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第一章
無神経
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花祭りへと向かう車中で、ルーナはよく喋った。花祭りのこと。今日着てきたドレスのこと。うるさいと思ったくらいだし、そんなに喋ってよく舌を噛まないなと感心した。
しかし、帰りの車中ではルーナは一言も話そうとしない。窓の外へとずっと視線を向けて、レオンハルトへは見向きもしない。結婚してひと月になるが、そんなルーナは初めてで、レオンハルトはどうしていいか分からなかった。
「あの……すみませんでした」
「……?」
レオンハルトの言葉に、ルーナがようやく正面を向いて目が合った。
「僕の同僚が、君に失礼なことを言いました。不快な思いをさせてしまってすみません」
「あぁ……」
「怪我は……」
「ありませんわ」
「そうですか」
会話が途切れる。気まずい空気が流れて、レオンハルトはようやくあることに気が付いた。
今まで、食事や移動中、その他のあらゆる場面において。ルーナがどれだけいつもレオンハルトを気遣って話をしてくれて、笑顔を見せてくれていたことか。これまで、ルーナの明るい振る舞いずいぶん助けられてきたことか。
「あの……」
「なんですの?」
「リチャードのことを呪うというのは……本当にできるんですか?」
なにか会話をしなくては、と頭の中をかき回してようやく出てきたのがそんなくだらない話題だった。ちょっと、冗談を言ってみたつもりだった。もしかしたらルーナが笑ってくれるかもしれないと。
ルーナはぽかん、と口を開けてレオンハルトを見る。
「……」
「……」
「そんなの……」
「そんなの……?」
「できるわけないに決まってるじゃないですか……」
ぽろり。ルーナの大きな瞳から一粒の涙がこぼれて、レオンハルトは目玉が落っこちてしまいそうなほどぎょっとした。
ルーナの涙は堰を切ったようにぼろぼろ溢れ出して、それに比例してレオンハルトの顔はどんどん青くなっていく。
「あなた、バカなの?! そんな、王女様に向ける呪いを都合よくあの方に向けるだなんて、できるわけないでしょう! わたくしは、わたくしはっ……自分がどうやって王女様を呪うかも知らないんですもの!」
「あ、あのルーナ……」
「なんの力もない、ただの人間ですのよ! いくら魔女と呼ばれたって、私はなんにもできませんわ! それを、呪うと脅したらあの方本当に怯えになって、失礼よ!」
うわーん!
ルーナが声を上げて泣き出した。どうしていいか分からなくて、頭がクラクラしてきた。女性を泣かせてしまった。しかも大泣きだ。
今までレオンハルトは、ルーナのことを魔女という記号としか見ていなかったのだろう。ルーナは魔女と呼ばれているけれど、ルーナ本人が言うようにただの人間だ。失礼なことを言われれば傷付いて、悲しい思いをすれば涙が出る。自分はルーナとひと月もいっしょに過ごして、そんなことも分かっていなかったのか。
恥ずかしかった。軽口のつもりで、くすりとでもルーナを笑わせられたらと、あんな話題を振ってしまったことが。自分の無神経さが恥ずかしくて仕方なかった。
しかし、帰りの車中ではルーナは一言も話そうとしない。窓の外へとずっと視線を向けて、レオンハルトへは見向きもしない。結婚してひと月になるが、そんなルーナは初めてで、レオンハルトはどうしていいか分からなかった。
「あの……すみませんでした」
「……?」
レオンハルトの言葉に、ルーナがようやく正面を向いて目が合った。
「僕の同僚が、君に失礼なことを言いました。不快な思いをさせてしまってすみません」
「あぁ……」
「怪我は……」
「ありませんわ」
「そうですか」
会話が途切れる。気まずい空気が流れて、レオンハルトはようやくあることに気が付いた。
今まで、食事や移動中、その他のあらゆる場面において。ルーナがどれだけいつもレオンハルトを気遣って話をしてくれて、笑顔を見せてくれていたことか。これまで、ルーナの明るい振る舞いずいぶん助けられてきたことか。
「あの……」
「なんですの?」
「リチャードのことを呪うというのは……本当にできるんですか?」
なにか会話をしなくては、と頭の中をかき回してようやく出てきたのがそんなくだらない話題だった。ちょっと、冗談を言ってみたつもりだった。もしかしたらルーナが笑ってくれるかもしれないと。
ルーナはぽかん、と口を開けてレオンハルトを見る。
「……」
「……」
「そんなの……」
「そんなの……?」
「できるわけないに決まってるじゃないですか……」
ぽろり。ルーナの大きな瞳から一粒の涙がこぼれて、レオンハルトは目玉が落っこちてしまいそうなほどぎょっとした。
ルーナの涙は堰を切ったようにぼろぼろ溢れ出して、それに比例してレオンハルトの顔はどんどん青くなっていく。
「あなた、バカなの?! そんな、王女様に向ける呪いを都合よくあの方に向けるだなんて、できるわけないでしょう! わたくしは、わたくしはっ……自分がどうやって王女様を呪うかも知らないんですもの!」
「あ、あのルーナ……」
「なんの力もない、ただの人間ですのよ! いくら魔女と呼ばれたって、私はなんにもできませんわ! それを、呪うと脅したらあの方本当に怯えになって、失礼よ!」
うわーん!
ルーナが声を上げて泣き出した。どうしていいか分からなくて、頭がクラクラしてきた。女性を泣かせてしまった。しかも大泣きだ。
今までレオンハルトは、ルーナのことを魔女という記号としか見ていなかったのだろう。ルーナは魔女と呼ばれているけれど、ルーナ本人が言うようにただの人間だ。失礼なことを言われれば傷付いて、悲しい思いをすれば涙が出る。自分はルーナとひと月もいっしょに過ごして、そんなことも分かっていなかったのか。
恥ずかしかった。軽口のつもりで、くすりとでもルーナを笑わせられたらと、あんな話題を振ってしまったことが。自分の無神経さが恥ずかしくて仕方なかった。
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