貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)

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怒り

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私はひとしきり泣いた。
化粧は涙で落ちて、とても人前に出せる顔ではない。

けれど私はのろのろと立ち上がる。
夫ルイにこの顔を見られてはいけない。

早めに帰ろう。


「エレーナ…?」


ふと顔を上げると、何故か目の前にローレンスがいた。

なんで…私は慌てて涙をふく。
見られるわけにはいかない。


「どうして泣いてるんだ、どこか体調が…」


「少し転んでしまったんです、年甲斐もなく痛みで泣いてしまっただけですわ。」


とても無理のある言い訳だ。
すぐ嘘だとバレてしまう…でも、他に言い訳が見つからなかった。


「…」


そんな私の気持ちを察したのか、ローレンスは何も聞かなかった。
優しい…変わらないわ。

歩きだそうとして私はよろける。
それをローレンスが抱きとめた。


「…ごめんなさい。」


私は謝って体を離そうとした。
しかし、ローレンスの腕は私を強く抱き締めた。


「少しだけ、抱き締めさせてくれ。」


弱々しい声に私は拒否するのを躊躇った。

昔と重なる。
私は無意識に彼の背中に腕を回していた。


「エレーナ…!」


突然、静寂を切り裂く声が私を呼ぶ。


「ルイ…」


私はローレンスから距離を取った。
誤解させてしまう…

誤解…?
でも、彼だって…シアナと抱き合っていたじゃない。
彼に咎められるいわれはなかった。

このままルイの元にいくのも嫌だわ。
私はローレンスの腕こそ解いたものの、当てつけるように彼の元から離れなかった。


「陛下、どうしてエレーナを抱き締めていたんですか?」


そんな私の態度に痺れを切らしたのか、ルイは陛下を問い詰めた。


「お前こそ、どうして彼女を泣かせたんだ?」


陛下のその返しにルイは私を見た。
そして私の涙のあとに気付いたのか、途端に心配という表情に変わった。


「エレーナ、君はどうして泣いていたの?」


そして今度は私に向かって、優しく促すようにそう聞いた。

どうして?
貴方がシアナを…

しかし陛下がいる手前、その言葉を飲み込んだ。


「私、ルイと話してきます。」


陛下にそう言って私は立ち上がる。
そんな私を心配するように陛下が手を握った。

もしまた辛いことがあれば頼ってほしい、陛下のそんな思いが体温と共に伝わる。
私は涙をこらえて陛下に笑みを返した。

そしてルイの方を振り返った。


「話しましょう。」


──────────


ルイと別の場所へと移動する。
そしてある地点で止まった。

ここは、先ほど彼とシアナが抱き合っていた現場だった。
私は向かいに立つルイを強く見据えた。


「ここ、覚えてますか?」


そしてそう問い詰めた。
そんな私を見て、彼はようやく私の泣いた理由を察した。


「エレーナ、誤解だ。」


間髪いれずにそう言って否定したルイは、焦った様子で私を見た。


「私は、貴方が皇后と抱き合っている姿を見ました。
あれのどこが誤解なんですか。
どう見たって2人の不貞現場でしたけど?」


そんなルイとは対称的に私は彼に、強い怒りをぶつけた。
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