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98〈ガーディアン〉
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てんせい少女
98〈ガーディアン〉
「始まった……」
騒音の激しいオスプレイの機内でも、エリーの呟きは聞こえた。
「エリー、あなたって……」
「あたしは、愛のガーディアンよ」
「ガーディアン?」
「愛を守るために、去年から那覇中央高校にスリーパーとして潜り込んでいたの」
「あたしのため?」
「南西方面遊撃特化連隊ができたときから。K国もC国も日本は本気なんだということを知ってる。だから、いざというときには混乱を引き起こして、有利に戦おうとした」
「それが、あたしを狙うことだったの?」
「そう、愛を殺せば、連隊長の判断が鈍る」
「お父さんは、そんなことで判断を誤ったりしないわ」
「敵は、お父さんを甘く見ていた。だからフェリーの中で愛を殺すことに失敗したあとは、沖縄で派手に愛を殺すことに切り替えた。大げさな事件になれば、非難は特化連隊や政府に行くわ。それで、特化連隊や日本政府の手を縛ろうとしたの。さっきの学校前の事件、A新聞なんかは、特化連隊との関連に気づいて……むろん情報をたれ込んだのは、敵のスリーパーだけどね。政府批判のキャンペーンをやり始めた」
「わ、わけ分かんないよ」
「愛に間違われた子は、死んだわ。他にも怪我人がね。日本人は、こういう事件が起こると敵よりも、敵にそうさせたと言って政府や自衛隊を非難する。敵の狙い通りよ」
オスプレイは時間を掛けて海を渡った。おそらく内地の米軍基地を目指している。
基地にたどり着いたのは、夕方だった。あたしたちは、他の米兵と共に、基地内の宿舎に向かった。あたしとエリーに化けた女性兵士は、護衛十人ほどが付いて別の建物に入っていった。
「愛、悪いけど髪を切って染めてくれる」
そう言ったエリーは、他の女性兵士と同じようなショ-トヘアーになっていた。あたしも、アレヨアレヨというまにブラウンのショートヘアーにされてしまった。
「お母さんには、自衛隊で身柄を保護してあると言ってある。この二十四時間の間に事態は動くわ。政府がバカな判断をしなければスグにカタが付く」
「うん……」
「……気に掛かってるんだね、宇土って工作員が言ったこと」
「そんなことないよ。あたしは、お父さんとお母さんの娘だもん!」
「やっぱ、ひっかかってるんだ」
「違うってば!」
「だったら、なんで、そうムキになるの」
返す言葉が無かった。
「おいで、証明してあげよう」
エリーは、そう言って、あたしを研究室のようなところへ連れていった。
「これ、さっき切った愛の髪の毛。念のために口の中の粘膜ももらおうか」
ポカンとしてるあたしの口に、エリーは綿棒を突っこんで、あっという間にホッペの内側をこそいでいった。
「そんな、乱暴にしなくても……」
「ごめん。ついクセでね」
エリーの本性が分からなくなってきた。
「……これが愛の遺伝子。こっちがお母さんの髪の毛から取った遺伝子。ね、よく似てるでしょ」
エリーは、モニターを見ながらニマニマし、エンターキーを押した。
「ジャーン。これが結果!」
あたしとお母さんが親子である確率は99・999%と出てきた。
正直ホッとした。
ホッとしたのもつかの間、基地内にアラームが、鳴り始めた。
「中尉、C国がS諸島に侵攻しはじめました!」
若い下士官が、エリーに言った。
「愛の前では、そういう呼び方しないで!」
「すみません。軍服を着てらっしゃったので、つい……」
「この上歳なんか言ったら、軍法会議」
「ハッ!」
「……かけないで、銃殺!」
下士官は、顔色を変えてすっ飛んでいった。
「アハ、今の冗談だからね」
しかし、事態はいよいよ冗談ではない方向に進んでいった……。
98〈ガーディアン〉
「始まった……」
騒音の激しいオスプレイの機内でも、エリーの呟きは聞こえた。
「エリー、あなたって……」
「あたしは、愛のガーディアンよ」
「ガーディアン?」
「愛を守るために、去年から那覇中央高校にスリーパーとして潜り込んでいたの」
「あたしのため?」
「南西方面遊撃特化連隊ができたときから。K国もC国も日本は本気なんだということを知ってる。だから、いざというときには混乱を引き起こして、有利に戦おうとした」
「それが、あたしを狙うことだったの?」
「そう、愛を殺せば、連隊長の判断が鈍る」
「お父さんは、そんなことで判断を誤ったりしないわ」
「敵は、お父さんを甘く見ていた。だからフェリーの中で愛を殺すことに失敗したあとは、沖縄で派手に愛を殺すことに切り替えた。大げさな事件になれば、非難は特化連隊や政府に行くわ。それで、特化連隊や日本政府の手を縛ろうとしたの。さっきの学校前の事件、A新聞なんかは、特化連隊との関連に気づいて……むろん情報をたれ込んだのは、敵のスリーパーだけどね。政府批判のキャンペーンをやり始めた」
「わ、わけ分かんないよ」
「愛に間違われた子は、死んだわ。他にも怪我人がね。日本人は、こういう事件が起こると敵よりも、敵にそうさせたと言って政府や自衛隊を非難する。敵の狙い通りよ」
オスプレイは時間を掛けて海を渡った。おそらく内地の米軍基地を目指している。
基地にたどり着いたのは、夕方だった。あたしたちは、他の米兵と共に、基地内の宿舎に向かった。あたしとエリーに化けた女性兵士は、護衛十人ほどが付いて別の建物に入っていった。
「愛、悪いけど髪を切って染めてくれる」
そう言ったエリーは、他の女性兵士と同じようなショ-トヘアーになっていた。あたしも、アレヨアレヨというまにブラウンのショートヘアーにされてしまった。
「お母さんには、自衛隊で身柄を保護してあると言ってある。この二十四時間の間に事態は動くわ。政府がバカな判断をしなければスグにカタが付く」
「うん……」
「……気に掛かってるんだね、宇土って工作員が言ったこと」
「そんなことないよ。あたしは、お父さんとお母さんの娘だもん!」
「やっぱ、ひっかかってるんだ」
「違うってば!」
「だったら、なんで、そうムキになるの」
返す言葉が無かった。
「おいで、証明してあげよう」
エリーは、そう言って、あたしを研究室のようなところへ連れていった。
「これ、さっき切った愛の髪の毛。念のために口の中の粘膜ももらおうか」
ポカンとしてるあたしの口に、エリーは綿棒を突っこんで、あっという間にホッペの内側をこそいでいった。
「そんな、乱暴にしなくても……」
「ごめん。ついクセでね」
エリーの本性が分からなくなってきた。
「……これが愛の遺伝子。こっちがお母さんの髪の毛から取った遺伝子。ね、よく似てるでしょ」
エリーは、モニターを見ながらニマニマし、エンターキーを押した。
「ジャーン。これが結果!」
あたしとお母さんが親子である確率は99・999%と出てきた。
正直ホッとした。
ホッとしたのもつかの間、基地内にアラームが、鳴り始めた。
「中尉、C国がS諸島に侵攻しはじめました!」
若い下士官が、エリーに言った。
「愛の前では、そういう呼び方しないで!」
「すみません。軍服を着てらっしゃったので、つい……」
「この上歳なんか言ったら、軍法会議」
「ハッ!」
「……かけないで、銃殺!」
下士官は、顔色を変えてすっ飛んでいった。
「アハ、今の冗談だからね」
しかし、事態はいよいよ冗談ではない方向に進んでいった……。
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