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90『ミナコ コンプリート・2・再起動』
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時かける少女
90『ミナコ コンプリート・2・再起動』
久々の心地よい目覚めだった。
長い夢を見ていたようだが、朝日の温もりを窓側の体全体で感じた時には忘れていた。
なんだか、ついさっきまで体が燃え尽きてしまいそうな熱さだったような気がしている。それが、程よく冷めたような心地よさだった。
「もう大丈夫だろう、峠は越えたようだ。食欲があるなら点滴だけじゃなくて、ヨーグルト程度なら口にしていいよ。しかし、ペニシリンの効果は絶大だね。これが間に合わなきゃ、助かる命じゃなかった」
「先生、バカな質問なんですけど……」
「なんだね?」
「わたし、いったい誰なんでしょう……ミナコらしいことは分かるんですけど」
「回復期の混乱だね。あとは面会人に聞きなさい。それが一番の薬だ。どうぞ中尉……多少混乱があります。まだ本調子でもありませんので、十分程度にしてください」
「分かりました」
懐かしい声が答えた。
「あなたは……」
「やっぱり……でも、よくなって良かった」
「とても懐かしい感じがします……」
「山野健一海軍中尉だよ。今日艦が出るんで、顔だけでも見ておこうと思って……ラッキーだった。回復した君に会えて」
「艦……出撃ですか!?」
ミナコは真剣な顔になり、起きあがろうとした。
「だめだよ、寝てなくっちゃ」
「でも……」
「出撃と言えなくもない……軍縮交渉だからね」
「軍縮交渉?」
「主力艦の保有制限。まあ、日本は率先して、主力艦の建造を武蔵で止めて、信濃は空母に、四番艦は解体した。優位に交渉できそうだけどね。アメリカが航空機の生産数制限を言い出してこなければね」
山野は、鏡を使って港の船を見せてくれた。大きな戦艦が目に付いた。
「大和だ。去年の観艦式で君も乗ったんだぜ。世界最大最強の戦艦。でも、正直二番艦の武蔵で止まってよかった。あんなものを沢山作った日には、軍事費で日本は破産だ。正直渡りに船だよ」
「戦争、やってないんですか……?」
「ああ、日露戦争からこっちはね。満鉄をアメリカとの共同経営にしたのが分岐点だったね。なんたって、アメリカのユダヤ資本からの資金提供がなきゃできない戦争だった。あの戦後処理につまづいていたら、今頃はドイツみたいに世界相手に戦争をしていたかもしれない」
「そうなんだ……」
山野は、簡単に時代の状況を説明してくれたが、自分が婚約者であることは言わなかった。ミナコが自然に思い出すのを待つことにしている。
「じゃ、時間だ。お土産はシャネルの五番かな。じゃ……」
「山野さん。わたしの名前、漢字で、どう書くんですか?」
「それも思い出せないか。こう書くんだよ」
山野は、メモ帳に『時任湊子』と書いた。
「まあ、苗字の方は何年もつか分からないけど」
「まあ(n*´ω`*n)」
「アハハ、その意味が分かれば上等。じゃ、行ってくるよ」
山野がドアの向こうに消えたとき、湊子は、夢の断片を思い出した。
わたしは……もう一人のわたしといっしょに空から落ちて燃え尽きた……どこか別の星で。その星は、銀河のカルマを司る星。わたしと、もう一人のわたしが燃え尽きることで、銀河のカルマがリセットされた。
なんだか、そこに行き着くまで、たくさんのミナコを生きてきたような気がする。
とりあえず、あるべき自分に戻れた。
やっと……湊子は、春の日差しにまどろみ始めた……。
時かける少女 完
90『ミナコ コンプリート・2・再起動』
久々の心地よい目覚めだった。
長い夢を見ていたようだが、朝日の温もりを窓側の体全体で感じた時には忘れていた。
なんだか、ついさっきまで体が燃え尽きてしまいそうな熱さだったような気がしている。それが、程よく冷めたような心地よさだった。
「もう大丈夫だろう、峠は越えたようだ。食欲があるなら点滴だけじゃなくて、ヨーグルト程度なら口にしていいよ。しかし、ペニシリンの効果は絶大だね。これが間に合わなきゃ、助かる命じゃなかった」
「先生、バカな質問なんですけど……」
「なんだね?」
「わたし、いったい誰なんでしょう……ミナコらしいことは分かるんですけど」
「回復期の混乱だね。あとは面会人に聞きなさい。それが一番の薬だ。どうぞ中尉……多少混乱があります。まだ本調子でもありませんので、十分程度にしてください」
「分かりました」
懐かしい声が答えた。
「あなたは……」
「やっぱり……でも、よくなって良かった」
「とても懐かしい感じがします……」
「山野健一海軍中尉だよ。今日艦が出るんで、顔だけでも見ておこうと思って……ラッキーだった。回復した君に会えて」
「艦……出撃ですか!?」
ミナコは真剣な顔になり、起きあがろうとした。
「だめだよ、寝てなくっちゃ」
「でも……」
「出撃と言えなくもない……軍縮交渉だからね」
「軍縮交渉?」
「主力艦の保有制限。まあ、日本は率先して、主力艦の建造を武蔵で止めて、信濃は空母に、四番艦は解体した。優位に交渉できそうだけどね。アメリカが航空機の生産数制限を言い出してこなければね」
山野は、鏡を使って港の船を見せてくれた。大きな戦艦が目に付いた。
「大和だ。去年の観艦式で君も乗ったんだぜ。世界最大最強の戦艦。でも、正直二番艦の武蔵で止まってよかった。あんなものを沢山作った日には、軍事費で日本は破産だ。正直渡りに船だよ」
「戦争、やってないんですか……?」
「ああ、日露戦争からこっちはね。満鉄をアメリカとの共同経営にしたのが分岐点だったね。なんたって、アメリカのユダヤ資本からの資金提供がなきゃできない戦争だった。あの戦後処理につまづいていたら、今頃はドイツみたいに世界相手に戦争をしていたかもしれない」
「そうなんだ……」
山野は、簡単に時代の状況を説明してくれたが、自分が婚約者であることは言わなかった。ミナコが自然に思い出すのを待つことにしている。
「じゃ、時間だ。お土産はシャネルの五番かな。じゃ……」
「山野さん。わたしの名前、漢字で、どう書くんですか?」
「それも思い出せないか。こう書くんだよ」
山野は、メモ帳に『時任湊子』と書いた。
「まあ、苗字の方は何年もつか分からないけど」
「まあ(n*´ω`*n)」
「アハハ、その意味が分かれば上等。じゃ、行ってくるよ」
山野がドアの向こうに消えたとき、湊子は、夢の断片を思い出した。
わたしは……もう一人のわたしといっしょに空から落ちて燃え尽きた……どこか別の星で。その星は、銀河のカルマを司る星。わたしと、もう一人のわたしが燃え尽きることで、銀河のカルマがリセットされた。
なんだか、そこに行き着くまで、たくさんのミナコを生きてきたような気がする。
とりあえず、あるべき自分に戻れた。
やっと……湊子は、春の日差しにまどろみ始めた……。
時かける少女 完
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