夏の嵐

宝楓カチカ🌹

文字の大きさ
194 / 227
透愛と樹李

15.

しおりを挟む

「橘」
「ん……?」

 しょりしょりする髭の手触りが気持ちよくて、触り続けていると。

「……僕は、性格だって悪いし、口も悪い。人を人とも思わない発言を、よくする」
「うん、知ってる」
「本当は寝相も悪くて、ベッドからよく回転しながら転がり落ちるんだ」
「んぁ?」
「食べ物の好き嫌いだって激しいし、自分の望む通りにことが運ばないとすぐにイライラしてしまう。全くもって忍耐強くもないし、絶叫系のアトラクションにだって、本当のことを言うと乗りたくない」
「お……おう、俺は絶叫系大好きだぞ」
「言われなくても知ってるよそんなこと」

 さわさわしていた手を止める。
 急に不機嫌になられたし、なんの話だと突っ込むのは置いておいた。なんとなく、姫宮がよく「転がり落ちる」というフレーズを多用していた理由を理解はした。
 本当に転がり落ちる系男子だったのか。
 一緒に同じベッドで寝ることなんてほとんどなくて、知らなかった。
 番なのに、知らないことだらけだなぁ。

「だから……僕のいいところなんて、姫宮の家と、帝東大レベルの頭の良さと、商談の才能と先見の明と、美しいこの顔ぐらいで」
「それ自分で言うか?」
「事実だもの」

 こいつって、意外と自分の顔面に自信持ちまくってるよな。まぁでも、だから子どもの頃から、その悪魔的な可愛さでもって「笑顔」を連発して渡り歩いてきたんだろうしな。

「君は僕のことを、憎んでいるだろう」
「……憎んでねぇっつったろ?」
「でも僕は、自分を許せない」
「俺がいいって言っても?」
「ああ。だって僕はそもそも、君に好かれるような人間じゃない──僕はこの7年間、君に謝ることさえできなかった……」

 姫宮が、何度か長い睫毛を震わせた。

「なんで僕にできないことを、君はそんな簡単にしてしまえるんだろうって……君が、あまりにも眩しくて、余計に何も言えなくなった……」


 ──どうして君が謝るの、と、姫宮はよく口にしていた。


「だから僕みたいな、他者の気持ちを考えられない薄情な人間は、君みたいな人を好きになっちゃいけないと、思ったんだ。この気持ちはずっとずっと、隠し通していかなきゃって……」
「ダメだ隠すな、全部見せろよ」

 姫宮が少し顔を上げたので、ぱさりと垂れた姫宮の髪を、耳にかけてやる。
 この美しい顔が、隠れてしまわぬように。

「お互い隠したままじゃしんどいだろ。だからもう隠し事は無しだ……わかったか?」

 姫宮の唇が、「うん」と、救いを求めるように震えた。

「──僕は君以外、どうでもいいんだ。これまでも、きっとこれからも。それにとても嫉妬深い……君が思っている以上にね。強欲だから、一度触れることが叶えばきっと君の全てがほしくなる。爪のひと欠片も余すところなく」

 姫宮はまだ、俺がしているように自分から触れてはくれない。しないようにと、自分を律しているようだ。だから俺が、姫宮の顔に、首に、肩に触れてやる。

「だから、全部やるって言ってんだろ?」
「軽率にそういうことを言わない方がいい──また、壊してしまうよ」

 静かに細められた黒い瞳が、揺れた。

「嫌なんだ、二度と君を壊したくない……わかるだろう? 僕はね、性根のねじ曲がったどうしようもない男なんだ。君に見合うだけの人間になれる自信が、ない。君の傍にいればいるだけ、僕の身勝手さで君のことを傷つけてしまうかもしれない」

 驚いた。そんなことを考えていたのか。

「僕は、君にだけ頭がおかしい……」

 うん、それは知ってる。おまえの異常さは、もう骨の髄まで身に染みている。

「そんな僕だけれど、いいのだろうか……橘」

 姫宮が、じっくりと瞬きをした。
 目の淵に残っていた透明で綺麗な雫が、斜めに零れ落ちる。流れ星みたいだななんて、場違いにも思った。



「僕は君に、恋をし続けても、いいのだろうか……?」


 
 ──普段は傲慢極まりない男なのに、どうしてこういう時ばかり真っすぐに俺を見てくるのかな。
 唇の端が別の意味で震え、鼻の奥が更に痛くなった。



しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

短編集

ミカン
BL
一話完結のBL小説の短編集です

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

幼馴染みが屈折している

サトー
BL
「どの女もみんな最低だったよ。俺がちょっと優しくしただけで、全員簡単に俺なんかと寝てさ」 大学生の早川 ルイは、幼馴染みのヒカルに何をやっても勝てないといつも劣等感を感じていた。 勉強やスポーツはもちろんヒカルの方ができる、合コンはヒカルのオマケで呼ばれるし、好みの女子がいても皆ヒカルの方にとられてしまう。 コンプレックスを拗らせる日々だったが、ある日ヒカルの恋愛事情に口を挟んだことから急速に二人の関係は変化していく。 ※レオとルイが結ばれるIFエピソードについては「IF ROOT」という作品で独立させました。今後レオとのエピソードはそちらに投稿します。 ※この作品はムーンライトノベルズにも投稿しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...