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落ちた花火
05.
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「乗れ」
しかも食い気味に二回言われた。
「い……いきなり、なんでおんぶなんだよ」
「歩けないだろう」
「歩けるよ」
「嘘をつけ、まだ震えている。どうせ自分の体を支えきれず階段から転がり落ちるのが関の山だ」
転がり落ちるってフレーズ、こいつ大好きだな。
「いや、そもそも無理だろ。大の男が男をおんぶとか。俺ら体重そんな変わんないじゃん」
「夢を見るのは結構だが、僕の方が確実に重いぞ」
「……俺175あるんだけど」
「僕は181ある。6cmも高い」
「親指一本ぐらいの差だろーが」
「指一本でも6cmは6cmだ」
「……数年でタケノコみたいにニョキニョキ伸びやがって」
「それは君もだろう」
それもそうだ。姫宮は俺より早く伸び始めたけれど、俺の追いかけっぷりも半端なかった。高校2年の終わりごろから、1年かけてぐんぐん伸びたのだ。
それこそ、今の瀬戸ぐらいの身長から今の身長へと。
成長痛が酷くて酷くて透貴に泣きついたっけな。
姫宮とも顔を合わせるたびに、「……随分と伸びたな」なんて驚かれたぐらいだ。
その頃からかな、姫宮の俺への態度のそっけなさがさらに加速したのは。
華奢な少年から大人の男になっていく俺の姿に、嫌悪感なるものを抱かれていたのかもしれない。
そんなの、姫宮は絶対に表には出してこないけど。
「いいから早くしろ。それとも僕に首根っこを掴まれて引きずられたいのか?」
姫宮は頭を下げた状態でじっと待ち続けている。
下手に身体を支えて歩くより、背中に乗せた方が楽なのかもしれない。
さっきみたいに突っぱねることもできるけれど、これ以上ガキみたいに姫宮に当たり散らして駄々をこねる自分というのも、情けない。
「……クソ、ダッセぇな俺。すげーかっこわりィ……」
鼻を啜ってそう独り言を呟いても、姫宮は何も言わない。
立ち上がる気配もなく、時間だけが過ぎる一方だった。
それにこれまた情けないことに、まともに歩けないことも事実なのだ。姫宮の予想通り、足を踏み外してこの長い階段から二人そろって転がり落ちてしまうかもしれない。
そろりと、見慣れた背に手を伸ばす。
腿の裏にしっかりと腕を回され、ぐっと姫宮が立ち上がった。
「わっ……」
ずり落ちないよう慌てて肩に手を置く。
思ったより高く感じるのは、姫宮の腰の位置が高いからだろう……悔しいが、俺よりも。
「ちょ、ちょっと待って、高いって」
「慣れろ」
素っ気なく言い切った姫宮は、重さなんて全く感じさせないぐらいのスピードでさっさと歩き始めた。
しかも階段を降りていくのではなく、暗い横道へ。
最初はちょっとぐらぐらしたが、肩が意外とガッチリしているのですぐに安定した。背恰好は俺とそんなに変わらないはずなのに、姫宮は息ひとつ乱れない。
流石はαだ。俺は女の子はともかく、姫宮をおぶさって歩くなんてことはできやしないだろう。
「な、なあ、どこ目指してんだよ。こっち帰りの方向じゃねーよな? もしかして近道?」
やはり、姫宮からの答えはない。
はぁ、とため息を吐く。返答を求めることは諦めた。
規則正しく上下に揺られながら、普段は見ることのない姫宮のつむじをぼんやりと見下ろす。なんだか変な感じだ。大学生にもなって誰かにおんぶしてもらうことになるとは思わなかった。
こんなことをされるのはいつぶりだろう。というか、透貴にしかおんぶしてもらったことがない。
今日の男たちだって、姫宮みたいに大の男を背負えるほどの力を持っているだろうに。
どうして傷つける方にしか、その力を向けられないんだろう。
「あいつら、大丈夫かな……」
「あいつらって?」
ある程度進んだところで、ようやく姫宮が口を開いた。
驚いた。まさかそこに反応されるとは。
「今日のやつらだよ」
「なんだ、またお得意の心配か?」
「だから違ぇって。おまえ、あんなとことしてよかったのかよ」
「あんなことって」
「全員ぶちのめしちまったじゃん……あいつらすげぇ怪我だったぞ。もしも誰かにチクられでもしたら」
「それはない。彼らは両親にバレることを何よりも恐れている。なんの勝算もなしにしたわけじゃない」
「……じゃあなんであいつら、あんなことしてんだろーな」
一体、どんな理由があって。
「憂さ晴らしだろうね」
「うさばらし……」
あの学校で髪を染めている生徒なんて見たことなかったけど──ああそうか、今になって思えば、あれはスプレーかなんかだったのかもしれない。発色が弱いような気がした。
「君は、彼らの八つ当たりに巻き込まれただけだ」
地元とは遠いここで、自分を誰も知らないであろうこの場所で。
彼らはわざわざあんな格好で、憂さ晴らしをしているのか。
しかも食い気味に二回言われた。
「い……いきなり、なんでおんぶなんだよ」
「歩けないだろう」
「歩けるよ」
「嘘をつけ、まだ震えている。どうせ自分の体を支えきれず階段から転がり落ちるのが関の山だ」
転がり落ちるってフレーズ、こいつ大好きだな。
「いや、そもそも無理だろ。大の男が男をおんぶとか。俺ら体重そんな変わんないじゃん」
「夢を見るのは結構だが、僕の方が確実に重いぞ」
「……俺175あるんだけど」
「僕は181ある。6cmも高い」
「親指一本ぐらいの差だろーが」
「指一本でも6cmは6cmだ」
「……数年でタケノコみたいにニョキニョキ伸びやがって」
「それは君もだろう」
それもそうだ。姫宮は俺より早く伸び始めたけれど、俺の追いかけっぷりも半端なかった。高校2年の終わりごろから、1年かけてぐんぐん伸びたのだ。
それこそ、今の瀬戸ぐらいの身長から今の身長へと。
成長痛が酷くて酷くて透貴に泣きついたっけな。
姫宮とも顔を合わせるたびに、「……随分と伸びたな」なんて驚かれたぐらいだ。
その頃からかな、姫宮の俺への態度のそっけなさがさらに加速したのは。
華奢な少年から大人の男になっていく俺の姿に、嫌悪感なるものを抱かれていたのかもしれない。
そんなの、姫宮は絶対に表には出してこないけど。
「いいから早くしろ。それとも僕に首根っこを掴まれて引きずられたいのか?」
姫宮は頭を下げた状態でじっと待ち続けている。
下手に身体を支えて歩くより、背中に乗せた方が楽なのかもしれない。
さっきみたいに突っぱねることもできるけれど、これ以上ガキみたいに姫宮に当たり散らして駄々をこねる自分というのも、情けない。
「……クソ、ダッセぇな俺。すげーかっこわりィ……」
鼻を啜ってそう独り言を呟いても、姫宮は何も言わない。
立ち上がる気配もなく、時間だけが過ぎる一方だった。
それにこれまた情けないことに、まともに歩けないことも事実なのだ。姫宮の予想通り、足を踏み外してこの長い階段から二人そろって転がり落ちてしまうかもしれない。
そろりと、見慣れた背に手を伸ばす。
腿の裏にしっかりと腕を回され、ぐっと姫宮が立ち上がった。
「わっ……」
ずり落ちないよう慌てて肩に手を置く。
思ったより高く感じるのは、姫宮の腰の位置が高いからだろう……悔しいが、俺よりも。
「ちょ、ちょっと待って、高いって」
「慣れろ」
素っ気なく言い切った姫宮は、重さなんて全く感じさせないぐらいのスピードでさっさと歩き始めた。
しかも階段を降りていくのではなく、暗い横道へ。
最初はちょっとぐらぐらしたが、肩が意外とガッチリしているのですぐに安定した。背恰好は俺とそんなに変わらないはずなのに、姫宮は息ひとつ乱れない。
流石はαだ。俺は女の子はともかく、姫宮をおぶさって歩くなんてことはできやしないだろう。
「な、なあ、どこ目指してんだよ。こっち帰りの方向じゃねーよな? もしかして近道?」
やはり、姫宮からの答えはない。
はぁ、とため息を吐く。返答を求めることは諦めた。
規則正しく上下に揺られながら、普段は見ることのない姫宮のつむじをぼんやりと見下ろす。なんだか変な感じだ。大学生にもなって誰かにおんぶしてもらうことになるとは思わなかった。
こんなことをされるのはいつぶりだろう。というか、透貴にしかおんぶしてもらったことがない。
今日の男たちだって、姫宮みたいに大の男を背負えるほどの力を持っているだろうに。
どうして傷つける方にしか、その力を向けられないんだろう。
「あいつら、大丈夫かな……」
「あいつらって?」
ある程度進んだところで、ようやく姫宮が口を開いた。
驚いた。まさかそこに反応されるとは。
「今日のやつらだよ」
「なんだ、またお得意の心配か?」
「だから違ぇって。おまえ、あんなとことしてよかったのかよ」
「あんなことって」
「全員ぶちのめしちまったじゃん……あいつらすげぇ怪我だったぞ。もしも誰かにチクられでもしたら」
「それはない。彼らは両親にバレることを何よりも恐れている。なんの勝算もなしにしたわけじゃない」
「……じゃあなんであいつら、あんなことしてんだろーな」
一体、どんな理由があって。
「憂さ晴らしだろうね」
「うさばらし……」
あの学校で髪を染めている生徒なんて見たことなかったけど──ああそうか、今になって思えば、あれはスプレーかなんかだったのかもしれない。発色が弱いような気がした。
「君は、彼らの八つ当たりに巻き込まれただけだ」
地元とは遠いここで、自分を誰も知らないであろうこの場所で。
彼らはわざわざあんな格好で、憂さ晴らしをしているのか。
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