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姫宮 樹李
03.
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持って生まれた才能は、努力なくしては磨かれない。
姫宮って可愛いよな。姫宮くんって優しくて親切だよね。お姫様みたい……綺麗な笑顔ねぇ。
老若男女問わずかけられ続ける賛辞の声に、自分の笑顔は完璧なのだと自負していた。
それこそ、欠け一つ見当たらないダイヤモンドのように。
それなのに目の前の生き物は、僕の日々の努力の結晶たる「笑顔」を、歪だという。
我慢ならなかった。心底腹立たしかった。
こんな屈辱が、他にあるか。
「ひ……姫宮?」
「ウソ、歪!? 君如きに、僕の何がわかるっていうんだ! どうして僕が君たちと関わらないのかわからない? 無意味だからだよっ、ただでさえ頭が空っぽなガキと同じ空気を吸うのもうんざりしてるっていうのに、毎日毎日馬鹿の一つ覚えみたいに姫宮くん姫宮くんって、いい加減目障りなんだよ!」
ありったけの罵声を浴びせながら、僕は自分の中でぐるぐる渦巻いていた黒い激情を、初めて自覚した。
「ガ、ガキって、おまえもガキじゃね……?」
「僕が? はは、笑わせるなよ。会社の跡を継ぐ者として僕にはやるべきことが山ほどある。この一瞬をただ楽しく生きていればいいみたいな能天気な君とは違う!」
完璧であれと、父からは毎日のように言われていた。うんざりするような、つまらない時間が過ぎるだけの毎日。その上家に帰れば勉強、勉強、勉強と、習い事の連続。
生きていて、何かに心動かされたことなどない。
大して苦痛には感じていなかった。
けれども本当は、そう思っていただけだ。
僕はずっと、平気なフリをしていただけだ。
心の奥底には、「姫宮家の長男」として生まれた重圧が、どんどん圧し掛かっていたのだ。
「それなのになに、疲れないのだって? はっ……黙れよ、虫唾が走る」
誰かに声を張り上げた行為自体初めてで、少し疲れた。まさか自分に、こんな痛みに震えるような感情が眠っていただなんて。
「む……むしずがはしるってなに?」
しかし、すぐに力が抜けた。
「……これ以上君と話していると僕が馬鹿になる」
心からの本音だった。
どうして、こんな馬鹿中の馬鹿みたいなやつに心動かされてしまったのかと頭が痛くなる。時間の無駄だった、早く家に帰って塾の予習をしよう。
それなのに。
「あっ──あは、あははっ!」
突然目の前の生き物が、大口を開けて笑い出したのだ。
これには、先程とは比べものにならないほど、驚いた。
「な、なんだよぉ、おま、おまえ、めちゃくちゃ性格悪くね?」
「な、に」
「ぜんっぜんお姫さまじゃないじゃん! あーびっくりしたぁ」
頬が引き攣る。
面と向かって性格が悪いと一刀両断されたのも、初めてだった。でもここはもう言い訳はできない。
「……だったらなんだって言うんだ。言いふらしたければすればいい。まぁ日ごろの行いからすれば、僕と君の言葉、周囲がどちらを信じるかは明白だろうけどね。鬼の首取ったつもりでいるところ悪いけど」
「違うって、そうじゃなくてさ!」
何が違うというのか、その生き物はぶんぶんと大げさに手を振って。
「おまえってさ、すっげー面白い奴だったんだな」
「──は?」
「あーなんか納得した! 今のさ、今までで一番おまえっぽいよ、うん、ぜんっぜんイビツくない」
そんな動詞の使い方があるか。
一歩だけ後退る。だがここは踊り場、背後は窓だ。
きっとその時の僕は、信じられないものを見るような目でそいつを凝視していたに違いない。
たった今、性格が悪いと言われ、お姫さまじゃないと言われ、それでいて面白い奴だと言われた。
今のが一番、僕らしいと。
しかも、挙句の果てには。
「おまえ、キレイだな」
「……っ」
「なぁ、俺おまえと友達になりたい」
階段下にいるそいつが、うんっと手を伸ばしてきた。
その目は、僕の背後から差し込む夕日に照らされて、オレンジ色にキラキラ輝いていて。
「今からいっしょに、遊ばねぇ?」
それは、天地がぐるりとひっくり返ったのかと思うほどの、衝撃だった。
姫宮って可愛いよな。姫宮くんって優しくて親切だよね。お姫様みたい……綺麗な笑顔ねぇ。
老若男女問わずかけられ続ける賛辞の声に、自分の笑顔は完璧なのだと自負していた。
それこそ、欠け一つ見当たらないダイヤモンドのように。
それなのに目の前の生き物は、僕の日々の努力の結晶たる「笑顔」を、歪だという。
我慢ならなかった。心底腹立たしかった。
こんな屈辱が、他にあるか。
「ひ……姫宮?」
「ウソ、歪!? 君如きに、僕の何がわかるっていうんだ! どうして僕が君たちと関わらないのかわからない? 無意味だからだよっ、ただでさえ頭が空っぽなガキと同じ空気を吸うのもうんざりしてるっていうのに、毎日毎日馬鹿の一つ覚えみたいに姫宮くん姫宮くんって、いい加減目障りなんだよ!」
ありったけの罵声を浴びせながら、僕は自分の中でぐるぐる渦巻いていた黒い激情を、初めて自覚した。
「ガ、ガキって、おまえもガキじゃね……?」
「僕が? はは、笑わせるなよ。会社の跡を継ぐ者として僕にはやるべきことが山ほどある。この一瞬をただ楽しく生きていればいいみたいな能天気な君とは違う!」
完璧であれと、父からは毎日のように言われていた。うんざりするような、つまらない時間が過ぎるだけの毎日。その上家に帰れば勉強、勉強、勉強と、習い事の連続。
生きていて、何かに心動かされたことなどない。
大して苦痛には感じていなかった。
けれども本当は、そう思っていただけだ。
僕はずっと、平気なフリをしていただけだ。
心の奥底には、「姫宮家の長男」として生まれた重圧が、どんどん圧し掛かっていたのだ。
「それなのになに、疲れないのだって? はっ……黙れよ、虫唾が走る」
誰かに声を張り上げた行為自体初めてで、少し疲れた。まさか自分に、こんな痛みに震えるような感情が眠っていただなんて。
「む……むしずがはしるってなに?」
しかし、すぐに力が抜けた。
「……これ以上君と話していると僕が馬鹿になる」
心からの本音だった。
どうして、こんな馬鹿中の馬鹿みたいなやつに心動かされてしまったのかと頭が痛くなる。時間の無駄だった、早く家に帰って塾の予習をしよう。
それなのに。
「あっ──あは、あははっ!」
突然目の前の生き物が、大口を開けて笑い出したのだ。
これには、先程とは比べものにならないほど、驚いた。
「な、なんだよぉ、おま、おまえ、めちゃくちゃ性格悪くね?」
「な、に」
「ぜんっぜんお姫さまじゃないじゃん! あーびっくりしたぁ」
頬が引き攣る。
面と向かって性格が悪いと一刀両断されたのも、初めてだった。でもここはもう言い訳はできない。
「……だったらなんだって言うんだ。言いふらしたければすればいい。まぁ日ごろの行いからすれば、僕と君の言葉、周囲がどちらを信じるかは明白だろうけどね。鬼の首取ったつもりでいるところ悪いけど」
「違うって、そうじゃなくてさ!」
何が違うというのか、その生き物はぶんぶんと大げさに手を振って。
「おまえってさ、すっげー面白い奴だったんだな」
「──は?」
「あーなんか納得した! 今のさ、今までで一番おまえっぽいよ、うん、ぜんっぜんイビツくない」
そんな動詞の使い方があるか。
一歩だけ後退る。だがここは踊り場、背後は窓だ。
きっとその時の僕は、信じられないものを見るような目でそいつを凝視していたに違いない。
たった今、性格が悪いと言われ、お姫さまじゃないと言われ、それでいて面白い奴だと言われた。
今のが一番、僕らしいと。
しかも、挙句の果てには。
「おまえ、キレイだな」
「……っ」
「なぁ、俺おまえと友達になりたい」
階段下にいるそいつが、うんっと手を伸ばしてきた。
その目は、僕の背後から差し込む夕日に照らされて、オレンジ色にキラキラ輝いていて。
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それは、天地がぐるりとひっくり返ったのかと思うほどの、衝撃だった。
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