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Skeletal structure
Skeletal structures(カゲロウ)
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ドアから次々やじ馬が外へとなだれ込んでいく。
大分人が減ったと思ったが、まだまだ何人か残っていたらしい。
人ごみの中に、ふと、見慣れた顔をみつけた。
「あ――――」
一度、気付いてしまったら、もう逃れられない。
捕らわれたように、視線にくぎ付けになる。
すぐ後ろで、界瀬たちが、撃たれた人や周囲の聞き込みをしているのがわかる。それらはやがて全て背景のように溶けて、遠くに行ってしまった。
「久しぶりね。色」
抑揚のない声で、彼女が言う。
昔はよく、飾り気の無い服と、白衣姿だったのだけど、今は
血のような真っ赤なドレスを着た、細身の女。
やけにでかでかとした、緑色の石のネックレスを提げていた。
「はい。お久しぶりです」
「あれから、好きな人出来た?」
信じられない程、厚かましいでは到底済まないような、言葉を、
それを奪って来た相手が、
「好きな物は出来た? また、『未来に連れて行ってね』」
開いた口が塞がらない、というのはこういう気持ちなのだろう。
よく、そんなあり得ない異常すぎる台詞を言えるものだと、逆に驚いてしまう。心を奪った。未来と呼んで、勝手にばら撒き、捨てた。
その後の俺がどうなるかも知らないで。
「どうやったら未来に行けるのか、どうやったらあなたみたいになれるのか、挑戦が尽きない!」
とっくに古くなった過去を、自分で描けないものを、未来と呼んでいるだけということに彼女が気づくことはない。
自分の意思を持っていないからなんでも目新しく見えるんですよ、と、俺が教えてあげることも無いだろう。大人になった今、俺はそれに気付いている。
未来というものがなんなのかという定義すらも出来ていない、ただの駄々をこねる馬鹿なのだということも。
「まだ、ラコはあったんですね」
「朝倉会が、あるのよ」
「そうですか」
彼女たちは、本来は研究者でもなんでもない。実態は、以前薬を調査したときに見つけている。ある毒薬を製造していた、黒魔術系カルト宗教傘下の研究所職員。
未だに旧式のパソコンを使っている独裁国家と通じている、自称研究者。
そんな世界から来ればそりゃ、そもそもが、なんだって未来だろう。
(2022年7月20日5時19分‐2022年7月21日20時45分)
「未来は、周囲が変わらないと生まれませんよ」
政治がよくなって、技術も増えて、健康問題や外問題も改善して、人口も安定して、そういうのを、
「ただ向かったところで、そこには何もない。
既に、『今居る大人が』未来の為に率先して動かないと、これから先、時間だけ過ぎても何にも生まれることが無いでしょう」
山手拓は、ある意味一番、直接的に未来を目指した。
変わらない世界や、表向きの政策の裏で、だんだんと条件から外された一部の人々を圧迫するようになっていた政治。
事なかれ主義を貫きながら未来だけ貰おうとする厚かましい社会の構成を、彼なりに変えようとした。
一体、どれだけの他の人が、直接何かを変えるべく動いていただろうか。
ただ奪い取り、見ているだけの彼女よりもずっと、未来を創ろうと、目指そうとしていたようにも思える。
「そう? でも、興味は尽きない。使った感じがしないものは駄目ね、どんどん使ってしまう」
「だから、撃たれたんでしょう?」
彼女はまるで小馬鹿にするように吹き出した。
「あれは、政治家じゃなくて、警察官。なんの関係も無いのよ」
「だと、いいですね」
クスッと意味ありげに笑って、『彼女』は人ごみに消えていく。
「じゃあね。私も、巡査のお見舞いに行ってくる」
「…………」
彼がしたことが、これからどんな意味を持つのか、それが未来にとって良いのか、悪いのかは俺にはわからない。
だけど、一つだけわかる。
このままじゃ、今見えているものすら無くなるのだということ。
それが、目の前に近づいてきていること。
今の自分は、その危機感にありながら、
そして何より自分自身の内側からも感覚受容器官が壊れていく危機にありながら、奪われるもの、壊されるものの中、こうやってささやかな事件を追いかけるしか出来ないでいる。
――――いつか何かが変わるような、そんなものと出会えるかもしれないと思っていた。
だけど、あの人たちは馬鹿みたいな研究にまだ予算を割くつもりで居るし、このままいけばもっと悲惨な開発をするだろう。
事件はこの先も相変わらず続くだけ。
それを知ってから俺は毎日のように葛藤し続け、毎日のように思考し続けた。
(目の前のものを片付け続けていて、それでいいのか?)
(片付けても、片付けても、ゴミが散らかっていくだけだ。やつらの開発の息の根を絶つまで、ずっと――――)
(目の前の誰かを、見捨てられて、それでいいのか?)
だけどもうそんな問答する場合じゃないんだ。
俺は、このままじゃ、それすらできなくなる。
それにやっと気付けたのは、吐く回数が頻繁になってきたあの頃から。
根元を断たないと、何にも変わらない。
目の前だけ見続けて、ある日いきなり死んでしまったら、それこそはっしーたちは、悲しむだろうな。
「おや、色様」
長い白髭を生やした老人が呼ぶ。
「こちらにおいででしたか……」
ぞろぞろと、その仲間たちが集まってきた。
「あぁ」
着物姿の白い髭の怖そうな老人、優しそうな髪の薄い老人、中年くらいのスーツの男性……
「お仲間様は、今日は」
「居るよ。今、たぶん聞き込みに行ってる」
「さようでございますか。先程の、警察官が撃たれた件でございますね」
「うん。俺にも、見えていたけど、どうにもできなかったよ」
「そういう事も、ございます。ああいったものは、標的を変えたところで、また同じ事件が起こるものでございます故、それが本日になってしまった、というだけなのです」
「大人になられましたねぇ」
彼が微笑むと、人の良さそうな笑い皺が深く刻まれる。
「……まぁ、ね」
いつもなら避けている彼らに囲まれていると、なぜなのか、急に懐かしくなった。祖父繋がりの古い団体のようだが、実態は俺にもわからない。
しきたりだとかなんとか、堅苦しいので、事務所の方が落ち着くのだけれど、よく『戻らないか』と誘いに来る。
「貴方達は、何をされてるんですか」
ホホホ、と大きく笑って、彼らは答えた。
「飲み会ですよ。こんなときではありますが、だからこそ、飲み食いして発散せねばなりません。ささ、どうです。近況報告でも」
そういえば、まだテーブルは片付いて居ない。
半数くらい居なくなってるけど、飲み会はまだ続いているらしい。
黙って酒を注ぐ人たちもちらほら居た。
「さぁ、さぁ」
と、薦められるままに背中を押される。
「我々はいつも影法師のような、目立たぬ存在故、ときには太陽自身にもなっらねばやってられませぬ。でしょう? 藍鶴色様」
少し、逡巡する。
「えぇ」
だいきなり振り払うのもなんだという気がするので、とりあえず頷いた。
「事情があって、直接うかがうことは出来ないでいるのですが―――――いい機会ですし。俺も、あなたたちに聞いてみたいことがある。皋(さつき)りくさん」
「聞いてみたいこと?」
「あの日、影法師の―――――ジンを名乗る人が、彼女を殺した日のことを」
(2022年7月21日20時45分)
「その名前を聞くのも久しいですね。ジンよりも前に
カゲロウという響きそのものを聞くのは、
地方紙に載っていた、小学生が作家デビューするというものが、最初でしょうか。私も名前くらいは存じていました」
まさか私どもからしたら年端もいかないような子が、『陽炎』という本を出していた事など、今の子たちは知らないでしょう。
当時は相当な話題になったのです。
まぁ、あの頃自体が、芸人が、だの、小学生がだの、そういった、話題性で引っ張るようなものが多かったのですけれど。
「今は、榎宮と名乗る人物と組んで、何やらたくらんでいるようですが……
どちらも、急に現れましたからねぇ……最初は、ただ、そういった話題だけでしたのに」
酒が注がれる。
「どこから……お話するのがよろしいでしょうかね」
(2022年7月29日19時30分加筆)
大分人が減ったと思ったが、まだまだ何人か残っていたらしい。
人ごみの中に、ふと、見慣れた顔をみつけた。
「あ――――」
一度、気付いてしまったら、もう逃れられない。
捕らわれたように、視線にくぎ付けになる。
すぐ後ろで、界瀬たちが、撃たれた人や周囲の聞き込みをしているのがわかる。それらはやがて全て背景のように溶けて、遠くに行ってしまった。
「久しぶりね。色」
抑揚のない声で、彼女が言う。
昔はよく、飾り気の無い服と、白衣姿だったのだけど、今は
血のような真っ赤なドレスを着た、細身の女。
やけにでかでかとした、緑色の石のネックレスを提げていた。
「はい。お久しぶりです」
「あれから、好きな人出来た?」
信じられない程、厚かましいでは到底済まないような、言葉を、
それを奪って来た相手が、
「好きな物は出来た? また、『未来に連れて行ってね』」
開いた口が塞がらない、というのはこういう気持ちなのだろう。
よく、そんなあり得ない異常すぎる台詞を言えるものだと、逆に驚いてしまう。心を奪った。未来と呼んで、勝手にばら撒き、捨てた。
その後の俺がどうなるかも知らないで。
「どうやったら未来に行けるのか、どうやったらあなたみたいになれるのか、挑戦が尽きない!」
とっくに古くなった過去を、自分で描けないものを、未来と呼んでいるだけということに彼女が気づくことはない。
自分の意思を持っていないからなんでも目新しく見えるんですよ、と、俺が教えてあげることも無いだろう。大人になった今、俺はそれに気付いている。
未来というものがなんなのかという定義すらも出来ていない、ただの駄々をこねる馬鹿なのだということも。
「まだ、ラコはあったんですね」
「朝倉会が、あるのよ」
「そうですか」
彼女たちは、本来は研究者でもなんでもない。実態は、以前薬を調査したときに見つけている。ある毒薬を製造していた、黒魔術系カルト宗教傘下の研究所職員。
未だに旧式のパソコンを使っている独裁国家と通じている、自称研究者。
そんな世界から来ればそりゃ、そもそもが、なんだって未来だろう。
(2022年7月20日5時19分‐2022年7月21日20時45分)
「未来は、周囲が変わらないと生まれませんよ」
政治がよくなって、技術も増えて、健康問題や外問題も改善して、人口も安定して、そういうのを、
「ただ向かったところで、そこには何もない。
既に、『今居る大人が』未来の為に率先して動かないと、これから先、時間だけ過ぎても何にも生まれることが無いでしょう」
山手拓は、ある意味一番、直接的に未来を目指した。
変わらない世界や、表向きの政策の裏で、だんだんと条件から外された一部の人々を圧迫するようになっていた政治。
事なかれ主義を貫きながら未来だけ貰おうとする厚かましい社会の構成を、彼なりに変えようとした。
一体、どれだけの他の人が、直接何かを変えるべく動いていただろうか。
ただ奪い取り、見ているだけの彼女よりもずっと、未来を創ろうと、目指そうとしていたようにも思える。
「そう? でも、興味は尽きない。使った感じがしないものは駄目ね、どんどん使ってしまう」
「だから、撃たれたんでしょう?」
彼女はまるで小馬鹿にするように吹き出した。
「あれは、政治家じゃなくて、警察官。なんの関係も無いのよ」
「だと、いいですね」
クスッと意味ありげに笑って、『彼女』は人ごみに消えていく。
「じゃあね。私も、巡査のお見舞いに行ってくる」
「…………」
彼がしたことが、これからどんな意味を持つのか、それが未来にとって良いのか、悪いのかは俺にはわからない。
だけど、一つだけわかる。
このままじゃ、今見えているものすら無くなるのだということ。
それが、目の前に近づいてきていること。
今の自分は、その危機感にありながら、
そして何より自分自身の内側からも感覚受容器官が壊れていく危機にありながら、奪われるもの、壊されるものの中、こうやってささやかな事件を追いかけるしか出来ないでいる。
――――いつか何かが変わるような、そんなものと出会えるかもしれないと思っていた。
だけど、あの人たちは馬鹿みたいな研究にまだ予算を割くつもりで居るし、このままいけばもっと悲惨な開発をするだろう。
事件はこの先も相変わらず続くだけ。
それを知ってから俺は毎日のように葛藤し続け、毎日のように思考し続けた。
(目の前のものを片付け続けていて、それでいいのか?)
(片付けても、片付けても、ゴミが散らかっていくだけだ。やつらの開発の息の根を絶つまで、ずっと――――)
(目の前の誰かを、見捨てられて、それでいいのか?)
だけどもうそんな問答する場合じゃないんだ。
俺は、このままじゃ、それすらできなくなる。
それにやっと気付けたのは、吐く回数が頻繁になってきたあの頃から。
根元を断たないと、何にも変わらない。
目の前だけ見続けて、ある日いきなり死んでしまったら、それこそはっしーたちは、悲しむだろうな。
「おや、色様」
長い白髭を生やした老人が呼ぶ。
「こちらにおいででしたか……」
ぞろぞろと、その仲間たちが集まってきた。
「あぁ」
着物姿の白い髭の怖そうな老人、優しそうな髪の薄い老人、中年くらいのスーツの男性……
「お仲間様は、今日は」
「居るよ。今、たぶん聞き込みに行ってる」
「さようでございますか。先程の、警察官が撃たれた件でございますね」
「うん。俺にも、見えていたけど、どうにもできなかったよ」
「そういう事も、ございます。ああいったものは、標的を変えたところで、また同じ事件が起こるものでございます故、それが本日になってしまった、というだけなのです」
「大人になられましたねぇ」
彼が微笑むと、人の良さそうな笑い皺が深く刻まれる。
「……まぁ、ね」
いつもなら避けている彼らに囲まれていると、なぜなのか、急に懐かしくなった。祖父繋がりの古い団体のようだが、実態は俺にもわからない。
しきたりだとかなんとか、堅苦しいので、事務所の方が落ち着くのだけれど、よく『戻らないか』と誘いに来る。
「貴方達は、何をされてるんですか」
ホホホ、と大きく笑って、彼らは答えた。
「飲み会ですよ。こんなときではありますが、だからこそ、飲み食いして発散せねばなりません。ささ、どうです。近況報告でも」
そういえば、まだテーブルは片付いて居ない。
半数くらい居なくなってるけど、飲み会はまだ続いているらしい。
黙って酒を注ぐ人たちもちらほら居た。
「さぁ、さぁ」
と、薦められるままに背中を押される。
「我々はいつも影法師のような、目立たぬ存在故、ときには太陽自身にもなっらねばやってられませぬ。でしょう? 藍鶴色様」
少し、逡巡する。
「えぇ」
だいきなり振り払うのもなんだという気がするので、とりあえず頷いた。
「事情があって、直接うかがうことは出来ないでいるのですが―――――いい機会ですし。俺も、あなたたちに聞いてみたいことがある。皋(さつき)りくさん」
「聞いてみたいこと?」
「あの日、影法師の―――――ジンを名乗る人が、彼女を殺した日のことを」
(2022年7月21日20時45分)
「その名前を聞くのも久しいですね。ジンよりも前に
カゲロウという響きそのものを聞くのは、
地方紙に載っていた、小学生が作家デビューするというものが、最初でしょうか。私も名前くらいは存じていました」
まさか私どもからしたら年端もいかないような子が、『陽炎』という本を出していた事など、今の子たちは知らないでしょう。
当時は相当な話題になったのです。
まぁ、あの頃自体が、芸人が、だの、小学生がだの、そういった、話題性で引っ張るようなものが多かったのですけれど。
「今は、榎宮と名乗る人物と組んで、何やらたくらんでいるようですが……
どちらも、急に現れましたからねぇ……最初は、ただ、そういった話題だけでしたのに」
酒が注がれる。
「どこから……お話するのがよろしいでしょうかね」
(2022年7月29日19時30分加筆)
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