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本編36
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その頃、王都では。
「王子の行方はまだわからないのか? 竜が飛んでいった方向に捜索隊を向けろ」
王宮では怒号が飛び交っていた。
「あのバカ王子……」
王の代わりにすべてを仕切っているのは、この国の宰相である。竜とともに消えた第五王子の行方を現在、鋭意捜索中である。
だが宰相の本音は、探す国費がもったいない、であった。
なんせ、第五王子である。上に四人、下にまだまだ王子たちがいるし、降嫁や他国への縁組を待っている姫も多くいるから、一人くらい国費を消費する対象が減ったと喜ぶべきだ。しかも兵の報告によると、自分から竜に連れていけとごり押ししたというではないか。本当は放っておきたい。だがそれができないのが宰相という立場だ。
出兵だって捜索隊だってただではない。国庫を消費して人を割かねばならないのだ。
しかも、彼の第五王子は問題児である。
宮中の見目麗しい女性(時には男も)に片っ端から声をかけ口説き落とし、それを武勲としているのだ。何度絞めても態度を改めないので、未亡人の女王に、愛人として送り込もうかと考えていたところだというのに。
捜索隊を出さねばならないのは、民が英雄として称え始めているからだ。
その身を犠牲にして竜を追いやったと。
だが兵の話では、竜が所望したのは王子ではなかったそうだ。見目美しい娘を所望しているのに、見目美しい自分を連れていけとごねにごねて、断る竜を無視していたとか……国の恥だ。竜族にまで迷惑をかける羽目になろうとは……もっと厳しく教育するべきだったと後悔してもしきれない。
「このまま野垂死にしてくれればと願わずにはいられないな……ったく、これでは家に帰れないではないか」
イラつく宰相に、部下たちは近づけないでいた。
この国の実質支配者であり、愚王の代わりに政もなにもかも取り仕切っている宰相の、マックスまで上り詰めた苛立ちを宥められる者など、この国にはいないだろう。少なくとも、今王宮に詰めている者たちでは無理だ。
しかも肝心の王は高齢を理由に早々と寝室に戻ってしまっている。全く使えない。
「どうするよ、宰相がすげー怖いぞ」
「目が血走ってるもんな……俺帰りてーよ」
「バカっ、それ絶対に宰相の前では言うなよ。殺されるぞお前」
部下たちがこそこそ呟いているのを、ちらりと見やりながら、宰相は嘆息した。
『私が一番帰りたいわっ!』
あんなどこに放出しても恥ずかしい王子のために、なぜこんな遅くまで仕事をしなければならないのか。すぐにでも帰って可愛い可愛い妻を愛でたほうがよっぽど有意義だ。
そんな宰相の元に、屋敷からの使いがやってきた。
「なんだ?」
「奥様からのご伝言です。その……大事な話があるので早く帰ってきて欲しいと……」
「……分かったすぐに帰る」
「うわぁぁぁぁぁぁ宰相今帰られてはダメですぅぅぅぅぅ」
「俺たちを見捨てないでくだすゎゎゎゎゎいっ」
「ってか奥さんいたんですかっ! 俺たちが続々と離婚されている中で、結婚!?」
ふざけるなぁぁぁぁと泣き叫ぶ部下にしがみつかれ、すぐにでも帰りたい宰相は、振り払うのに必死だった。
「帰らせろ馬鹿者っ!」
「今帰ったら呪ってやるぅぅぅぅ、一人だけ幸せなんて許さないんだからぁぁぁぁ」
生涯独身を貫いているのは国と結婚しただとか、実は王の愛人じゃないかとかいろいろと噂されていた宰相の、なんかむかつくぐらい幸せな話に、いつも酷使されて家にも帰れずに妻に三下り半を突き付けられている部下たちの中に、嫉妬の嵐が吹き荒れ、なにがなんでも帰宅を阻止する動きが自然とはじまるのだった。
それは、自動的に事務処理能力を上げることに繋がるのだが、宰相にとっては傍迷惑な話であった。
「王子の行方はまだわからないのか? 竜が飛んでいった方向に捜索隊を向けろ」
王宮では怒号が飛び交っていた。
「あのバカ王子……」
王の代わりにすべてを仕切っているのは、この国の宰相である。竜とともに消えた第五王子の行方を現在、鋭意捜索中である。
だが宰相の本音は、探す国費がもったいない、であった。
なんせ、第五王子である。上に四人、下にまだまだ王子たちがいるし、降嫁や他国への縁組を待っている姫も多くいるから、一人くらい国費を消費する対象が減ったと喜ぶべきだ。しかも兵の報告によると、自分から竜に連れていけとごり押ししたというではないか。本当は放っておきたい。だがそれができないのが宰相という立場だ。
出兵だって捜索隊だってただではない。国庫を消費して人を割かねばならないのだ。
しかも、彼の第五王子は問題児である。
宮中の見目麗しい女性(時には男も)に片っ端から声をかけ口説き落とし、それを武勲としているのだ。何度絞めても態度を改めないので、未亡人の女王に、愛人として送り込もうかと考えていたところだというのに。
捜索隊を出さねばならないのは、民が英雄として称え始めているからだ。
その身を犠牲にして竜を追いやったと。
だが兵の話では、竜が所望したのは王子ではなかったそうだ。見目美しい娘を所望しているのに、見目美しい自分を連れていけとごねにごねて、断る竜を無視していたとか……国の恥だ。竜族にまで迷惑をかける羽目になろうとは……もっと厳しく教育するべきだったと後悔してもしきれない。
「このまま野垂死にしてくれればと願わずにはいられないな……ったく、これでは家に帰れないではないか」
イラつく宰相に、部下たちは近づけないでいた。
この国の実質支配者であり、愚王の代わりに政もなにもかも取り仕切っている宰相の、マックスまで上り詰めた苛立ちを宥められる者など、この国にはいないだろう。少なくとも、今王宮に詰めている者たちでは無理だ。
しかも肝心の王は高齢を理由に早々と寝室に戻ってしまっている。全く使えない。
「どうするよ、宰相がすげー怖いぞ」
「目が血走ってるもんな……俺帰りてーよ」
「バカっ、それ絶対に宰相の前では言うなよ。殺されるぞお前」
部下たちがこそこそ呟いているのを、ちらりと見やりながら、宰相は嘆息した。
『私が一番帰りたいわっ!』
あんなどこに放出しても恥ずかしい王子のために、なぜこんな遅くまで仕事をしなければならないのか。すぐにでも帰って可愛い可愛い妻を愛でたほうがよっぽど有意義だ。
そんな宰相の元に、屋敷からの使いがやってきた。
「なんだ?」
「奥様からのご伝言です。その……大事な話があるので早く帰ってきて欲しいと……」
「……分かったすぐに帰る」
「うわぁぁぁぁぁぁ宰相今帰られてはダメですぅぅぅぅぅ」
「俺たちを見捨てないでくだすゎゎゎゎゎいっ」
「ってか奥さんいたんですかっ! 俺たちが続々と離婚されている中で、結婚!?」
ふざけるなぁぁぁぁと泣き叫ぶ部下にしがみつかれ、すぐにでも帰りたい宰相は、振り払うのに必死だった。
「帰らせろ馬鹿者っ!」
「今帰ったら呪ってやるぅぅぅぅ、一人だけ幸せなんて許さないんだからぁぁぁぁ」
生涯独身を貫いているのは国と結婚しただとか、実は王の愛人じゃないかとかいろいろと噂されていた宰相の、なんかむかつくぐらい幸せな話に、いつも酷使されて家にも帰れずに妻に三下り半を突き付けられている部下たちの中に、嫉妬の嵐が吹き荒れ、なにがなんでも帰宅を阻止する動きが自然とはじまるのだった。
それは、自動的に事務処理能力を上げることに繋がるのだが、宰相にとっては傍迷惑な話であった。
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