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本編2
3
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色疲れ、という言葉がある。
それがどんな様子かなんて想像したこともなかった。セックスなんて、この人に会うまでは興味もなかった。なんて行ったら信じて貰えるだろうか。
涙の跡をしっかりと残しながら自分の腕の中にいる人は、その言葉通りにやつれた表情で眠っている。半日以上も抱いてしまったせいで明朝までは意識は戻らないだろう。起き上がれるようになるのは明後日かも知れない。
またやってしまった。
最近は落ち着いたと思っていたのに、また嫉妬に駆られて酷くしてしまった。
「だめだな……」
何本か白髪が交じった髪を掬い取り後ろへと流す。もぞりと小さな頭が動き、遙人の肩に頬を擦り付けてからスゥッと深い息を吐き出す。心地良い場所を見つけたようだ。
自分よりもずっと年上なのに幼さが残る仕草を見せつけられ、遙人はその身体を抱きしめた。
「ダメだよ……俺を煽っちゃ」
遙人の家族に優しい言葉をかけられ涙ぐんだ隆則の表情が脳裏に浮かぶ。隠すように慌ててハンカチで目元を覆ってやれば、いじらしくも「ありがとう」なんて言うものだから、理性が焼き切れた。
なんせ水谷家は隆則のような小動物系の人間に弱いのだ。今はがっしりと肉が付いているが、その昔は細く小さかった母を娶った父を筆頭に、全員がこういったタイプに弱い。
『にーちゃんは今にも死にそうなのに弱いから』
末弟の言葉に腹を立てながらも否定はできなかった。なんせ初めてこの部屋を訪れたときの隆則は本当に手を貸さなければ死んでしまいそうだった。部屋はぐちゃぐちゃで食事は弁当ばかり。ガリガリに痩せて死相が出ていてもおかしくない状況だった。
五年前の自分が言語化できずそれでも惹かれるのを止められなかったのは、その姿を目の当たりにしたからかも知れない。ずっと自分の手で大事にしたいと思ったのだ。
なのに、気がつけばセックスでいつも無理をさせてしまう。
特に姫始めはダメだ、自分の制御が効かない。
一年の計は元旦にあり、というようにこの日に隆則を存分に愛せば一年は安泰かと力を入れすぎてしまうようだ。
どうしたらもっと彼を悦ばせられるか、どうしたらもっと感じてくれるか、そんなことばかりを考えて試してしまうのもこの日が多いように思う。だがそのせいで食事を取らせられなくなってしまうのが難点だ。
そうでなくても細くなかなか太れない体質で困っているのに、正月休みが明けたら昼を抜く生活を始めるかと思うと今のうちに何が何でも体重を増やしたい。
だが隆則を悦ばせることを優先してしまう自分がいる。
「だめだな、本当に……ごめんね隆則さん」
チュッと頬にキスしては、今日の乱れぶりを反芻してしまう。
ラブホテルといういつもと違った場所に興奮したのか、自分からフェラしてくれた隆則に興奮しすぎて優しくなんかできなかった。これから恋人ではなく「パートナー」として一緒にいるんだからと教え込むように激しくしてしまう。
あまり自分の要望を口にしない隆則がもどかしい。
もっと頼ってくれて良いし、これからのことを二人で話し合いたい。だがいつも仕事をおかしいくらいに詰め込む隆則にはその時間がない。
言って良いのだろうか。
遙人にも不安はある。
この人は自分のことをどう思っているのだろうか。しつこいくらいに好きだと言うから受け入れているだけなのだろうかと懸念してしまう。
「もっとなんでも言ってくださいね……」
どんなあなたでも受け止めますからと心の中で呟き、彼を可愛がることに専念しすぎて減った体力を取り戻すために目を閉じた。
急がない、いつか気付いてくれれば良いと思いながらも、早く気付と願ってしまう。
願わずにはいられない。
それがどんな様子かなんて想像したこともなかった。セックスなんて、この人に会うまでは興味もなかった。なんて行ったら信じて貰えるだろうか。
涙の跡をしっかりと残しながら自分の腕の中にいる人は、その言葉通りにやつれた表情で眠っている。半日以上も抱いてしまったせいで明朝までは意識は戻らないだろう。起き上がれるようになるのは明後日かも知れない。
またやってしまった。
最近は落ち着いたと思っていたのに、また嫉妬に駆られて酷くしてしまった。
「だめだな……」
何本か白髪が交じった髪を掬い取り後ろへと流す。もぞりと小さな頭が動き、遙人の肩に頬を擦り付けてからスゥッと深い息を吐き出す。心地良い場所を見つけたようだ。
自分よりもずっと年上なのに幼さが残る仕草を見せつけられ、遙人はその身体を抱きしめた。
「ダメだよ……俺を煽っちゃ」
遙人の家族に優しい言葉をかけられ涙ぐんだ隆則の表情が脳裏に浮かぶ。隠すように慌ててハンカチで目元を覆ってやれば、いじらしくも「ありがとう」なんて言うものだから、理性が焼き切れた。
なんせ水谷家は隆則のような小動物系の人間に弱いのだ。今はがっしりと肉が付いているが、その昔は細く小さかった母を娶った父を筆頭に、全員がこういったタイプに弱い。
『にーちゃんは今にも死にそうなのに弱いから』
末弟の言葉に腹を立てながらも否定はできなかった。なんせ初めてこの部屋を訪れたときの隆則は本当に手を貸さなければ死んでしまいそうだった。部屋はぐちゃぐちゃで食事は弁当ばかり。ガリガリに痩せて死相が出ていてもおかしくない状況だった。
五年前の自分が言語化できずそれでも惹かれるのを止められなかったのは、その姿を目の当たりにしたからかも知れない。ずっと自分の手で大事にしたいと思ったのだ。
なのに、気がつけばセックスでいつも無理をさせてしまう。
特に姫始めはダメだ、自分の制御が効かない。
一年の計は元旦にあり、というようにこの日に隆則を存分に愛せば一年は安泰かと力を入れすぎてしまうようだ。
どうしたらもっと彼を悦ばせられるか、どうしたらもっと感じてくれるか、そんなことばかりを考えて試してしまうのもこの日が多いように思う。だがそのせいで食事を取らせられなくなってしまうのが難点だ。
そうでなくても細くなかなか太れない体質で困っているのに、正月休みが明けたら昼を抜く生活を始めるかと思うと今のうちに何が何でも体重を増やしたい。
だが隆則を悦ばせることを優先してしまう自分がいる。
「だめだな、本当に……ごめんね隆則さん」
チュッと頬にキスしては、今日の乱れぶりを反芻してしまう。
ラブホテルといういつもと違った場所に興奮したのか、自分からフェラしてくれた隆則に興奮しすぎて優しくなんかできなかった。これから恋人ではなく「パートナー」として一緒にいるんだからと教え込むように激しくしてしまう。
あまり自分の要望を口にしない隆則がもどかしい。
もっと頼ってくれて良いし、これからのことを二人で話し合いたい。だがいつも仕事をおかしいくらいに詰め込む隆則にはその時間がない。
言って良いのだろうか。
遙人にも不安はある。
この人は自分のことをどう思っているのだろうか。しつこいくらいに好きだと言うから受け入れているだけなのだろうかと懸念してしまう。
「もっとなんでも言ってくださいね……」
どんなあなたでも受け止めますからと心の中で呟き、彼を可愛がることに専念しすぎて減った体力を取り戻すために目を閉じた。
急がない、いつか気付いてくれれば良いと思いながらも、早く気付と願ってしまう。
願わずにはいられない。
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