないかじゃない。
家族が疑って行動した、それで充分だ。
親や友人、社会、それらから否定される世界にだけ存在できる心が──確かに存在する心が、俺には、分かる。
だから……もう一度言うよ。
「色──俺たちは人間だ」
2021/9/192:42
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