魔王は勝手に生まれない

雨彩 色時

文字の大きさ
2 / 4

2話 彼の偽物

しおりを挟む
 今日は彼の偽物が来た。彼と一緒で偽物も弱そうだ。だからこそなのか、そんな偽物には数人の仲間がいた。彼と僕の誓いを邪魔する奴らだ。そして、あいつらと同じ人間である。

「お前が魔王かっ! 悪いがここで死んでもらう!」
「君には自分が先か、後ろの仲間が先か選んで欲しい」


 彼は戸惑い、怪訝な顔をして剣の柄を強く握りしめて警戒している。分からないのだろう。つまり、彼はまだ失ったことがないのだ。

「だから、どちらが先に殺されるかだよ」
「勇者っ! こんな奴は話しても無駄だっ!」


 後ろに居た男が単身で剣を持って僕に飛びかかった。勇者と呼ばれる彼に早く理解してもらおう。僕はその男を殺す。彼の視界で殺す。苦しむ姿が見えるように殺した。
 勇者は剣を抜いたが、剣先は小刻みに震えていた。やっぱり弱い。弱いのに後ろの奴らを護ろうとする。

「僕には分からない。君も彼と同じ死を選ぶのか? あの時、逃げていれば生きていたはずだ。君達も今、逃げるのなら僕は殺さないよ?」


 君は彼と被る。見ていて気分が悪くなりそうだ。仮に僕に勝てたとしても、国へ帰ったら殺されるんだ。彼と同じようにあいつらから見捨てられるんだ。

「勇者様っ! 戦士が殺された今、ここは一度体制を立て直しましょう!」
「そうですぞ! 我々にはまだ力が足りないようじゃ」
「お前らは早く逃げろ。俺が時間稼ぎをするっ!」


 嗚呼、君は本当に見るに耐え難い。君は彼らを護る価値が本当にあるのか?一緒に背を向けて逃げればいいじゃないか。目眩がしそうだ。視界から消えてくれ。
 僕が魔術を唱えると背を向けた二人は死んだ。君は護れず、二人は呆気なく僕に殺されたんだ。これが君の実力であり、驕りである。彼の剣はもう誰も護る者がおらず、剣先を見失っていた。そう、君は逃げるしかない。それが正しいんだ。

「もう時間稼ぎする必要もなくなったよ?」
「何で…罪のない人間を殺すんだぁああぁぁあっ!!!!」


 弱い彼は剣を振りかざした。あえて、その怒りを僕は手で受けて握り締める。それでも彼は力を込めて叫ぶが剣は微動だにしない。

「人間だからだよ。人間と言う生物が…いや、存在がもう罪なんだ」
「それだけの…理由で殺してきたの……か?」
「僕からしたら、十分な理由さ。だから、君も死ぬしかない」


 彼の全身に火術をかける。燃え上がる彼は地面で、のたうち回る。彼と同じく君はあいつらの犠牲者なんだ。もう二度と起こらないようにしなくてはならない。

「君は本当に弱いね」


 僕は弱って倒れた彼の死を確認した後、勇者だった屍を通り過ぎた。勇者なんてものが生まれてはならない。だから、殺そう。もっといっぱいだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...