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89『増田さんの忌引き』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

89『増田さんの忌引き』オメガ 




 昨日の祝賀会で食べ過ぎてしまった。

 ほら、小菊の突破新人賞受賞祝賀会。

 うちのご近所は、なにか祝い事があると自然に寄り集まる。

 下町の義理堅さとか人情とか言っているけど、要は祝い事にかこつけて一杯やりたいというのが本音。

 でも、そういうの、俺は嫌いじゃない。

 高校生になっても、ご近所の人たちと気楽に付き合えるというのは珍しいことで、いいことだと思う。

 要は、俺も好きなんだ。

 子どもたちや呑めない人のために、酒のさかなも美味しいものが多いしな。祖父ちゃんが作るだけじゃなくて、ご近所さんも、なんだかだと持ってくるしな。ひとが美味しいものを食って、幸せそうになってるっていうのは、いいもんだ。まして、昔から付き合いのあるご近所さまならなおさらだ。


 で、食べ過ぎて、トイレに籠っている。


 でまあ、いつもより時間をかけて用を足し、すっきりした腹を摩りながらトイレを出る。

「ムッ……消臭スプレーしときなさいよね!」

 トイレを出たところで小菊が鼻をつまんで立っている。

「ドアの真ん前に立ってるお前が悪い……なんだ、順番待ってたんじゃないのか?」

 小菊はトイレには入らず、鼻をつまんだまま、俺の後を付いてくる。

「プハーー! 窒息するとこだった」

「おまえ、ずっと息停めてたのかよ!」

「聞きたいことがあんのよ」

「なんだよ?」

「お葬式で休んだら欠席扱いにはならないんだよね?」

「え、葬式ができたのか?」



 葬式は増田さんだった。



 伯父さんが亡くなったので休まなければならないんだが欠席になることを気にして電話をしてきたようだ。

 伯父さんなら三日間の忌引きが認められ、その間は欠席にはならない。そう教えてやると、小菊はすぐにスマホで連絡をした。

「喜んでた、高校三年間皆勤を目指してるんだって!」

 聞かれもしないのに教えてくれる小菊。

 ここんとこ、増田さんは俺たちと一緒に居ることが多く、入学以来の友だちである小菊は少し寂しかったようだ。

 突破文庫新人賞を獲っても、やっぱ、根は十五歳の女子高生だ。そう思うと、俺もホッとする。



 そうだ!



 ホッとしたところで思い立った。

「……というわけで、サブカル研でやるゲームを考えたいんだ」

 増田さんのいない部活で俺は提案した。

 増田さんはエロゲの耐性がほとんどゼロで、こないだはモニターの画面を見て気絶してしまった。

 シグマの機転で錯覚だったということになったが、あれ以来、部活でエロゲができなくなった。

「賛成です、この際、コンシューマー化されたゲームをやってみるのも勉強になると思います!」

 シグマが真っ先に賛成した。

「じゃ、サブカル研の親睦を兼ねてアキバに出向くか♪」

 ノリスケが腰を浮かせる。

「でも、やるんだったら増田さんが参加できる日を設定しなくっちゃね。ノリスケ、増田さんに聞いてみてよ」

 風信子が行動の指針を示す。

 たった五人の部活だけど、なんかいい感じになって来たと思う。

 さっそくノリスケがメールを打った……。




☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿幸一           祖父
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ


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