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前篇
触れる(4)
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こんなの、別に今更傷つくことでもない。だから、いつもだったらふざけんなって、俺はゴミじゃねーよ、人間だって、言い返すことだってできたはずなのに。
今は駄目だ。できない。シュウイチに人間として肯定してもらえた後だから、なおさら。
ずきずきと胸が痛くて痛くて、痛い。突き立てられた杭を自分の手で引き抜きたいのに、両腕はアレクシスに囚われているため動かせない。
代わりに抜いてくれる人も、この世界にはいない。
リョウヤはひとりだ……ひとりだ、けれども。
「でも、シュウイチさんは俺のこと、そんな風には思ってない、よ」
アレクシスの口車に乗って、シュウイチの心を誤解したりはしない。
リョウヤは、自分が見たシュウイチのありのままを信じる。
「また会いましょうって、言ってくれた気持ちは……絶対に嘘じゃない。嘘じゃないって、俺は信じる」
たった30分だけの面会だった。
リョウヤだって馬鹿じゃない、見せてくれたあの微笑みの全てが本物だとは、決して思っていない。彼の瞳の奥には、何か重いものを感じた。
それをわかった上で、「優しい人だ」と判断したのだ。
シュウイチはきっと、彼が抱えているであろう仄暗いものを、不用意に誰かにぶつけるような人じゃない。
「──ふん。たかだか一度顔を合わせただけの相手を、何故そこまで信じ切れる」
アレクシスの声のトーンが、更に低くなった。大きな影がさらに近づいてきて、びくりと身が竦む。
「そんなに楽しかったのか? あの性悪そうな稀人と、話すことが」
「当たり前、だろ……シュウイチさんは、俺と対等になって話してくれたんだ。あんたと違って」
震える声になってしまったが、言い切った。
アレクシスは再度、口角をぐっと吊り上げようとしたらしいが、ひくりと震えるだけで笑みの形にはならなかった。
辛うじて浮かべられていた侮蔑のしわも、ゆるゆると消えていく。
唇を引き結ぶ。きっとこのまま、力でねじ伏せられるのだろう。
だが例え何をされても、本人以外の誰かの言葉に心を惑わされたりはしない。見るべきものを見誤ったりはしない。したくない。
信じようと決めた自分の心は、決して恥ずべきものではないはずだ。
それに、仮にシュウイチのあれがただの社交辞令だったとしても、裏切られたとは思わない。
リョウヤが嬉しかったのは、「また会いたい」と目を見て言ってくれた、その温かな気持ちだ。
「シュウイチさんは性悪なんかじゃない。優しくて……あったかい人、だよ」
囚われていた二の腕が、緩んだ。殴られるのだろうか、それとも前のように首を絞められるのだろうか。どちらにせよいい扱いは受けまい。
次に襲い来る衝撃に備えて、体をベッドに沈ませる。
「そうか」
アレクシスの目が、切るように細くなった。
見ていられなくて、視線を背ける。
「……そうか」
また激高するのかと思いきや。
視界の上に映るその唇は、惑うようにふるりと、震えて。
「どうせ僕は、おまえの言う通りの人間だ」
アレクシスの語尾が、震えている。今無性に、アレクシスがどんな表情をしているのかが気になった。そろりと視線を戻せば、不安定に揺れるそれと目が合った。
「血も涙もない、冷たい人間だ……」
あまりにもらしくない仕草、声色、言動、それら1つ1つに戸惑いが隠せなかった。こんなアレクシス見たことない。数秒前までそこにいた冷酷極まりない男は、歪なほどに、人間らしい男へと変わっていた。
「アレ、ク……?」
これまでとは違う意味合いで、彼の名を呼ぶ。しかしアレクシスは聞こえているのかいないのか、焦点の合わない虚ろな瞳で、リョウヤの体に触れてきた。
「……っ、ん」
薄い茂みの生えた陰紋をひたりと辿り、下の、割れ目の部分を、真ん中から裂かれていた下着の上からそっとなぞられる。いつも通りの乾いた手袋の感触。
そのまま慣らしもせず指を突っ込まれるのかと、思っていたのだが。
「ぁぐッ……ぅ」
足を割り裂かれ、押し入ってきたのは指よりもはるかに大きな異物だった。
今は駄目だ。できない。シュウイチに人間として肯定してもらえた後だから、なおさら。
ずきずきと胸が痛くて痛くて、痛い。突き立てられた杭を自分の手で引き抜きたいのに、両腕はアレクシスに囚われているため動かせない。
代わりに抜いてくれる人も、この世界にはいない。
リョウヤはひとりだ……ひとりだ、けれども。
「でも、シュウイチさんは俺のこと、そんな風には思ってない、よ」
アレクシスの口車に乗って、シュウイチの心を誤解したりはしない。
リョウヤは、自分が見たシュウイチのありのままを信じる。
「また会いましょうって、言ってくれた気持ちは……絶対に嘘じゃない。嘘じゃないって、俺は信じる」
たった30分だけの面会だった。
リョウヤだって馬鹿じゃない、見せてくれたあの微笑みの全てが本物だとは、決して思っていない。彼の瞳の奥には、何か重いものを感じた。
それをわかった上で、「優しい人だ」と判断したのだ。
シュウイチはきっと、彼が抱えているであろう仄暗いものを、不用意に誰かにぶつけるような人じゃない。
「──ふん。たかだか一度顔を合わせただけの相手を、何故そこまで信じ切れる」
アレクシスの声のトーンが、更に低くなった。大きな影がさらに近づいてきて、びくりと身が竦む。
「そんなに楽しかったのか? あの性悪そうな稀人と、話すことが」
「当たり前、だろ……シュウイチさんは、俺と対等になって話してくれたんだ。あんたと違って」
震える声になってしまったが、言い切った。
アレクシスは再度、口角をぐっと吊り上げようとしたらしいが、ひくりと震えるだけで笑みの形にはならなかった。
辛うじて浮かべられていた侮蔑のしわも、ゆるゆると消えていく。
唇を引き結ぶ。きっとこのまま、力でねじ伏せられるのだろう。
だが例え何をされても、本人以外の誰かの言葉に心を惑わされたりはしない。見るべきものを見誤ったりはしない。したくない。
信じようと決めた自分の心は、決して恥ずべきものではないはずだ。
それに、仮にシュウイチのあれがただの社交辞令だったとしても、裏切られたとは思わない。
リョウヤが嬉しかったのは、「また会いたい」と目を見て言ってくれた、その温かな気持ちだ。
「シュウイチさんは性悪なんかじゃない。優しくて……あったかい人、だよ」
囚われていた二の腕が、緩んだ。殴られるのだろうか、それとも前のように首を絞められるのだろうか。どちらにせよいい扱いは受けまい。
次に襲い来る衝撃に備えて、体をベッドに沈ませる。
「そうか」
アレクシスの目が、切るように細くなった。
見ていられなくて、視線を背ける。
「……そうか」
また激高するのかと思いきや。
視界の上に映るその唇は、惑うようにふるりと、震えて。
「どうせ僕は、おまえの言う通りの人間だ」
アレクシスの語尾が、震えている。今無性に、アレクシスがどんな表情をしているのかが気になった。そろりと視線を戻せば、不安定に揺れるそれと目が合った。
「血も涙もない、冷たい人間だ……」
あまりにもらしくない仕草、声色、言動、それら1つ1つに戸惑いが隠せなかった。こんなアレクシス見たことない。数秒前までそこにいた冷酷極まりない男は、歪なほどに、人間らしい男へと変わっていた。
「アレ、ク……?」
これまでとは違う意味合いで、彼の名を呼ぶ。しかしアレクシスは聞こえているのかいないのか、焦点の合わない虚ろな瞳で、リョウヤの体に触れてきた。
「……っ、ん」
薄い茂みの生えた陰紋をひたりと辿り、下の、割れ目の部分を、真ん中から裂かれていた下着の上からそっとなぞられる。いつも通りの乾いた手袋の感触。
そのまま慣らしもせず指を突っ込まれるのかと、思っていたのだが。
「ぁぐッ……ぅ」
足を割り裂かれ、押し入ってきたのは指よりもはるかに大きな異物だった。
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