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出会いと雪解け
暴走武装王女・2
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ナギサは、サーラの心配を余所に、一試合一試合集中し、確実に勝利を収めていた。最初は王女の趣味程度だと侮っていた参加者たちは、完全に強さを見誤り、あっさりと負けていったのである。
ナギサの快進撃に一番喜んでいるのはカズエラで、その様子はナギサからも見えており、調子を良くしたナギサは益々上り詰めて行き、ついには決勝にまでやって来たのである。
しかし、決勝の相手を見た瞬間、ナギサはサーッと顔を青くした。先程、サーラと話していたグレンが相手だったからだ。
「まさか、決勝でナギサ王女と当たるとは。ナギサ王女が剣術の稽古をしているのは伺っておりましたが、ここまでの実力とは思いませんでした。とは言え王女ですので、もう少し大人しくしていただけると、サーラも仕事が楽になるでしょうが」
真面目ゆえ、ナギサに物怖じせず物申すグレンに、ナギサは気持ちだけでも負けないようにと口角を上げた。
「私一人に護衛を割くより良いかと思っているのだけれど、それでは不満かしら?」
「民を思う気持ちは素晴らしいですが、だからと言って我々の仕事はなくなりませんので、そこはご理解いただけると助かりますね」
グレンは正論で返すと、ナギサはムッと眉を寄せた。
その様子を見て、グレンは更に言葉を続ける。
「そう、すぐに表情に出しますな。王族としてはもちろん、戦いにおいても、表情に出したら負けですよ。ナギサ王女がここまで上がって来た実力は認めております故、貴女を王女としてでなく、一人の剣術士として迎え撃ちますので、本気で来てください」
グレンが剣を抜き、構えながら言うと、ナギサも剣を抜いた。
「もちろんよ!ここで勝って、師匠から一人前って認めてもらうって決めたんだから!」
ナギサはそう叫ぶと、地を蹴って、一気に詰め寄った。剣を横一閃に薙ぐが、グレンは無駄のないステップで軽く後ろへと避ける。
ナギサはすぐにもう一歩踏み込み、薙いだ剣を引き戻すようにして斬りかかる。が、グレンはそれを剣で受け止めた。
ものすごい金属音が響いた後、力が拮抗し合う。お互いが力を込め、ギギッと嫌な音を響くが、ナギサはふと不敵な笑みをもらした。
次の瞬間、ナギサは受け止めていた剣を軽く角度を変え、相手の剣にスライドさせる形で下へと潜り込んだ。
グレンの懐へと飛び込む形になったナギサの攻撃を、ギリギリで避けたグレンだったが、頬に切り傷が入っていた。
「くっ。まさか、ナギサ王女がここまでやるとは思っておりませんでした」
グレンは手の甲でぐっと頬の傷を拭うと、楽しそうに笑った。
「さすが、あの男の弟子ですね。久々に手応えのある戦いで、燃えてきました」
「ふふっ。そうこなくっちゃ!私はお父様もできなかった優勝をするって決めたんだもの!」
ナギサも笑みを浮かべると、再び踏み込んだ。
しかし、ナギサの剣が薙ぎ払われる前に、グレンの剣が阻止する。再び拮抗状態に持ち込まれたが、今度は先にグレンが動いた。
そのまま手首を回し、ナギサの剣を巻き込んで彼女の手首を捻らせた。
「なっ!?」
驚いたナギサが思わず手首を庇おうとしたが、すぐにグレンが逆方向に剣を薙ぐ。
その力で、手から剣が離れそうになったナギサだったが、グレンが剣をナギサの手から離すのが目的だと気付き、慌てて剣を引き寄せた。
激しくお互いの剣が当たり、摩擦で火花を散らせながらも、ナギサは力ずくで剣を引き抜くと、その勢いでステップを踏みながら回転をし、遠心力を活用しながらグレンへと斬り込んだ。
グレンも無駄のない動きでナギサの剣を防ぐ。しかし、ナギサはそれを見越したように口角を上げた。今度はそのお互いの剣がぶつかり合っている部分を軸にするように、上へとステップを踏むと宙へと舞った。
グレンの驚いた表情を宙で見つつ、ナギサは態勢を整えながら着地する勢いで剣を振り下ろした。
次の瞬間、今までにないぐらいの激しい金属音がした後、会場が静まった。
そして、小さく乾いた音が一つ響いた。
「え……?」
ナギサが思わず声を上げたのと、グレンが目を開いたのは同時だった。
ナギサが勢いよく振り下ろした剣の力は強く、グレンの剣を叩き落とし、乾いた音をたてて地面へと落ちた。
しかし同時に、ナギサの剣も折れ、数メートル先の地面に落ちていた。
それには、ナギサとグレンが驚きのあまり固まり、会場もざわざわとし始めた。
「長年、この大会見てきたけど、これは今までにないんじゃないかな?この場合、どうなるの?」
カズエラは苦笑いを浮かべながら、隣にいたセイズに問う。
しかし、セイズも首を傾げ、すぐにキメミの元へと急いだ。
「女王陛下、どうなさいますか?」
「わ、私がこういうのは疎いのを知っているでしょう?大会ルールはどうなっているのですか?」
突然振られたキメミが、おろおろしながら答える。
既に大会規定表で確認を取っていたキレアがやって来て、該当ページを指差しながら伝えた。
「こちらを確認しますと、敗北条件は戦闘不可、ということになっております。とは言え、相手に大きな傷をつけるのは禁止にしていますので、“剣を奪う”というのが基本的な勝敗条件になっております」
キレアの言葉に、キメミは眉を顰める。
「つまり、この場合、剣を奪われたネーピア隊官の負け、ということになるのでしょうが、ナギサの剣も使い物にならないので、引き分けということになりますね」
「それは、大会初になりますね。しかも決勝なので、今回は優勝者が二人になってしまいますね」
カズエラが苦笑いを浮かべながらキメミに言うと、キメミも苦笑いを浮かべつつ、「うーん、困りましたね」と頭を抱えた。
しかし、突然グレンの笑い声が、会場に響いた。
「ふふっ……はははははっ!さすがです、ナギサ王女。随分と強くなられましたね」
グレンは笑いながら、ナギサに手を差し伸べた。ナギサもその手を取り、お互い満足そうに笑いながら、握手をした。
「お褒めの言葉ありがとう。でも、あなたに勝てなかったのは悔しいわ」
「そのようなことはありません。私が剣を落としたのは私自身の力不足ですが、あなたの剣が折れたのはナギサ王女の力が強かったからでしょう。ですから、今回はナギサ王女の勝ちで良いと思うのです」
その言葉に、ナギサは驚いた表情でグレンを見たが、それよりも早くグレンはキメミたちに振り向くと、声を張り上げた。
「というわけですので、ナギサ王女の優勝を所望します。私の人生で、ここまでの豪傑はなかなかいません」
その言葉に、会場がしんと静まる。
最初はぽかんとしていたナギサも、すぐにぐっと表情を引き締める。師匠であるカズエラに認められるために出た大会であったが、まさか軍一と謳われるグレンにも認められたことが、内心とても嬉しかったようで、ナギサはすぐに美しいカーテシーを見せた。
ナギサの快進撃に一番喜んでいるのはカズエラで、その様子はナギサからも見えており、調子を良くしたナギサは益々上り詰めて行き、ついには決勝にまでやって来たのである。
しかし、決勝の相手を見た瞬間、ナギサはサーッと顔を青くした。先程、サーラと話していたグレンが相手だったからだ。
「まさか、決勝でナギサ王女と当たるとは。ナギサ王女が剣術の稽古をしているのは伺っておりましたが、ここまでの実力とは思いませんでした。とは言え王女ですので、もう少し大人しくしていただけると、サーラも仕事が楽になるでしょうが」
真面目ゆえ、ナギサに物怖じせず物申すグレンに、ナギサは気持ちだけでも負けないようにと口角を上げた。
「私一人に護衛を割くより良いかと思っているのだけれど、それでは不満かしら?」
「民を思う気持ちは素晴らしいですが、だからと言って我々の仕事はなくなりませんので、そこはご理解いただけると助かりますね」
グレンは正論で返すと、ナギサはムッと眉を寄せた。
その様子を見て、グレンは更に言葉を続ける。
「そう、すぐに表情に出しますな。王族としてはもちろん、戦いにおいても、表情に出したら負けですよ。ナギサ王女がここまで上がって来た実力は認めております故、貴女を王女としてでなく、一人の剣術士として迎え撃ちますので、本気で来てください」
グレンが剣を抜き、構えながら言うと、ナギサも剣を抜いた。
「もちろんよ!ここで勝って、師匠から一人前って認めてもらうって決めたんだから!」
ナギサはそう叫ぶと、地を蹴って、一気に詰め寄った。剣を横一閃に薙ぐが、グレンは無駄のないステップで軽く後ろへと避ける。
ナギサはすぐにもう一歩踏み込み、薙いだ剣を引き戻すようにして斬りかかる。が、グレンはそれを剣で受け止めた。
ものすごい金属音が響いた後、力が拮抗し合う。お互いが力を込め、ギギッと嫌な音を響くが、ナギサはふと不敵な笑みをもらした。
次の瞬間、ナギサは受け止めていた剣を軽く角度を変え、相手の剣にスライドさせる形で下へと潜り込んだ。
グレンの懐へと飛び込む形になったナギサの攻撃を、ギリギリで避けたグレンだったが、頬に切り傷が入っていた。
「くっ。まさか、ナギサ王女がここまでやるとは思っておりませんでした」
グレンは手の甲でぐっと頬の傷を拭うと、楽しそうに笑った。
「さすが、あの男の弟子ですね。久々に手応えのある戦いで、燃えてきました」
「ふふっ。そうこなくっちゃ!私はお父様もできなかった優勝をするって決めたんだもの!」
ナギサも笑みを浮かべると、再び踏み込んだ。
しかし、ナギサの剣が薙ぎ払われる前に、グレンの剣が阻止する。再び拮抗状態に持ち込まれたが、今度は先にグレンが動いた。
そのまま手首を回し、ナギサの剣を巻き込んで彼女の手首を捻らせた。
「なっ!?」
驚いたナギサが思わず手首を庇おうとしたが、すぐにグレンが逆方向に剣を薙ぐ。
その力で、手から剣が離れそうになったナギサだったが、グレンが剣をナギサの手から離すのが目的だと気付き、慌てて剣を引き寄せた。
激しくお互いの剣が当たり、摩擦で火花を散らせながらも、ナギサは力ずくで剣を引き抜くと、その勢いでステップを踏みながら回転をし、遠心力を活用しながらグレンへと斬り込んだ。
グレンも無駄のない動きでナギサの剣を防ぐ。しかし、ナギサはそれを見越したように口角を上げた。今度はそのお互いの剣がぶつかり合っている部分を軸にするように、上へとステップを踏むと宙へと舞った。
グレンの驚いた表情を宙で見つつ、ナギサは態勢を整えながら着地する勢いで剣を振り下ろした。
次の瞬間、今までにないぐらいの激しい金属音がした後、会場が静まった。
そして、小さく乾いた音が一つ響いた。
「え……?」
ナギサが思わず声を上げたのと、グレンが目を開いたのは同時だった。
ナギサが勢いよく振り下ろした剣の力は強く、グレンの剣を叩き落とし、乾いた音をたてて地面へと落ちた。
しかし同時に、ナギサの剣も折れ、数メートル先の地面に落ちていた。
それには、ナギサとグレンが驚きのあまり固まり、会場もざわざわとし始めた。
「長年、この大会見てきたけど、これは今までにないんじゃないかな?この場合、どうなるの?」
カズエラは苦笑いを浮かべながら、隣にいたセイズに問う。
しかし、セイズも首を傾げ、すぐにキメミの元へと急いだ。
「女王陛下、どうなさいますか?」
「わ、私がこういうのは疎いのを知っているでしょう?大会ルールはどうなっているのですか?」
突然振られたキメミが、おろおろしながら答える。
既に大会規定表で確認を取っていたキレアがやって来て、該当ページを指差しながら伝えた。
「こちらを確認しますと、敗北条件は戦闘不可、ということになっております。とは言え、相手に大きな傷をつけるのは禁止にしていますので、“剣を奪う”というのが基本的な勝敗条件になっております」
キレアの言葉に、キメミは眉を顰める。
「つまり、この場合、剣を奪われたネーピア隊官の負け、ということになるのでしょうが、ナギサの剣も使い物にならないので、引き分けということになりますね」
「それは、大会初になりますね。しかも決勝なので、今回は優勝者が二人になってしまいますね」
カズエラが苦笑いを浮かべながらキメミに言うと、キメミも苦笑いを浮かべつつ、「うーん、困りましたね」と頭を抱えた。
しかし、突然グレンの笑い声が、会場に響いた。
「ふふっ……はははははっ!さすがです、ナギサ王女。随分と強くなられましたね」
グレンは笑いながら、ナギサに手を差し伸べた。ナギサもその手を取り、お互い満足そうに笑いながら、握手をした。
「お褒めの言葉ありがとう。でも、あなたに勝てなかったのは悔しいわ」
「そのようなことはありません。私が剣を落としたのは私自身の力不足ですが、あなたの剣が折れたのはナギサ王女の力が強かったからでしょう。ですから、今回はナギサ王女の勝ちで良いと思うのです」
その言葉に、ナギサは驚いた表情でグレンを見たが、それよりも早くグレンはキメミたちに振り向くと、声を張り上げた。
「というわけですので、ナギサ王女の優勝を所望します。私の人生で、ここまでの豪傑はなかなかいません」
その言葉に、会場がしんと静まる。
最初はぽかんとしていたナギサも、すぐにぐっと表情を引き締める。師匠であるカズエラに認められるために出た大会であったが、まさか軍一と謳われるグレンにも認められたことが、内心とても嬉しかったようで、ナギサはすぐに美しいカーテシーを見せた。
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