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7年前
04.
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「あっそうだ、サッカーしようよ! そりゃ、ムズカシイ本読んだりすんのもおもしれーけど、みんなでわいわい遊んだらもっと楽しいと思うし……あっもしかしたら、おまえもホントのホントに、笑えるかもしれないぜ?」
名案だと思った。
姫宮の、口が半開きになった顔がちょっと間抜けにみえて、目を細める。こんな顔もできるんだ、だったらいつもの胡散臭い笑みより心から笑ったほうが、今よりもずっとずっと──可愛いだろうに。
「な、おまえデビハンって知ってる? デビルズハンターっていう最近流行ってるゲームでさ、俺星の砂とか集めんのすっげ~得意なんだ、教えてやるよ! あ、俺の友達もけっこー面白い奴多いんだ。太田春政って奴はさ、意外とジャンプ力が高くてぇ、あと金子しょーたはオナラの音がバキュームカーみたいにうるさくてさ」
べらべらと喋っていた言葉は、途中で奪われた。
「なんなんだ君は」
「姫宮?」
姫宮は、唖然としているらしかった。
「……なんなんだよ」
姫宮が俯いた。サラサラの黒髪がはらりと落ちて、顔が見えない。
「そうか、やっとわかったよ」
「なに、が?」
「どうしてこんなにも、君のことが気に食わないのか」
「え……」
顔を上げた姫宮は、まさに「冷笑」そのものみたいな笑みを浮かべていた。
「一つ、いいことを教えてあげるよ」
とん、とん、と姫宮が階段を降りてくる。
「僕は別に誰のことも嫌いじゃないよ。だってどうでもいいからね。誰が生きようが死のうが僕の知ったことじゃないもの」
姫宮の表情は崩れない。冷たいままだ。
「でも君は違う、たった今確信したよ。僕は君が大嫌いだ。心底不快だね。土足で人のココロにずかずか入ってこようとする、無神経極まりない君が」
伸ばした手を、力いっぱい払いのけられた。バン、と強い音がして、ぶらんと腕が落ちた。
「友達だって? 誰がなるかよおまえなんかと」
姫宮の顔から、表情の一切がかき消えた。
「目ざわりだ。もう二度と僕に話しかけてくるなよ──橘、透愛」
最後の段を降り、横を通り過ぎていく姫宮を振り返ることはできなかった。
ぽたぽたと涙が溢れて止まらない。
俺はその場で蹲り、泣いた。
きっぱりと拒絶されたことで深く自覚した。
笑えよ、なんて強制するつもりはなかった。たぶん俺は、姫宮の本当の笑顔が見たかったのだ。
馬鹿な声のかけ方をして、そんな未来は自らの手で潰してしまったけれど。
*
この日を境に、身の回りで不可解なことが起こり始めた。
頻繁に物を無くすようになった。リップクリーム、消しゴム、ハンカチ、その他諸々。そそっかしい自分のことだ、最初はただの不注意かと思ったが、不思議なことに数日経つとそれらが見つかるのだ。
しかもしっかり探して、見つからなかった場所で。
学校に置き忘れたスプーンセットが左右逆になっていたことで、流石におかしいと思い始め……ある日、俺は見てしまった。放課後の誰もいない教室で、誰かが俺の机の中を漁っているのを。
次の日確認してみれば、入れておいたはずの鉛筆が一本無くなっていた。
まさか、嫌がらせなんてする奴には見えなかったので、ショックだった。
それほどまでに嫌われてしまったなんて。
──俺の机を漁っていたのは、姫宮だった。
信じられなかった。けれども目の前の光景は真実だった。
もちろん、このことは誰にも話さなかったし、姫宮に問いただすこともしなかった。
元はと言えば、酷いことを言った俺が悪いのだから。
それに、二度と話しかけるなと言われてしまったので、自分から声をかけに行くのも勇気がいる。
また、嫌がらせ自体は些細なものだ。取られたものは数日で返ってくるし、イジメ……と呼ぶにも被害が小さすぎる。まぁ、しばらくすれば姫宮もバカなことは止めて落ち着くだろうと、表面上は相も変わらず騒がしい俺と、皆に笑顔を向ける優しい姫宮。
お互いにただのクラスメイトとして、これまで通り関わることなく迎えた夏休み前日。
事件は、起こった。
名案だと思った。
姫宮の、口が半開きになった顔がちょっと間抜けにみえて、目を細める。こんな顔もできるんだ、だったらいつもの胡散臭い笑みより心から笑ったほうが、今よりもずっとずっと──可愛いだろうに。
「な、おまえデビハンって知ってる? デビルズハンターっていう最近流行ってるゲームでさ、俺星の砂とか集めんのすっげ~得意なんだ、教えてやるよ! あ、俺の友達もけっこー面白い奴多いんだ。太田春政って奴はさ、意外とジャンプ力が高くてぇ、あと金子しょーたはオナラの音がバキュームカーみたいにうるさくてさ」
べらべらと喋っていた言葉は、途中で奪われた。
「なんなんだ君は」
「姫宮?」
姫宮は、唖然としているらしかった。
「……なんなんだよ」
姫宮が俯いた。サラサラの黒髪がはらりと落ちて、顔が見えない。
「そうか、やっとわかったよ」
「なに、が?」
「どうしてこんなにも、君のことが気に食わないのか」
「え……」
顔を上げた姫宮は、まさに「冷笑」そのものみたいな笑みを浮かべていた。
「一つ、いいことを教えてあげるよ」
とん、とん、と姫宮が階段を降りてくる。
「僕は別に誰のことも嫌いじゃないよ。だってどうでもいいからね。誰が生きようが死のうが僕の知ったことじゃないもの」
姫宮の表情は崩れない。冷たいままだ。
「でも君は違う、たった今確信したよ。僕は君が大嫌いだ。心底不快だね。土足で人のココロにずかずか入ってこようとする、無神経極まりない君が」
伸ばした手を、力いっぱい払いのけられた。バン、と強い音がして、ぶらんと腕が落ちた。
「友達だって? 誰がなるかよおまえなんかと」
姫宮の顔から、表情の一切がかき消えた。
「目ざわりだ。もう二度と僕に話しかけてくるなよ──橘、透愛」
最後の段を降り、横を通り過ぎていく姫宮を振り返ることはできなかった。
ぽたぽたと涙が溢れて止まらない。
俺はその場で蹲り、泣いた。
きっぱりと拒絶されたことで深く自覚した。
笑えよ、なんて強制するつもりはなかった。たぶん俺は、姫宮の本当の笑顔が見たかったのだ。
馬鹿な声のかけ方をして、そんな未来は自らの手で潰してしまったけれど。
*
この日を境に、身の回りで不可解なことが起こり始めた。
頻繁に物を無くすようになった。リップクリーム、消しゴム、ハンカチ、その他諸々。そそっかしい自分のことだ、最初はただの不注意かと思ったが、不思議なことに数日経つとそれらが見つかるのだ。
しかもしっかり探して、見つからなかった場所で。
学校に置き忘れたスプーンセットが左右逆になっていたことで、流石におかしいと思い始め……ある日、俺は見てしまった。放課後の誰もいない教室で、誰かが俺の机の中を漁っているのを。
次の日確認してみれば、入れておいたはずの鉛筆が一本無くなっていた。
まさか、嫌がらせなんてする奴には見えなかったので、ショックだった。
それほどまでに嫌われてしまったなんて。
──俺の机を漁っていたのは、姫宮だった。
信じられなかった。けれども目の前の光景は真実だった。
もちろん、このことは誰にも話さなかったし、姫宮に問いただすこともしなかった。
元はと言えば、酷いことを言った俺が悪いのだから。
それに、二度と話しかけるなと言われてしまったので、自分から声をかけに行くのも勇気がいる。
また、嫌がらせ自体は些細なものだ。取られたものは数日で返ってくるし、イジメ……と呼ぶにも被害が小さすぎる。まぁ、しばらくすれば姫宮もバカなことは止めて落ち着くだろうと、表面上は相も変わらず騒がしい俺と、皆に笑顔を向ける優しい姫宮。
お互いにただのクラスメイトとして、これまで通り関わることなく迎えた夏休み前日。
事件は、起こった。
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