おじさんの恋

椎名サクラ

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番外編

世界で一番君が好き9

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 触れられてもいないのに勝手に吐息が零れ出た。それをつぶさに見ていた遥人が嬉しそうに覆い被さってきた。

「嬉しい、隆則さんも俺としたかったんですね」

「ちがっ……」

 違わないのに、どうしても遥人を前にすると素直に自分の気持ちを言えなくなる。可愛くないことを口にするのに、遥人は嬉しそうに口元を綻ばせて近づけてきた。

 しっとりと二人の唇が重なる。柔らかいその感触に胸が高鳴りじわりと腹の底が熱くなる。

(遥人だ……)

 一週間以上触れていない肌の感触に手を這わせじっくりと味わえば、同じように脂ののりが悪い肌を嬉しそうにまさぐられていく。

「好きですよ、隆則さん」

 チュッと音を立て離れた唇がまた押さえつけられ、今度は舌が乾いたそこを舐めてきた。自然と開きその隙間から舌が潜り込んできた。

 ねっとりとした口吻にすぐに隆則も夢中になる。舌を伸ばして絡ませて、口の中すべてを舐められて甘い喘ぎを零していく。勃ったままの分身がそのたびに遥人の身体を叩いた。甘い痺れが何度も背筋を駆け上がり脳を溶かしていく。コクンと喉に溜まった唾液を飲み込み、その甘さに酔う。ドロドロになるまでキスを続けて、息が上がる頃にようやく離れた。

「……可愛かった隆則さんが色っぽい顔になってますね……ねぇ、もう俺のが欲しいですか?」

 ここに……と浴室を出てから弄って貰えない蕾の周囲を指が辿った。

「ぁ……そこっ」

「して欲しいんですか? ここに俺のを挿れてぐちゃぐちゃに突いていいですか?」

 して欲しい。いつもみたいに隆則が嫌だと言っても止まらないくらいメチャクチャにして欲しい。のに、その一言が出ることはない。

「ゃっ……だめっ」

 プクリと蕾に指を潜り込ませ中を確かめていく。まだ欲しがっているかを。

「んん……そこだめっ」

 残った水の助けを借りて挿っていった長い指は、浴室でしていたのと同じやり方で隆則を啼かせ始めた。潤滑剤もゴムも使うことを嫌がる遥人は、とにかく自分の手で溶かせたがる。そこがグズグズになるまでひたすら解していく。

 感じる場所を擦られるたびに隆則は嬌声を堪えられなかった。

「やめっ……ぁぁぁっそこばっかだめぇぇぇぇ」

 駄目だと言いながら身悶えて、感じると伝えるように太腿で腕を挟んでしまう。そうしてから腰を淫らに蠢かせてしまうのだ。

 指を増やし二本がスムーズに動けるようになるとまたキスをしてきた。

 乾いた唇を舐めて濡らして、指と同じように舌を動かし始めた。

「んんっ」

 遥人の濡れたシャツが肌に張り付き、それが冷たくて気持ちいいのは一瞬で、すぐに隆則の体温で温度を上げてしまう。

 指の抽挿と同じように唇を擦るように舌が抜き差しする。

 こんなことをされるの初めてだ。まるで口の中まで犯されているようで怖くなる。これは嫌と首を振っても空いた手が逃げられないように頭を掴まれた。

「んんん!」

 抗議の声は鼻から抜け甘い音となって空気を震わせてしまう。

 嫌なのに、嫌なはずなのに、次第に陶酔してしまい、身体も興奮したように熱くなる。強い音だった声がどんどんと溶けてしまい、甘えるような音色へと変わっていった。

 そうなってからやっと指が抜けたのに、まだ口吻は続けたままだ。

 やだ、止めないでくれ。

 ギュッと背中を抱きしめて爪を立てた。これくらいしか抗議の仕方を知らない。けれど隆則の爪はキーボードを打つのに邪魔にならないよういつも短く切りそろえられていて、傷を付けることはない。そこに質量のある熱いものが当てられまた期待に吐息が零れ、鼻へと抜けていく。

 クスリと合わさった唇が笑うのがわかった。

 いつも自分を翻弄する年若い恋人に一矢報いたいのに、されたまま悦がり狂う自分が情けなくなる。本当はこういうことだって年上の自分がリードすべきなのに、何もできないまま流されるのが悔しい。

 けれど性技なんて持ち合わせていない。

 遥人に出会うまで誰かと付き合ったことがない隆則は、ずっとプロに慰めて貰うばかりで自分が動くなんてしたこともなかったから、敏感な身体なのに性技なんて欠片も持ち合わせていなかった。

 自分にあるのは、遥人と一緒になってから得たものだ。

 そんな拙い技術しかない隆則でも遥人を悦ばせたくて、ギュッと挿ってきた逞しい欲望を締め付けた。

「こらっ、最初からそんなにしたら可愛がれなくなりますよ」

 今まで余裕を持って隆則を翻弄してきた遥人が、少しだけ焦ったように唇を離して顔を見てきた。その表情が好きで涙で濡れた目で見つめ笑った。

 また下腹部に力を込め締め付ければ、一瞬だけその顔が歪んだ。

 散々隆則を煽る間、ずっと我慢し続けてきただろう欲望が愛おしくて、抱きしめるようにまたギュッと内壁で締めればグッと奥を暴くように根元まで挿ってきた。

「ぁ……っそれだめっ」

「煽ったの、隆則さんですよ……だめだ、もう我慢できないっ」

 今までの緩やかさが嘘のように、遥人は細い脚を自分の肩に乗せると激しく腰を使い始めた。
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