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Commentary
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目の前の窓から、空を見る。
今日もいつもと変わらない穏やかな風景が存在していて、隙間から湿気を含んだ風が流れてくる。
いい天気で、少し涼しくて、なんていい日だろう。
「まるで……本当に、遊びに来たみたいだな」
別にそんな事はないかもしれないけど。少し嬉しい。
ぼんやりと、何気なく、海の様子が気になってデッキに足が向かっていった。
そこでは佳ノ宮まつりがデッキの椅子に腰かけながら、かつて交流のあった組織に属している知人の電話を受けていたところだった。
その背中越しに、二人のやりとりが断片的に聴こえてくる。
『彼って、あの01/39番でしょう? その……統一研究所のやってた人体実験の』
「そう、01/39。さんくー。みんなの『保険』だね。今朝、連絡があった」
物心すらつかないまま、心の所在を探し続ける子どもが、
何処かに必ずある筈の心を探しているさまを――10年以上にも渡って、真相を隠したままコソコソと監視している。真面目な誰かさんが聞けばブチ切れてもおかしくない話が事実である可能性が高いという。
「あちらさんが『出生の秘密』。頑なに言いたくないわけなんだよ。前々から、やけに拘ると思っていたんだ」
まつりは以前から、自分や夏々都の『出生の秘密』を探していた。
最初は何気なく気になっていただけだったが、調べれば調べる程不可解な事実が明るみになって来ている。
――それに、かつて屋敷で古い蔵書を見たときにも覚えた違和感。
そこには古い歴史が伝記あるいは物語調で纏められていたのだが、
ある生体に関する『出生の秘密』が機密の一つであるという言葉が繰り返しあった。屋敷の一部で、人体研究が行われていた事などはまつりも実感として知っており、それらの統一研究はフィクションでは無く、実際に在ったのではないか、と考えが強まっていたところに、一連の事件が起こっている。
「それに、資料も見たしね」
『そう、そちらの担当は私じゃないけど、彼や貴方が監視されているのは事実――依頼人からすれば手のかからない話よね。あちらさんからすれば、貴方たち二人を監視して居れば、安全係数が保てるんだから』
彼女の発言は、何処か含みがある。
監視には気付いて居なかったのかどうか、聞きたいのだ、とすると、
実感としてはそれが監視なのか、監視とはなんなのかが分かっていなかった、が正しいだろうと、まつりは考えたようだ。
「ずっと話している限り、彼はなんとなく、何かを感じてはいたみたいだけど……たぶん、衛星がいつも飛んでいたのも知っているし。ただ、その辺に普通に飛行機とか謎の物体があったって、物心がつかない子どもは何にも思わない」
年端もいかない子どもに対して、突然空を見させて、『ピピ―、とか言いながら規則的に光る星』を指さして、これは衛星と言うもので、なんて話してもそれが何か理解するのかは状況によるだろう。
「例えば、あれはUFOって言われたら、そう思っちゃうと思う」
それが『何』かという語彙を持って居なかっただけだ。
そう、まつりは答えている。
『それは、そうね……間違いじゃないわ。未確認な飛行物体には変わりないし。周囲も隠すだろうし 』
全く気が付いていないわけでは無いからこそ、人目を気にする消極的な性格になってしまったというのは、その通りなのだけれど、
『だけどその監視にしたって、そろそろ解いてもいいんじゃないかって話もあったらしいのよ……』
「え? そうなの」
『昔幹部に聞いた事がある。中学生になるにあたって、監視は解かれるはずだったんだから。……それなのに、どうしてああなっていたのか』
「こっちが知りたいよ。どうせ企業のくだらないプライドでしょう」
『さぁ、どうかしら。 とりあえず、あの研究所のときもその辺含むゴタゴタで私達が駆り出されたってわけで……正直取り越し苦労なんじゃないかって思ったけど、まさかたった一日であそこまで真相に肉薄してるとは思わなかったわ』
「組織のくだらないゴタゴタに付き合う時間を一分一秒でも減らしたいだけだよん」
まつりが悲し気に笑う。
それを、やや悲しに彼女も応える。
「だからね、などなどにも……」
『納豆だか、なとなとだか知らないけど……』
大変よね。自分の言っている事を信じて貰えないってのは。
搾取を見て見ぬふりしかないってのは、と。
「あー!納豆って言った!いーけないんだー!」
シリアスになりかけたとき、まつりが驚いた顔で批難する。
『えっ、な、なに。納豆のなにか問題!?』
釣られて彼女も驚く。
『だ、だってそんな悪意とかないでしょ』
「駄目―!!表現検閲に引っかかります。『なとなとなっとう』っていう別作品も存在するので」
ちなみに実話。納豆の話をすると別作品になる。
『そうなの!? あ、納豆が駄目ならずんだ……』
「ずんだホライずんを観てないんですか。やつらは擬態型の敵ですよ」
思わず低い声になってしまった夏々都がどこからか戻って来る。
まつりの横から飲み物を手渡しながら歩いて来た。
あの人達、豆で争ってるのか……
2023年5月17日15時02分加筆
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※保険:日本の隣国――ある国からの企業、組織間の妨害を、
企業の外の民間人などを盾にすることで保険とし、
集団的に逃れるというもの
今日もいつもと変わらない穏やかな風景が存在していて、隙間から湿気を含んだ風が流れてくる。
いい天気で、少し涼しくて、なんていい日だろう。
「まるで……本当に、遊びに来たみたいだな」
別にそんな事はないかもしれないけど。少し嬉しい。
ぼんやりと、何気なく、海の様子が気になってデッキに足が向かっていった。
そこでは佳ノ宮まつりがデッキの椅子に腰かけながら、かつて交流のあった組織に属している知人の電話を受けていたところだった。
その背中越しに、二人のやりとりが断片的に聴こえてくる。
『彼って、あの01/39番でしょう? その……統一研究所のやってた人体実験の』
「そう、01/39。さんくー。みんなの『保険』だね。今朝、連絡があった」
物心すらつかないまま、心の所在を探し続ける子どもが、
何処かに必ずある筈の心を探しているさまを――10年以上にも渡って、真相を隠したままコソコソと監視している。真面目な誰かさんが聞けばブチ切れてもおかしくない話が事実である可能性が高いという。
「あちらさんが『出生の秘密』。頑なに言いたくないわけなんだよ。前々から、やけに拘ると思っていたんだ」
まつりは以前から、自分や夏々都の『出生の秘密』を探していた。
最初は何気なく気になっていただけだったが、調べれば調べる程不可解な事実が明るみになって来ている。
――それに、かつて屋敷で古い蔵書を見たときにも覚えた違和感。
そこには古い歴史が伝記あるいは物語調で纏められていたのだが、
ある生体に関する『出生の秘密』が機密の一つであるという言葉が繰り返しあった。屋敷の一部で、人体研究が行われていた事などはまつりも実感として知っており、それらの統一研究はフィクションでは無く、実際に在ったのではないか、と考えが強まっていたところに、一連の事件が起こっている。
「それに、資料も見たしね」
『そう、そちらの担当は私じゃないけど、彼や貴方が監視されているのは事実――依頼人からすれば手のかからない話よね。あちらさんからすれば、貴方たち二人を監視して居れば、安全係数が保てるんだから』
彼女の発言は、何処か含みがある。
監視には気付いて居なかったのかどうか、聞きたいのだ、とすると、
実感としてはそれが監視なのか、監視とはなんなのかが分かっていなかった、が正しいだろうと、まつりは考えたようだ。
「ずっと話している限り、彼はなんとなく、何かを感じてはいたみたいだけど……たぶん、衛星がいつも飛んでいたのも知っているし。ただ、その辺に普通に飛行機とか謎の物体があったって、物心がつかない子どもは何にも思わない」
年端もいかない子どもに対して、突然空を見させて、『ピピ―、とか言いながら規則的に光る星』を指さして、これは衛星と言うもので、なんて話してもそれが何か理解するのかは状況によるだろう。
「例えば、あれはUFOって言われたら、そう思っちゃうと思う」
それが『何』かという語彙を持って居なかっただけだ。
そう、まつりは答えている。
『それは、そうね……間違いじゃないわ。未確認な飛行物体には変わりないし。周囲も隠すだろうし 』
全く気が付いていないわけでは無いからこそ、人目を気にする消極的な性格になってしまったというのは、その通りなのだけれど、
『だけどその監視にしたって、そろそろ解いてもいいんじゃないかって話もあったらしいのよ……』
「え? そうなの」
『昔幹部に聞いた事がある。中学生になるにあたって、監視は解かれるはずだったんだから。……それなのに、どうしてああなっていたのか』
「こっちが知りたいよ。どうせ企業のくだらないプライドでしょう」
『さぁ、どうかしら。 とりあえず、あの研究所のときもその辺含むゴタゴタで私達が駆り出されたってわけで……正直取り越し苦労なんじゃないかって思ったけど、まさかたった一日であそこまで真相に肉薄してるとは思わなかったわ』
「組織のくだらないゴタゴタに付き合う時間を一分一秒でも減らしたいだけだよん」
まつりが悲し気に笑う。
それを、やや悲しに彼女も応える。
「だからね、などなどにも……」
『納豆だか、なとなとだか知らないけど……』
大変よね。自分の言っている事を信じて貰えないってのは。
搾取を見て見ぬふりしかないってのは、と。
「あー!納豆って言った!いーけないんだー!」
シリアスになりかけたとき、まつりが驚いた顔で批難する。
『えっ、な、なに。納豆のなにか問題!?』
釣られて彼女も驚く。
『だ、だってそんな悪意とかないでしょ』
「駄目―!!表現検閲に引っかかります。『なとなとなっとう』っていう別作品も存在するので」
ちなみに実話。納豆の話をすると別作品になる。
『そうなの!? あ、納豆が駄目ならずんだ……』
「ずんだホライずんを観てないんですか。やつらは擬態型の敵ですよ」
思わず低い声になってしまった夏々都がどこからか戻って来る。
まつりの横から飲み物を手渡しながら歩いて来た。
あの人達、豆で争ってるのか……
2023年5月17日15時02分加筆
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※保険:日本の隣国――ある国からの企業、組織間の妨害を、
企業の外の民間人などを盾にすることで保険とし、
集団的に逃れるというもの
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