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透愛と樹李
15.
しおりを挟む「橘」
「ん……?」
しょりしょりする髭の手触りが気持ちよくて、触り続けていると。
「……僕は、性格だって悪いし、口も悪い。人を人とも思わない発言を、よくする」
「うん、知ってる」
「本当は寝相も悪くて、ベッドからよく回転しながら転がり落ちるんだ」
「んぁ?」
「食べ物の好き嫌いだって激しいし、自分の望む通りにことが運ばないとすぐにイライラしてしまう。全くもって忍耐強くもないし、絶叫系のアトラクションにだって、本当のことを言うと乗りたくない」
「お……おう、俺は絶叫系大好きだぞ」
「言われなくても知ってるよそんなこと」
さわさわしていた手を止める。
急に不機嫌になられたし、なんの話だと突っ込むのは置いておいた。なんとなく、姫宮がよく「転がり落ちる」というフレーズを多用していた理由を理解はした。
本当に転がり落ちる系男子だったのか。
一緒に同じベッドで寝ることなんてほとんどなくて、知らなかった。
番なのに、知らないことだらけだなぁ。
「だから……僕のいいところなんて、姫宮の家と、帝東大レベルの頭の良さと、商談の才能と先見の明と、美しいこの顔ぐらいで」
「それ自分で言うか?」
「事実だもの」
こいつって、意外と自分の顔面に自信持ちまくってるよな。まぁでも、だから子どもの頃から、その悪魔的な可愛さでもって「笑顔」を連発して渡り歩いてきたんだろうしな。
「君は僕のことを、憎んでいるだろう」
「……憎んでねぇっつったろ?」
「でも僕は、自分を許せない」
「俺がいいって言っても?」
「ああ。だって僕はそもそも、君に好かれるような人間じゃない──僕はこの7年間、君に謝ることさえできなかった……」
姫宮が、何度か長い睫毛を震わせた。
「なんで僕にできないことを、君はそんな簡単にしてしまえるんだろうって……君が、あまりにも眩しくて、余計に何も言えなくなった……」
──どうして君が謝るの、と、姫宮はよく口にしていた。
「だから僕みたいな、他者の気持ちを考えられない薄情な人間は、君みたいな人を好きになっちゃいけないと、思ったんだ。この気持ちはずっとずっと、隠し通していかなきゃって……」
「ダメだ隠すな、全部見せろよ」
姫宮が少し顔を上げたので、ぱさりと垂れた姫宮の髪を、耳にかけてやる。
この美しい顔が、隠れてしまわぬように。
「お互い隠したままじゃしんどいだろ。だからもう隠し事は無しだ……わかったか?」
姫宮の唇が、「うん」と、救いを求めるように震えた。
「──僕は君以外、どうでもいいんだ。これまでも、きっとこれからも。それにとても嫉妬深い……君が思っている以上にね。強欲だから、一度触れることが叶えばきっと君の全てがほしくなる。爪のひと欠片も余すところなく」
姫宮はまだ、俺がしているように自分から触れてはくれない。しないようにと、自分を律しているようだ。だから俺が、姫宮の顔に、首に、肩に触れてやる。
「だから、全部やるって言ってんだろ?」
「軽率にそういうことを言わない方がいい──また、壊してしまうよ」
静かに細められた黒い瞳が、揺れた。
「嫌なんだ、二度と君を壊したくない……わかるだろう? 僕はね、性根のねじ曲がったどうしようもない男なんだ。君に見合うだけの人間になれる自信が、ない。君の傍にいればいるだけ、僕の身勝手さで君のことを傷つけてしまうかもしれない」
驚いた。そんなことを考えていたのか。
「僕は、君にだけ頭がおかしい……」
うん、それは知ってる。おまえの異常さは、もう骨の髄まで身に染みている。
「そんな僕だけれど、いいのだろうか……橘」
姫宮が、じっくりと瞬きをした。
目の淵に残っていた透明で綺麗な雫が、斜めに零れ落ちる。流れ星みたいだななんて、場違いにも思った。
「僕は君に、恋をし続けても、いいのだろうか……?」
──普段は傲慢極まりない男なのに、どうしてこういう時ばかり真っすぐに俺を見てくるのかな。
唇の端が別の意味で震え、鼻の奥が更に痛くなった。
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