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第2話:嫉妬
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喫茶店に入り、二人はブレンドコーヒーを注文した。「サクラブレンド」というその珈琲は熟成された珈琲豆から薫る芳醇な香りが優しく包み込む感じに信幸は惹かれた。「美味しい。」素直にそう、感じた。
「信幸さん、この後どうします?」
「そうだね。ポップンやりに行こうかな。」
「良いですね。私もやってますよ、ポップン。」
「そうなの?じゃあ、一緒に行こうか。」
「はい。」
絵里は嬉しそうに返事をした。信幸と同じ時間を過ごせるということがあまりにも嬉しかった。
『カフェサクラ』を出た二人は、そのまま出雲で唯一のゲーセンに向かった。2階の音ゲーエリアに入り、ポップンの順番待ちに並んだ。先に信幸の順番となり、信幸は100円を投じてポップンを始めた。後ろには、ギャラリーが出来ていた。
1曲目が終わる頃、立ち止まってこちらを見ている人が増えた。残り2曲、信幸は見られても大丈夫なような曲を選んでやった。3曲終わり絵里に代わると疎らではあるが拍手が沸いた。信幸はギャラリーに一礼をして、筺台を離れた。
代わった絵里のプレイにもギャラリーが沸いた。絵里は信幸の手押しと違い、指押しでギャラリーを沸かしていた。正直、信幸よりもレベルがたかい。そのことが信幸は嬉しかった。ゲーセンを出る二人をギャラリーは拍手で見送った。
夕方5時、ゲーセンを出ると信幸は絵里を松江まで送り届けた。6時過ぎ、絵里を自宅に届けると、絵里の父親の帰りと重なった。
「絵里も今、帰ってきたのか。その人は…?」
「この人は…。」
絵里が詰まりながら話をするのを見て、信幸が言った。
「初めまして。絵里さんと仲良くさせていただいています、長島伸幸と言います。」
「君が長島くんか。絵里から君のことは良く話を聞くよ。宜しくね。」
「はい。今日はこれで失礼します。」
「うん。気をつけて。」
絵里を自宅に送り届けた伸幸は、家に戻った。伸幸を見送ると絵里は、父親と一緒に家の中へと入っていった。
「絵里は彼と付き合っているのか。」
「…うん。最近付き合い始めたの。」
「…そうか。そうか。優しくて真面目そうな良い彼じゃないか。彼はお酒好きなのか?」
「うん。お酒好きだよ。」
「じゃあ、今度はお父さんも一緒にと言ってくれ。」
不意に発した父親、辰悟の言葉に絵里は驚きを隠せず、困惑した。
「お父さん、それって…?」
「せっかく実った絵里の恋だ。お父さんは認めるよ。」
「ありがとう。」
辰悟が自分のことを認めてくれたことが嬉しくなった絵里の目には涙が溢れた。
「晩飯にするか。」
「…うん。」
いつも食べる家でのご飯がこの日、絵里にとって特別美味しく感じた。
翌日。週明けの月曜日。
絵里は清々しい気分で、出勤した。絵里の職場は、医療系の書籍を扱う本屋。専門店ではあるものの、医療系の大学を目指す人の赤本や、医学一般からリハビリ、介護、家庭医学、保健体育まで幅広いジャンルと本屋の近くに医学部や看護学部、福祉の専門学校や作業療法の専門学校が点在しているためその学生が毎日のようにやってくる。
絵里は棚の整理をしていた。昨日のことが嬉しくて自然と口がニヤけてしまう。そこに、同僚の三嶋恵子が話しかけてきた。
「絵里、おはよう。」
「恵子、おはよう。」
「絵里、どうした?ニヤけたりして。」
「別に、なんでもないよ。私、駐車場の掃除してくるね。」
「うん、分かった。」
絵里は、足早にその場を離れた。
(しまったー!恵子に見られてしまった!あの横取り女にはバレたくない!バレたら信幸さんが危ない!)
そんなことを思うと少し顔が青くなった。
「絵里?どうした?」
「りんちゃん!」
そこにやってきたのは親友の桂木凛香。凛香は心配そうに絵里の顔を覗いてきた。
「何かあった?」
「あのね。私、この間、名古屋行ってきたでしょ。」
「うん。」
「そこでね、会えたの。信幸さんに。」
「信幸さんって、絵里がずっと言ってた長島さんって人?」
「そう!で、飲み会があってお酒の勢いで告白したらOKしてくれたの!」
「すごい!良かったじゃん!」
「昨日、お父さんにバッタリあったけど、許してくれたの。」
「良かったじゃん!」
「でもね。さっき、棚の整理してたら無意識に顔がニヤけてたみたいで、それを恵子に見られちゃったの。」
「あちゃ~。恵子、気になったら執拗に詮索してくるから気をつけてね。欲しいってなったら、奪い取っちゃうからね、あの子は。」
「だよね~。あの露出度高い格好で接客されると免疫ない男の人は勘違いして引っかかるんだろうな。信幸さん、誘惑されなきゃ良いけど。」
「長島さんって、店の駐車場の自販機の補充してる人、だよね?」
「うん。あのラッピングの自販機の補充してる。」
「じゃあ、お店の中には入らないから大丈夫だよって言いたかったけど、しつこいから、外まで狙い定めてそうで怖いね。」
「そうなの。仕事に集中出来るか分からなくて。」
「そこは、私もフォローするから安心して。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ私、トイレ掃除してくるね。」
そういって凛香は店の内外にあるお客様トイレと従業員トイレの掃除に向かった。絵里は、一度背筋を伸ばして顔をパンパンと叩いて自分に気合を入れた。
その日の13時30分、長島の運転するボトルカーが店の駐車場に入ってきた。長島はいつものようにラッピング自販機の補充を始めた。
長島が途中、窓ガラスに映る絵里に向かって笑顔を作っているところを恵子は見逃さなかった。
恵子は長島の所まで行くと、すかさず声をかけた。
「あの、何か御用ですかぁ~?」
「はぁー。」
「さっき、窓ガラスから店内見てましたよね。」
「そんなつもりはないですよ。」
「うそ!だって凝視してましたよ。」
「そんなつもりは無いですよ。」
恵子は、執拗に詰め寄ろうとするも、長島は「次がありますので、失礼します。」と言ってその場を凌いだ。
長島がボトルカーに乗り込み走り去る様子を見た恵子は、地団駄を踏んでいた。
「なによ!もう少し話してくれても良かったじゃない!」とでも言っているように悔しがっていたのが、店内から見える姿で分かる。
夕方、絵里のスマホにSNSでメッセージが来た。
長島からだった。
「週末、お時間がありましたら一緒に過ごしてもらえないでしょうか。」
絵里は長島のメッセージを見て嬉しくなったが、辺りを見渡し、恵子がいないことを確認する。恵子がいないことを確認した絵里は直ぐに返信をした。
「土曜日、大丈夫ですよ。」
長島からの返信を楽しみにスマホを閉じた。
絵里からの返信が来た長島は、直ぐに予定を立てた。
スマホで週末のイベントを調べて、気になったものをピックアップしてメッセージを返した。
「温泉ヨガ、御朱印帳の七福神巡り、映画鑑賞どれが良いですか。」
長島はどんな返信が来るのか、ドキドキとハラハラが入り混じった感情で腹部に痛みを感じた。
「ちょっと、外出てくる。」
同じ休憩室にいた小宮山誠二にそう、声をかけて休憩室を出て、外の喫煙スペースに移動した。
「大丈夫か?」
小宮山が心配で様子を見に来た。
「あぁ。体調は問題ないけど、何か、変な気分になってね。」
「変なって?」
「この間、名古屋に用事があるって行ったろ。」
「うん。」
「その時に後輩の子と会って、その子、僕のこと好きだから付き合ってくれて言われて。」
「それで?」
「僕で良ければってOKしたんだけどさ。」
「良いじゃん。彼女、欲しいって言ってたんでしょ。」
「そうなんだけど。今まで付き合ったことないし、後輩の子は後輩としか見てなかったからどうしようって思って。」
「それで、何でここにいるの。」
「メッセージのやり取りしてると、いつもドキドキハラハラしたり、急に胸が締め付けられる感じがするから外の空気吸おうと思って。」
「お前、それ。恋だろ。ちゃんとお前も相手のこと好きって証拠じゃん。」
小宮山の話に長島はハッとした。
「これが、好きってこと?」
「あぁ。俺、親から言われたことがあるんだ。」
「言われたこと?」
普段、自分のこと話すことはない小宮山がおもむろに自分のことを話始めた。
「俺の両親は、結婚相談所通じてのお見合いで結婚したらしいんだけど、お互い、これが最後ってタイミングだったから、条件に近いしってことで、結婚したから、最初はお互い好きか分からないままだったらしいんだ。」
「うん。」
「でも、とりあえず一緒に住んでみたら、お互いがお互いの好きになりそうな所を次第に見つかるようになって、そうしたらお互いが信頼出来る関係になって、好きになっていったみたいなんだ。」
「へぇ~。」
「で、親が口酸っぱく言っていたのは、友情は育てるもの。愛情は育くむもの。ってこと。」
長島は理解が追いついてない。
「どういうこと?」
「そう思うだろ。俺も同じように聞いたんだ。そうしたら、友情はお互いに信頼を信用に育っていくもの。愛情はお互いに信頼を信用に育てるのに加えて、安心出来る時間と空間を二人で共有して育てていくもの。らしい。」
「友情は、何となく分かるけど。愛情は未だ分からないな。」
長島は首を傾げる。
「だろうね。俺もよく分かってないんだ。これまで何人かと恋仲になったことはあるけど、お互いを信頼することっていうのが難しくて、信用する所までいかないで終わってしまってるからね。それでも好きになることは少し分かってきたつもりだよ。自分なりにね。」
「そうなんだ。僕も小宮山の親さんの言う、愛情。分かるようになるのかな。」
「大丈夫だよ。ただ、これは結果に急いだら見失うみたいだから、自分のペースで長い目で見るのが良いみたい。」
「分かった。」
長島は咥えていたタバコを灰皿に捨てて事務所に戻った。
「友情は育てるもの、愛情は育くむもの。」という小宮山から聞いた話が長島の頭の中にずっとある。いつものように接していても、どうしてもその事が頭から離れない。事務所に戻った長島は、パソコンで業務日誌をやったあと、駐車場に行ってボトルカーの点検と洗車に取り掛かった。洗車中に絵里から返信が来た。
「御朱印巡りが良いです。一緒に巡りましょう。私、御朱印帳持ってますよ。」
絵里が返信してスマホをポケットにしまうと恵子がスタッフルームにやって来た。
「絵里さん、お疲れ様です。」
「恵子さん、お疲れ様。」
「今日来てた補充の人、見ました?」
「いやぁー。」
「あの人、私のこと好きなのかしら?」
(そんなわけ、ないでしょ。明らかに助けを求めてる顔だったわよ。)
「恵子さん、挨拶だけなら良いけど、それ以上は相手も仕事があるから迷惑だろうから、気をつけてね。」
「えー。」
「えー、じゃなくて。あなたも仕事があるんだから不必要に喋ってばかりいないの。」
「はーい。」
恵子は、聞き流すように自分の荷物を持って部屋を出た。
絵里は、そんな恵子の後ろ姿に違和感を覚えた。
(怪しい、、、。伸幸さんのこと、狙ってるよね、あれ。なんとしても、死守しないと。)
それからの恵子は、最低限の事だけやってそれ以外は長島の事ばかりを気にしてる様子だった。
(やっぱり、怪しい、、、。伸幸さんに連絡しなきゃ。)
絵里は、取り急ぎ伸幸に連絡した。
「伸幸さん、あなたの事を執拗に標的にしてるスタッフがいるので、来られる時は注意してください。」
長島が絵里のメッセージに気づいたのは、仕事が終わった19時頃のことだった。
「どういうことだろう。」
長島は不思議に思ったが、特に気に留めなかった。
「ポップンやって帰ろう。」
長島は、自分の車に、乗り込み、練習しているゲーセンに向かった。
-続く-
「信幸さん、この後どうします?」
「そうだね。ポップンやりに行こうかな。」
「良いですね。私もやってますよ、ポップン。」
「そうなの?じゃあ、一緒に行こうか。」
「はい。」
絵里は嬉しそうに返事をした。信幸と同じ時間を過ごせるということがあまりにも嬉しかった。
『カフェサクラ』を出た二人は、そのまま出雲で唯一のゲーセンに向かった。2階の音ゲーエリアに入り、ポップンの順番待ちに並んだ。先に信幸の順番となり、信幸は100円を投じてポップンを始めた。後ろには、ギャラリーが出来ていた。
1曲目が終わる頃、立ち止まってこちらを見ている人が増えた。残り2曲、信幸は見られても大丈夫なような曲を選んでやった。3曲終わり絵里に代わると疎らではあるが拍手が沸いた。信幸はギャラリーに一礼をして、筺台を離れた。
代わった絵里のプレイにもギャラリーが沸いた。絵里は信幸の手押しと違い、指押しでギャラリーを沸かしていた。正直、信幸よりもレベルがたかい。そのことが信幸は嬉しかった。ゲーセンを出る二人をギャラリーは拍手で見送った。
夕方5時、ゲーセンを出ると信幸は絵里を松江まで送り届けた。6時過ぎ、絵里を自宅に届けると、絵里の父親の帰りと重なった。
「絵里も今、帰ってきたのか。その人は…?」
「この人は…。」
絵里が詰まりながら話をするのを見て、信幸が言った。
「初めまして。絵里さんと仲良くさせていただいています、長島伸幸と言います。」
「君が長島くんか。絵里から君のことは良く話を聞くよ。宜しくね。」
「はい。今日はこれで失礼します。」
「うん。気をつけて。」
絵里を自宅に送り届けた伸幸は、家に戻った。伸幸を見送ると絵里は、父親と一緒に家の中へと入っていった。
「絵里は彼と付き合っているのか。」
「…うん。最近付き合い始めたの。」
「…そうか。そうか。優しくて真面目そうな良い彼じゃないか。彼はお酒好きなのか?」
「うん。お酒好きだよ。」
「じゃあ、今度はお父さんも一緒にと言ってくれ。」
不意に発した父親、辰悟の言葉に絵里は驚きを隠せず、困惑した。
「お父さん、それって…?」
「せっかく実った絵里の恋だ。お父さんは認めるよ。」
「ありがとう。」
辰悟が自分のことを認めてくれたことが嬉しくなった絵里の目には涙が溢れた。
「晩飯にするか。」
「…うん。」
いつも食べる家でのご飯がこの日、絵里にとって特別美味しく感じた。
翌日。週明けの月曜日。
絵里は清々しい気分で、出勤した。絵里の職場は、医療系の書籍を扱う本屋。専門店ではあるものの、医療系の大学を目指す人の赤本や、医学一般からリハビリ、介護、家庭医学、保健体育まで幅広いジャンルと本屋の近くに医学部や看護学部、福祉の専門学校や作業療法の専門学校が点在しているためその学生が毎日のようにやってくる。
絵里は棚の整理をしていた。昨日のことが嬉しくて自然と口がニヤけてしまう。そこに、同僚の三嶋恵子が話しかけてきた。
「絵里、おはよう。」
「恵子、おはよう。」
「絵里、どうした?ニヤけたりして。」
「別に、なんでもないよ。私、駐車場の掃除してくるね。」
「うん、分かった。」
絵里は、足早にその場を離れた。
(しまったー!恵子に見られてしまった!あの横取り女にはバレたくない!バレたら信幸さんが危ない!)
そんなことを思うと少し顔が青くなった。
「絵里?どうした?」
「りんちゃん!」
そこにやってきたのは親友の桂木凛香。凛香は心配そうに絵里の顔を覗いてきた。
「何かあった?」
「あのね。私、この間、名古屋行ってきたでしょ。」
「うん。」
「そこでね、会えたの。信幸さんに。」
「信幸さんって、絵里がずっと言ってた長島さんって人?」
「そう!で、飲み会があってお酒の勢いで告白したらOKしてくれたの!」
「すごい!良かったじゃん!」
「昨日、お父さんにバッタリあったけど、許してくれたの。」
「良かったじゃん!」
「でもね。さっき、棚の整理してたら無意識に顔がニヤけてたみたいで、それを恵子に見られちゃったの。」
「あちゃ~。恵子、気になったら執拗に詮索してくるから気をつけてね。欲しいってなったら、奪い取っちゃうからね、あの子は。」
「だよね~。あの露出度高い格好で接客されると免疫ない男の人は勘違いして引っかかるんだろうな。信幸さん、誘惑されなきゃ良いけど。」
「長島さんって、店の駐車場の自販機の補充してる人、だよね?」
「うん。あのラッピングの自販機の補充してる。」
「じゃあ、お店の中には入らないから大丈夫だよって言いたかったけど、しつこいから、外まで狙い定めてそうで怖いね。」
「そうなの。仕事に集中出来るか分からなくて。」
「そこは、私もフォローするから安心して。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ私、トイレ掃除してくるね。」
そういって凛香は店の内外にあるお客様トイレと従業員トイレの掃除に向かった。絵里は、一度背筋を伸ばして顔をパンパンと叩いて自分に気合を入れた。
その日の13時30分、長島の運転するボトルカーが店の駐車場に入ってきた。長島はいつものようにラッピング自販機の補充を始めた。
長島が途中、窓ガラスに映る絵里に向かって笑顔を作っているところを恵子は見逃さなかった。
恵子は長島の所まで行くと、すかさず声をかけた。
「あの、何か御用ですかぁ~?」
「はぁー。」
「さっき、窓ガラスから店内見てましたよね。」
「そんなつもりはないですよ。」
「うそ!だって凝視してましたよ。」
「そんなつもりは無いですよ。」
恵子は、執拗に詰め寄ろうとするも、長島は「次がありますので、失礼します。」と言ってその場を凌いだ。
長島がボトルカーに乗り込み走り去る様子を見た恵子は、地団駄を踏んでいた。
「なによ!もう少し話してくれても良かったじゃない!」とでも言っているように悔しがっていたのが、店内から見える姿で分かる。
夕方、絵里のスマホにSNSでメッセージが来た。
長島からだった。
「週末、お時間がありましたら一緒に過ごしてもらえないでしょうか。」
絵里は長島のメッセージを見て嬉しくなったが、辺りを見渡し、恵子がいないことを確認する。恵子がいないことを確認した絵里は直ぐに返信をした。
「土曜日、大丈夫ですよ。」
長島からの返信を楽しみにスマホを閉じた。
絵里からの返信が来た長島は、直ぐに予定を立てた。
スマホで週末のイベントを調べて、気になったものをピックアップしてメッセージを返した。
「温泉ヨガ、御朱印帳の七福神巡り、映画鑑賞どれが良いですか。」
長島はどんな返信が来るのか、ドキドキとハラハラが入り混じった感情で腹部に痛みを感じた。
「ちょっと、外出てくる。」
同じ休憩室にいた小宮山誠二にそう、声をかけて休憩室を出て、外の喫煙スペースに移動した。
「大丈夫か?」
小宮山が心配で様子を見に来た。
「あぁ。体調は問題ないけど、何か、変な気分になってね。」
「変なって?」
「この間、名古屋に用事があるって行ったろ。」
「うん。」
「その時に後輩の子と会って、その子、僕のこと好きだから付き合ってくれて言われて。」
「それで?」
「僕で良ければってOKしたんだけどさ。」
「良いじゃん。彼女、欲しいって言ってたんでしょ。」
「そうなんだけど。今まで付き合ったことないし、後輩の子は後輩としか見てなかったからどうしようって思って。」
「それで、何でここにいるの。」
「メッセージのやり取りしてると、いつもドキドキハラハラしたり、急に胸が締め付けられる感じがするから外の空気吸おうと思って。」
「お前、それ。恋だろ。ちゃんとお前も相手のこと好きって証拠じゃん。」
小宮山の話に長島はハッとした。
「これが、好きってこと?」
「あぁ。俺、親から言われたことがあるんだ。」
「言われたこと?」
普段、自分のこと話すことはない小宮山がおもむろに自分のことを話始めた。
「俺の両親は、結婚相談所通じてのお見合いで結婚したらしいんだけど、お互い、これが最後ってタイミングだったから、条件に近いしってことで、結婚したから、最初はお互い好きか分からないままだったらしいんだ。」
「うん。」
「でも、とりあえず一緒に住んでみたら、お互いがお互いの好きになりそうな所を次第に見つかるようになって、そうしたらお互いが信頼出来る関係になって、好きになっていったみたいなんだ。」
「へぇ~。」
「で、親が口酸っぱく言っていたのは、友情は育てるもの。愛情は育くむもの。ってこと。」
長島は理解が追いついてない。
「どういうこと?」
「そう思うだろ。俺も同じように聞いたんだ。そうしたら、友情はお互いに信頼を信用に育っていくもの。愛情はお互いに信頼を信用に育てるのに加えて、安心出来る時間と空間を二人で共有して育てていくもの。らしい。」
「友情は、何となく分かるけど。愛情は未だ分からないな。」
長島は首を傾げる。
「だろうね。俺もよく分かってないんだ。これまで何人かと恋仲になったことはあるけど、お互いを信頼することっていうのが難しくて、信用する所までいかないで終わってしまってるからね。それでも好きになることは少し分かってきたつもりだよ。自分なりにね。」
「そうなんだ。僕も小宮山の親さんの言う、愛情。分かるようになるのかな。」
「大丈夫だよ。ただ、これは結果に急いだら見失うみたいだから、自分のペースで長い目で見るのが良いみたい。」
「分かった。」
長島は咥えていたタバコを灰皿に捨てて事務所に戻った。
「友情は育てるもの、愛情は育くむもの。」という小宮山から聞いた話が長島の頭の中にずっとある。いつものように接していても、どうしてもその事が頭から離れない。事務所に戻った長島は、パソコンで業務日誌をやったあと、駐車場に行ってボトルカーの点検と洗車に取り掛かった。洗車中に絵里から返信が来た。
「御朱印巡りが良いです。一緒に巡りましょう。私、御朱印帳持ってますよ。」
絵里が返信してスマホをポケットにしまうと恵子がスタッフルームにやって来た。
「絵里さん、お疲れ様です。」
「恵子さん、お疲れ様。」
「今日来てた補充の人、見ました?」
「いやぁー。」
「あの人、私のこと好きなのかしら?」
(そんなわけ、ないでしょ。明らかに助けを求めてる顔だったわよ。)
「恵子さん、挨拶だけなら良いけど、それ以上は相手も仕事があるから迷惑だろうから、気をつけてね。」
「えー。」
「えー、じゃなくて。あなたも仕事があるんだから不必要に喋ってばかりいないの。」
「はーい。」
恵子は、聞き流すように自分の荷物を持って部屋を出た。
絵里は、そんな恵子の後ろ姿に違和感を覚えた。
(怪しい、、、。伸幸さんのこと、狙ってるよね、あれ。なんとしても、死守しないと。)
それからの恵子は、最低限の事だけやってそれ以外は長島の事ばかりを気にしてる様子だった。
(やっぱり、怪しい、、、。伸幸さんに連絡しなきゃ。)
絵里は、取り急ぎ伸幸に連絡した。
「伸幸さん、あなたの事を執拗に標的にしてるスタッフがいるので、来られる時は注意してください。」
長島が絵里のメッセージに気づいたのは、仕事が終わった19時頃のことだった。
「どういうことだろう。」
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