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44 『女子高生怪盗ミナコ・10』
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ミナコ転生
44 『女子高生怪盗ミナコ・10』
新潟空港に着き、拾った車で某海岸に着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。
「こんな所まで連れてきて、何をしようと言うのよ?」
沈黙服従の催眠術が解かれて辻貴子議員が、意外に小さな声で聞いてきた。
一つには庶民党党首としてのメンツ。もう一つは、女子高生の姿に戻り、すっかり少女らしい姿になったミナミとミナコへの油断からであった。
「お母さん、何を言ってるのよ、海を見たいと言ったのはお母さんじゃないの」
「そう、わたしはいつも庶民という海の真ん中に居ります。わたしは、この海の景色が一番すきなんです!」
「そうよ、前の選挙でも言ってたじゃない。だから、今日は、こうして海を見にきたんでしょ?」
「あなた達は、いったい何者なのよ?」
「それは、これからここに来るオジサンたちに聞いた方がいいわ」
「オジサン?」
まるで、辻貴子の言葉が合図であったかのように、一人の気のよさそうなオッサンが、短くなったタバコを吹かしながら、近寄ってきた。
「このあたりに、タバコ屋はないかい。これ喫ったら、タバコがきれちまうもんでね」
「オジサン、この土地の人じゃないのね、言葉に訛りがないわ」
「ああ、仕事で来てるだけなんでね」
「タバコ屋は、近くにはないわ」
「そうか、それは残念だったなあ」
そう言うと、オッサンは、ちびたタバコを砂浜に落として踏み消した。
すると、岩場の陰から五人の男が駆けてきて、あっと言う間に三人に猿ぐつわをし、二人で一人を担ぎながら、岩場に隠してあったゴムボートに乗せると、沖を目指して走り出した。
その間、ミナミとミナコは怯えたフリをして、辻貴子は分けが分からず、満足に声も出せずに、沖の母船に連れて行かれた。
船にはさらに八人の男達がいるのが分かったが、ことごとく外国語だ。
三人は、猿ぐつわだけを解かれて、手足を縛られたまま、狭い船倉に放り込まれた。
「なんですか、あなた達は、こんな事をして、ただじゃ済まないわよ。わたしは……」
「その先は言わない方がよろしゅうございますよ、辻さんの身分が分かったら、あのオジサマたち、きっと辻さんを海に捨ててしまいますわよ」
ミナミが、辻をたしなめ、ミナコは手足の縛めを自分で解くと、二人で小さく伸びをした。
うう……ん
「辻のオバサン、否定したい気持ちはよく分かるんだけど、これは、辻さんが一番否定したい現実なの。それ分かっていただくために、新潟まで来て頂いたの。猿ぐつわを解いたのは分かる?」
「女性に、度を超した乱暴はしないからでしょ!」
フフフ
アハハ
「猿ぐつわしたままだと、船酔いしてゲロ吐いちゃったら窒息しかねないでしょ。生きて連れて帰らなきゃ意味無いから。もちろん庶民党の辻さんなんて、大物連れて行く気はないから、ばれたら命はありません。ミナミさん、用意はいい?」
「よろしくてよ、この向こうがキャビン。男が一人眠ってるから、その人は、そのまま眠らせて。わたくしは、先に船内を歩き回って、残りのオジサマたちに正しいシバリ方を教えてあげます」
「OK、あたしは、右舷の方から、落ち合うのはブリッジということで」
「じゃ……」
バシュ
一瞬閃光が走り、薄い鉄の壁に人がやっと通れるくらいの穴が開いた。
セイ!
ライオンさんの火の輪くぐりのようにキャビンに躍り出ると、ミナコは一瞬のうちにオッサンを縛り上げ、猿ぐつわをかけた。
「ゲロ吐くんじゃないわよ、窒息するから……ムリムリ、甲賀流の緊縛術、あんたには解けないわよ」
そして、右舷側に回り、出くわしたオッサン五人を、同様に縛り上げた。六人目はデッキにいた。海岸で声をかけてきたオッサンだ。
「タバコ喫うなら、日本製にしな。煙の臭いでバレてたよ」
「乗員全員確保、異常なし」
ブリッジで声をかけあって終了。そのあと新潟の海保に無線連絡をして、引き取りにきてもらうことにした。
―― ち、あれだけのことをやったのに完全に無かったことにされちゃったね ――
―― でも、痛手は相当のものよ。庶民党は、立ち上がれないでしょうし、来年あたりには内閣が直接動くわ。事の顛末は、ぼかし抜きで、またJRのCMの間に挟んでおくわ ――
―― じゃ、また機会があったら、いっしょに仕事しよう ――
これだけの内容を読心術を使って交わしたあと、渋谷の駅のホームの上りと下りに別れていった二人であった。
44 『女子高生怪盗ミナコ・10』
新潟空港に着き、拾った車で某海岸に着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。
「こんな所まで連れてきて、何をしようと言うのよ?」
沈黙服従の催眠術が解かれて辻貴子議員が、意外に小さな声で聞いてきた。
一つには庶民党党首としてのメンツ。もう一つは、女子高生の姿に戻り、すっかり少女らしい姿になったミナミとミナコへの油断からであった。
「お母さん、何を言ってるのよ、海を見たいと言ったのはお母さんじゃないの」
「そう、わたしはいつも庶民という海の真ん中に居ります。わたしは、この海の景色が一番すきなんです!」
「そうよ、前の選挙でも言ってたじゃない。だから、今日は、こうして海を見にきたんでしょ?」
「あなた達は、いったい何者なのよ?」
「それは、これからここに来るオジサンたちに聞いた方がいいわ」
「オジサン?」
まるで、辻貴子の言葉が合図であったかのように、一人の気のよさそうなオッサンが、短くなったタバコを吹かしながら、近寄ってきた。
「このあたりに、タバコ屋はないかい。これ喫ったら、タバコがきれちまうもんでね」
「オジサン、この土地の人じゃないのね、言葉に訛りがないわ」
「ああ、仕事で来てるだけなんでね」
「タバコ屋は、近くにはないわ」
「そうか、それは残念だったなあ」
そう言うと、オッサンは、ちびたタバコを砂浜に落として踏み消した。
すると、岩場の陰から五人の男が駆けてきて、あっと言う間に三人に猿ぐつわをし、二人で一人を担ぎながら、岩場に隠してあったゴムボートに乗せると、沖を目指して走り出した。
その間、ミナミとミナコは怯えたフリをして、辻貴子は分けが分からず、満足に声も出せずに、沖の母船に連れて行かれた。
船にはさらに八人の男達がいるのが分かったが、ことごとく外国語だ。
三人は、猿ぐつわだけを解かれて、手足を縛られたまま、狭い船倉に放り込まれた。
「なんですか、あなた達は、こんな事をして、ただじゃ済まないわよ。わたしは……」
「その先は言わない方がよろしゅうございますよ、辻さんの身分が分かったら、あのオジサマたち、きっと辻さんを海に捨ててしまいますわよ」
ミナミが、辻をたしなめ、ミナコは手足の縛めを自分で解くと、二人で小さく伸びをした。
うう……ん
「辻のオバサン、否定したい気持ちはよく分かるんだけど、これは、辻さんが一番否定したい現実なの。それ分かっていただくために、新潟まで来て頂いたの。猿ぐつわを解いたのは分かる?」
「女性に、度を超した乱暴はしないからでしょ!」
フフフ
アハハ
「猿ぐつわしたままだと、船酔いしてゲロ吐いちゃったら窒息しかねないでしょ。生きて連れて帰らなきゃ意味無いから。もちろん庶民党の辻さんなんて、大物連れて行く気はないから、ばれたら命はありません。ミナミさん、用意はいい?」
「よろしくてよ、この向こうがキャビン。男が一人眠ってるから、その人は、そのまま眠らせて。わたくしは、先に船内を歩き回って、残りのオジサマたちに正しいシバリ方を教えてあげます」
「OK、あたしは、右舷の方から、落ち合うのはブリッジということで」
「じゃ……」
バシュ
一瞬閃光が走り、薄い鉄の壁に人がやっと通れるくらいの穴が開いた。
セイ!
ライオンさんの火の輪くぐりのようにキャビンに躍り出ると、ミナコは一瞬のうちにオッサンを縛り上げ、猿ぐつわをかけた。
「ゲロ吐くんじゃないわよ、窒息するから……ムリムリ、甲賀流の緊縛術、あんたには解けないわよ」
そして、右舷側に回り、出くわしたオッサン五人を、同様に縛り上げた。六人目はデッキにいた。海岸で声をかけてきたオッサンだ。
「タバコ喫うなら、日本製にしな。煙の臭いでバレてたよ」
「乗員全員確保、異常なし」
ブリッジで声をかけあって終了。そのあと新潟の海保に無線連絡をして、引き取りにきてもらうことにした。
―― ち、あれだけのことをやったのに完全に無かったことにされちゃったね ――
―― でも、痛手は相当のものよ。庶民党は、立ち上がれないでしょうし、来年あたりには内閣が直接動くわ。事の顛末は、ぼかし抜きで、またJRのCMの間に挟んでおくわ ――
―― じゃ、また機会があったら、いっしょに仕事しよう ――
これだけの内容を読心術を使って交わしたあと、渋谷の駅のホームの上りと下りに別れていった二人であった。
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