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痛み
06.
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高校3年生に上がる前頃から橘の背はにょきにょきと伸び、まだまだ子どもっぽかった顔立ちも随分と精悍になった。
僕の方が身体の成長は早かったので、それまでは僕が屈まないと目線が合わなかった。
でも、隣に立つだけで顔がぐんと近くなった。
親指一本分の、とても近い距離。
わざわざ髪の隙間から盗み見なくても、彼の顔が細部まで見える。
その、ふわふわした産毛も。
薄い色合いの睫毛も、眉毛も。
こじんまりとした鼻も、ぽってりとした唇も。
外の光に反射してピカピカと光る目も、思春期になっておでこにできてしまってなかなか消えないと唸っていた、小さなニキビの痕だって。
そして、薄っすらと生え始めたらしい薄い髭の、ぼーっとしている時のちょっとした剃り残しまで。
こんなに幸せなこと、他になかった。
しかも大学入学を機に、橘は髪を明るく染めた。どうやらずっと染めてみたかったらしい。
確かに橘は私服のセンスがいい。おしゃれだ。もともと全体的に色素は薄い方だったけれど、透明感のあるブロンドは、ひまわりみたいに笑う彼によく似合っていた。
そんな橘と面と向かって顔を合わせるたびに、僕はずっと、ずうっと、彼に見惚れていた。
『……なんだよ、変かよ』
僕の視線に気づいた橘は、むぅっと頬を膨らませてくるくると明るい髪を弄りながら不貞腐れた。
──この可愛すぎる男は何度僕を殺す気だ。
こんなんじゃ、僕以外の誰かに食べられてしまうかもしれない。
その前に僕が相手の喉を掻っ切るけれども。
「……別に変ではないけど、しいて言うなら軽薄そうに見えるかな。もう少し暗い色はなかったのか?」
『おまっ軽薄って……もっと他に言いようあんだろ?』
がぅっと吠える姿も、愛らしくて可愛いだなんて。
ズルい。一体どれだけ僕を骨抜きにすれば気がすむんだこの男は。
「じゃあなんて言えばいいんだ。君が望む答えを僕が言わない限りこの言い合いは終わらないと思うけど?」
『あーもういい、おまえに聞いた俺が馬鹿だった!』
あーと唸って頭を掻く君に、本当は似合うよって伝えてあげたい。べっこう飴みたいな色をしてるから舐めてみたいなって、言ってしまいたい。
「なに?」
『なっ、なんでもねぇよ』
じっと顔を盗み見られていたことには気づいていた。でもこれ以上彼に凝視されたら、僕は。
「あまり人の顔を不躾に見ないでくれないかな。君に見られていると思うと落ち着かない。君は自分がされたら嫌なことを人にするの?」
橘には罰の悪そうな顔をさせてしまったけれど、でも、本音なんて言えるわけがないのだ。
きっと僕の浮ついた声の隅々からは、彼への気持ちが溢れてしまうだろうから。
だから成長した橘とは、余計に目が合わせられなくなった。
つれなくしたいわけじゃないのに、ついついそっけなくしてしまう。
言葉にできない代わりに、いっそのこと君を腕に閉じ込めて骨ごとへし折ってやろうか。
その身体の内側で脈打つ心臓、そして全ての臓腑を粉々に砕いて潰して、君の肉片を飲み込んでこの身の一部にしてしまいたい。
それか僕を砕いて、君に余すところなく食べてもらいたい。
君の胸の奥で、君を生かすために鼓動を刻む心臓にさえ嫉妬する。
君は、僕のモノにはならない。
なってはくれない。
だからいつか、君の心臓に生まれ変われたらいいのに。
そうすれば橘の死とともにこの身も亡ぶ。
それはあまりにも、甘美な夢だった。
僕の方が身体の成長は早かったので、それまでは僕が屈まないと目線が合わなかった。
でも、隣に立つだけで顔がぐんと近くなった。
親指一本分の、とても近い距離。
わざわざ髪の隙間から盗み見なくても、彼の顔が細部まで見える。
その、ふわふわした産毛も。
薄い色合いの睫毛も、眉毛も。
こじんまりとした鼻も、ぽってりとした唇も。
外の光に反射してピカピカと光る目も、思春期になっておでこにできてしまってなかなか消えないと唸っていた、小さなニキビの痕だって。
そして、薄っすらと生え始めたらしい薄い髭の、ぼーっとしている時のちょっとした剃り残しまで。
こんなに幸せなこと、他になかった。
しかも大学入学を機に、橘は髪を明るく染めた。どうやらずっと染めてみたかったらしい。
確かに橘は私服のセンスがいい。おしゃれだ。もともと全体的に色素は薄い方だったけれど、透明感のあるブロンドは、ひまわりみたいに笑う彼によく似合っていた。
そんな橘と面と向かって顔を合わせるたびに、僕はずっと、ずうっと、彼に見惚れていた。
『……なんだよ、変かよ』
僕の視線に気づいた橘は、むぅっと頬を膨らませてくるくると明るい髪を弄りながら不貞腐れた。
──この可愛すぎる男は何度僕を殺す気だ。
こんなんじゃ、僕以外の誰かに食べられてしまうかもしれない。
その前に僕が相手の喉を掻っ切るけれども。
「……別に変ではないけど、しいて言うなら軽薄そうに見えるかな。もう少し暗い色はなかったのか?」
『おまっ軽薄って……もっと他に言いようあんだろ?』
がぅっと吠える姿も、愛らしくて可愛いだなんて。
ズルい。一体どれだけ僕を骨抜きにすれば気がすむんだこの男は。
「じゃあなんて言えばいいんだ。君が望む答えを僕が言わない限りこの言い合いは終わらないと思うけど?」
『あーもういい、おまえに聞いた俺が馬鹿だった!』
あーと唸って頭を掻く君に、本当は似合うよって伝えてあげたい。べっこう飴みたいな色をしてるから舐めてみたいなって、言ってしまいたい。
「なに?」
『なっ、なんでもねぇよ』
じっと顔を盗み見られていたことには気づいていた。でもこれ以上彼に凝視されたら、僕は。
「あまり人の顔を不躾に見ないでくれないかな。君に見られていると思うと落ち着かない。君は自分がされたら嫌なことを人にするの?」
橘には罰の悪そうな顔をさせてしまったけれど、でも、本音なんて言えるわけがないのだ。
きっと僕の浮ついた声の隅々からは、彼への気持ちが溢れてしまうだろうから。
だから成長した橘とは、余計に目が合わせられなくなった。
つれなくしたいわけじゃないのに、ついついそっけなくしてしまう。
言葉にできない代わりに、いっそのこと君を腕に閉じ込めて骨ごとへし折ってやろうか。
その身体の内側で脈打つ心臓、そして全ての臓腑を粉々に砕いて潰して、君の肉片を飲み込んでこの身の一部にしてしまいたい。
それか僕を砕いて、君に余すところなく食べてもらいたい。
君の胸の奥で、君を生かすために鼓動を刻む心臓にさえ嫉妬する。
君は、僕のモノにはならない。
なってはくれない。
だからいつか、君の心臓に生まれ変われたらいいのに。
そうすれば橘の死とともにこの身も亡ぶ。
それはあまりにも、甘美な夢だった。
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