ラッキーアイテムはオオカミさん

神凪凛薇

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 男は、デートの日をその週の日曜に指定した。本当は行きたくはなかったが、行かなかったらその後が怖い。という事で、渋々純花は待ち合わせの場所に行った。

 行ったはいいのだが。

 「……以外です」

 男と落ち合って暫くの無言の後、つい零してしまった。無意識のうちにこぼれ出た言葉に男が多少怪訝そうな顔をする。

 「何が」

 男に尋ねられて内心で思っていたことを口に出してしまったことに気付いた純花は目を泳がせる。動揺していたため、更に口を滑らせる。

 「いや、その、ゲームセンターとかに行くのかな、と思っていたので」

 そう。純花はてっきりゲームセンターやバッティングセンター等々の場所に行くと思っていたのだ。しかし実際はというと、なんと、街中でウィンドーショッピングをしているのである。すると、男は心底嫌そうな顔をする。

 「はぁ?何で好き好んであんな喧しいところに行かなきゃならん」
 「ええ⁈ゲームセンター、嫌いなんですか⁈」

 男の言葉に大げさなほど驚く純花。その反応に気分を害したらしい。男はむっとした表情を見せる。

 「なんだその反応。何?そのなりでゲーセン好きな訳?」
 「そんなわけ無いじゃないですか!というかむしろ、不良の生息地がゲームセンターなんじゃないですか?」

 ついついムキになって言い返してしまう。ふんっとそっぽを向いて見せるが、隣から漂ってくる冷気に気付き恐る恐る横目で様子を窺う。男は薄ら寒い笑顔を浮かべていた。

 今度は何が琴線に障ってしまったのでしょう⁈でもでも、不良の生息地ってゲームセンターというのは間違ってはいませんよね⁈

 悪い癖を自覚していても、純花にはボーダーというものが分からないのである。つまり、改善のしようもない訳で。そうしてまた墓穴を掘る。今回は一体どこが。冷や汗をたらしながら必死で考える純花。その答えはにっこりと笑った男からもたらされた。

 「つまり、俺を、不良だと?」

 どっからどう見てもそうじゃないですか!!

 内心そう叫びながらも、それを言ったら確実にマズい気がすると口をつぐむ。そこの判断は正しく出来たらしい。野生の小動物の勘、侮るべからず。愛想笑いをしながらそれとなく距離を取ろうと試みる。

 しかし、そこで黙って距離を取らせる男ではない。自然に、それでいてがっしりと純花の腕を掴んで逃走を阻止すると、耳元に顔を寄せ、囁く。

 「随分と心外な事、言ってくれんじゃねぇか?」

 笑顔で囁いているため、傍から見てると恋人同士のじゃれあいに見えるのだろう。周りの人がチラチラと見ては頬を染める者もいる。なにせ、側だけ見ていれば極上の男なのである。だがしかし。純花は気付いていた。これは恋人同士のじゃれあいでは断じてない。なぜなら男からは凄まじいまでの冷気と怒気を感じるからだ。

 「……っごめんなさいもう言いません何でもしますから許してくださいぃ!!」

 一も二もなく、白旗を上げる純花。刹那、男から冷気も怒気も消える。恐る恐る様子を窺うと、男はお気に入りの玩具を与えられた子供の様な顔をしていた。

 わわっ、これ、マズいかもしれないですね。

 そう思い乾いた笑みを浮かべる純花。今日もまた勢いよくその背筋に冷や汗が流れる。ニッコリと笑った男は楽し気に言う。

 「お前ってホントに面白いな。ちょっとつつくと、凄まじい勢いで墓穴掘りまくるんだからな」

 けど?と男は続ける。いっそあっぱれと言いたくなるほどに楽し気だ。

 「言質はとったし?付き合ってもらおうか?」

 純花には、拒否権は、ない。唯々、虚ろな笑みを浮かべるだけである。







 暫くの後、純花は思った。

 普通、男と女のショッピングというのは、男性が女性の着せ替え人形になるのではないのでしょうか?

 え、なぜこんな事を思っているのかですって?そんなの決まっているではないですか。

 ……大上さんの着せ替え人形に私がなったからですよ。

 幾つかの店を回り、純花はぐったりしながらため息をついた。その間、男はというとまだ飽きないのか、嬉々として服を見ている。それも女物。

 もう一度ため息をついた純花の頭の上に、何かが降ってきた。

 「ほへぇ⁈」

 奇声を上げて降ってきた布を頭から取ろうと格闘するが、なかなか取れず四苦八苦する。

 「何してんだお前」

 呆れ声がさらに降って来て視界が開ける。目の前に赤い布…服を持った男が可哀想なものを見る目をして立っていた。むっとしたものの、ここで何か言えば倍どころではない感じで毒舌が返ってくるのは分かり切っている。唇を尖らせるだけにとどめ、男の手元を見る。

 「それは?」
 「ん?ああ、着てみろ」

 そういって手渡されたのは。

 「ポンチョ?」

 可愛らしいデザインのフード付きポンチョだった。男に視線で促され、渋々袖を通す。

 「及第点だな」

 言葉とは裏腹に満足気な男。様子を見に来た店員も感嘆のため息を漏らした。純花は鏡で自分を映して、唸った。男が選んだという点は多少どころ、非常に気に入らないし自分で言うのもなんだが、似合っている気がする。

 「やっぱ、お前は濃い色が似あうわ。てことで、パステルカラーは禁止な」

 上機嫌な男の言葉に純花はそっぽを向く。今日の純花の服装はパステルカラーで固められている。当てこすっているようにしか思えない。若干拗ねながらも、気になったことを何気なく聞く。

 「でも、何で赤なんですか?」
 「俺の好み」

 話題を変えるだけのつもりだった。それなのに、サラリと返された言葉に、純花が固まる。してやったりと言わんばかりの男を見て、その言葉の意味を理解した時。かっと顔が火が付いたかのように熱くなった。店員も、まぁ、と言って目元を染めつつ、微笑ましそうな視線を向けてくる。

 「なななななな、なんてこと、言うんですかっ!!」

 顔を真っ赤に染めて純花が叫ぶ。にやりと笑った男はすっと距離を詰めると耳元に囁く。

 「いいじゃねぇか。似合ってんぜ?」

 限界だった。ぼふんと頭から湯気を出した純花は、一瞬硬直した後。くるりと踵を返して脱兎のごとく駆けだした。後ろで笑い声がしたような気がしたが振り返る事無く走り続けた。


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