廃された王家の生き残り元王女ですが、敵国の王と偽装結婚して復讐することにしました。

春野こもも

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ピアノ

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 リュカには本当に時間がなかったようで、あっという間に結婚式が執り行われた。

 緊張しすぎて死ぬんじゃないかと思った現両陛下への挨拶はと言うと、あまりにも呆気なく終わって拍子抜けしてしまうほどだった。

 ヴィラージュ王国の両陛下はミリアムとリュカの結婚に反対するどころか、ミリアムのこれまでの苦労を労い、「生きていてくれてよかった」とまで言ってくれた。
 同じ王族として、ミリアムの行末を心配してくれていたのだと言う。

 思わずうる……と来てしまったが、なんとか泣くのを堪えて笑顔を作った。偽装結婚をするということは、この人達も騙すということだ。ミリアムに泣く資格はなかった。

 結婚すると決めたあとの目下の心配ごとは、両陛下への挨拶と、国民の反応だった。

 敵国の廃された王族の王女が次期王妃になるということに、この国の国民はどういう反応をするのだろうと不安だったのだ。

 しかしその反応を拾い上げる暇もなく、リュカとの婚約が発表され、その2週間後には結婚式を行った。

 思っていた以上のスピード感で、心配事をしている余裕も、新聞を読む暇すらなかった。

 だから晴れてリュカとの結婚式を終えて、初めて民衆の前に姿を現したとき。ミリアムは驚きで息が止まってしまうほどだった。

 城からリュカと共に姿を現したミリアムに、国民が届けたのは祝福の声と溢れんばかりの笑顔だった。

 ミリアムはリュカの妻として、この国の王妃として歓迎されていたのだ。

「……信じられないわ」
「なにがだ?」
「私、敵国の元王女なのに……」
「ふっ……」
「なにがおかしいの?」

 国民達に手を振りながら、花婿衣装を完璧に着こなしたリュカが堪えきれなかったように笑う。
 ミリアムは笑顔を作り国民に手を振りながら、見えないところでリュカの足を踏んづけた。

「……っ、君は新聞を読んでいないのか?」
「読む暇もないくらいのタイトスケジュールだったからね」
「君は国を追われた悲劇の元王女様。俺はその王女様をグリマルディに立ち向かい救い出した勇敢な王子様。2人は恋に落ちて、様々な危機を潜り抜けながら結婚へと辿り着いた。君はどん底から王族へと返り咲いて、俺は愛する姫を可哀想な境遇から救い出し、王子様から王様になる」
「……愛の力で障害を乗り越えた2人は、いつまでも幸せに暮らしたのでした、のシーンがまさに今ってこと?」
「そういうことになっている」

 国民が好きそうなお伽話だ。脚色されまくってはいるけれど、概ね事実でもある。恋はしてないけど。

 しかし、メディアが勝手にミリアムのことをそう印象付けてくれたのはこちらとしても都合が良かった。

 この国の国民はミリアムのことを敵国の王女というよりも、国を追われた可哀想な元王女として見ているらしい。

「君のおかげで俺の好感度も上がって助かっている」
「私との結婚のメリットってそういう狙いもあったのね」
「否定はできないな」
「否定しなくて結構よ」

 こっちだって復讐に使わせてもらうのだから。そちらにどれだけメリットがあろうがミリアムが損をすることはない。

 リュカとはそんなに長くは続かないだろう。短くて2年。いや、ミリアムの復讐の機会があればもっと短くなるかもしれない。

 それでも、目の前に広がるこの景色をミリアムは一生忘れないだろうと思った。

*

 正式に夫婦となった2人は、宮殿の引越しをした。

 新しく用意された部屋に入った瞬間、ミリアムは室内を見てハッと動きを止めてしまった。

 前の部屋にはなかったピアノが、新しい部屋には用意されていたのだ。
 それを認めた瞬間、足が床に縫い付けられたみたいに動かなくなってしまった。

「どうしたんだ?」

 いつの間に部屋に来ていたのか、リュカに後ろから声をかけられた。

「……あ、ピアノが」
「弾かないのか?」
「え……?」
「君はピアノを弾くだろう」

 なんで知ってるんだろう……?
 もしかして、このピアノはミリアムのためにわざわざ部屋に運んだのだろうか?

「調律ならしてある」
「……ありがとう。落ち着いたら、また弾く」
「そうか」

 嘘だ。ミリアムがこのピアノに触れる日は来ない。ミリアムは二度とピアノを弾かないと決めている。

「君も疲れただろう。茶でも飲んで休憩しないか」
「あら、それはいい提案ね」

 リュカの方から話題を変えてくれて助かった。家具の配置の指示など、引越し作業で疲れていたのも事実だ。

*

「新婚旅行?」 

 ミリアムの言葉にリュカが頷いた。

「父上と母上はオスニアあたりがいいんじゃないかと言っていた」
「へぇ……」
「君の希望は?」
「私……? 私はどこでも……」

 新婚旅行……。たしかに、結婚したなら新婚旅行はつきものだ。
 王太子と王太子妃の新婚旅行は、外交も兼ねている立派な公務の一つだから、ミリアムが希望したところで……なのだが。

「行きたい国はないのか? どこにも?」
「そもそも私が行きたいからと行って行けるわけでもないでしょ」
「周遊する国のひとつに入れることはできる」

 リュカは眉根を寄せてミリアムを問いただした。なんでそんなに執拗に私の希望を聞いてくるんだか……と思いながらミリアムは、そこまで言うならと頭の中をかき混ぜて行きたい国を探した。

「……パーシュルト」
「ん?」
「パーシュルト国へ行きたいです」

 ミリアムがそう言うと、リュカは間髪入れずに「行こう」と言った。心なしか、どこか嬉しそうだ。

 パーシュルト国。幼い頃、家族で旅行に行ったことがある。一番楽しかった思い出のひとつかもしれない。行きたい国と言えばそこしか思いつかなかった。

 そして宮殿の移動が完了すると落ち着く暇もなく、あれよあれよと言う間にミリアムとリュカは豪華な客船に乗り、新婚旅行へと出発したのだった。

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