色とりどりの世界を覗き見る ―三題噺―

神凪凛薇

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とある王妃の方程式「苺>恋人」 ―「朝」「苺」「穏やかな城」―

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テーマは「朝」「苺」「穏やかな城」

天然お惚けイチゴ大好き女の子と、べたぼれ王様。
イチゴにつられて付き合い、イチゴにつられて王妃になった。気付いたら王妃になっててアレ?っとなりつつ、ま、いっかってイチゴ頬張ってニコニコの女の子を書きたかっただけの短編。(途中、文字数の関係もあって尻切れトンボになったのはご容赦ください。。)
なお、イチゴ>>>>>>>王様の模様。

**********

 とある所に、とても平和な国があったそうな。代々国王を務める一族は、争いを嫌う優しい気質の者が生まれ、民たちは幸せに暮らしていたとか。
 そんな国のとある代の王様と王妃様のお話。




 王様はふっと目を覚ました。ジワリと明るくなってくる部屋で、のそのそと起き上がると伸びをして固まった体をほぐした。

 「よし。今日も張り切っていくか」

 一言呟いて意識を切り替える。ベッドから降りてさっとカーテンを開けると、朝日に照らされて美しい庭園が姿を現す……事はなかった。そこにあったのは、巨大な農園。美しい白亜の城に、農園。実に謎な光景で、他国の王たちはこの光景を見る度に苦笑するとかしないとか。しかし、その農園を見つめる王様は真剣そのもの。じっくりと観察し、とある一角は特に注意深く観察して、担当の者達がせっせと手入れしている事を確認してホッと息をつく。

 「後で労っておかないとな」

 満足そうな顔で頷いた王様は、枕元の呼び鈴を鳴らした。にこやかな笑顔を浮かべた女官たちが即座に現れ、朝の挨拶をしつつ着替えを差し出してくる。同時に入ってきた侍従たちが今日の予定を確認していくのを真剣に聞きながら着替える。最後にしゅるりとタイを占めて頷く。そのままチラリと女官を一瞥して。

 「で、あの子は?」

 そわそわと落ち着きなく訪ねてくる王様に、女官たちが微笑ましそうにクスクス笑う。

 「昨日は遅くまで何事かされていたようですわ。もしかしたらまだお休みかも」
 「そ、そうか。なら起こしに行こうかな。そうすれば一緒に朝食も取れるし」

 目を輝かせた王様はいそいそと歩き出す。顔を見合わせた女官と侍従は、ニコリと笑ってその背中に声を掛ける。

 「そうおっしゃると思い、朝食はお嬢様のお部屋にご用意しております。ごゆるりとお過ごしくださいませ」

 扉を開けた瞬間に掛けられた台詞に、王様がかちん、と固まった。ギギギ、と油が切れた人形の様に振り返った王様の目元は微かに赤く染まっていて。そのままそそくさと逃げ出した。普段は威厳ある名君として執務を行う王様の可愛らしい姿に、女官たちは笑みを堪えられなかった。

 この王国の王様たちは、代々王妃を溺愛する事でも有名であり、おしどり夫婦ばかりの王家として他国にも知られている。例にもれず、当代の王様も意中の令嬢を溺愛中だった。紆余曲折を経て、どうにかこうにか口説き落として婚約者として数年。虎視眈々と婚儀を上げる機会を伺っているのだが、見事な連敗数を記録中な残念な王様でもある。

 「とは言え、歴代の方々皆さまそうですよね」

 チラリと庭園ならぬ農園を一瞥した侍従が苦笑する。食べ物を愛する王妃、または極稀に現れる農作業を愛する王妃たちへのご機嫌伺いとして、見事な庭園が見事な農園と化して久しい今。当代もまた、いささか変わった未来の王妃の為に農園に手が入れられている。婚儀はいつになるのやら、と楽しそうに女官が頬に手を当てたその瞬間。

 凄まじい悲鳴が王城の穏やかな雰囲気を壊した。それも、令嬢の可愛らしい悲鳴ではない。王様の、野太い悲鳴である。

 流石に何事か、と飛び上がった女官と侍従が慌てて駆け付けたその先では。見事に頽れた王様の姿が。そしてその手には小さな紙片が握られていて。

 ――珍しい苺を求めて旅に出ます。探さないで下さいませ。

 ああ、やらかした。女官と侍従は天を仰ぐ。

 そう、当代王の婚約者たる令嬢は、恋人の王の数百倍、いや、数千倍、苺を愛する少女で。争いも諍いもない穏やかな王城に嫌気がさして……ではなく、通常の苺だけが供される毎日に嫌気がさして家出をするような、斜め上に行動力が凄まじい令嬢だったのだ。





 「ああ、愛しの苺たち!この艶、この色、香しき香り!ここは天国なのでしょうか!」

 一方その頃。あたり一面を苺で覆われた栽培園で、可愛らしい少女が胸の前で手を組みウットリと目を輝かせていた。優雅な仕草でそっと膝をつき、白魚の様な繊細な指を伸ばして、たわわに実った赤い宝石を丁寧に摘まみ上げ、ゆっくりと小さな愛らしい口に含んで……ビビビ、と体を震わせた。

 満面の笑みで咀嚼していると、優しい声が降りかかる。

 「ご満足いただけましたか?」
 「ええ!勿論ですわ!この素晴らしき天国に満足しない者などおりましょうか!」
 「天国……ええ、まぁ、そうですね」

 白衣を着た優し気な相貌をした初老の男性が苦笑する。赤い宝石が文字通り宝石であれば、ある意味天国かも知れない。しかし、どれほど取り繕おうとも、結局は苺である。それを前にして天国だと思うのはお嬢様だけかと、と内心で冷静に突っ込みつつも口に出さない。大人である。やれやれと内心苦笑しつつ、手を差し伸べて少女に立つように促すと、少々不満げな顔をされる。どうやらお嬢様はまだ天国にいたいようだ。しかし、相手は未来の王妃である。万一があってはならないし、その白い肌が赤く焼けるのも問題である。ふむ、と一瞬思案した男性は、ニコリと笑って少女に持ちかける。

 「所の料理人達が腕によりをかけた苺フルコースを用意しているとか……」
 「ぜひ案内してくださいませ!」

 見事な変わり身である。寧ろ男性を置いていかんばかりにいそいそと室内に戻っていく少女に、男性は吹き出した。込み上げてくる笑いをかみ殺し、男性――苺栽培研究所の副所長は少女の背を追いかけた。





 張り切った料理人達の渾身の苺フルコース。デザートまでしっかり堪能して、少女はほう、と息をついた。その背景にはふわふわと花が散っているようも見える。そんな状態であっても、全ての所作が美しく完璧なのは、流石というべきか。副所長は苦笑してすっと時計に視線を向けた。さて、そろそろか?と思った次の瞬間。

 「ああ!見つけたぞ!」
 「あら?どうなさいましたの?」

 凄まじい音がして、食堂の扉が開く。息せき切って現れたのは勿論王様。凄まじい形相で詰め寄る王様に対し……きょとん顏の少女。きまり悪げな顔も、嫌そうな顔でもなく、単純に不思議そうな顔。置手紙の事は全くもって忘れているらしい。遂に捨てられたのか!とまで思いつめていた王様がガクリと膝をつく。そうだ、そうだった。すべてが苺に振られている少女は全き天然であった。

 深読みしすぎだ自分、と項垂れたままの王様を不思議そうな顔で見つめる少女。凄まじい温度差である。流石に不憫そうな顔をした副所長が少女に声を掛ける。

 「おやおや、お迎えが来たようですね。お帰りくださいませ」
 「まぁ。貴方が知らせたの?」
 「申し訳ございません。しかし、護衛もなくいらっしゃいましたので、万一の為に城に知らせをと思いまして」
 「あら、ごめんなさいね。そこまで気が回っていなかったわ」

 どうやら苺のために欲求不満で気が回っていなかったようだ。流石に苦笑気味の副所長にいらぬ苦労を掛けた事に気付いたのだろう。少女は申し訳なさそうな顔で謝罪する。どこまでも苺中心な彼女だが、それを差し置けば周りに良く気が配れる良き王妃見習いなのである。いえいえ、と頭を振る副所長の前で、ガバリと顔を上げた王様がそそくさと恋人に駆け寄り、その華奢な手を取った。

 「さあ、満足しただろう?城に帰ろう」
 「城に帰る?いいえ、まさかそんな事!」

 にこやかな笑顔での返答に、部屋の空気が凍る。恐る恐るといった感じで、王様は少女を振り仰ぎ。

 「私、ここに勤めます!こんな天国、離れる訳には行きませんわ!」

 苺が第一の彼女は、見事に王様を振ったのであった。





 その後、恋人のあんまりな発言に王様が失神したとか、なまじ能力が高いために少女を野放しにしておけず空席だった研究所の所長にすることで話がなとまったとか。

 もっと言えば、実は研究所自体が王様がこっそり立ち上げた場所で「初代所長は王妃が兼任する」という決まりを作っていたとか、契約書にバレないようにしつつきっちり記載されていたとか、サイン後に気付いた少女が絶叫したとか、裏で王様がしてやったりと笑っていそいそと婚儀の準備を進めたとか。

 なんとも間抜けな攻防戦、今回は王様の完全勝利。そんな流れがあったとかなかったとか。

 なにはともあれ、苺を愛する王妃と振り回される王様は今も仲良く国を治めているそうな。
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