5 / 15
5
しおりを挟む
男は、デートの日をその週の日曜に指定した。本当は行きたくはなかったが、行かなかったらその後が怖い。という事で、渋々純花は待ち合わせの場所に行った。
行ったはいいのだが。
「……以外です」
男と落ち合って暫くの無言の後、つい零してしまった。無意識のうちにこぼれ出た言葉に男が多少怪訝そうな顔をする。
「何が」
男に尋ねられて内心で思っていたことを口に出してしまったことに気付いた純花は目を泳がせる。動揺していたため、更に口を滑らせる。
「いや、その、ゲームセンターとかに行くのかな、と思っていたので」
そう。純花はてっきりゲームセンターやバッティングセンター等々の場所に行くと思っていたのだ。しかし実際はというと、なんと、街中でウィンドーショッピングをしているのである。すると、男は心底嫌そうな顔をする。
「はぁ?何で好き好んであんな喧しいところに行かなきゃならん」
「ええ⁈ゲームセンター、嫌いなんですか⁈」
男の言葉に大げさなほど驚く純花。その反応に気分を害したらしい。男はむっとした表情を見せる。
「なんだその反応。何?そのなりでゲーセン好きな訳?」
「そんなわけ無いじゃないですか!というかむしろ、不良の生息地がゲームセンターなんじゃないですか?」
ついついムキになって言い返してしまう。ふんっとそっぽを向いて見せるが、隣から漂ってくる冷気に気付き恐る恐る横目で様子を窺う。男は薄ら寒い笑顔を浮かべていた。
今度は何が琴線に障ってしまったのでしょう⁈でもでも、不良の生息地ってゲームセンターというのは間違ってはいませんよね⁈
悪い癖を自覚していても、純花にはボーダーというものが分からないのである。つまり、改善のしようもない訳で。そうしてまた墓穴を掘る。今回は一体どこが。冷や汗をたらしながら必死で考える純花。その答えはにっこりと笑った男からもたらされた。
「つまり、俺を、不良だと?」
どっからどう見てもそうじゃないですか!!
内心そう叫びながらも、それを言ったら確実にマズい気がすると口をつぐむ。そこの判断は正しく出来たらしい。野生の小動物の勘、侮るべからず。愛想笑いをしながらそれとなく距離を取ろうと試みる。
しかし、そこで黙って距離を取らせる男ではない。自然に、それでいてがっしりと純花の腕を掴んで逃走を阻止すると、耳元に顔を寄せ、囁く。
「随分と心外な事、言ってくれんじゃねぇか?」
笑顔で囁いているため、傍から見てると恋人同士のじゃれあいに見えるのだろう。周りの人がチラチラと見ては頬を染める者もいる。なにせ、側だけ見ていれば極上の男なのである。だがしかし。純花は気付いていた。これは恋人同士のじゃれあいでは断じてない。なぜなら男からは凄まじいまでの冷気と怒気を感じるからだ。
「……っごめんなさいもう言いません何でもしますから許してくださいぃ!!」
一も二もなく、白旗を上げる純花。刹那、男から冷気も怒気も消える。恐る恐る様子を窺うと、男はお気に入りの玩具を与えられた子供の様な顔をしていた。
わわっ、これ、マズいかもしれないですね。
そう思い乾いた笑みを浮かべる純花。今日もまた勢いよくその背筋に冷や汗が流れる。ニッコリと笑った男は楽し気に言う。
「お前ってホントに面白いな。ちょっとつつくと、凄まじい勢いで墓穴掘りまくるんだからな」
けど?と男は続ける。いっそあっぱれと言いたくなるほどに楽し気だ。
「言質はとったし?付き合ってもらおうか?」
純花には、拒否権は、ない。唯々、虚ろな笑みを浮かべるだけである。
暫くの後、純花は思った。
普通、男と女のショッピングというのは、男性が女性の着せ替え人形になるのではないのでしょうか?
え、なぜこんな事を思っているのかですって?そんなの決まっているではないですか。
……大上さんの着せ替え人形に私がなったからですよ。
幾つかの店を回り、純花はぐったりしながらため息をついた。その間、男はというとまだ飽きないのか、嬉々として服を見ている。それも女物。
もう一度ため息をついた純花の頭の上に、何かが降ってきた。
「ほへぇ⁈」
奇声を上げて降ってきた布を頭から取ろうと格闘するが、なかなか取れず四苦八苦する。
「何してんだお前」
呆れ声がさらに降って来て視界が開ける。目の前に赤い布…服を持った男が可哀想なものを見る目をして立っていた。むっとしたものの、ここで何か言えば倍どころではない感じで毒舌が返ってくるのは分かり切っている。唇を尖らせるだけにとどめ、男の手元を見る。
「それは?」
「ん?ああ、着てみろ」
そういって手渡されたのは。
「ポンチョ?」
可愛らしいデザインのフード付きポンチョだった。男に視線で促され、渋々袖を通す。
「及第点だな」
言葉とは裏腹に満足気な男。様子を見に来た店員も感嘆のため息を漏らした。純花は鏡で自分を映して、唸った。男が選んだという点は多少どころ、非常に気に入らないし自分で言うのもなんだが、似合っている気がする。
「やっぱ、お前は濃い色が似あうわ。てことで、パステルカラーは禁止な」
上機嫌な男の言葉に純花はそっぽを向く。今日の純花の服装はパステルカラーで固められている。当てこすっているようにしか思えない。若干拗ねながらも、気になったことを何気なく聞く。
「でも、何で赤なんですか?」
「俺の好み」
話題を変えるだけのつもりだった。それなのに、サラリと返された言葉に、純花が固まる。してやったりと言わんばかりの男を見て、その言葉の意味を理解した時。かっと顔が火が付いたかのように熱くなった。店員も、まぁ、と言って目元を染めつつ、微笑ましそうな視線を向けてくる。
「なななななな、なんてこと、言うんですかっ!!」
顔を真っ赤に染めて純花が叫ぶ。にやりと笑った男はすっと距離を詰めると耳元に囁く。
「いいじゃねぇか。似合ってんぜ?」
限界だった。ぼふんと頭から湯気を出した純花は、一瞬硬直した後。くるりと踵を返して脱兎のごとく駆けだした。後ろで笑い声がしたような気がしたが振り返る事無く走り続けた。
行ったはいいのだが。
「……以外です」
男と落ち合って暫くの無言の後、つい零してしまった。無意識のうちにこぼれ出た言葉に男が多少怪訝そうな顔をする。
「何が」
男に尋ねられて内心で思っていたことを口に出してしまったことに気付いた純花は目を泳がせる。動揺していたため、更に口を滑らせる。
「いや、その、ゲームセンターとかに行くのかな、と思っていたので」
そう。純花はてっきりゲームセンターやバッティングセンター等々の場所に行くと思っていたのだ。しかし実際はというと、なんと、街中でウィンドーショッピングをしているのである。すると、男は心底嫌そうな顔をする。
「はぁ?何で好き好んであんな喧しいところに行かなきゃならん」
「ええ⁈ゲームセンター、嫌いなんですか⁈」
男の言葉に大げさなほど驚く純花。その反応に気分を害したらしい。男はむっとした表情を見せる。
「なんだその反応。何?そのなりでゲーセン好きな訳?」
「そんなわけ無いじゃないですか!というかむしろ、不良の生息地がゲームセンターなんじゃないですか?」
ついついムキになって言い返してしまう。ふんっとそっぽを向いて見せるが、隣から漂ってくる冷気に気付き恐る恐る横目で様子を窺う。男は薄ら寒い笑顔を浮かべていた。
今度は何が琴線に障ってしまったのでしょう⁈でもでも、不良の生息地ってゲームセンターというのは間違ってはいませんよね⁈
悪い癖を自覚していても、純花にはボーダーというものが分からないのである。つまり、改善のしようもない訳で。そうしてまた墓穴を掘る。今回は一体どこが。冷や汗をたらしながら必死で考える純花。その答えはにっこりと笑った男からもたらされた。
「つまり、俺を、不良だと?」
どっからどう見てもそうじゃないですか!!
内心そう叫びながらも、それを言ったら確実にマズい気がすると口をつぐむ。そこの判断は正しく出来たらしい。野生の小動物の勘、侮るべからず。愛想笑いをしながらそれとなく距離を取ろうと試みる。
しかし、そこで黙って距離を取らせる男ではない。自然に、それでいてがっしりと純花の腕を掴んで逃走を阻止すると、耳元に顔を寄せ、囁く。
「随分と心外な事、言ってくれんじゃねぇか?」
笑顔で囁いているため、傍から見てると恋人同士のじゃれあいに見えるのだろう。周りの人がチラチラと見ては頬を染める者もいる。なにせ、側だけ見ていれば極上の男なのである。だがしかし。純花は気付いていた。これは恋人同士のじゃれあいでは断じてない。なぜなら男からは凄まじいまでの冷気と怒気を感じるからだ。
「……っごめんなさいもう言いません何でもしますから許してくださいぃ!!」
一も二もなく、白旗を上げる純花。刹那、男から冷気も怒気も消える。恐る恐る様子を窺うと、男はお気に入りの玩具を与えられた子供の様な顔をしていた。
わわっ、これ、マズいかもしれないですね。
そう思い乾いた笑みを浮かべる純花。今日もまた勢いよくその背筋に冷や汗が流れる。ニッコリと笑った男は楽し気に言う。
「お前ってホントに面白いな。ちょっとつつくと、凄まじい勢いで墓穴掘りまくるんだからな」
けど?と男は続ける。いっそあっぱれと言いたくなるほどに楽し気だ。
「言質はとったし?付き合ってもらおうか?」
純花には、拒否権は、ない。唯々、虚ろな笑みを浮かべるだけである。
暫くの後、純花は思った。
普通、男と女のショッピングというのは、男性が女性の着せ替え人形になるのではないのでしょうか?
え、なぜこんな事を思っているのかですって?そんなの決まっているではないですか。
……大上さんの着せ替え人形に私がなったからですよ。
幾つかの店を回り、純花はぐったりしながらため息をついた。その間、男はというとまだ飽きないのか、嬉々として服を見ている。それも女物。
もう一度ため息をついた純花の頭の上に、何かが降ってきた。
「ほへぇ⁈」
奇声を上げて降ってきた布を頭から取ろうと格闘するが、なかなか取れず四苦八苦する。
「何してんだお前」
呆れ声がさらに降って来て視界が開ける。目の前に赤い布…服を持った男が可哀想なものを見る目をして立っていた。むっとしたものの、ここで何か言えば倍どころではない感じで毒舌が返ってくるのは分かり切っている。唇を尖らせるだけにとどめ、男の手元を見る。
「それは?」
「ん?ああ、着てみろ」
そういって手渡されたのは。
「ポンチョ?」
可愛らしいデザインのフード付きポンチョだった。男に視線で促され、渋々袖を通す。
「及第点だな」
言葉とは裏腹に満足気な男。様子を見に来た店員も感嘆のため息を漏らした。純花は鏡で自分を映して、唸った。男が選んだという点は多少どころ、非常に気に入らないし自分で言うのもなんだが、似合っている気がする。
「やっぱ、お前は濃い色が似あうわ。てことで、パステルカラーは禁止な」
上機嫌な男の言葉に純花はそっぽを向く。今日の純花の服装はパステルカラーで固められている。当てこすっているようにしか思えない。若干拗ねながらも、気になったことを何気なく聞く。
「でも、何で赤なんですか?」
「俺の好み」
話題を変えるだけのつもりだった。それなのに、サラリと返された言葉に、純花が固まる。してやったりと言わんばかりの男を見て、その言葉の意味を理解した時。かっと顔が火が付いたかのように熱くなった。店員も、まぁ、と言って目元を染めつつ、微笑ましそうな視線を向けてくる。
「なななななな、なんてこと、言うんですかっ!!」
顔を真っ赤に染めて純花が叫ぶ。にやりと笑った男はすっと距離を詰めると耳元に囁く。
「いいじゃねぇか。似合ってんぜ?」
限界だった。ぼふんと頭から湯気を出した純花は、一瞬硬直した後。くるりと踵を返して脱兎のごとく駆けだした。後ろで笑い声がしたような気がしたが振り返る事無く走り続けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる