抜け殻の森の魔女

山田

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 人生は上手くいかないものである。
 ーーそんなことは生まれてこの方ずっと分かっているつもりであったし、きっとこれからもそうなのだろう。しかし、だからといってそれを責めるつもりもない。そういう風に生きるのが自分の運命なのだから。
 ーーだから今回も特別驚くことはない。取るに足りないことだ。
『待っていろよ、カナン。ああクソ! 何だってこんな時に不具合なんざ生じるんってんだよ。今までは順調だったじゃねえか!』
「なあ、オラン」
『何だ!?』
 オランと言う名の彼は青い光の点滅に紛れながら、苛立ちを隠せずに短い髪をかきむしる。これではどちらが危うい状況に立たされているのか分からないな。はははと笑いながら茶をすすると、何でお前はそんなにのんきなんだと怒鳴られた。
「どうにもならないと分かっているのだから、じたばたしても仕方ないだろう。無駄な労力は使うべきではない」
『はあ!? 何言ってんだお前!? 状況分かって言ってんのか!?』
「ああ、もう帰れない事くらい分かっている」
 オランが何かを言っているが、耳をつんざくような轟音と共に、周囲がまばゆい光に包まれる。
 その日、カナンという者が、その世界から姿を消した。
 

 魔女に関わってはならない。
 森に踏み込んではならない。
 森の中に突如広がる白い森。
 そこは今から遙か昔。魔女が落ちてから、ありとあらゆる物が白く染まり、時間を奪われたという呪われた地。
 魔女はそこでひっそりと生きている。魔女は時の止まった森で、一人呪物を作り、書記を綴って生きている。誰も来ることのない森の中で、唯一の使い魔を友にして気の遠くなる時間を生きている。
 魔女の邪魔をしてはならない。
 彼女は我々とは違う時間軸で生きているのだから。
 森を乱してはいけない。
 そこに入れば、二度と元の生活には戻れないのだから。


「サラ、大丈夫?」
 いないはずだったのだが、闇夜の濃霧に紛れて森の中を突き進む小さな二人の姿があった。
 彼らは抜け殻の森の近くの集落に住む幼き兄妹で、兄の名をオーヘン。妹の名はサラという。何故まだ幼い彼らがこんな夜更けに危険な森に足を踏み入れているのか。それは妹、サラにあった。
 サラは生まれつき他と違っていた。それ故集落の者に不気味がられ、両親ですら彼女に関わることを拒否したため、今日まで兄のオーヘンが面倒を見てきた。
 医者に見せることすら嫌がった両親は、サラに満足な治療をしてやったことがない。その為、オーヘンは近所の老人に幼子の育て方を聞き、まだ満足に文字も読めないのに図書館で医学書を借り、あの手この手でサラを育てた。その甲斐あってか、サラは大病を患うことも無く育ち、そして周囲の悪意あるくちばしにつつかれても、ひねくれることなく純粋な少女に育った。
 透き通るような白い肌に、小鳥のさえずりのような可愛らしい声。髪と同じ色の銀の目はたわわに実った葡萄のようにまん丸で、見るもの全てを魅了するだろう。たった一つを除いて。
 長年に渡り周囲の視線やいわれ無き噂に両親の心が疲弊し、自身の娘に対する微かな愛情が憎悪になったことは事実だろう。だが、分かっていても両親を許すことが出来なかった。娘を、家族を、菓子も買えぬようなはした金で売ろうとした両親を。
 だからまだ幼い兄は妹を連れて逃げ出した。宛などない。ただ、自分達のことを誰も知らない場所へ。何かの間違いで耳だけ他と違う妹を差別しない場所に、逃げたかっただけだった。
 度重なる耳鳴りと妹の呼び声に我に返ると、半歩後ろで手をつないでいた妹は足下を泥だらけにしていた。どうしたのだと足を止めて見ると、なるほど自分の足に着いて来れなくなったのだろう。今まで歩いてきた道には、サラを牽引していたであろう二本の線が随分長く引かれていた。
 どうやら、考え事に意識を取られるあまりサラを引きずっていることに気付いていなかったようだ。
「ごめんな、サラ。痛くなかった?」
「うん、だいじょうぶだよ」
 ランタンの光に照らされたサラの笑顔には、隠しきれない疲労の色が濃く現れていた。
 昔体調不良を両親に訴えた際に、口汚く罵られてからというもの、サラは辛い、痛いなどの心配させるような言葉を一切口にしない。それは育ての親であるオーヘンにも同じで、彼は度々異常なまでに我慢強い妹の体調不良に気付くのが遅れてしまうことがままあった。
「サラ、もう我慢しなくていいんだよ? これからは二人で暮らすんだから。もう誰もサラを叩いたりしない。悪口を言ったりしない」
「おとうさんとおかあさんは?」
「お父さん達は仕事で忙しいから。僕たちは二人で暮らさないと」
「どうして?」
「どうしても! サラ、何がしたい? もう何だって出来るよ。お腹いっぱい食べることも、ふかふかのお布団で寝ることだって。お花つみも、川遊びだって。ああ、お誕生日会もしよう。甘いケーキをお腹いっぱい食べるんだ! 今まで出来なかったこと、全部出来る」
「ほんと? おこったり、ひそひそ言われたりしない? なんでも出来る?」
「しないよ」
 疲れが見えていたサラの顔がぱあっと明るくなる。
 じゃあねじゃあね、と自分がしたいことを考えるサラの表情はいつになく嬉しそうで、つられてオーヘンも笑顔になる。
「じゃあ、今はだめでも、いつかおとうさんとおかあさんとおにいちゃんと、お家でごはん食べたいなぁ」
 ああ、なんて事だ。
 笑顔で良いねと言いながらも、オーヘンの心中は全く良いと思っていなかった。
 いくら自分が庇っていたとはいえ、両親がサラを良いように思っていなかったのは幼いサラでも分かっているだろう。一度も食卓に呼ばれたことも、ベッドで寝かせてもらったこともないのだ。だが、サラは健気にも両親と共に過ごすことを夢見ている。自分がその両親に売られそうになったことも知らずに。
「サラがいいこになれば、おとうさんたち一緒にご飯食べてくれるかなあ?」
 そんなことはない。とも言えず、オーヘンは微笑むことしかできなかった。奥歯を精一杯噛みしめているため、笑顔は非常にいびつになっているだろうが、少しでも緩めればサラの希望を砕く事実が飛び出てしまいそうで直すことも出来ない。
 オーヘンは分からなかった。食事も、服も満足にもらえず、馬屋の藁に潜り込んで夜を過ごさざるを得なかった妹が、そこまで両親に愛情を寄せるのかを。
 気が付けば自分の手はあまりに純粋すぎる妹の手をひいて歩いていた。
 ここに来てどこへ行けばいいのか、その行き先が本当に分からなくなった。先ほどまではとにかく両親から離れた場所にと思っていたのだが、サラの思いを聞くと迷いが生じる。今から家に引き返して、サラを戻した方が良いのではないかとさえ思ってしまう。
 どっと疲れが出てきたのか、ひどい耳鳴りがしてきた。
 そう言えば、今日はひたすら歩いていた。サラの手を引き、時には背負って。朝から晩までろくに休んでいないことを思い出すと、体に蓄積されていた疲労はここぞとばかりに牙を剥く。
 気を抜いたら今にも倒れてしまいそうだが、ここで倒れるわけにはいかない。賢明に薄れる意識を鼓舞して歩こうとする。が、繋いでいた手が急に重くなり、踏ん張る力を失っていたことも相まって地面へと倒れてしまう。
「サ……ラ?」
 見ればサラはすうすうと寝息を立てて眠っている。
 ほっとしたが、あまりに急な睡眠と、自身の身を襲っている異常な疲労感が無縁のように思えず、何とかこの場所から立ち去ろうともがく。だが、もがけばもがくほど、危機感を覚えれば覚えるほど、耳鳴りは酷くなり、体の自由は奪われてゆく。
 ーーこんな、こんなところで……!
 指一本動かすことすら困難な状況で、最後の力を振り絞ってサラの頬に触れる。指に触れた頬は暖かかった。
 すやすやと眠るサラの顔には不安や怒りなどの負の感情は一切感じられず、逆にそのような感情ばかり抱いている自分が酷く惨めに思えた。
 両親から逃げたかったのは、否、差別だらけのこの世界から逃げたかったのは、サラじゃない。自分だ。
「ごめんな……、サラ」
 ここに来て妹をただ振り回していたことに気付き、オーヘンは謝罪と共に涙を流す。その言葉が妹に届くことはないと分かっているが為に、更に惨めになってくる。
 いよいよ意識が途切れそうになる間際、霞むオーヘンの視界に一つの人影が目に入った。
 ーー天……使?
 ランタンとも違う真っ白な光を携えて現れたそれは、真っ白な衣服に身を包み、同じく白く長い髪を夜風に靡かせて立っていた。それは図書館にあった絵本に載っていた天使というものに瓜二つで、安堵からか、単純に疲れからか。オーヘンの意識はその姿を映してから途切れることとなった。


 ・

 天使が来たという事は、恐らく自分は死んだのだろう。
 それは別に良いのだが、一つ心残りがある。当然、サラのことだ。
 兄として、自分はしっかりとサラを守れた自信がない。幾らサラに汚い言葉がかからないようにしようとしたって限度というものがある。ましてや言葉は姿が見えないため、どこから掛かってくるか分からない。出来るだけ人の目からサラを避けたとて、予期せぬところからかけられるものだ。
 サラには一度で良いから、平凡な暮らしというものをしてほしかった。あの子はとてもいい子だ。可愛がられる理由はあれど、疎まれる理由はない。彼女のことを知れば誰だって分かるはずだ。もっとも、理解しようとする者は今まで現れなかった訳なのだけれど。
 もし、生まれ変われたとしたら、サラがくだらない外見など気にせず、ただ笑顔で何でもない幸せに包まれて暮らせますようにーー。
 出来れば、また家族として、兄として暮らせる事が出来たらーー。

 右頬に強烈な打撃を受けて、ふわふわと漂っていた意識が地に引き戻される。
 頬を押さえて起きあがると、隣で幸せそうに眠っているサラの姿が見えた。どうやら、自分の頬を襲ったものは、寝返りと同時に繰り出されたサラの拳のようだ。
 相変わらず寝相が悪いなと布団を掛けてやって我に返る。
 ーーここはどこだ?
 家。と言うのが普通の発想なのだろうが、残念ながら自分達の親は子どもをーーサラを馬屋に放り込むことはあれど、布団に寝かせてやるような親心は無い。家に上がらせることも禁じているのだから当然と言えば当然だろう。
 ここは自分の家ではない。という結論が生まれる。
 ほっとしたのもつかの間。ならここはどこの家なんだという疑問が生まれる。素性も知らない輩の家に泊まるなど、よくよく考えれば危険極まりない。
 ーーもしかしてサラを狙ってのことか!?
 慌ててサラを見る。
 すやすやと眠る妹は余程布団が気持ちいいのかその頬に緩い笑みを浮かべている。服も、頭巾も変わったところは無く、また眠っている姿から無理矢理意識を奪われた様子も、拘束されている様子も見受けられない。
 益々状況が分からなくなり、オーヘンは頭を抱えた。
 オーヘンは育ってきた環境が環境なだけに年の割には利口な子どもである。だが、彼の頭脳は計算され、ある程度予測が立つ時でないと正常に作動しないことが多い。予測している物事に対してはそれなりの対応が出来るが、突発的な出来事に対しては対応しきれない。端的に言うと、順応性と要領があまり宜しくないのである。
 髪をかき乱していると、ふと窓が目に入った。転がるようにしてベッドから這い出て、窓の縁を持つ。まだ十歳のオーヘンにとってその窓はやや高く、腕にぐっと力を入れて窓の外を覗く。
 頭、そして次に目がガラスの向こう側を覗く。途端、オーヘンは息を呑んだ。
 彼の栗色の目に映ったのは、一面真っ白な世界だった。
 雪が積もっている様子はない。けれど、木も、草も、土も……目に映るもの全てが色を失っていた。窓越しでなければ自分も白くなったと錯覚するほどである。
 景色を見て確信を得る。ここは、抜け殻の森なのだと。
 話にはよく聞いていた。
 魔女が空から落ちてから、森は色と時を奪われ、魂の抜けた抜け殻の森と化したのだと。魔女はその森の中で住み、迷い込んだ獲物を捕らえるのだと。
 ただのおとぎ話だと思っていた。
 抜け殻の森に行った者の話を聞いたことも、森を見たという者もいなかったのだから。だが、自分達は現にこうして浮き世離れした白い地にいる。
 もう一度窓を覗こうとしたのだが、腹が減って体を支える自信がなかったオーヘンは台になる物はないのかと室内を見渡す。だが、この部屋にはベッドの他に物は無かった。どうもこの家の持ち主は生活感に欠いた生活を送っているようだ。
 ーーもしここが抜け殻の森なら、この家は魔女のものなんだろう。
 鉤鼻にざんばら髪でヒヒヒと不気味に笑う一般的な魔女を想像して背筋が寒くなったオーヘンは、サラがよく眠っていることを確認し、意を決して部屋の扉に手をかける。ともかく脱出経路を見つけるのが最優先だと考えたからだ。
 念のために扉に耳を当てると、戸の向こうからは別段何の音も聞こえない。ほっとため息を吐き、ドアノブを捻ってゆっくりと戸を開ける。
 軋んだ音も立てずに滑らかに開いた扉の奧には天窓から射す光を受ける大きなテーブル。その周囲で金属の光沢を放つ、得体も知れない無数の物体と、くつくつと音を立てて沸騰している幾つかの液体があった。
「……想像と随分違うなあ」
 薄暗い部屋と、謎の液体が入った大きな鍋を想像していただけに、なんだか拍子抜けする。
 見たこともない白い壁に囲まれた室内で、きょろきょろと周囲を観察していると、不意に壁に掛けられていた巨大な黒い絵画らしきものに光が射す。驚いてそのまま固まっていると、真っ黒だった絵画に男性とおぼしき姿が映る。
『カナン?』
「う、うわあ!!」
 何か男が話していたが、それを聞く余裕もなく、体は元いた部屋に逃げ込んでいた。
 背中で閉めた扉の奧では、額縁の中にいた男の声が聞こえている。が、男の言葉は開口一番に発した「カナン」という単語以外は全て聞き慣れないものであった。今まで言葉が通じることが当たり前であった為、オーヘンの混乱は増すばかりとなる。
 ーー意味が分からない! 何で絵が勝手に動いて話しかけてくるんだ!? あれが使い魔ってやつなのか!? ともかく言葉も分からないんじゃ、どうしようもないじゃないか!
 心臓がいやにばくばくと暴れる。
 幸いあの男は額縁から出ることが出来ないらしく、部屋まで追いかけてくることは無かった。だが、相変わらず意味の分からない言葉が聞こえてくるあたり、いなくなった訳でもないようだ。
 ーーとにかく、ここから逃げよう。
 許容を遙かに越えた状況に、逃走という結論に至ったオーヘンは窓から逃げ出すことを決意した。
 が、そこで立ちはだかる物があった。高い窓だ。
 既にこの室内に足台になる物はないと分かっている。ベッドしかないこの部屋から、自分より更に小さいサラをつれて脱出するには方法一つしかない。ベッドを足場にするしか。
 気を引き締めてベッドの縁に手を付けて押す。が、ギシと少し軋む音がしただけで、ベッドは全く動かない。
 仕方ないのでサラを起こし、まだ眠気眼で目をこすっている妹をシーツごと床に置いてベッドを押す。が、これでもほんの少し動くだけで、窓までたどり着くにはほど遠い。
 何て重いベッドなんだと憤慨しつつ、仕方ないのでサラに手伝いを頼む。サラはまだ寝ぼけている様子だったが、頼みごとになると断れない性分から、半分眠っている状態でも手伝ってくれた。
 手伝いの甲斐あってか。はたまた、オーヘンの火事場の馬鹿力が働いたのか、そう時間を経たずにベッドの端は窓まで届いた。これで一安心だとベッドの上に乗ると、サラも嬉しそうにベッドに乗って横になる。
 寝るんじゃないよと説明し、窓を開け放つ。ガラスを挟まずに見る外の景色はやはり真っ白で、不気味ではあるがどこか神秘的な光景にも見えた。
「良いか、サラ。兄ちゃんが先に外に出るから、おいでって言ったら来るんだぞ」
「でも、おくつがないよ?」
 言われて気付く。
 確かに靴はおろか、靴下さえも履いていない。しかし、ここで靴を探していては状況はますます悪くなるように思えた為、あとで何とかすると適当にごまかす。
 どうやらこの家は地面から少し離して立ててあるようで、窓から地面の距離は、床と窓よりも高くなっている。きっと足が痺れるだろうと予測し、少し気持ちが重くなった。
 でも、でもとごねるサラを宥め、オーヘンは再度窓に向き直り、身を乗り出そうとする。
 ふと、昨日見た天使はどこへ行ったんだろう? と思った。白い光を纏い、白い衣装と髪をした純白のあの天使は。そう言えば、あの天使も不思議な姿をしていたな。と考えたところで我に返り、窓枠を持った手に力を入れる。
「まじょさんだ」
 嬉しそうなサラの声と同時に、不意に視界の端から白い髪の女性が現れた。
 が、前述の通り突然の出来事に対処できないオーヘンは、飛び降りようとする下肢と、ぼんやりする頭を制御することが出来ず、体は中途半端に宙に投げ出された。
 慌てて窓枠にしがみつくが、腕は満足に体を支えてくれず、見る見る内に体がずり落ちていく。サラも手伝ってくれるが、まだ五歳のサラにとって兄の体は重すぎた。
 鬱血した指が痺れて窓枠から離れる。もうだめだ。ぎゅっと目を瞑るが、浮遊感と衝撃は不思議と来ない。どう言うことだろうとそっと目を開けると、室内から目を輝かせてこちらを見つめるサラと目が合う。妙に視界が高くなったような気がした。
「肉体労働は専門外なのだがな」
 後頭部のすぐ後ろからした女の声に、肩を飛び上がらせると同時に、両脇を持たれていることに気付く。
 予期せぬ状況に固まっていると、そのまま窓枠に手を付かされ、サラに引っ張られるまま室内に引きずり込まれる。
 ありがとうごさいますと、無邪気に後ろの誰かに礼を言うサラを傍目に、ぎこちない動きで振り返る。
 そこには、昨夜見た「天使」だと思っていた存在がいた。
 彼女はやはり白い衣装を身に纏い、白く長い髪を後ろで結わえていた。が、オーヘンは彼女の頭部を見て頭が真っ白になった。
「耳が、無い!!」
 救ってくれた相手は、天使だと思っていた相手は耳のない白い魔女だった。
 叫ぶと同時にオーヘンの意識はすうと遠退く。
 まだ幼い彼にとって、目を覚ましてから今までの奇想天外のオンパレードはとっくに許容量を超えていたのだ。
「おにいちゃん、おねむ?」
「寝かして置いてやれ。腹が減ったな……」
「……うん」
「腹が減ったのか? なら扉を開けて来ると良い」
「いいの!? ありがとう! まじょさん!」
「……魔女?」
 遠退く意識の中で、楽しそうに耳無しの女と話すサラの声が聞こえたような気がした。
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