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前篇
真実(3)
しおりを挟むそんなの、考えるまでもない。あの反抗的な態度を見ただろうと、じとりとねめつける。
「言うことを聞かないからだ」
「でも坊や、素直に足は開くんだろう? 逃げたりもしないし……それなら反抗的な部分には目をつぶって、さっさと孕ませればいいだけの話じゃないか」
「それは」
言われてはたと気付く。それもそうだ。
「おまえだったらそれ以外のことは放置してそうだけどね。なのにどうして、坊やを思い通りにしたいんだろうねぇ」
それはこっちが聞きたい。自分はリョウヤの何をそこまで、気にしているのか。
「もしもの話だけどさ。今、新しい稀人が見つかったら……坊やを買い替える?」
「あ……」
当たり前だろうと言いかけて、急停止した。
「そりゃあ貴重種ではあるけど、いないわけじゃない。もしかしたら数年後には新しいのが出現してるかもよ」
「……だがそれでは、金の無駄になるだろう」
数秒考えて、出てきた結論はそれだった。考えなければ出てこなかったことに、自分自身で驚いた。
「本当に? あんなはした金……チェンバレー家の財力を考えれば修正も利く程度のものじゃないか。ルディアナ嬢だって納得してることなんだ。とりあえず彼女を家に迎え入れて、新しい稀人が見つかれば結婚して孕ませて離縁して、あとはルディアナ嬢と結ばれて、思い描いていた未来とやらを堂々と築けばいい」
「それでは、ルディアナが」
「可哀想だとでも? 思ってもないだろそんなこと。それに彼女は粛々と受け入れると思うよ」
押し黙る。
マティアスに先に言われるまでもなく、ルディアナを案ずる気持ちなど皆無であることを理解していたからだ。
「そもそも、なんで坊やを選んだんだ?」
「さっきからわかり切ったことを。稀人を手に入れる必要があったからだ」
「いや、それはわかるけど……あえて坊やを選んだ理由だよ」
それだって、分かり切っている。
「気に食わなかったからだ」
「……なにが?」
「あの目だ。おまえも見ただろう、こいつの鋭い目を。視界に入れるだけで……胸がざわつく」
苛立つとはもう思えなかったが、出会ったあの瞬間から、アレクシスをぎろりと睨みつけてくるどんぐりのような瞳が気に食わなかったのは事実だ。
「……気に食わないから選ぶって、おかしくない?」
怪訝そうな顔のマティアスに、アレクシスも同じ顔になった。
「何がおかしい」
「だってさ、気に食わない奴がいたら、君はなにがなんでも避けて通ると思うんだけど。存在ごと無視してるか」
「それは……あの闇市に、こいつしかいなかったからであって」
「じゃあ稀人が3人くらいいたら違う子を選んでた?」
「それは、もちろん──……」
思考が完全に停止してしまった。
軽くその状況を想像して、それでも店主に口枷を外すよう命じた先にいたのは、リョウヤだったからだ。
「ああ……なんだ、つまりそれって……」
マティアスが呆れたように肩を震わせた。苦笑いを浮かべた。
「アレクシスおまえ、それはさぁ……最初からってことなんじゃないかな? たぶん」
「何がだ」
「……ま~だ気付かないのか。拗らせまくってるねぇ、これだから素人童貞は」
「何か言ったか、この性病持ちが」
「だから違うって! あーあ、つまり私ってば馬に蹴られただけ? まったく名誉の負傷だよ。いたたた……」
とかなんとか、わけのわからないことをぶつぶつ呟きながら、ぶすくれた顔をしているマティアス。シュウイチがこの場にいれば、「いいえ、あなたのは当然の報いだと思いますよ」と、微笑みの突っ込みを入れていただろうが、マティアスもアレクシスもそれには気付かない。
「ちょっと目を凝らせば、すぐに見えてくると思うんだけどねぇ。君は、坊やをどうしたいんだい?」
クレマンにも、似たようなことを聞かれたな。
「知りたいだけだ」
これは素直に零れた。そう、知りたいだけなのだ。胸の中に居座り続けている、不鮮明な何かを。それを知ることができれば、わかるかもしれない。リョウヤの唇を、ついつい目で追いかけてしまう理由が。今はまぶたに覆われているリョウヤの目に、時折吸い込まれそうになる理由が。胸もまっ平で、体も硬くて抱き心地も悪い。具合がいいだけの、特別好みでもないリョウヤの体を、あそこまで執拗に貪ってしまった、理由が。
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