眼ーその瞳に映るものー

ユーリ

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第二話「視界と特異体質」

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「魔法ウイルスと思われます」
初めて聞く言葉に首を傾いだ。
「あの、こんなこと言うのは治療課である俺としてもめちゃくちゃ申し訳ないです。ですが…林原絢斗さん、あなたは恐らく世界初の魔法ウイルス感染者です」
絢斗は実感していた。
人の情報とは目をとんでもなく頼りにしていて、目が見えなくなった途端に耳だけの情報では頼りないものなんだな、と。
「今目を閉じた状態ですが、絶対に目を開けないでください。すいませんがこれから包帯を巻かせてもらいます」
そう言って治療課らしき人物の男が目元に柔らかい布のようなものを巻いた。
「とりあえず…まだ何もわからないけれど、今思いつく限りの魔法を…」
目元があたたかくなる。恐らく魔法をかけたのだろう。
すると別の声が聞こえてきた。
「絢斗の失明は治るのか?」
この声は仁だ。仁の声はハッキリとわかる。
「正確には失明じゃありません。一時期的なものです。明日の朝には見えるようになります。魔法としてはずいぶん弱いんです。ただ…」
「ただ?」
「ウイルスがどこにどう作用するかわからないんです。さっきも言いましたけど、世界初の症例なんです。どこかの研究所が魔法ウイルスを作ることに成功したとは聞いたんですが、それはガセだと誰もが思ってます。実際にまだ出回っていません。だから、本当に魔法ウイルスと断定していいのかどうかもわかりません。本当に申し訳ない。ただ、そのガセ情報の中に今回に似た実験データが入っていたんです」
「…今ウチの情報システム課が使ってたパソコンを調べてる。メールが来た痕跡もなければ追跡も不可能らしい。でも絢斗の目が失明した。それは事実なんだ」
「あの…」
おずおずと絢斗が切り出した。
「魔法省の魔法使いへ、って件名でした。だからたぶん、魔法省にいる魔法使いを狙ったんだと…」
「魔法省に来るメールだってそれなりのセキュリティを突破しないと届かない。スマホだって魔法省が特別に作った物を全員が所持してる。疑いたくはねえが内部犯だよなあ、これ」
「治療課としては何も言えません」
沈黙が訪れる。
ごほん、と咳をする声が聞こえたが、この声は仁ではない。
「他に何か質問はありますか?」
「明日の朝には見える可能性が高いんだな?」
「そうです」
「それまではどうすればいい?」
「失明状態と同じなので、日常生活に注意してください。それとどの薬が効くかはまだ推測段階ですが、大量の薬を飲んでいただきます。目の包帯にもかけられるだけの魔法はかけてます。包帯が取れることはまずありません。…林原くんは一人暮らしですか?」
「あ、はい、そうです」
「ご家族は?」
「遠方にいます」
「魔法省から車を出して説明するので、明日までご家族の元へお帰りください。服薬もあるし、何か体調が変わる可能性もある。ひとりで過ごすのは無理です」
「それなら俺が付き添う」
そう言って肩を抱かれた。力強いこの腕は、確実に仁だ。
「えーっと、あなたは…」
「情報システム課の松本だ。で、こいつの恋人」
恋人とハッキリ紹介されてしまい、こんなときだというのに嬉しくなる。
「ああ、じゃあ安心ですね。処方薬を用意してきます」
ガタ、と椅子の音がしたのでその人が立ち上がったのだろう、続いて棚を開けたり閉めたりする音が聞こえた。
絢斗が手を伸ばす。仁に触れたいのだがどこにいるかわからないし、距離感もわからない。オロオロしていると、その両手ごと掴まれた。
「どうした」
「あ、よかった、仁くんいた。ごめんね、本当に何も見えないからちょっと不安で…」
「今日は一日中付いてるから安心しろ」
ふふ、と仁は笑った。
「あのー、すみません。想像できる範囲で薬を用意したらとんでもない量になっちゃいましたが…がんばって飲んでください」
失明中なので見えないが仁が受け取ったであろう瞬間に、ガサガサッ、と大きな音がしたので、僕はどれだのけ薬を飲むんだろう、と今から少し嫌になった。




「あのさあ仁くん! 絶対さあ! あの廊下に人たくさんいたよね!?」
「まさか。誰もいなかったぜ?」
「うそつかないでよー! だって仁くん以外の足音聞こえたし、なんかコソコソ話してるのも聞こえたんだからー!」
「気のせい気のせい」
ケラケラ笑われ、むう、と絢斗は唇を尖らせた。
仁の運転する車にて仁の家へ来たものの、来るまで一悶着あった。
治療課から駐車場まで肩を貸してくれれば歩けると言ったのに、それをわざわざ姫抱っこして運ばれたのだ!
「もう! 恥ずかしかったんだからー!」
「その状態のお前を歩かせるわけにはいかねえだろ」
「そうかもだけど、でも肩で十分だよ!」
「お前身長低いだろうが」
「そ、それでもお姫様だっこしなくていいじゃん!」
「俺としてはかわいいかわいい絢斗を見せびらかしたかったんだ。ダメか?」
「ダメに決まってるで、んむぅっ」
「はい絢斗くん隙ありー」
唇を重ねられ、ついでにぺろりと舐められた。目が見えないものだから、いつこうやってキスされるのか全くわからない。
もう、とソファーに沈み込むと、仁にぴったりと体を寄せられた。
絢斗は唇を尖らせながらも「ありがと」と小さく言った。
「僕を…元気づけようとしてるんだよね。怖くないように」
「さあ? そこまで優しくないと思うけど?」
「今だって僕が怖い思いしないようにこうやってくっついてくれてるんでしょ?」
「さーて、どうだか」
「ふふ、仁くんは優しいもんね」
頬を触りたくて手を伸ばすけれど届かない。どこにあるんだろうと彷徨わせていると手を取られ、仁の頬まで導いてくれる。
「仁くんのほっぺたあったかい。あ、僕、薬飲まなきゃ」
「…すげー大量にあるぞ。それぞれはお互いに副作用しないとは言ってたが…処方しすぎだろ。二十錠は軽く超えるぞ」
「ええー…」
「水持ってくる。…ボトルごと持っていくわ。あとタオル…」
何やらガサゴソ音がして「抱っこするぞー」と言ってふわりと体が浮かび着地する。
手で探ってみるとすぐ両隣に仁の太ももがある。恐らく足の間に座っているのだろう。
のし、と背中に体重をかけられた。
「今お前を抱っこしてます。んー、絢斗いい匂い」
「ちょ、今日シャワー浴びれなかったんだからっ」
「タオルで全身拭いてやっただろ? あー、絢斗の匂いが凝縮されてていいわあ。うなじサイコー」
「うぅ、ん、ゃ、噛まないでよぉ…く、薬っ、薬飲むんだからっ」
「へーへー。これがペットボトル、蓋は開けてる。タオルもあるから溢れても大丈夫」
ペットボトルを両手で掴み、形状を確かめ蓋がないことを確認。口までの距離感が難しいが、タオルがあるので大丈夫だろう。
「まずは三個一気に飲ませるぞ」
ペキ、とシートから薬が外れる音が聞こえ、仁の指で唇を無理矢理開けさせられた。すぐに薬が口の中へ入ってくるのでペットボトルを傾かせて飲み込んだ。少しこぼれたなと思ったがすぐに仁がタオルで拭ってくれたようだ。
ごくりと、なぜか仁の喉が鳴った。
「絢斗、お前…めちゃくちゃエロいぞ」
「へ?」
「包帯で目隠してる上に抵抗もせずに薬飲ませられるって相当ヤバい絵面だろ…」
想像して一瞬で顔が熱くなった。
と同時に自身が反応しているのもわかる上に、腰に当たる仁自身もすでに勃起している。
「…とりあえず全部飲むか」
「うん…」
唇を開ける仁の手のひらが湿ってくる。体が密着する部分が熱い。頭上からの息遣いが荒い。
目が見えなくても感じられる部分が多くて、いつも以上に五感が鋭くなるのを絢斗は感じていた。
「さすがにこれだけ飲むと疲れるね…」
二十錠以上の薬を飲み終え、ふう、と絢斗が息を吐く。
ぎゅ、と背後の仁に抱きしめられた。
「…限界なんスけど」
「正直、僕も限界…」
「病人相手に手え出すのはちょっと、とかお前思ってねえだろうな」
「正直思うよ。思うけど、その…僕も限界です…」
顎を掴まれ唇を塞がれた。ぬるりと舌が入り、上顎をくすぐられる。
「ん、はうぅ…んっ、んっ…」
「俺の首はここだ。離すなよ」
両腕を誘導して巻きつかせてくれる。肩をするりと経由してその首元に抱きついた。
もっとキスをしたいけれど、目が見えないので「??」と首を傾ぐしかない。仁の顔は今どっちを向いているんだろう?
「なんだ?」
「キス…もっとしたい…」
「してやるから口開けて待っとけ」
言われたとおり、あ、と小さく口を開けるとぬるりと舌が入ってくると同時にキスされる。
口内の仁の舌に自分の舌を絡め、ちゅぱちゅぱと吸い付いた。
ふと、唇が離れていく。どうしたんだろうと口を開けたまま待っていると、不意に舌を引っ張られた。
「んううっ」
「口開けて待ってるとかヤラシー」
「ん、ん、だって、仁くん、が…っ」
「目に包帯って相当エロいわー。明日には見えるようになってるだろうし、また目隠しプレイしような」
しない、と頭では思っているはずのに、気づけば頷いていた。
ーーぬぷぬぷと穴に指が出入りする中、仁に抱きついて絢斗は喘いでいた。
「はあっ、はあっ、あ……んっ、んっ」
「なんか今日すげー絡みつく。やっぱ目が見えないことで他が敏感になんのか?」
そう言って乳首を引っ張られて絢斗はビクビクと体を震わせる。
「さっきからすげーイってるけど大丈夫か?」
「…気持ちよすぎてどうしよう…」
「サイコーじゃねえか」
つぷ、と指が抜け出るだけで小さく体が震えてしまう。穴に仁自身があてがわれ、少しずつ挿ってきた。
「んんっ、んん、あっ! あっ…あっ…」
「やっぱ今日すげー絡みつくわ。中気持ちい」
背中を撫でられるだけで小さな震えが起きるから本当に困る。目の機能が働かないだけでこんなことになるなんて。
荒い呼吸を繰り返していると、ぽんぽん、と背中を叩かれた。
「仁くん…?」
「悪いが…この体制だからお前が動いてくれねーと困るんスけど」
仁に乗り上げる体制なので、確かに絢斗が動かないと始まらない。
「ほら、俺に抱きつきてていいから腰振ってみろ」
「ん…んっ、んっ、んっ」
仁の肩に腕を乗せ、抜け出るギリギリまで腰を上げ、すぐさま腰を落とした。
それを何度か繰り返しているとお互いの性器は今にも弾けそうだった。
「ああっ、あっ、……ふ、う…っ、っ」
「そうそう、その調子。褒美やるよ、口開けて舌出せ。……ヤバいくらいエロい絵面だな」
唇を噛むようにして塞がれ、ふたりはほぼ同じタイミングで果てた。
頭を撫でられる。
「あとでホットタオルで拭いてやるからな。それにしても…」
「ん…なに…?」
「久しぶりにすげー濃密な時間過ごせたなと思って。お前いつも本ばっか読んでるから。いい時間過ごせた」
「…僕ってそんなに本ばっかり読んでる?」
そう言うと頭に小さな衝撃。恐らく頭突きをされた。
「いたい…」
「いつも放っとかれるこっちの身にもなれ。あーあ、このままお前の目が治らなかったらなあ、って考えちまう。そしたらずっと俺から離れられねえだろ? 俺を頼って、俺にまとわりついて、俺から離れられない。夢みてえな生活」
「…その発言はどうかと思うよ」
「それぐらいお前は俺を放ってるってことだろ」
「……仰る通り」
「ずーっとこのままだったらいいのになあ」
「そういう怖いこと言うのやめてっ。本読めなくて困ってるんだからっ」
再び頭に小さな衝撃。
「いたい…」
「そこは、俺の顔が見えなくて困る、だろ。発言には気をつけろ」
「ふぁい…」
「まあ明日までの期間限定だ。もうちっと楽しもうぜ」
そう言って首元からちゅっと軽い音がした。
試しに絢斗は、あ、と口を開けて舌を出して待ってみた。すぐに噛み付くようなキスで塞がれた。





「よかった、普通に見える!」
次の日、魔法使い専用緊急ダイヤル部屋へ戻った絢斗はホッとした。
その頭を仁が撫でる。
「検査の結果も大丈夫だったんだろ?」
「うん! 異常なしです。仁くんのかっこいい顔もよく見えるよ」
治療課へ寄って包帯を外してもらい、大量の服薬も全て飲み切ったことを伝えた。目を開けるといつもの風景が目に飛び込んできて嬉しかった。
先ほどの治療課と仁の話によると、魔法ウイルスについての進展は一切ないようだが、それでも見えるということで安心できた。
「俺より本のほうが読みたいくせに」
「根に持ってるね…」
「そりゃあ長年放っとかれてますので」
「ごめんって。これからはもっとキミを大事にします」
「うそくせえ」
くすくす笑われながら頬にキスされ、あ、と口を開けようとして思わず手で隠した。
ニヤニヤと仁に笑われる。
「なんだあ? まだ目隠しプレイしたいのか?」
「い、いいい今のは間違えただけですっ。僕仕事始めるから仁くんも部署に戻ってよう!」
「まあ待て。俺もこの前の本の続きを読みたいんだ。情報システムの本、どこにある?」
「それなら」
ここに、と言いかけてできなかった。
…どこにあるんだろう?
「え? あれ?」
普段なら本のタイトルすら言われなくても小さな情報だけで本の表紙が浮かび、この部屋の本棚のどこに置かれているかなんて瞬時にわかった。
でも、わからない。そもそもそんな本あったっけ? 読んだっけ?
絢斗は本棚を見上げた。
部屋の壁を埋め尽くす本棚の中身は全て読み、ほぼほぼの暗記はできており、小さな一文でもどこに書いてあるか当てられるはずなのに。
ーー何これ。
目の前の本棚が、ただただ恐怖の対象にしか映らない。
「ーー仁くん」
「あ? どうした」
「僕……これらの本、本当に読んだことある…?」
眉間に皺を寄せた仁に「もう一度治療課に行くぞ」と腕を引っ張られる。
魔法を使えない絢斗にとって全幅の信頼を寄せていた特異体質は、姿を消していた。
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