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139《コスモス坂・11》

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てんせい少女

139《コスモス坂・11》



 出来たばかりの関越自動車道を通って、芳子は兄の勲と妹の亭主の真一を乗せて新潟に向かっていた。

「新潟くんだりでスクープなんて、ほんとにとれんのかよ?」
「請け合うわよ。それよりカメラはちゃんと写るんでしょうね?」
「三度目だぜ、その質問」
「三度も、同じこと聞くからよ」

 真一は、そんな兄と義理の弟の言い合いを微笑ましく聞いていた。

 70年安保は不発に終わり、世の中は万博の余韻も冷めて、オイルショック直前の好況に沸いていた。

 芳子も確信があってのことではないが、ひと月ほど前から胸騒ぎが強くなり、編集者のつてで、ここまでの段取りをつけ、いよいよアクションドラマの山の感である。

 新潟には午後3時ころに着き、東京で会っておいた元自衛隊の特殊部隊の男二人といっしょになった。

「では、ここからの指揮は田中さんにお任せします」

 田中と呼ばれた男は黙ってうなづき、勲と真一に行動のサインを教えてくれた。複雑なものは覚えられないので「隠れろ」「走れ」「逃げろ」の三つだけである。

 新潟で車を乗り換えるとS市の海辺沿いの道で降り。指定された海沿いの藪の中に入った。

 驚いたことに田中の仲間がすでに三人いて、田中が目配せすると、男たちは別々に散っていく。

 藪の中の人間は、芳子と田中と真一に勲の四人になった。

 晩夏の日差しがやっと西の海に沈みかけたころ、三人の男が、それぞれ別方向から海岸にやってくるのが分かった。

 一見近所のオッサンが夕涼みにきたような気楽な風情だ。

 一人の男がタバコに火を点け、なにやら数回、その火を不規則にかばう。

 すると、岬の向こうから一隻の漁船が無灯火でゆっくりやってくるではないか……漁船には二人の男の影が見えたが、一人だけ降りて、海岸の三人と話し始める……短い言葉だが日本語でないことは分かった。

 三人の男が漁船に乗り込もうと海に足をつけたとき、海岸沿いに人の気配がする。

 藪の木の葉越しに見ると、どうやら学校帰りの女子高生のようだ。女子高生は、なにか男たちを不審に思ったのか、じっと男たちを見つめている……瞬間男の一人と目が合い、男の目の鋭さにたじろぐ。四人の男たちは一斉に女子高生に向かって走り出し、手馴れた手つきで、口を塞ぎ、手足の自由を奪った!

 勲は高感度のカメラで、一連の動きを連写。真一は、小型のテープレコーダーで録音をしていた。

 男たちが、女子高生をかついで海に向かったところで、田中は鳥の声に似た合図をし、自分は海辺の漁船にまっしぐらに走る。驚いたことに芳子自身も体が動き、田中と息を合わせて漁船に向かう。

 ジャブジャブジャブ

 膝まで浸かって漁船に近づくと、漁船の男は自動小銃を構えた。

 ダダダダダダ

 田中が斜めに漁船に飛び移った後を追いかけるように、乾いた連射音とともに海面に小さな水柱が立っていく。

 芳子は反対の舷側に飛び乗って自動小銃の男に回し蹴りを食らわせる。田中と男は無言で争ったが、十秒もかからずに男の肩の関節を外して確保した。

 芳子がブリッジに駆け上がると、男が一人エンジンを動かそうとしていたが、芳子はキーを抜き、男の顔面に頭突きを食らわせ、習いもしないのに、あっという間にそばのロープで男を縛り上げた。

 丘の戦いもあっという間に終わり、女子高生は助けられ、男たちは船の男と同様に肩の関節を外され、手足を縛ったうえに舌を噛み切らないように猿ぐつわをかまされた。

 芳子は、漁船の明かりをすべて点け、大音量で北C国の国歌を流した。

 やがて人だかりができ始め、たった5分で警察、10分後には海保の巡視艇がやってきた。

 30分後には、ヘリコプターやら報道各局の記者を乗せた車も集まり始め、潜入後国外に逃走しようとしていた北C国の工作員たちは一網打尽になった。

「えらく手回しがいいですね」

 芳子が言うと、田中は当たり前のように言った。

「電話線に送話機をかまして、警察と、海保に連絡しました。マスコミは知りませんが」
「空振り覚悟で、事前に連絡しといたの。こういう時作家の名前は便利ね」

 一時間後には、テレビカメラも入り、事件は日本全国に生中継された……。
 


※:この話はフィクションであり、現実に存在する組織個人とは無関係です。
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